第34話 34

あなた、探し人をしたことある?


私はある。教室中を見渡しても顔は見えるけど名前は見えない。顔と名前が一致して初めて一人の人間の存在が分かるんだと高校生になって初めて気づいた。


ワードズ・オブ・アウェーケニング。私は薄皮ヨモギ。私は高校を支配する。


悩んで、悩んで、悩んでも良い解決策が思い浮かばない。一人づつ名前を聞いていく? 人見知りな私には絶対無理。ほんと自分自身の性格が嫌になる・・・。


「出席を取る。薄皮。」

「・・・。」

「欠席と。・・・あ、いた。」


殺す! 朝からおまえの教師としての雑務を手伝ってやったのに何を新しい遊びを思いついているんだ!? これは完全な教師によるいじめだ! 教育委員会に訴えてやる! 電話はできないが、お手紙を書くことはできるんだからな!


「佐藤さくら。」

「はい。」


おお! あれが佐藤さくらか? 歌劇団部のトップスターというから恐ろしく美しいと思っていたが・・・普通だな。歌劇さんはどちらかというと体育系女子だな。もしかしたら私の方がカワイイかもしれない。ウッシッシー。少し私はうぬぼれていた。


「佐藤。薄皮が歌劇団部の入部テストを受けたいそうだ。案内してやってくれ。」

「はい。分かりました。」


な!? なにーーーーーーー!? 親しくなれとは言われたが、誰も歌劇団部に入るなど聞いてないぞ!? わ、私は内気で人見知りで家に引きこもって一人悩みするのが大好きなのだ! スポーツなどやらない私が運動神経が良いはずないだろうが!?


「薄皮さん。よろしく。」


なに? この違和感は? 只者じゃない!? 大物だ!? 歌劇さんは顔は笑顔100%だけど・・・目が笑っていない!? どちらかというと怒っているような視線を感じる!? 初対面の人間と気軽にしゃべれない私は頭をペコっと下げることしかできなかった。


「・・・。」


ああ・・・最近ゆっくりと悩み事してないな・・・。高校に入ってからずっと忙しい。まさかこんなにも忙しいとは・・・。ああ・・・春休みはゆっくり悩んでいられて幸せだったな・・・。窓辺の席から遠くを眺めて私は黄昏ていた。


「・・・。」


私を覚醒する言葉は知っている。でも製作委員会の戦いの中で私は私の言葉の特殊な能力を知らない。言葉に想いを宿し「眠る」という論争を仕掛け学校中の生徒を眠らせた道明寺アンコとの戦いの中で、私は私のことを知らなかった。私自身の想いを宿す言葉を知らない。また製作委員会の試合があった時、私はどうやって戦えばいいのだろう?


「薄皮。この問題を解いてみろ。」

「・・・。」

「あ、薄皮では分からないから答えられないか。」


私の言葉。いったい私の想いの宿った言葉は何なんだろう? 私はひょん教にバカにされたのも気づかずに、授業中であるが悩み事にふけて私だけの楽しい時間を過ごしていた。恐ろしいことに悩み事をしていると一歩も動かずに放課後になってしまった。


「薄皮さん、部活に行くよ。」

「・・・。」


佐藤さくらが声をかけてきたが私は悩んでいるのでそれをスル―した。こうして私の渋谷塚歌劇団部の入団テストが始まろうとしていた。


つづく。

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