第6話 やはり魔女である
抹茶とこういう風に会話していると先程まで死にそうな目にあったのが嘘のようであった。
僕らは暗黙の内にそれを了解していた。
僕の自宅までの道を歩いている道すがら抹茶が手を繋いできた。
僕は不格好にそれを握りしめてあげた。
空は雨が降りそうな雲行きになっていた。
空がゴーゴーと音が鳴っている。
ジャンボジェット機が上空を掠めていく。
僕はそれをなんとなく見上げると雲の上は晴れ間が広まっているのだろうと思いを馳せた。
ジブリ映画での空の映像とそして今見上げている現実の空を重ね合わせてみた。
そこには少しだけこれから起こる(未来)事が隠されているように感じられた。
どこか得体の知れないものを手にした感触が僕の手を握っている抹茶とは反対の手が掴み上げたようだった。
そして僕と抹茶は僕の自宅に辿り着いた。
一軒家の貸家である。
こげ茶色の壁と墨色の屋根がなんとも重々しく視界に入ってくる。
「ここが僕の家だよ。まあ入れや」
「じゃあ入らせて頂くわ。あら、雨降ってきたわね」大粒の雨がピタピタと僕らを打ってきた。
今日の雨は奇妙な質感を持っていた。ちょうどシルクのような。
中に入ると僕の家の匂いがした。
それは乳白色のすえたはちみつのような匂い。
「ふーん、綺麗に片付いてるわね」抹茶が口を開きそう言うが、彼女のピンクローズ色の唇は過度につやつやしており、見ているとたちまち目が吸い込まれていく。
後手に引き戸を閉めると僕は彼女の唇を見ないように下を向いた。
下を向くと彼女の引き締まった足が見えた。
靴は履いていないで泥だらけで汚れてしまっている。
そこから彼女の匂い、睡蓮の匂いがツンとしていた。
僕は頭がクラクラとしだした。
思い切り目をつぶり深く呼吸をする。
抹茶が僕の両肩を柔らかな手のひらで優しく握り
「ねえ、キスしましょ?」と言った。
僕はもう逆らえる状態ではなかった。
雨音が聞こえる。
そして目を開けると彼女の可憐な顔が直ぐそばにあり、やがて彼女は瞳を閉じると僕に口づけした。
そのまま押し倒してくる。
雷が鳴り始めた。あまり近くはないが遠くの方でゴロゴロと鳴っている。
玄関口の辺りは薄暗く、ただパタパタパタパタと雨音が聞こえてきた。
僕の唇を抹茶はペットの小鳥の餌やりのように口についばむ。
ちょんちょんちょんと僕の唇に彼女の唾液を付けていく。
「ねえ、また魔法を使ってもいい?」彼女は濁った泥のような声でそう言った。
僕は硬直して動けなかった。
金縛りにあっていたのだ。
全身を火照らせ、勃起させながら。
僕は突然、抹茶が何百年も生きている魔女のように思えた。
抹茶の唾液に濡れたピンクローズ色した唇がチカチカと星の瞬きのように光っている。
瞳を見ると死んでいるかのように暗かったり、微かにエメラルド色に発色したりしていた。
僕の体は快楽でガクガクと震えだした。
「あちゃー、刺激がまだ強かったみたいね」抹茶はそう言って僕から離れて立ち上がった。
「ごめんなさいね。少しずつ段階を踏んでやっていきましょう」
僕はその言葉を聞いたのを最後に意識がなくなった。
性的興奮を極度に覚えて失神したのだ。
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