第15話 王女様をおんぶ
カランカランカランと中華料理やの入り口の鐘が鳴って新たな客を知らせた。
抹茶はじっと来た客を睨みつけていた。
その客はスタスタと僕らが着いている席に来て椅子を引きそこに座った。
その客は抹茶とも引けを取らない美人で成熟しており、金髪で肌は北欧神話に出てくる神々のように白く、瞳は青い海原のようであった。
「安心して今日はあなたを殺しにきたわけじゃないから」その二十歳(はたち)位に見える女は言う。
「私はあなたを殺すためにこの時代にこの世界に来たの」抹茶はそう言うが僕の手を握りしめる片手が震えていた。
僕は確信した。この女が人類滅亡を目論むもう一人の最高位の魔法使いなのだ、と。
「じゃ、あなたがここに来られたことに感謝を」女はそう言うと立ち上がり去っていった。
女が去っていった後、抹茶の全身はガクガクと震え、全身に汗を吹き出し、ギュッと瞼を閉じていた。
僕は彼女の背中をさすってやり、彼女が落ち着くのを待った。
抹茶は荒い息を落ち着け静かに深呼吸をすると、僕の方を見てこう言う、
「出会ったのに勝てないと思って震えてしまった。どうしよう、あいつを殺さないと未来の世界は救えないのに」
僕はその言葉に何も言えなかった。
店員がミネラルウォーターが入ったコップをテーブルに運んできてそれを置いた。
「抹茶、水でも飲んで気を落ち着かせるんだ」僕はそう言うとコップを手に持って彼女の口持ちに運ぶ。
コクコクコクと抹茶の生白い喉が水を飲み込むにつれてゆらめき、液体が彼女の体内に入っていった。
「もう、食事どころではないな、一旦家に帰ろう」
「足が震えて動けない・・・おんぶして」
「仕方ないな、わかった、ほら僕の首に手を回して」
抹茶は僕の首に手を掛けると、僕は抹茶のお尻を持って中華料理屋の出口へ向かった。
店員に何も食べないでごめんなさいと謝っていると、抹茶はポケットから一万円札を出して店員に渡した。
「またこの人と来る時の料理代として受け取っておいて」抹茶はそう言う。
店員は謝謝(シェイシェイ)と言ってそれを受け取るとまた接客作業にもどっていった。
僕らは帰路につく。
おんぶをした王女様は案外軽かった。
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