第61話 61

あなた、共感って分かる?


私は分からない・・・はずだった。誰からも必要とされない。誰と接しても、自分が上だ。あなたが下だ。そんな世界に疲れ、一人スマホと親友。これが現代人よ。


ワードズ・オブ・アウェーケニング。私は薄皮ヨモギ。私は高校を支配する。


知らない人、知っている人。好きな人、嫌いな人。と、友達や適役が手を伸ばして助けてと言ったら私は助けるのだろうか・・・。


「混沌(カオス)!」

「ギャアアア!?」


私の想いの宿った言葉は威力を発揮し、電撃ウイ子を地獄の門へと吸い込んでいく。さながらブラックホールのような感じだ。私は私の言葉で話すことが苦手だ。でも勇気を出して心の底から振り絞った私の言葉は誰にも負けない。


「さあ! 地獄の門よ! この悩み事の女神、薄皮ヨモギに歯向かった愚か者を永遠に悩み続ける世界、混沌(カオス)へ吸い込むのだ! キャッハハハー!!!」


今の私は・・・私であって、私ではない。何か違和感を覚える。いつもの私じゃない。・・・なんだろう? この感覚は? ・・・親も嫌い。クラスメイトも嫌い。教師も嫌い。いじめる人も嫌い。上から偉そうに言ってくる人も嫌い。


「キャッハハハー!!! 吸い込め! 吸い込め! 全部! 吸い込んでしまえ!」


違和感の正体が分かった。さすが天下の悩みニストの私だわ。直ぐに答えにたどり着いた。・・・いやいや!? 今は自分を褒めている場合じゃないわ。・・・違和感の正体は・・・同じだ。同じなんだわ。私も、私自身が嫌な人間になっている。あれだけ嫌いで嫌っていた人間に、ちょっと強いスキルを持ったからって、私も他人を傷つける側に立っている。


「・・・。」


私が私を嫌いにならないために、嫌な人間にならないように、必死に一人で答えの無い悩みを続けてきたのに・・・なに? 力を手に入れたら、直ぐに威張っている。私が!? この私が!? ・・・なんだ!? この心に芽生えてくる自己嫌悪のような苦しみは!? まるで黒い炎で私自身が焼かれるような、ドス黒い嫌な感情は!? ・・・いや・・・私が私でなくなる・・・なくなってしまう!?


「た、助けて・・・消えたくない・・・。」

「え!?」


涙!? 私の目の前を地獄の門に吸い込まれようとしているウイコが通る。ウイコは敵でただのサイバーセキュリティと電撃の突然変異体。別に人間の容姿をしていても、きっと人間じゃない。それなのに、そんなウイコの瞳から涙がこぼれている。


「薄皮さん!?」


私にも何が起こっているのかは分からなかった。次の瞬間、私は手を伸ばしウイコの手をしっかり握っていた。どうして自分がウイコを助けようとしたのかは分からない。ただ私の悩み過ぎる性格は、簡単な悩み事は直ぐに答えを導き出してしまう。


「私はあなたを助けたい! 私はウイコを助ける! 私はが混沌(カオス)を生み出せるなら、私は混沌(カオス)も解決できるはず! やってやる! やってやるぞ! だって私は薄皮ヨモギだから!」


誰だ? いつの間にか私を一丁前の主人公に格上げしたのは? 元々はダラダラグダグダの緩いスローライフ系の物語だったのに・・・。


つづく。

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