第11話 11

職員室の掃除も終盤に差し掛かった頃、ひょん教が尋ねてきた。あれ? こいつはいつからひょん教になったんだ? なんか宗教みたいだな。ああ・・・悩み事の尽きない私の人生は悩みっぱなしだ。


「薄皮、おまえに夢はないのか?」


ワッハッハー! よくぞ聞いてくれた! 私の夢は世界征服だ! 私の悩みに悩み抜く優秀な頭脳をもってすれば、世界を征服することなど雑作もない! この権力のある教師が問題児に屈する矛盾だらけの世の中を滅ぼしてみせる! 正しいものは正しい! 間違っているものは間違っている! 私は世界を、人類を正しい道に導いて見せる!


「俺の夢は正規の公務員教師になることだ。」


甘いな。契約教師は契約期間が過ぎれば切り捨てだ。まず公務員教師にはなれない。よく自衛隊でも契約自衛隊員の募集があるが、若い間は契約してくれるが歳をとれば契約更新はしてもらえない。正規の公務員教師は年収500万以上。契約教師は240万前後が相場か? 保険に年金を引かれれば手取り20万も残るまい。どんなに若くても、ひょん教、おまえは歳よりでハゲでデブの正規の公務員教師には勝てないのだ! 女にはモテないのだよ! 結婚は諦めろ! 一人寂しい老後を過ごすがいい!


「そこで、何とか手柄を立てて、学校に貢献したい。」


笑止! 悩んで、悩んで、悩んでおまえが出した答えが、校長に媚びを売ることか!? 情けない! おまえの頭はお花畑か!? 最初からボタンをかけ間違えていることが、まだ分からないのか? 使い捨てされるだけだぞ! ひょん教よ! 毎年どれだけの契約社員が何の落ち度も無いのに契約を継続してもらえずに路頭に迷うことを知らないのか? 悩み事のプロの私が教えてやろう。良い悩み事をするために必要なのは正確な情報だ。情報は多ければ多いほど悩み事のより良い解消に役に立つ。その情報が欠けているのだよ。


「薄皮、俺を助けてくれ。」


ほ~お。私に助けを求めると。これは妙な気分だ。生徒である私が教師に助けを求められるとはな。私は何の権力もない、ただの生徒だ。それに引き換えひょん教は腐っても学校の支配者である教師。生徒の成績を人質に学校を統治し、大学進学や停学・退学などの最大の呪文も使える権力を持った卑怯者の教師。その気になれば私の服を脱がせてわいせつ行為もでき口封じもできる教師が、私に頭を下げるとは面白い。


「助けてくれる見返りとして、おまえの高校生活3年間の安全を保障しよう。」


フッ。笑わせてくれる。ついさっきいじめっ子に絡まれている私を救うこともできなかったおまえに、どうやって私の身の安全を保障すると言うのだ! ひょん教!

おまえみたいな生半可な気持ちで金のために教師になる輩がいるから、いじめを無くすことができる権力を持っているのに、自身の保身のために、その力を正しく使わない教師がいるから、学校からいじめが無くならないんだ! うおー!


つづく。

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