第29話 29

あなた、自分の言葉に力が宿るなんて信じられる?


私は信じられない。言葉に力が宿るなんてバカバカしい。私は私の目で見たものしか信じない。例え目の前で全校生徒が眠りにつかされていたとしても・・・。


ワードズ・オブ・アウェーケニング。私は薄皮ヨモギ。私は高校を支配する。


私は自分の言葉に力があることを知っている。言葉を心の中で唱えるだけで内気な薄皮(ススキカワ)から元気な薄皮ヨモギに生まれ変われるから。それでも自分の言葉は信じられるけど他人の言葉にも力が宿るとは信じられなかった。


「本日はお招きいただきありがとうございます。私は松濤高校製作委員会の委員長道明寺アンです。少し早く来てしまったので挨拶代わりにみなさんを眠りの世界へと誘って差し上げました。」


な、なんなの!? 何を言っているの!? ほんとに私の目の前の女がみんなを眠らせたというの!? 普通の女子高生じゃない? そんなことができるはずがない? そうよ! できるはずがない・・・。どうやったこんなことできるのよ!?


「私は受験勉強に部活動に習い事とお金持ちのお嬢様として生まれたサガで睡眠時間もなく秒単位のスケジュールで立派なレディーになるための英才教育を詰め込まれ過ぎて完全な睡眠不足になったの。」


お嬢様も大変なのね。私は普通の家庭に生まれて良かった。だからお嬢様ってガリ勉のメガネッ子が多いのね。どうせコンタクトレンズに変えたら親のお金でブランド化粧品や海外留学ばかり行くようになるんでしょうけど・・・。


「私は呪ったわ! 寝たい! 寝たい! 眠らせろ! ってね。気が付いたら私以外の全ての人間を眠らせていたわ。そして誰も私に次のスケジュールを言いに来る者がいなくなった。おかげで私は生まれて初めて熟睡したわ! 3日よ! 3日間も一度も起きずに眠り続けたわ! 目覚めた時は王子様が口づけをしてくれたんじゃないかと思う程だったわ。」


やっぱり変態だ・・・。どうして高校生になってからは変な人としか出会わないの? それとも高校生になるとみんな変態になるの? 違う!? 違う!? 話が逸れた!? この人も持っているんだわ。自分を覚醒する言葉を!?


「さあ製作委員会の練習試合を始めましょう! 私が勝ったら3日間眠り続けてもらうわよ!」


そんな無茶苦茶な!? ひょん教! この頭の悪そうなお嬢様に何とか言いなさいよ! あなた学校の生徒が眠らされたのよ!? 教師なら他校の生徒が暴れていたら止めなさいよ!


「薄皮。」

「・・・。」

「あの女に勝て。」

「・・・。」

「みんなを救えるのはおまえだけだ。」

「・・・。」


はい。え? ええーーーーーーー!? 丸投げですか!? ひょん教、おまえそれでも教師か!? 自分の高校の生徒に危害が加えられていたら命懸けで助けるのが教師だろうが!?


「私の熟睡のために、眠りについてもらうぞ! 3日間眠りたい!」


道明寺アンの心地良い睡眠をしたいという言葉の前に私は悩む間もなく窮地に立たされた。私はこのまま深い眠りについてしまうのだろうか?


つづく。

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