第52話 恋の故意の病の季節カゼ
みんなして学校の帰路を歩く。
と言っても今はステファニーさんの家に遊びに行く途中なのだが。
私の両頬に夏の風が濡れた空気となってふれていく。
私達は歩きながら他愛もないおしゃべりをする。
「君島先生って変な夢を見てるらしいのよ、今朝言ってた」私が言う。
「変な夢って?」と雪子さん。
「私と君島先生が同棲しているんだってさ、嫌になっちゃうわよね。全くあの先生は生徒のことどう思っているんだか。勘違いも甚だしいわ」
「でも抹茶ちゃんってあの話聞いてる時ツンデレだったよ」とステファニーが言う。
「ツンデレってどういう意味?私オタク言葉わからないのよね。響きだけ知ってる、説明して?」
「ツンデレっていうのはツンツンしてる後にデレデレすることよ。あの時抹茶ちゃんは確実に先生にツンツンした後、デレデレしてた」
私は顔中が真っ赤っかになるのを感じる。
夏の風がピューっと音を立てて通り過ぎる。それは私達を包み込んでいるようだが、その実ただ過ぎているだけだ。
「デレデレなんかしてない!」
「私達友達でしょ?本当のこと言ってよ」工藤さんが言う。
「私は女子高生よ!それも流行に乗ったセンスのある。そんな人物があのぼんくら化学教師にデレデレする訳ないでしょ!」
「ほんとうに、あの先生に会ったときから抹茶ちゃんは顔中が今みたいに赤くなって照れていたものね、思い出すわ~」と雪子さん。
「この話は終わり!」
「待って、本当に君島先生のことなんとも思っていないの?」ステファニーが鋭い口調で言う。「この後の物語に作用する事態になるのよ」
「この後の物語ってどういうことよ?」
「好きなの嫌いなの、どっち?」また鋭い口調で彼女が言う。
「そう追いつめてあげないでくださいよ、ステファニー」雪子さんが穏やかに言う。
「あなたの方こそ好きなんじゃないの、君島先生のこと、ステファニー」
「私は、好き・・・。かもしれないわね。でもあなたの感じているその恋の宇宙果ては君島先生という天体に届くのかしらね。私自身は簡単にあの先生を落とすことが出来ると思ってるわ」
「やるぅ~ステファニー。断言だね」雪子さんが言う。
「で、あなたは好きなの?」ステファニーが問い詰めてくるが私は内心のドキドキを隠すように両手で顔を隠して下を向く。
もうみんなにはバレバレのようであった。
「ええ、好きよ。君島先生のこと。会ったときから」
「そう、抹茶ちゃんはやっぱり好きだったのね」雪子さんが言った。
目の前には太陽がぎらぎらと光りながら昼下がりの町内を満たしていた。
そんなことを私達は話しながら歩いていた。
ステファニーのマンションに着き、エレベーターで最上階に上がる。
エレベーターの中はひんやりしており、四人分の体重を乗せて上がって行った。
ぎこちない孤独感がそこには浸透しており、私達は無言で只、最上階へと続く点灯する階数の電光を見つめていた。
そこから降りるとまた会話が始まる。
「今日はみんな私の家に来たみたいだけど、何するの?何か決めてる?」
「ううん、決めてない」工藤さんが言う。
「テキトーに遊ぼうよ」私が言う。
「じゃあ、みんなで君島先生に告白して誰が付き合ってもらえるか、ゲームしない?」ステファニーが言う。
「いやよ!私の思いは卒業してもこの胸にしまっておくのよ!」
「多数決で決めましょう」
「賛成」
「私も賛成」
「発案者の私も勿論賛成」
「反対が一票か・・・。みんな意地悪なのね」私がそう言った時、ステファニーの家の扉の前に着き彼女が扉を開けた。
「入って」
中に入るとエアコンが利いているようでとても涼しかった。しかしながら私はステファニーの家は悪魔の家か何かに思えてならなかった。
みんな家の中に入ってステファニーの部屋へと入る。
白い絨毯に微かにピンク色が入ったこの部屋の床を見る。学習机とスピーカーセットと後はCD棚があった。
部屋の中心にはそれほど大きくはない丸テーブルがあった。みんなはそこの周りに座った。
「冷たい飲み物取ってくるからちょっと待ってて」そう言ってステファニーは部屋を出て行った。
帰ってくるとお盆に四人分のグラスに満たされた薄い紫色の液体が出てきた。
「水にラベンダーの香料を足したものだから、冷たくて美味しいわよ」
テーブルの上にお盆が置かれるとみんなはグラスに手を伸ばしコクコクと飲み始めた。
私もそれを飲んでみたが水の味しかしないが、香りが凄く良い。香りだけならブランデーに負けないなと思った。
「じゃあ、始めましょうか。君島先生に愛の告白対決」
ステファニーは鞄の中から白色の電話を取り出すとディスプレイをなぞり始めた。
何かそれは魔法の儀式のように私には思えた。
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