第41話 隕石落ちる未来神社

 菫色の瞳に光る抹茶ちゃん(王女)を私は見ている。

 彼女は隣の席に座っていて、私と今は向き合っていた。

 今は私の青い海原の色をした瞳を見ているだろう。

 

 私はステファニー・ミュート、或いはミューズ、高校三年生である。

 抹茶ちゃんは未来を救うため、或いは自分の体を癒やすため、現在へと来た。

 

 私は未だ全ての時を支配しきれていない。


 後は彼女だけだった。

 彼女だけ手中に收めれば、全ての人類は私の体内の歯車の一部になる。


 その時彼女の瞳が菫色から死んだ人間の瞳になった。

「あなたさえ殺せれば・・・。あなたさえいなければ、あなたさえ私達の生活にいなければ・・・」

「いいえ、あなたは始めから私を愛している筈だわ」

「私はあなたなんかいらない!」抹茶ちゃんはそう言うと最後に残された王女の魔力を使った。


 世界は反転した。


 いいだろう、王女。貴女が望む世界をあなた自身で作るがいい。

 私の筋書きから外れて。


 抹茶ちゃんの魔法はやはり都市を滅ぼせるくらいの魔法で世界を改変した。

 私はまた抹茶ちゃんとそして親友たちと高校生活を始めるだろう。


 私は自由を許す。

 王女は自由を壊す。


 なんて素晴らしいのだろう。

 私は放課後の日が暮れた教室で音もなく涙を流していた。


 その涙の味はメロディを奏でていた。

 乙女が弾くピアノの黒鍵のように。


 やがて教室は真っ暗になった。


 私は夏の暑い夜の暗闇の教室の中を目を閉じて受け止める。


 夏休みはすぐそこだ。


 その時私の中の機械仕掛けの神が笑ったような気がした。

 私はそれに切なくなる。

 

 やはり私の恋は悲恋だろうか。

 ああ、君島先生。ああ、君島先生。ああ、君島先生。


 空は月もなく輝いていた。

 星明かりがキラキラと瞬く。

 

 私は黒い鞄を手に取り家へと帰った。



 家の中は熱気に包まれ奥の方に置いた空気清浄機がゴーゴーと鳴っていた。

 私は家に着き直ぐにエアコンの冷房のスイッチをつける。


 外で雷のようなものが光って落ちてきた。

 

 よく見るとそれは隕石だった。

 大地主が持つという深い森の中へ落ちていく。


 たしか、あそこには未来神社という場所があったな、と私は思う。



 イギリスとはまた別のオーディオで私は音楽を再生する。

 今回の音楽はリッチー・ホウティンのDE9 : Transitionsである。


 トールボーイのスピーカーからやがてドシンドシンと音が鳴り始める。


 私の心もざわつき踊っていた。


 季節は夏であった。


 ああ、暑い。ああ、暑い。ああ、暑い。ああ、暑い。


 私は扇風機もつけた。

 扇風機の風が私の長い髪を揺らす。

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