第37話 機械の心臓部のレプリカ
私と両親は自宅で夕食を摂っていた。
久しぶりのママの料理はピッツァでハーブの香料が利いており、唐辛子の辛みがヒリヒリと唇を刺激する。
私は手元のピザの欠片のチーズを口で伸ばしていると、ママは、
「あらあら、良く伸びるチーズですこと」と言って笑顔を作る。
パパも笑顔を作り、
「日本の生活は楽しいかい?」と聞いてくる。
「ええ、楽しいわ。親友も三人できたの」
「まあ、三人も」ママは驚いた顔で私を見ると、パパの肩を手のひらで叩く。
「驚いたな、ステファニーに友達か。今度イギリスに招待してあげなさい」
「わかったわ」私はまたピザの欠片を食べる。
私は好きな人が出来たことは言わなかった。
その時携帯電話の着信音が鳴った。
「学校の友達からだわ」と言って私は電話に出た。
抹茶ちゃんからの電話だった。
「ステファニーさん、イギリスに着いた?」
「今イギリスは夜で両親と一緒に夕食を摂っているわ。パパは今度抹茶ちゃん達をイギリスに招待したらどうか、って言うの。どう来る?」
「行きたい!」
しばらく抹茶ちゃんと話をした。
私は電話を切り、再びディスプレイを見つめる。
メールが届いていた。
研究室から、心臓のレプリカが出来たという知らせ。
彼はこれからこの家に向かうと言っている。
私はその知らせを読むとワクワクとしてきた。
両親を見るとニコニコとしている。
「これから研究室の人が家に来るから」
「ああ、研究室の人かい?ステファニーは研究室では友達が出来なかったようだけど、その人とはどういう関係なんだい?」パパが聞いてくる。
「ただの同僚よ」私は氷の浮いたアイスコーヒーを飲んだ。
私は食事が終わり、自分の部屋で音楽を聞いていた。
久しぶりにオーディオ環境が整った状態での音楽に私はスリルを感じる。
音楽はモーツァルトのピアノ協奏曲第二十番にした。
演奏者は内田光子である。クリーヴランド管弦楽団による演奏。
それを第三楽章まで(終わりまで)聞いてしまい、私は一息つけるためにキッチンにホットコーヒーを作りに行った。
キッチンにはママがいて、コーヒーの代わりに中国茶を作ってくれると言った。
「高山烏龍茶よ」と言って茶葉をティーポットに入れて沸かしたお湯を入れる。
そのお茶を飲んでいる時、私の家の駐車場に新たな車が入ってくる音がした。
「あら、あなたの研究室の人?」
「たぶん、そう」私はそう言って玄関の方へ歩いて行く。
玄関で待っていると人影が向こう側に映る。
私は彼を中に入れてあげた。
「やあ、ステファニー久しぶり。しばらく会わない間に随分と綺麗になったじゃないか」
「ありがと」
「それでこれが心臓だ。レプリカだがな」
彼はそう言って機械の心臓部を渡してくる。
それは冷却ボックスに入れられてあった。
それは非常に冷えている。
今のところ、
目は覚ましていない。
私の中の歯車がにこやかに笑う。
開いた玄関の外から伝わる熱気が私の横顔を触れると通り過ぎていく。
たんぽぽの綿毛のように。
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