第4話 4

「すすき? う~ん。うちのクラスにすすきという名前の生徒はいないんだが・・・新入生だから教室を間違えていないかな?」


これがニュースでよく見る噂の教師主導のいじめってやつね。も~う、最低! こんな性格の悪い人間に教員免許を与えたのはどこのどいつよ! 教員免許を持っていたって教育委員会にコネが無かったら採用されないんだからね! 


「いいえ、私はこのクラスの生徒です。」


・・・んん? はあ!? まさか!? 教育委員会もグル!? そうよ! そうに違いない! 名誉職の教育委員会の委員も元校長とか自治体の偉いさんがコネでなるものよ! ということは天下り先じゃない!? 最低! 本当に世の中は矛盾だらけだ・・・。


「もう一度名前を言ってくれ。」

「薄(すすき)です。」


妙な爽快感だわ。私は学校での絶対な支配者の教師相手に互角の戦いを繰り広げている。自分の成長を感じる。これまでの私の悩み続けた15年間は無駄じゃなかったのね。わ~い! おっと、いけない。一瞬、気が緩んで笑顔になってしまった。気を引き締めてかからねば! 勝利を手にする日まで!


「そうか。職員室に行って確認してこよう。」


勝った! 私は生徒でありながら教師に勝ったのだ! 高校初日から悪の支配者に勝つとは縁起がいい。私は、私であり、他人ではない。勝つのも負けるのも自分次第。悩み抜いて結論を出した私の勝利だ。わ~い! わ~い! 私の心の中に心地良い春風が気持ちよく吹いた。


「確認してくるから、すすきとは、どういう漢字を書くんだ? 教えてくれ。」


なにーーーーーーーー!? やられた!? 私の勝利を喜んだ時間を返して! なんて心で叫んでいる場合ではない。私にぬか喜びさせておいて、まさか反撃してくるとは、しかも強力なカウンターパンチ。私の心に暗雲が立ち込め、私の心は暗闇に包まれる。


どうする? どうする? 私にどうしろというの? 漢字を書いた時点で、私の名前がバレてしまい、この場にいる全員から笑われてしまう。勝利目前にしてのどんでん返し・・・この教師、只者ではない。クソッ! はめられた!?


悩め、悩め、悩め、私よ! 悩んで悩み込んで解決策を見つけ出すのよ。でも悩む時間が無さすぎる!? どうして名字すの私の席が名字うの所に教室の自分の席が配置されているのよ!? 予想外だったわ・・・。


く、悔しい! 今回は高校初日ということでサービスで負けを認めてあげる。今回は前もって、そこまで悩んでこなかっ私の負けよ。笑いたければ笑えばいい。私の名前を書いてあげるわよ!


「薄?」


何なの!? その間抜けな反応は!? ・・・まさか!? この教師、薄(ススキ)という字を知らなかったんじゃ!? あなたそれでも教師なの!? 担当の教科なんて関係ないわ! 教師ならススキくらい知っているべきだわ! 私の名前のススキはね、イネ科の植物で、秋の七草とも言われ、秋の月見のお供え物として、絶対に欠かせないありがたいものなのよ!


つづく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る