第25話 抹茶の冷たい声

 午後の授業が終わり、後は学生が帰る時間、ホームルームをやっていた。

「ミュートさんは残ってくれないか?」僕は窓際の後ろの席に座る彼女に言う。

 抹茶が僕を少し驚いたような顔で見つめる。


 ステファニー・ミュートはガクッっと頭を下げ頷いた。


「じゃあ、みんなもう帰っていいから」僕がそう言って生徒を帰らせる。


 ミュートが新品の上履きでテクテクと内股で歩いてくる。

「私にご、御用があ、あるんですか?」ミュートが下を向いたまま言う。

「ステファニーさんのことは私が色々と聞いたから私が話すわ」抹茶が口を挟む。


「ステファニーさん帰りましょう」抹茶はそう言うと僕の耳元に近寄り、

「ファーストフード007で待ってる」と小さく言った。

 僕は頷くと、抹茶とミュートはともにクラスを出ていった。


 僕は早いこと仕事を終わらせてファーストフード店に向かわないといけないと思った。

 職員室でいつもより真剣に仕事をこなしていく。

 思っていたよりも早く終わり、僕はその店に向かった。



 駅前から近いその店内はざわつき多くの高校生で溢れていた。

「こっちこっちー!」抹茶が手を挙げて僕に知らせる。

 傍にいたミュートが僕を驚いた目で見ると、しばらくその開いた瞳をパチクリ、パチクリとさせ、ミュートが羽織った白色のカーディガンから伸びる指先で揚げたポテトを一欠片つかみ、口に入れた。

 もぐもぐもぐ、と口を動かしている。


 僕はそこに近づいていくと抹茶の隣の席に座った。

「どうして君島先生がここに・・・」ミュートは言うと上目遣いでチラチラと僕を見てくる。

「君に話があってさ」

「抹茶ちゃんにも聞きました。私は研究者として疲れたのです、それで日本に来て学校生活を送ろうと」

「本当に、ただそれだけなんだね?」

「・・・はい」ステファニー・ミュートはそう言うとストローが刺さったカップを手に取り薔薇色の唇でちゅるちゅると吸った。


「ステファニーさんは本当は飛び級して大学卒業してるんだって」

 抹茶が言うと。

「実はそうなんです。でも人生は一度きりだし、もう一度学生をやりたいな、って」

「そうなんだ」

「そしたら君島先生に会って・・・」


「もしかしてステファニーさんは君島先生のこと嫌いなの?」

「そうじゃなくて!そうじゃなくて!」

「じゃあ、好きなんでしょ」抹茶がそう言うとステファニーは赤面しそれを隠すように左手を頬に当ててそれから右手でドリンクを飲む。


「バレバレ、この人は私のモノだから」

 僕は修羅場に直面した。


 ステファニーは赤かった顔が段々と青白くなっていった。

 それから立ち上がると座っていた僕の片手を思いっきり引っ張りそこから連れ出した。


 抹茶を残して僕らはファーストフード店を出ていってしまった。


 外に出るとステファニーはこちらを向き言う。

「先生、抹茶ちゃんと恋人同士なんですか?」

「確かに僕と抹茶は恋人同士だが時間制限がある」

「時間制限ですか?だったら別れた後私と付き合って下さい、お願いします!」

 ステファニーは真剣な眼差しでそう言うと両手で僕の肩を持って自分の頭を僕の胸板に押し付けた。


 女子校の制服を着る彼女とスーツを着た僕の二人組のその格好は周囲の目を惹いていた。


 抹茶が店から出てきてテクテクと歩いてくるのが見えた。


「センセ」僕からステファニーを離した後に僕の両頬を両手でぺたりと掴むと僕の唇にキスをした。

 ステファニーが息を呑むのが見えた。


「私と先生はこういう関係なの」抹茶はそう言うと立ちすくむステファニーを置き去りにして僕の手を取り歩き出した。

「家に帰るわよ、淫乱教師」抹茶は冷たい声でそう言うと地面に音を立てるようにドスドスと帰路についた。

「ごめんなさい・・・」僕はそう言った。

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