第38話 静けさが訪れるまで

「何か食べていく?」ママも玄関に来て言う。

「いえ、俺は帰ります。じゃあなステファニー」彼はそう言って出ていった。

「お茶でも飲んでいけばいいのに」ママは私にそう言った。

「そうね、お茶でも」私はそう言うと自分の部屋に戻った。



 自室に戻ると冷却ボックスの中を開けてみる。

 機械仕掛けの神の心臓部がそこにあった。


「ようこそ、ミューズ。いいえ、おかえりって言ったほうが良いのかな?」

 心臓部が目を覚ます。

 それは奇妙に私と連結し、私の体内の歯車と脈動しあい劇的に共和していく。


 そして私は魔法使いになった。

 私は神を操る魔法使い。

 最高位の魔法使いだ。


 機械仕掛けの神の心臓部は消えてなくなり、代わりに私の体内にそれはあった。



 私はまたお腹が空いたので、夜食を摂ることにする。

 キッチンに行きピッツァの残りをレンジで温める。

 ママはもう寝ているようでキッチンにはいなかった。


 レンジで回転するピッツァを見つめる。

 私の体内の機械も段々と私に順応していく。

 感覚的にそれがわかる。


 二拍三日なので後、一拍して日本に帰ることになる。

 私は自分の部屋に持ってきたピッツァを食べながら考える。

 両親とはもうお別れである。


 季節は夏である。始まりの季節であった。


 夜食を摂り終わった後にまた音楽を聞いている。

 今度はFlying LotusのUntil The Quiet Comesを再生した。


 Until The Quiet Comes(静けさが訪れるまで)。

 

 私はそのアルバムを大音量で再生しながら眠った。


 日本へ帰ると空港でやはり四人が待っていてくれた。

「ちぃす♫」抹茶ちゃんが言う。

「こんにちは抹茶ちゃん」私もそう答える。

 他の三人も笑顔だった。


「楽しかったかい?」君島先生が言う。

「勿論」私はそう言った。


 私はそうして学校生活へと戻っていった。

 

 翌日の放課後、私は抹茶ちゃんを放課後の屋上に呼び出していた。


 抹茶ちゃんが屋上のドアを開けて入ってきた。

「ここは暑いわね、特に陽が当たって。それで話って何?私に愛の告白?」

「あなたに魔法をあげようと思って」


 私は抹茶ちゃんに近寄り両手で彼女の両頬を優しく包んであげる。

「ねぇ、ステファニーさん。魔法って?」


 彼女に最高級の魔法を与えてあげると彼女はその場に倒れ気を失った。

「ごめんね、抹茶ちゃん。前世からの宿命なの」私はそう言うと抹茶ちゃんを屋上に残し去っていった。


 今頃抹茶ちゃんは魔力に目覚めているだろう。

 私は学校を出ると屋上を見上げてそう思った。


 初夏の風が真夏へと変わっていた。


 私の胸元の汗が腋の方へ伝う。

 それは温かい汗だった。


 体操着の陸上部の生徒が校庭を走っていくのが見えた。

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