第8話 工藤さん
僕は目を覚ますとピカピカの朝だった。
どうやら丸一日程寝ていたようだ。
お手洗いに行きたくなる。
仕事服のまま寝たことが少し気になる。
そそくさと起き上がりトイレに向かうと通りかかったキッチンで抹茶が包丁を握りまな板の上で何か調理をしていた。
オレンジ色の朝陽がキッチンの窓ガラスから差し込んでいた。
それはまさにもぎたてのフルーツのような朝陽だった。
「やあ、抹茶、おはよう」
「良い夢は見れた?おはようダーリン」
「ダーリンってなんだよ。料理してくれてるのかい?ありがたや~」
「中々、王女も料理はするのよ?どう、見直した?」
「目をみはるように見直したよ。君が僕自体を料理しないでおくことを望むよ」
「あら、朝っぱらからご機嫌だこと」
僕はトイレを向かうと、未だ抹茶はまな板の上で野菜を切っていた。
トントントンと綺麗な音がした。
昨日降っていた雨は止んだようで、今日は暖房を使っていないのにポカポカと暖かく、僕は寝汗でしめった体から立ち上るほこりっぽいおじさんの匂いを気にした。
後でシャワーを浴びなければならない、と僕は結論付ける。
トイレで用を足した後、キッチンで調理を続ける抹茶を見ると、僕が見る限りではどうやら仕上げをこなしているようだった。
抹茶はパスタを作っていた。
「ペペロンチーノ、ちょっと辛いやつ」抹茶がそう言う。
「へぇー、僕は辛いもの好きだから、それはグッドだね」
「何よ、グッドって、ちょっとダサい発言だわ」
「朝食にパスタという洒落たメニューには相性悪いか」僕はそう言って笑うと抹茶も釣られるように黄色いバナナのような声で笑った。
「もうすぐ出来上がるから座ってて」
「わかった、早起きして料理作ってくれてありがとうな」
「早起きってもう十一時よ?」
「は?」
「だから十一時、私が起きたのは十時」
「仕事忘れてた!!学校に電話しなくちゃ!」
「その前に料理を食べなさい」
「それどころじゃないってば!」
「いい加減にしないと次からは裸エプロンで料理を作るわよ」
「次はないと思っていい」
と、僕は言うと家の少々古臭い電話機で学校へと電話する。
「あの、教師の君島ですけど」
「あー、君島さん今日はどうして学校来ないんですか?寝坊しちゃったんですか?」
「どうやら熱があるみたいで今日は休ませてもらいます、すいません」
「もっと早く連絡してくださいね。わかりました生徒たちにも伝えておきます、あとそう」
「なんです?」
「生徒の一人が昨日のことで相談があるって」
「誰ですか?」
「おかっぱの女の子で、名前は工藤粉来(くどうこなこ)」
「あー!おかっぱの女の子!」
「ええ、ちょっとクラスから呼んできていいかしら?」
「いいですよ」
「じゃあ、ちょっと待っててくださいね」
そう言うと僕は五分ほど電話の待ち合いメロディを流され、ちょっとの間待たされることになった。
後方で抹茶が「早く電話終わらせなさい!」と言っている。
「工藤です」
「あ、工藤さんね、おはようございます」
「おはようございます。あの、昨日の女の子どうなりましたか?」
「ああ、昨日の女の子は僕と一緒にいるよ」
「先生のお宅にですか、サイテー」おかっぱの女の子、工藤さんはそう言って電話を切った。
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