第10話 あの世の三分間
僕は出来上がった湯気が立ち上るコーヒーを一口、口に含む。
僕は彼女にメロメロしていたが、コーヒーの優しい香りが鼻をつつくとアーモンドのような匂いがした。
僕はこの時、青酸カリの匂いもアーモンドのような甘い匂いだったなと思い出した。
どこか死臭の漂うその部屋を密度の高い静寂が神のように充満した。
抹茶はローズヒップの唇を僕と同じ形をしたマグカップに口づける。
僕はその唇を見ないように見ないようにと思っていても、どうしても見つめてしまう。
ステージに立つ白銀の雪の精霊になった神様のような顔をした抹茶は下目にカップの中の黒い液体を見つめている。
瞳がその黒い液体に溺れているようにヌラヌラと光沢を放つ。
唇が歪み、また抹茶は液体を口に含む。
僕もコーヒーをまた一口飲み込んだ。
それも一気に一息に全て飲みこんでしまうと、カフェインの眠気を覚ます追加効果にこの欲情した思いを飛ばしてくれるように祈りこむ。
しかしそれは深まるばかりで僕はオールを漕いで月の浮かぶ夜の中果てしない夢を見続ける。
それは未来へと続き、彼女はその深まる未来の果て(世界の終わり)から来た。
僕らはテーブルを囲む二脚の椅子に座ってはいたが、どこか麻薬的な(魔的な)効果で神経が飛び立っていた。
ちょうど昨日見た神社で飛び立つ水色の綺麗な小鳥のように。
それは鳥居を抜けて別世界へと飛び立つのだ。
僕らはコーヒーを飲み終わるとカップを机に置いてお互いを無言のまま見つめ合う。
数十秒その時が過ぎていく。
やがて抹茶が口を開く。
「あなた、おじさんの臭いがするわよ。お風呂沸かしましょ」
「ああ、わかった、今沸かしてくるよ」僕は震え声でそう言った。
僕と抹茶は夢の中のようにお風呂の中に入っていた。
僕は湯船に浸かり、抹茶はお風呂場の小さな椅子に座りシャワーを浴びていた。
熱い湯に当たった彼女の裸身は透明感とその先行きのない水色の水彩絵の具のような色彩がお風呂場の窓から差し込むあたたかな光の中、天使のようにちろりちろりと光っていた。
抹茶の下の毛は若干栗色でどこか小さな馬の後ろ毛を思わせる。
僕はつばを飲み込むと目を閉じて、ただ時を過ぎるのを待った。
ちょうどカップラーメンの出来上がる三分間を黙々と待つように。
僕は湯立っていた。
濡れた抹茶の髪の毛が適度な油分をもったしなやかさでぺたりと頭に貼り付いてた。
彼女はシャンプーの容器を手に取り、プッシュし、液を手に取り泡立てる。
くしゅくしゅと音を立てて洗髪を始めた彼女は王女の威厳はどこにもなく、ただシャンプーの清潔な匂いを放ち機械的にただ作動していた。
そんなこともあっただろうか、僕はお風呂から出てグラングランに意識が抹茶に傾いていた。
「あちゃー、湯立っちゃった?」抹茶は裸の姿で頭をタオルで拭きながら同じく裸の僕を見ながらそう言う。
「カップラーメン出来上がりました」僕はタイマーのようにそう言った。
「じゃあ、頂いちゃおうかしら」抹茶はそう言うと僕の股間に手を伸ばし...
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