第42話 夏休み
そして私は起きると制服に着替え学校へ行く。
学校は明日から始まる夏休みのことでもちきりだった。
そんな中こんな声がする。
「ねえ、昨日の夕方過ぎに未来神社に隕石が落ちたんだって、それで今はそこは閉鎖されてるんだって。もしかしたら宇宙人とかがやってきたのかな」
「宇宙人なんていると思ってるの?」
「その方が夢があるじゃない」
みんな夏休み前のウキウキで気分が持ち上がっていた。
抹茶ちゃんが登校してきて私に話しかけてきた。
「ステファニーさん、明日から夏休みだけど、遊びに行かない?」
「いいわよ。王女様!」私はそう言った。
抹茶ちゃんはそれに対し、小声で、
「それは内緒だって言ったでしょ」彼女はやはり死んだような瞳をしていた。おそらくその死んだような瞳なのはその内に宇宙を秘めているからだろう、なんて私は思う。
「それでどこに行くの?」
「クラブに行こうよ。私、クラブに行ったことないの。みんなも誘って行こう。監督として君島先生も連れてくからさ」
ああ、私は君島先生に今も恋をしている。
「わかった、絶対行く!」私はそう言うと抹茶ちゃんは笑顔を作り、席に座って鞄の中のものを机の引き出しに入れていった。
「ねぇ、抹茶ちゃん。あなたが世界を変えたのは覚えてる?」
「私はいつも世界を変えるように生きてるわよ」抹茶ちゃんは覚えていないようだった。
「そう。あとそう」
「なに?」
「あなたがこの時代に来た理由は?」
「探検よ。未来の世界では成人の儀式として過去に送られるの。そして生きて帰ってくると成人したとして世間から見られるのよ」
「でもあなたは君島先生に恋をしちゃったというわけね」
「その通り!よくわかってる、ステファニーさん!」
抹茶ちゃんが本当の王女として目覚めるには時が満ちることが必要なのだろう。
私は今も体に魔力を秘めていたが、抹茶ちゃんはそれがない。
私の体は既に魂の部分が機械化していた。
機械仕掛けの神。
君島先生がやってきた。
「明日から夏休みになるが、気をゆるめて他の高校の男子生徒なんかと一緒に危ないことはしないこと。わかったな?それじゃあ終業式をやって終わりだ」君島先生はそれだけ言うと、去っていった。
君島先生も世界が変わったことは気付いていないようであった。
私は小さくあくびをする。
なぜだか、私は緊張していた。
終業式で全生徒が整列し校長の話を聞いている時も私は小さくあくびをする。
ドキドキ、ドキドキ、ドキドキ。
終業式が終わり、教室へと戻っていく。
そして生徒が教室へと集まり、君島先生が言う。
「未来神社に隕石が落ちたようだが、それを機に僕は何かが変わったことを感じる。神社の社は壊れてしまった。あの神社がある理由の、未来にも神々がいるようにという願いは果たせないのだろうか。まあそれはいいか、じゃあなみんな夏休み楽しんでくるんだぞ」
そして生徒は学校を後にする。
私も家に帰った。
明日はみんなとクラブに行く。学校の先生がクラブに行っても大丈夫なのだろうか。
私はまたあくびをする。
それは恋のドキドキと混ざっていた。
明日のクラブに行く前に体を慣らすためクラブミュージックを聞くことにする。
昨日もクラブミュージックを聞いていたが今日もである。
私の中の機械が音楽を聞くと喜ぶのだ。
あるいはそれはミューズと言う名を持ち、私とともに永遠を旅した結果であろう。
私はパソコンで音楽を選び始める。
辺りは未だ明るく夏の陽射しが白色のレースのカーテンの向こう側に見えた。
ぼんやりとクリーム色の陽射しである。
アルバムはAutechreのConfieldである。
それはIDM(インテリジェンスダンスミュージック)であるが、電子音楽にヒップホップをぶち込んで、踊りたくても踊れない、体ではない何処かの一部を踊らせるものである。
私はそれを聞き始めた。
今度はヘッドホンで聞いている。
ヘッドホンはTH900mk2というものでFOSTEX製のものである。赤い漆塗りの大型のオーバーヘッドが私の耳を包み込み、音楽の内に引きずり込む。
だんだんとヘッドホンの音量を上げていく、気分はまさしくハイだった。
私はヘッドホンを被りながら制服を脱いでいく、
ワイシャツ、スカートを脱いでいく。
下着姿になると空いた肩に夏の陽射しがじりじりと身を焦がすようにのしかかってきた。
私は汗をかきながらそれを聞き終えると、昼食を摂ることにした。
明日から夏休みだし、今日は外食しちゃおう、なんて思って出掛けることにした。
抹茶ちゃんも一応呼んでみるか、そう思って彼女の電話に発信する。
「ステファニーさん、どうしたの?」
「抹茶ちゃん、ご飯食べに行かない?」
「いいよ!行こう!」
私は笑顔を作ると、何処に食べに行くかを二人で決めて私服に着替えて外に出ていった。
今日は快晴である。
カラリと晴れた青空がなんとも言えない美しさを放っていた。
私の脳内にAutechreのConfieldがまだ残って鳴り続いていた。
私は頭をふるふると振ると、リズムに乗りながら待ち合わせ場所へと向かう。
待ち合わせ場所は駅前だ。
毎日楽しい。
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