第5話 5

「ああ! 思い出した! 薄皮だ! 薄皮!」


やめて! 私の恥ずかしい名前を大声で呼ばないで! 何を思い出したかは知らないけど、あなたのデリカシーのない態度は、教師のクセに、生徒である私の心を傷つけているのが分からないの!? もう、信じられない!


終わった。私の高校デビューは。このクソ教師の性で台無しになったわ・・・。どんなに見た目は冷静を装いクールに振る舞っていても、この思春期の多感な高校1年生になったばかりの私の心の中は台風に竜巻に火事が起こって滅茶苦茶よ。その内、悪魔でもドラゴンでも生まれそうだわ。


「席を決める時に、ちょうど薄皮よもぎパンを食べていたんだ。ほら、100円で小さいのが5個入っているのあるだろ。いや~、美味しいんだよね。薄皮よもぎパン。」


ちょ、ちょっと!? 待ちなさい!? 私の名前は薄皮よもぎパンの性で、薄(ススキ)ではなく、薄皮になったというの? 私の人権は薄皮よもぎパンに負けたというの!? 美味しいとか不味いとかの問題じゃないでしょう!? 


「お前の名前は珍しいので、カタカナを書いておいたんだが、薄(ススキ)ではなく薄皮になってしまった。すまん、すまん。」


謝って済むかーーーーーーー! もっと悩めよ! 貴様! それでも教師か!? ヘラヘラしやがって! 教師ならカワイイ生徒の名前ぐらい正確に覚えろよ! これから少なくても1年間は毎日、顔を会わすんだからな! 教師が生徒をプチいじめしてどうするんだ!?


「私の名前が薄(ススキ)と分かった所で、私の席はどうなりますか?」


ふっ、やはり勝利の女神は私に微笑んだ。よく、この短時間で立て直したものだ。自分で自分を褒めてあげたい。伊達に悩み続けて頭の回転が早くなった訳じゃないわよ。まさに悩み事のプロ、そうよ、私は悩み事のプロフェッショナルだわ! さあ、ダメ教師! 間違いを認めて、私の席を名字すの所にするのよ!


「もう、みんな座っているし、今から全員が移動するのは面倒臭いから、薄(すすき)、おまえは空いている名字うの席に座れ。」


はあ? はあーーーーーーー!? 何が面倒臭いだ!? 悪いのは、絶対におまえだろうがー! 面倒臭い!? 自分のミスをたった一言で誤魔化してんじゃないぞ! いくら大人しい私でも額に血管が浮きだしてくるわ!


「そうだ。いいことを思いついたぞ。薄(ススキ)、おまえの名前は薄(ススキ)ではなく薄皮(ウスカワ)にしよう。今日からおまえは薄皮ヨモギだ。いや~、我ながらナイスアイデアだ。」


違~う!!!!!!! 私の名前は薄皮(ススキカワ)だ! 何、人の名前を勝手に変えてくれくれてるんだよ!? なぜ私が改名しないといけないのよ!? しかも、なぜ、パンの名前!? ヨモギなんて、ありえない!? 薄皮ヨモギ!? ダサい!? なんなのよ!? そのダサ過ぎるネーミングは!? 私なら、もっとこう、薄皮チョコパンとか・・・違う!? 論点がズレた。悩み過ぎる私の悪いクセだわ。


つづく。 





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