第16話 黄金の魔法使い

 夜の町中を歩いて行く。

 背負った抹茶の吐く息が僕の耳元に触れる度に睡蓮の匂いがする。

 数十分歩き僕はちょっと疲れて立ち止まる。

「疲れたの?」抹茶が言う。

「ちょっと疲れちゃったな。頑張って家まで運ぶよ」

「うん」


 抹茶の呼吸も眠っているように静かになり、やがて僕の家に着いた。

「ほら、着いたよ」

 返事がない。

 抹茶を家の前の地面にそっと下ろして顔を覗いてみる。

 瞳を閉じて眠り込んでいた。

 眠り姫はこういう顔をするのか、と僕は思う。


 玄関の鍵を開けて、抹茶をお姫様抱っこして持ち上げて中に入れる。


 寝室に入り、今日はきちんと二人分の布団を押し入れからだして敷く。


 抹茶を布団の中に入れて軽く掛け布団をかけてあげた。

 無防備な抹茶の顔は彼女の持つ宿命とはまた別次元の輪郭を覗かせていた。

 平凡な日常が彼女の見ている夢の世界に続いているのを僕は感じた。


 僕は昨夜からお風呂に入っていなかったので、シャワーを浴びることにした。


 一人でシャワーを浴びていると、お風呂場のドアの曇りガラスに抹茶が映った。

 おもむろに衣服を脱いでいるようだ。


 僕はまた抹茶と一緒にお風呂に入るのかと、思い、こういうことにも慣れないといけないな、と自分の勃ってきた物を軽く見つめながら思った。


 その時、僕の入るお風呂場の中に声が響いた。

「王女の交配者の方、私ともつがいにならない?」

 それは先程出会った、抹茶の、王女の敵である最高位の魔法使いの声だった。


「ねぇ」間延びしたトーンで離された声で辺り一面に広がっている。

 広がっていた声が凝縮していく。


 やがてそれは形を作り始め、美しいあの女が現れた。

 その女はやはり真っ裸でシャワーの前に現れ、僕が浴びていたシャワーのお湯は彼女の頭に当たっていく。

 黄金の色をしたその髪はお湯で段々と濡れていき頭に貼り付いていった。

 僕らと敵対する最高位の魔法使い、人類滅亡を目論む、ウィルスの元凶は、

 僕に近寄ってキスをした。

 舌ベラが僕の口内に入り歯や歯茎、のどちんこの手前を鉛筆の芯でデタラメになぞるように舐めてくる。


 僕は全く動けなく、同時に抹茶に与えられた以上の快楽を感じていた。

 頭の中が濃いピンク色、一色になる。


 女の口から劇薬に近いジャスミンの匂いがする。

 僕から口を離すと、僕の唇と女の唇をつなげる両者のよだれが橋のように架かった。

 女はそれを指先で巻き取ると自分自身の性器の中に指先を入れて拭った。


 シャワーのお湯は次々と流れ込み僕と女の二人を湯けむりで包み込む。


 抹茶の叫ぶ声が後方からさっきからずっと聞こえるが、僕は思考回路がショートしていた。


「これであなたはわたしのモノ」


 僕はガクガクと震えて、膝をお風呂のマットについて頭から彼女のお腹に倒れ込んだ。

 その僕の顔を女が陶器のような純白の手のひらで、柔らかく包んで上を向かせる。


 女の抹茶より豊満な胸が見えた、そのさきに女の快楽に支配された神域のような顔が見える。

 胸はまんまるで水滴が浮かび、乳首は抹茶が興奮した時と同じ薔薇色だった。

「ねえ、抹茶、あなたの交配者もらっていっちゃって良いかしら?」

 女が曇りガラスの向こう側へ言う。

「ダメ!」抹茶の声が聞こえるが、僕はそのとき意識が曖昧で快楽に支配されており誰の声だかわからなかった。

「これで抹茶の魔力も減ったわけだし、安心して抹茶を殺せるけど、しばらくこの人と遊ばせておいてあげるわ、じゃあね交配者さん」

 そう言うと女は両手で包んだ僕の顔を女の金色に輝く濡れた秘部に押し当ててから消えた。

 僕はバタリと崩れ落ちて射精した。

 この時ばかりは気を失わずに済んだ。

 なぜだろうか、一番気持ちよかったのに。


 そして抹茶がお風呂場に入ってきた。

 抹茶もやっぱり裸で、僕を床から持ち上げて

「大丈夫!?」と大きな声で言う。

 僕はピクピクと今も射精を続けながらも、頷くのが精一杯だった。


「私の魔力がさっきより減ってる・・・。あの女のせいだわ」と抹茶は言った。

「あなた射精しているのね、あの魔女の魔法にかかってるの。私のダーリンに手を出すとはただじゃおかないわ。今魔法を解いてあげるからね、射精が止まるけどいいでしょ?」

 僕はもう少しこの気持ちよさに浸っていたかったが、抹茶が怖いので頷いた。


 抹茶は僕の射精を続ける部分を口に入れてペロペロと舐め始めた。

 気持ちよさがさっきの倍になっていく、

 そしてまた倍に、

 そしてまた倍に、

 そしてまた倍に、

 僕は意識を失った。

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