第22話 小さなファッションショー

 食事が終わると抹茶が買ってきた洋服を着てみせてくれると言った。

「私は寝室で着替えてくるから、あなたは食卓で待っていて」

 抹茶はそう言って寝室へと向かっていく。


 僕はお酒はもう飲むのはやめていて、冷たい牛乳を飲んでいた。


 抹茶は戻ってくると、クリーム色の生地にひまわりが肩周りにプリントされて、胸と腹に伸びる線にはブルーの雲が描かれているものを着て戻ってきた。

 頭には素朴な麦わら帽子を被っている。


 それは何処か夏を感じさせる格好で、これからの季節のことを抹茶は気にしているのか僕は思った。


「どう?」

 抹茶はくるりと足先に伸びるワンピースのひだを片手で持ち回った。

「良いんじゃないか、涼しげだよ」

 僕はコップに入った牛乳を一口飲むとそう言う。


 抹茶はふふふ、と笑いまた寝室へと戻っていく。


 今度は紺色の半袖のティーシャツに黒色のダメージジーンズを履いて戻ってきた。

 足先を見ると黒色の靴下を履いていた。


「これはね、工藤さんが選んでくれたの」

「工藤さんも良い子だね、僕に暴力を振るわない限りわ」

「あら、それはあなたが悪いのよ」

「100%僕が悪いってわけじゃないだろう」


 抹茶が寝室へ戻りまた違う服を着てくる。


 それを五回くらい繰り返しただろうか、抹茶のファッションショーは終わった。

 

 夜が深まっていた。



 ちょうどお風呂を沸かしているとパジャマを一式と下着を手にした抹茶が脱衣所で椿油を髪に塗っていた。

「つげ櫛は見つからなかったから今日は手で油を髪に塗っているの」

「お風呂の前にかい?」

「入浴前後につけるものなのよ」

「君のいつもの綺麗な髪の毛は、日頃の手入れにあり、か」

「そういうことよ」


 抹茶の油をつけたての髪はいつもより濡れていて同時にニュルニュルとした蛇のようであった。



僕らは二人してお風呂に入ってしまうと食卓で火照ったからだを冷ますために冷たい麦茶を飲んでいた。

 窓を少し開けているとそこから生温かくもまだ少し冷たい風が入る。


 抹茶は食卓の席に座り、ドライヤーで髪を乾かしながらブラッシングしていた。


 そして僕らは二人ともに寝室へ行き、ぐっすりと眠った。

 

 魔法の使えない抹茶はただの十七歳の女子高生なんだな、と僕は改めて思った。



 翌朝目覚まし時計が鳴り僕らは目覚めると、春なのにも関わらずものすごく暖かかった。


 抹茶は制服を着て、僕はスーツに肩を通す。


「あなたって昨日もそうだったけど、ネクタイが上手く付けられないのね、貸してみなさい」

 抹茶が僕のネクタイを正してくれる。


 僕らは今日も学校へ向かう。



 学校の門へ着くと、工藤さんがそこには立っていた。

「あら、工藤さん、おはよう」抹茶が言うと、工藤さんは僕の方を睨みつけてから、

「抹茶ちゃん、おはようね、また遊びに行こうね」と言って抹茶の手を取って早足で門を抜けていく。


「僕は工藤さんに抹茶と離されようとされてるのだろうか」僕は小さく独り言を言う。


 門を通る生徒が僕に挨拶をする。

 僕もそれに挨拶を返し、

「よっし!」と言ってそれから中に入って行く。


 学校は春休みへと近づいていた。

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