第48話 招待
私は家に帰っていた。
ベッドの上に寝そべっている。
青白い素肌に青い血管が若干濃く通って見える。私の両腕に。
私はそれを見つめながら、裸のままベッドの中に入っていた。
布団にもぐりこんだ状態だ。
季節は夏、エアコンの冷房が十八度で利いている。
非常に寒い。
体は熱を持っていたのでそれを冷やそうと私は家に帰って、冷たい水でシャワーを浴びて、それからお風呂場から出た後、冷たい冷気の冷房で体を冷やす。
非常に寒い。
未だ十二時前だった。
なぜ、私はこんなことをしているのだろうか。
湿った髪の毛を手でなぞる。
髪の毛を一房持って口持ちに近づけ、匂いを嗅いでみる。
私の体臭の匂い、ジャスミンの香りがしていた。
同時にそれは非常に冷えていた。
夏なのに、なんでこんなに冷めているのだろうか。
海やプールに行った帰りでもないし、ただ私は神社に行ったのだ。
あの時、抹茶ちゃんが触れた隕石は彼女が触れた直後に跡形もなく消えた。
同時に神社は元の姿を取り戻し、そこにあった。
私は何処にもいなくなったような気分で神社の石畳の上に突っ立っていた。
着地したのだ。
王女が望む今へと。
抹茶ちゃんも君島先生も神社からは消え去り、ただ私だけがそこにはいた。
薄ぼんやりとした黄色い夏の陽射しが境内の森の木々の隙間から入ってくる。
私は寒気がしていた。同時に熱も出ていた。それは耐えられないほどの痛みではなかったが、香辛料に痛みを感じとるように、私はその寒気に痛みを感じていた。
この世界に君島先生はいるのだろうか。
私はこの世界に封印されてしまったことを感じた。
この胸に感じる痛みと共に。
それから私は家であるマンションへと帰った。
その部屋はいつもと変わらず私を受け入れてくれた。
そして私はシャワーを浴びて、その後ベッドにもぐっている。
エアコンの冷房が十八度。
私はクラクラとしていた。
喉がカラカラしてきたので、冷蔵庫へ行き、水を飲む。
コクコクコク、時間を刻むように私はそれをコップ一杯飲んでしまうと、ソファの上に脱ぎ捨ててあった今日の服を手に取り、着替え始めた。
下着姿、それから上に着る、紫色のシャツと水色のズボン、それを着てしまうと私はポケットの感触に思い当たった。
それはこの時代の機械。
スマートフォンである。
液晶を覗き、ロックを外す。
君島先生の連絡先を探す。
ちゃんと見つかった。
私はため息を吐くとその連絡先に電話してみる。
プルルル、プルルル、と電話の受話器が音を立てる。
「はい、君島です。ステファニーさんどうしたの?今日は抹茶と遊ぶ約束じゃなかった?」
「先生、抹茶ちゃんの魔法がどうなったか覚えてる?」
「いや、抹茶の魔法は未来からやってきた女の子を殺しただけだけど」
「それだけ?私の役割は?」
「ステファニーさんの役割?どういうことだい?」
「知らない?」
「全く」
「そう。抹茶ちゃんは何処に行ったか知ってる?」
「確か駅前のカレー屋さんに行くって言ってたよ。今日は夏休みの始まりだろ?未来では休暇の初めにインド料理を食べるんだってよ。そこのカレー屋さんがインド料理か知らないけど」
「わかりました、先生。私もそこに向かってみます」
私はそう言って電話を切った。
時間が戻っていた。夏休みのはじまりへと。
私はこれからどうするのだ?
これからの予定は?
私の役割は?
私はもはや神ではなくなっていた。
そして私は靴を履き、駅前の抹茶ちゃんが待つ場所へと向かっていった。
待ち合わせ場所に着くと抹茶ちゃんが滝のような汗を流して待っていた。
「遅いよステファニーさん」抹茶ちゃんが言う。
「ごめんなさい。ホントごめんなさい」私がそう言う。
「いいわ。もう二時間待ったんだからね。カレー屋さん行こうよ」抹茶ちゃんは笑顔を作りそう言った。
カレー屋さんに入ると冷房が強く利いていた。
「ああー、外は暑かったねー」抹茶ちゃんが言う。
「ごめんなさい。二時間も待たせちゃって。今日は抹茶ちゃんが食べるものは全部私が奢るから」
「ホント?」抹茶ちゃんが言う。
「うん」私が言った。
「ありがとうー!!」
それから抹茶ちゃんはグリーンカレーの激辛を頼み私はビーフカレーにした。
「いっぱい食べるぞ~!!」抹茶ちゃんはそう言う。
この世界は一体どうなってるのだ?
抹茶ちゃんは魔法が使える。
私は魔法が使える。
抹茶ちゃんは私が魔女であることを知っているのだろうか。それを聞いてみることにした。
「ねえ、抹茶ちゃんは魔法使いよね?」
「そうよ」
「私も魔法使いなのよ」
「そうね、ステファニーさんも未来から来た魔法使いですもんね。でも私と敵対していない、味方の魔法使い」
どうやらここでは私は抹茶ちゃんと同じ味方の魔法使いらしい。
彼女が作り出した世界では。
私と抹茶ちゃんは料理を食べて、私が会計を払うと外に出た。
抹茶ちゃんの髪の毛は汗でおでこや肩に貼り付いていた。
「家に帰ってシャワー浴びたいから一度帰るけど、ステファニーさんも来る?」
「私の家に来てよ。抹茶ちゃん。一度招待したかったの」
「そう。わかったわ。ステファニーさんの家のシャワー借りてもいい?」
「もちろん構わないわ」私がそう言うと、抹茶ちゃんはおでこに貼り付いた髪の毛をかきあげポケットに入っていたハンカチで拭いていた。
「じゃあ道案内して♫」抹茶ちゃんが言う。
「うん」私が言った。
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