第51話 背くらべ
私は腐野抹茶、高校3年生である。夏から授業が始まり、私は学校の教室にいる。
「ねぇ、背くらべしようよ」ふと同じクラスの生徒がそう言う。
私の学校は女子校で生徒は全員女子生徒だ、当たり前だけど。
「背くらべにはこの口紅を使えばいいわ。ねぇしない?」彼女は続けて言う。
プラスティックの容器からむき出しの口紅が見えた。
色は紫がかった紅色。ちょっと色っぽかった。
私達は手探りにそれを口元に当てていく、この教室中にいる全員がそれを付けるとやがて教室の窓辺に向かう。
開いていた窓を閉じていき、窓ガラスに口づけをしていく。
私もそれにキスをした。透明なガラスの味は無味だった。ほんのりと温かいそれは私にとってのファーストキッスを約束する。
どこかで悪魔が微笑んだ。
みんなが窓ガラスにキスを終えると遠目に立ってそれを見つめてみる。
それはそれぞれの身長に合わさり、奇妙に連結し合う歯車に見えた。
少しだけ遠く見える青空の下の雲が口紅のちょうど上に見えている。
「一番高いのは誰かしら雪子さんかしら」
「そのようですね」雪子さんはそう言って自分の口づけの後を近づき手でなぞる。
「ちょうど夢のような口づけ。明日は如何なるものやら」雪子さんは儚げな顔で言いつつ指先で唇の後をなぞっている。
「なんか不思議なことやってるな」その時君島先生が教室に入ってきた。
「口紅の背くらべです」雪子さんがそう言うと君島先生はそれに反応し、
「最近の女子高生はそんなことが流行りなのか?」と言う。
「ちょうど今思いついただけです」最初に背くらべをしようと言った女子が言った。
「まあ、いいや。朝のホームルームを始めるよ。席について」君島先生はそう言うと教団に立った。
「これから夏の授業が始まる。君たちは一年間待っていただろう。この瞬間を。おそらくだが」君島先生はそんな話をする。
学校へと行く道の途中で私とステファニーさんは君島先生の夢の話をされた。そんな夢があるのだろうか。私は内心ではあると良いなと思っていた。だってその方が面白いじゃない?
君島先生から目を逸らし、窓の外を見てみる。今日は快晴だった。
そうやって外を見つめていると後ろから肩をとんとんと叩かれる。後ろを振り向いてみる。
「ねぇ、抹茶ちゃん今日学校ふけちゃおうか」
「いやね、今日初日じゃない」私はそう返した。
「学校ってたるくない?どっか旅行行こうよ、せっかくの夏なんだしさ」
そうせっかくの夏だった。
私は心がムズムズした。
学校の授業が全て終わり帰る時間になる。
私はバッグに教科書やノートをまとめていく。
「抹茶ちゃん帰る準備出来た?」もう帰る支度が出来たようで隣の席のステファニーさんがそう言った。
「今出来るよ」
「帰りにどこか寄る?」
「うーん、ステファニーさんのお家に久しぶりに行きたいわ」
「いいよ。じゃあ私の家で遊びましょう」
工藤さんと雪子さんが近づいてくる。
「ステファニーさんの家に行くの?私達も連れてってよ」工藤さんが言った。
「いい?ステファニーさん?」私はステファニーさんに聞く。
「いいわよ。おいでよ」ステファニーさんはそう答えた。
私はバッグの荷物をまとめてしまうと教室を後にした。
教室を出る時に後ろを振り向くとやはり口紅の跡をつけた窓ガラスが見えた。未だ数人の生徒が残って生徒同士で話し合っている。
私は帰るのが若干遅かったようだ。他の生徒と比べて。
学校から外へ出ると軽く背伸びをする。久しぶりに学校で中々楽しかった。
どうかこれが夢なら覚めませんように。
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