第6話 6

ああ・・・私の高校生活は初日で終わった・・・たったの一日で・・・。バカ教師が何事も無かったかのように出席を取り始めた。もちろん私が呼ばれる順番は、名字があといの次の・・・3人目のうだ・・・。


「薄皮ヨモギ。」

「はい。」


屈辱によく耐えたわ、私。高校で初めての出席点呼を何事も無かったかのように普通にやり過ごした。薄皮ヨモギとして・・・。さすがの悩みストの私も悩む思考回路が停止して、窓から遠くを眺め大空に自由を求めたわ。もちろん外は雲一つない晴天でも、私の心は暗雲が立ち込めていた。


どうして? どうして? どうしてこんなことになったの? 入学初日で、こんな理不尽な扱いを受けた女子高生は私だけよ!? 絶対! 絶対! そう決まっている! どうして私だけがこんな不幸なの!?


悩め! 悩め! 悩め! どこかに解決策があるはずだ! 諦めて揚げた白旗は・・・フェイクだ。敵を油断させるためよ! この薄皮(ススキカワ)に敗北の二文字は無い。ワッハッハー!


「薄皮ヨモギ。」

「はい。」


し、しまった!? 不意に仮の名前を呼ばれて反応してしまった!? 敏感過ぎるぞ!? 私!? 平和を好む私の協調性と優等生の優しい心が教室に悪い空気を漂わせないために返事をしてしまった!? ええい!? 私は変な教師に付けられた薄皮ヨモギなどという名前を受け入れたというのか!? 屈辱だー!


「面白いので、おまえを先生の秘書に任命する。」


ひ、秘書? 秘書って、なに? しかも理由が面白いから!? ふざけるな! 変態教師! それにしても委員長でも副委員長でもない。ましてや書記でもない。秘書? 高校には中学校までに無かったクラスの役職があるのかしら? 世の中には私の知らないことが、まだまだあるのね。


「先生、秘書って何をするんですか?」


時には分からないことは相手に聞くことも大切よ。これは降伏ではない。前に進むための試練だわ。確か会社ではおっさん社長が社長秘書とかいう若い愛人を作るのがステータスらしいけど、私はピチピチの女子高生。まして未成年。もしも教師の生徒に対するセクハラが目的であれば、私に薄皮ヨモギなどというパンの名前を付けて辱めた、この変態教師を教育委員会に訴え追放するチャンス! もし教育委員会が教師の不祥事をもみ消すというなら、新聞・テレビのマスコミにリーク(チクる)してやる! 私に歯向かったことを後悔させてやる!


「雑用係だ。授業の準備をしたり、この後、入学式の片付けを手伝ってもらう。」


な、なにー!? 雑用係だと!? 私は美容のために早くお家に帰って昼寝がしたいのに、その私の行く道を邪魔するというのか!? この俗物が!? 生徒の私的利用をしたことを絶対に後悔させてやるぞ! なぜ新入生の私のためのお祝いの入学式を、新入生の私が入学式の片付けをやれなければいけない!? こんな惨い仕打ちがあっていいのか!? これが高校のやり方か!? 矛盾だらけじゃない!?こんな不条理に絶対に負けないわ! 私は悩むことをやめない! この高校という新しいステージでも、悩んで、悩んで、悩み抜いて、絶対に生き残ってみせる! 


つづく。

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