第5話 かみさまと、つばさ

「かみさまには翼がないのですね」


 二人並んで近くの森を散歩していると、人の子が疑問を口にした。指摘した通り、かみさまの長い銀髪の垂れる背中には、偶像通りの翼がない。


「生やそうと思えば生やせますが」

「普段はしまってあるのですか?」

「いいえ、元から生やしておりません」

「かみさまの偶像には美しい翼が生えておいででしたが」

「それは人が神々しい物の象徴としてつけたにすぎません」


 否定すると、人の子は残念そうな顔をした。ただその顔は悲しみよりもそれなら仕方がないと言うような表情で、かみさまは興味を引かれたようである。


「どうかしましたか」

「いえ、それなら仕方がないと思いましたが。あの柔らかそうな翼に包まれて、一度お昼寝してみたかったなあって」


 お昼寝と来た。神を恋愛対象として見ていた人の子は言うことがおかしい。よろしい、金銀財宝の山や権力よりも罰当たりな望みを、叶えてやろうではないか。ひとたび神が念じると、願い通りの美しい上等な翼が、背中に対の形で広がった。


「わあ・・・・・・」


 人の子は、翼が広がった瞬間舞い散った羽を目で追って、それからもう一度かみさまの翼を見る。


「お昼寝していいんですか」

「願ったのはあなたですよ」


 かみさまがその辺の適当な地面に寝そべると、翼も長い髪も草の上に広がった。背中がちくちくして痛むこともない。そうならないよう神が願ったからだ。


 かみさまが準備を終えると、人の子はこの世で一番贅沢で上等な羽毛の上に頭を預ける形で寝転がった。人の子は程度を越えすぎた願いにふさわしい笑顔になる。


「とても気持ちがいいです」

「天罰級の行為ですから当然でしょう」

「ボクは罰せられるのですか」

「場合によっては」


 うとうとと眠そうに目を細めて、人の子はやはり幸福な笑みのままかみさまにささやいた。


「死後もかみさまのお膝元で可愛がって頂けるのなら、それで・・・・・・」


 いいです、と言い切る前に人の子は眠りの世界に落ちた。神が寝ろと念じたからだ。無防備な人の子の金の髪を、髪は撫でる。


 だいぶ髪が伸びてきた。断髪してやったらどんな顔をするのだろう。

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