第11話 睡蓮の蛇
僕はふにゃふにゃとしたローズヒップ色の唇の中で蠢く大蛇のような僕の体の一部を眺めていた。
抹茶の唇はにゅるにゅるとやはり蛇の生体反応のように歪み震える。
彼女に咲いた上の花は僕の体の一部と交接していた。
彼女の頭の上からシャンプーの匂いと彼女自身の匂いがする。睡蓮の匂い。
クロード・モネの描いた睡蓮のように霧に立ちめき、己が本能を僕に注ぎ込む。
ちゅるりちゅるりと彼女の口内の水液(すいえき)が僕に注ぎ込まれる。
僕は体がグラグラ揺れると床に崩れ落ちた。
構築魔法の決壊のように、あるいはダムの崩壊、大爆発。
僕は床に倒れ込む時、抹茶の死んだような瞳が垣間見えた。
それは瞳で笑顔を作っており、同時に官能を秘めていた。
ブラックアウト。僕は一瞬にして意識が消失した。
それが抹茶の魔法のせいかはわからなかったが、ただ快楽を覚えていた。
抹茶の言う魔法は快楽とはこの事なのだろうか、と考える。それは地獄での遊戯のように思えた。
あるいは天国のタブーのように。
いずれにせよあの世の出来事だ。
僕は直ぐに忘れてしまうだろう。
この興奮を。
意識が戻ったのは直ぐだった。
「今日はここまでね、ダーリン」と抹茶は言うと僕の体をタオルで拭いてくる。
「いや、君とこれ以上いると危険な気がする。自分で体を拭くよ」と僕は言って彼女の持っているタオルを取り上げ、意図的に彼女から視線を逸した。
彼女から視線を逸しても、やはり脳裏に浮かび上がるのは彼女の栗毛色した下の毛や水彩絵の具の裸身の体についた水滴だった。
僕はそこから逃げるように風呂場の脱衣所から出ていった。
後方で抹茶がクスクス笑っているのが聞こえた。
僕は先程置いておいたマグカップに冷蔵庫からコカ・コーラを取り出すと注ぎ込む、シュワシュワと焦げ茶色の泡を立ててそれはコップに留まる。
僕はそれを一気に飲み干す。
喉を通る炭酸がピリピリとした。
ようやく僕はシャキッとした気分になった。
まったく、お風呂に入ったのにさらに疲れるとはどういうことだ。
しかもその疲れとは性的な疲れから来る快楽だとは。
「やれやれ」僕はそう言うと二杯目のコーラをマグカップに注いだ。
よく見ると抹茶が使っていたマグカップであった。僕は間接的にキスをしたこと感じ取り、彼女の体のウィルスを考える。
若干体がクラクラした気がしたが、なんともなかった。
やがて彼女は着替え終わったのか、僕のいるところへと近づいてきた。
「ねえ、今日の分のキスをしましょうか」
「お断り」
抹茶は瞳をエメラルド色で輝かせた。
魔法を使ったのだ。
僕は身動きできなくなり、ゆっくりと近づいてくる彼女を受け入れざるをえなかった。
そして僕の唇を抹茶の歯で噛みしめるとそのまま口の中に唾液を入れてきた。
それから僕は解放されると、
「スッキリしたかい?」
「ええ」
その時、雷鳴が鳴り響き僕の家の天井が落ちた。
昨日の未来人が来たのだと僕は悟った。
床が震えていた。
僕は涙目になり抹茶を見ると、抹茶はエメラルド色の瞳であった。
「この戦いが終わったら家を直してあげるからね、心配しないでそう涙目にならないで」と言った。
天井から空いた穴からパラパラと土埃が降ってくる。
抹茶はふわふわと浮かび上がると天井から空いた穴の隙間から空へと出ていく。
僕は急いで服を着て家の玄関の外に出た。
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