第33話 ☓☓☓

 眠っているとインターフォンが鳴った。

 あ、抹茶ちゃんが来たのかなと私は寝ぼけ眼で思う。


 ベッドから起き上がり玄関へと向かう。


 玄関を開けるとやはり抹茶ちゃんがいた。

「風邪引いたんだって?大丈夫?」

「朝から寝てる」

「それじゃあ、お昼ご飯も食べてないでしょ?何か作ろうっか」


 私はドアチェーンを外し、抹茶ちゃんを家の中に入れてあげた。


 抹茶ちゃんは近くのコンビニで買ったのかコンビニの袋を下げていた。

 制服姿のままだ、家に帰らないでそのまま私のマンションに来たのだろう。


「ステファニーさん、顔真っ赤っかだわ。ベッドで寝ていて、適当に作るから」

「うん」私はそう言ってベッドに向かう。


 熱のせいか視界がスロウに動いている。


 冷房の利いている寝室に入ると生き返る気分になる。

 私は昨日見ていた月をなんとなく思い浮かべ、段々と暗くなっていた窓の外に思いを馳せる。


 テディベアのぬいぐるみをだっこしているとリラックスして眠ってしまった。



「起きて、ご飯出来たよ」

 目を覚ますと抹茶ちゃんが黄色いプラスティックのお盆にお粥を持ってきた。

 お粥はホカホカと湯気を上げ、中にはシラスが入っていた。

「お醤油はいらないよね?」

「ええ」


 私はそれを食べていると、抹茶ちゃんはベッドの縁に座って何かを読んでいた。

 私はその抹茶ちゃんの後ろ髪を眺める。

 窓から入る水色の光を浴びてその髪は反射している。烏がロングへアの女の子になったようだった。


「ねえ、ステファニーさん。あなたホントに君島先生のこと好きなのね」

「そうだけど・・・」

 ふと彼女の読んでいるものを見るとそれは私のノートであった。

 私が書いた恋愛小説。

 それを彼女は読んでいた。

「ステファニーさんにも君島先生、味見させてあげようか?間接キッス」

 抹茶ちゃんはそう言ってお粥を食べている私の唇にキスをした。


 それは始まりのキスだった。


 そうやって私達のウィルスは広がっていく。

 

 それは恋のウィルス。


 形は三角関係。


 只今現在。


 ただいま、現在。


 おかえり、未来。



 私は君島先生の夢の意味を理解した。

 私は神になる存在であった。

 そして抹茶ちゃんはその地図。


 私はお粥をベッドの上にぶち撒け、抹茶ちゃんとエッチなことをしている。

 それは初めての体験だった。

 お粥は何処か見たこともない男性の精液のようであった。

 

 私はミューズ、この時から机の上に置いた機械の歯車が周り始めた。

 そして同時にステファニー・ミュート、風読高校の生徒であり、私の好きな教師は君島楽譜。


 後には夜の果てのように永遠が広がっていた。



 私は抹茶ちゃんと☓☓☓をし終えた後、高熱がなくなっているのを感じた。

 おそらくそれは長い間私が秘めていた恋のウィルスだったのだろう。

 あるいは現状における神の裁き。


 雨がしとしとと降り始めた。

「あら、雨ね」抹茶ちゃんは窓のカーテンを開き外を見ながら言う。

「抹茶ちゃん今日は泊まっていって」

「わかった、家に電話しとく」


 私もカーテンの外を見ると空は青白く輝き、夏の熱くなったアスファルの上を冷却していた。

 三階から見るその地面の光景を見てるとふと幽霊が外に見えた。

 幽霊は雨に打たれている。


 すると幽霊はメチャクチャに中の歯車を落としながら崩れていった。

 私の現実の崩れていく音がしていた。

 

 あるいは私は現実を創造していた。


 全てはミューズの筋書き通り。

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