第3話 かみさまと、せかい

 神は優しくなんてない。微笑むこともない。ただ嗤うだけ。もし全世界がお前のオモチャだと渡されたとしたら、世界平和を願う人間はそういまい。神も同じで、オモチャはオモチャとして楽しく使う。適度に災害を起こし、適度に戦争を起こし、適度に豊作を起こす。難産の妊婦を無事出産させてやる一方で、将来のある善人そのものの人間が惨殺されるのを、楽しく眺める。手をかざせばほらこの通り。今日も誰かがバタリと死んで、今日も誰かが救いをもらう。のぞく度に図柄が変わる万華鏡。崩す度に違う形に再生する積み木のオモチャ。それが神にとっての人間だった。


 そんな神が目をつけたのが、一人の人間。ただの石の偶像に祈りを捧げて、懇願する、やせっぽちの人間。


 ──かみさまかみさま、ボクはあなたが好きです。


 この人間を弄んだら楽しいだろうと、神は思った。否定して否定して絶望をくれてやるもいい。肯定したところを最後に否定して、自決させてやるもいい。懐かせて心を飼うもいい。人は、楽しい。神を持ち上げる実に様々な神話よりも、おもしろい物語を見せてくれる。


 女の神は、人の女の全てを持つ。包み込む優しい心も、力でねじ伏せる男の卑怯な部分とは別の方向から人を叩き伏せる、陰険で辛辣な残虐さも。


 そうしてかみさまは地上に降りた。

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