第31話 私は信じます

 初夏の陽射しが強く当たる家の外で私達はショッピングをしていた。

 女の子(それも女子高生くらいの)向けの店なので君島先生には店の外に待っていてもらっている。

 工藤さんはどこか仏頂面で、雪子さんはどこか儚げな笑顔で、

 そして抹茶ちゃんは死んだ目をしていた。


 抹茶ちゃんの瞳から機械仕掛けの歯車の音が聞こえるような気がしていた。


 私は慌てて見ていた抹茶ちゃんの瞳から目を逸らす。


「あの教師もまさか来るとはね、抹茶ちゃんと同棲してるんでしょ?信じられないわ」工藤さんが言う。

「同棲って言ってもただ厄介になってるだけよ」抹茶ちゃんはそう返すと品物のTシャツを手に持って広げた。「うん、中々ね」


 ふとショーウィンドウの向こう側を見ると青空のが見える手前に君島先生が見えた。

 彼はブラウンのラフなシャツにモスグリーンのチノパンを履いている。

 その横顔が見える。


 ああ、私はあの人に恋をしている。


 それは若干、悲恋的な要素を含んでいた。

 いや、それは確実に私の人生における悲恋であった。


 彼が抹茶ちゃんと付き合うことをやめれば、私は彼の恋人になることが出来るかもしれないが、それは多分無理だろう。

 彼と抹茶ちゃんは将来結婚式を挙げて、夫婦になるだろう。

 私はその結婚式に呼ばれて、帰って家の中で一人涙を流すことになるだろう。

 

 ステファニー・ミュート、私はなぜ彼に恋しているのだろうか。


「ねえ、ステファニーさん聞いてる?」その名の通り雪のように白く儚い色をした顔で雪子さんが私に言う。

「ごめんなさい、ぼんやりとしていたわ」

「何か考え事?」雪子さんが言う。

「ちょっと未来のことを思っていたの」

「未来のことねぇ、私がその未来から来たって言ったらビックリする?」


「え?」私はそう言うと、自分の心が切なくなった。今日の私はセンチメンタル。

「今度みんなに話してあげる」抹茶ちゃんはそう言うと試着室へ入っていった。



 お昼時になり、みんなでご飯を食べている。

 場所は中華料理店。

 君島先生はここは止めたほうがいい、と言っていたが工藤さんがあそこの中華が食べたいと言ったのでこの店にしたのだ。


「なあ、何か思い出さないか?抹茶」君島先生は不安げな声で言う。

「なーんにも思い出さないわ。またあなたの夢の話?」

「そうだが・・・」

「まあ、今日はその話は忘れてみんなで楽しみましょう」


 夢の話とはなんだろうか?そう言えば初めて君島先生に会った時、私のことをミューズか、と聞いていた。それと関連があるのだろうか。

「それってミューズっていう人と関係があるんですか?」私がそう聞いてみた。

 君島先生はギクリとした顔で私を見ると、

「そうだけど、ステファニーさんは何か覚えてるのか?」

 私は首をふるふると振る。

「そっか覚えてないか」


「じゃあ、私が未来から来たっていう話と君島先生の見たという夢の話を合わせて話してあげるわ」抹茶ちゃんがそう言って、少々長い話をした。


 食事が終わるのと同時にその話も終わった。


 機械仕掛けの魔法?機械仕掛けの神?

 それでは私が見た機械仕掛けの幽霊とは何なのだろうか。

 私が見た幽霊のことはみんなには内緒にしておくことにした。


「抹茶が未来から来たというのは本当だけど、僕の夢の話は信じられなかったら信じなくてもいい」君島先生は額に汗を流しながら言う。中華料理が辛かったからだと思う。

「私は信じます」私はそう言った。

「あれ、私も信じてないのにステファニーさんは信じるの?」他の四人の視線が私に注目する。


「私は信じます」もう一度私は言った。

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