第44話 二度目
抹茶ちゃんの家に(抹茶ちゃんは君島先生の家に住んでいる)着き、玄関を入るとで家の中はデザートのようなはちみつの甘い匂いがした。
私はそれをくんくんと嗅ぐ。
「どうぞ、上がってー」抹茶ちゃんは靴を脱ぎ中に入っていく、私も靴を脱いで上がった。
中は薄暗く(未だ昼過ぎだが)、先程までの外の夏の明るい光に慣れていた目がその薄暗さへと段々と慣れていく。
「ゲームでもする?」リビングまで来ると抹茶ちゃんはそう言った。
「私ゲームしたことないの。やり方わからないわ」
「そっかー。じゃあちょっと待っててね、麦茶取ってくるから!」
「ありがとう、抹茶ちゃん」夏の陽射しに当たった体は水分を必要としていた。汗はかいていなかったが、さっきから喉がカラカラだった。
どうやら君島先生はまだ帰ってきていないようだ。
私は君島先生を目当てに来たのだが、まあいいか、と思いリビングのソファに座る。
目の前にオーディオのセットがあった。
棚の上にブックシェルフのスピーカーとアンプとCDプレーヤーがそれぞれ線で繋げられて組み合わせてある。
私は向こうのキッチンにいる抹茶ちゃんに向かって音楽を聞いて良いか聞く。
「いいわよー、どのCDでも聞いて~」抹茶ちゃんはそう言う。
私は棚にあるCDに手を伸ばす。
mamenoiのTachyonにした。
それを再生する。
窓のカーテンを開ける。
光が部屋に差した。
やがて抹茶ちゃんが戻ってくると、
「はい、麦茶よ。あら、私この曲知ってる。ステファニーさんもこの曲知ってるの?」
「知ってるわ」私は頷く。
私は麦茶をごくりと飲む。
音楽と強い夏の陽射しがソファに座る私と抹茶ちゃんに当たってくる。
最近、私は音楽を聞きすぎだろうか。明日もクラブに行くし。まあ聞きすぎでも良いだろう。私達は音楽を聞きながらしばらくおしゃべりをした。
私の持っている氷の浮いた麦茶から氷がトロトロと溶けていく。
私は麦茶がなくなって氷水だけになったそれを飲み込むと抹茶ちゃんはそれを見て、コップを取ってキッチンへと向かった。
「洗ってくるから、待っててね」
「うん」
抹茶ちゃんは度付きの眼鏡に疲れたのか、今はそれは頭の上に引っ掛けてあった。
戻ってくると抹茶ちゃんは、
「音楽聞き終わったら、映画でも観ようか。君島先生が持ってるやつ」
「気になるわ」
抹茶ちゃんが私の隣に座る。彼女は頭を私の肩にもたれさせてきた。
私も抹茶ちゃんの頭にコツンと自分の頭をもたれる。
「やっぱり、映画観るのやめようか」
「うん」
私はそのまま眠ってしまった。
やがて玄関が開く音で目が覚めた。君島先生が帰ってきたのだ。
小さな足音をさせながらリビングへと向かってくる。
そしてリビングにたどり着くと君島先生は、
「ああ、ステファニーさん来てたのか」と言う。
「あなたの家に来るのも二度目ね」私は私の肩で寝ている抹茶ちゃんを横目で見ながら言う。
「ああ、ミューズ。そういえばそうだったな」
「うふふ、思い出してるのかしら?」
「もう大分前になるな」
「そうね。それじゃあ、私は帰ろうかしら。抹茶ちゃんをよろしくね。後そう、明日のクラブお洒落してくるのよ」私はそう言ってソファから立ち上がった。
ソファから立ち上がると、私の肩にもたれていた抹茶ちゃんが重力に引かれソファの座面に落ちてくる。
トシンと小さな音がして抹茶ちゃんはソファに頭を落とすと、目を覚ました。
「ん~、なんだ帰ってきてたの?」
「おはよう、抹茶。今帰ってきた」
「今何時?」
「もう四時だよ」
「抹茶ちゃん私はもう帰るからね、また明日」
「ステファニーさん、さようなら、また来てね」彼女は寝ぼけ眼でそう言う。
そうして私は抹茶ちゃんの家を後にした。
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