第38話 38

あなた、体育館ってなに?


私にとって体育館は入学式に入学生なのに片付けをさせられた嫌な場所よ。裏でヤンキーがタバコを吸ったり、体育館倉庫は学生のラブホテルだわ。


ワードズ・オブ・アウェーケニング。私は薄皮ヨモギ。私は高校を支配する。


私にとって嫌な場所でも他人によっては大切な場所になる。若い頃は自分のことしか考えられないけど、高校生にもなると少し悩み方が変わってきたことに気づく。


「私の大切なステージに土足で足を踏み入れたわね!」

「ステージですって? なにカッコつけているのよ!」

「そうよ! たかが体育館じゃない!」


演劇さんには体育館がとても大切なんだわ。演劇さんごめんなさい。私、厚塗り化粧のバカ殿が大きな羽の付いたランドセルを背負って電気代の無駄遣いをしてお芝居ごっこをしていると思っていたわ。演劇さん、本当にごめんなさい。


「私の夢は大女優になることよ! 歌劇団部で経験を積んで大きな大空へ大きく羽ばたくの! 私は大女優になるんだから! 私はビックになる!」


デ、デ、デカ!? その時だった。演劇さんのビック発言で、演劇さんの想いの宿った言葉が発動する。うわあああー!? なんと演劇さんの体が巨大化して自ら大切な体育館を破壊した。体育館の屋根の残骸が地面にいる私に降り注ぐ避けるのに必死である。


「よくも私の大切な体育館を破壊したな! 許さないぞ!」

「ち、違うだろ!? 壊したのはおまえだろうが!?」

「ヒ、ヒ、ヒ!? 人間が大きくなった!?」

「問答無用だ!!!」


プチプチ・・・。巨大化した演劇さんがアンコとツブコをアリンコのように踏んずけて消滅させた。演劇さんは自分の大切な言葉を知っている。自分の想いの宿った言葉を知っているんだわ!? いいな~羨ましい。私はまだ自分の想いの宿った言葉を見つけられないでいた。


「ところで演劇さん、アンツブの二人も倒したし、もう元の姿に戻っていいんですよ?」

「戻り方が分からないのよ・・・薄皮さん、助けて。私たち友達でしょ。」

「・・・。」


私の饒舌タイムは終了した。私は無事に演劇さんと友達になれたのだが、どんなに特殊能力を手に入れて巨大化できても元の人間の姿に戻る方法が分からないんじゃ私は大きくなりたくない。壊れた体育館を修理するのにこき使われればいいのよ。


「キャア!? 体が軽くなった!?」

「いったい何があったのかしら!?」

「さくら、助けてくれてありがとう。」


そこ!? まず演劇さんが巨大化して化け物になったんだから、そこをツッコまないと!? ・・・それとも歌劇団部の部員さんたちは華やかな生活をしているので価値観がズレているのか? 私の考え過ぎかな?


「さあ! エトワールで歌うわよ! おお~渋谷塚! S・I・B・U・Y・A・D・U・K・A おお~渋谷塚! 我が憧れのスクランブル交差点!」


うわあ!? いきなり暴れ出した!? 体育館が崩壊する!? ギャア!? 動かないで演劇さん!? 演劇さんが歌って踊ると体育館は跡形もなく崩れて瓦礫の山になった。下敷きになった劇団員たちの生死は不明であった。


「・・・。」


辛うじて生き残った私からお知らせがある。渋谷区の花はハナショウブとケヤキらしいが、渋谷塚の花は笹である。名曲、渋谷塚の花咲く頃という歌もある。


つづく。

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