EP12 本妻とは

 まさか人生で二回も宇宙船の外に張り付くという謎の状態に陥ることになるとは思いませんでした。


 遠くに見える星々はとてもきれいでして。


 爆発の煽りを受けたシャトルはとても明るくて。


 まばゆく輝き。


 まるで火事のよう・・・?


 って、火事JAN。


 まぁ中の二人が何とか出来る筈なので


 俺はポエムに勤しむとしよう。


 byコスモ雨宮


 って、現実逃避している場合じゃないな。だが俺が居なくても何とかなるはずなので暫くほっておいてもいいかもしれない。

 ライオンは子供を谷へ突き落すという。這い上がってきた子だけがわが子。しかし私は一応人間な訳で。

 俺は置いてけぼりにされた訳で。危うく自分の仕掛けた爆弾で死にかけたわけで。

 宇宙空間は、とても・・・肌寒い訳で。ナノマシンで体温を調節できるのだが、そういう話ではない訳で。

 つまり俺は。とても悲しい訳で。


 「操縦桿を握っているのは間違いなくロペだろう。あの女一体どうしてくれようか・・・。」


 ナノマシンをシャトルに浸透させると中の様子は知ることが出来る。しかしだ。

このまま直ぐに助けてしまうと、皆のためにならない気がする。一体何様のつもりなのかと言われそうだが・・・。

俺様のつもりだと答えよう。二回目は流石に無いわー。


ーーーーーーーーーー


シャトル内。


 「メーデー!メーデー!」「酸素が―!!」「消火器は無いのか!!」「せま・・・うごけねぇ・・・・。」「火が―――!」「良く生きてたな俺・・・。」


 三者三様の反応がある。しかし炎はコックピットの下に回り込むように不可思議な動きをしていた。


 「ねぇ!シートベルトが取れないんだけど!ねぇ!」


 ロペがシートベルトを外そうと引っ張ったり噛みついたりしているうちにも、シートは過熱され熱くなっていく


 「あ・・・アツっ!!シートが!アツーーーーー!!」


 尻を焦がさん勢いで熱くなるシートに縛り付けられたままのロペはもがき続ける。


 「こげっ!!焦げる!ほんとにヤバいからぁ!!もう感覚が無いからぁ!」


頭を振り回し、大量の涙を流しつつなぜこんな目に自分が合うのかと、問いかけ続けていた心の中に一つの答えが見つかる。


 「ごめんなさぁぁぁいいいぃい!!ウケ狙いで置き去りにしてごめんなぁぁぁぁいい!!ギャグは繰り返しが基本だからつぃぃぃぃぃぃ!!」


 一瞬シートの熱が和らいだと同時に、不意にこみあげてくる安心感と水。


 「あっ・・・。」


 そして船内を焦がしていた火事が全て収まり、謎の効果音が響き渡る。


ブッブー


 「ぇ・・。」


 そして再び過熱されるシート。


 「あーーーーーーーーーーあああああああ!!今だめぇえええええええええ!!!!」


 シートを保護する布は解け落ちながらも、デリケートゾーンだけは何故か守られている。そんな事に気付く余裕などあるはずもなく、

黄金色の蒸気と液体がシートからあふれ出した。


 「はぁあぁあああああああああああああああ!!」


 熱いのと痛いのと恥ずかしいのとで心と尻の皮が引き裂かれていく中、ロペは後ろから肩を叩かれる。


ーーーーーーーーーー


 「ギャグでやるとか・・・良い根性してるなお前は!」


 俺はナノマシン化し、シャトルの内部に移動することに成功していた。

 ますます人間から離れていくようだが、これもまたロマンか、はたまた運命か。

俺にあんな淋しい思いをさせた張本人には、ちょっとばかり痛い思いをしてもらわなければならないと思っていたところだ。

そこで、火力調整を間違えた爆弾で損傷したシャトルを使って、仕置きをすることを思いついたというわけだ。

だがまさか、ギャグで宇宙空間に掘り出されることになるとはな・・・。しかも二回も。

 俺は両手でしっかりとロペの肩を押さえてにっこりと笑顔を作って話しかけた。


 「しかし、俺の嫁さんは流石だな。いい仕事してるわ。このシャトルとかアンティーク?って言うの?中々古風でいいじゃん?

その操縦桿もレトロな雰囲気が出ていてなんかいいよな。ただやっぱり視界が狭いのは良くないよな。クリアーな素材はやっぱり

装甲板に比べて耐久性に問題があったんだろうなぁ。今の仕様とはかなり違っていて、なんかいいよな?なぁ?」


 俺は手を放し、肩を後ろから抱き込む様にそっと耳に口を近づけた。


 「ションベン臭いよ?反省したかい?」


 ゼロ距離で顔を見合わせると、綺麗な顔が涙と鼻水で悲惨な事になっていた。だがここはあえて反省を促すためにじっと目を見る。

すると何故か目を閉じて唇を突き出してきたので、咄嗟に離れ、脳天をチョップした。

 反射反応やったんや。悪気はなかったんよ。


 「うぁあああああああああああぁぁぁぁ!!!!」


 号泣した。これはマジな奴だ。出るもんが全部出ている。これは流石にやり過ぎたか。って・・・。

 俺はふと、ロペをスキャンした。


ロペ・キャッシュマン 31歳

 状態 火傷(重症)

    精神損傷(重度)

    脱水(重度)

    神経麻痺(下半身重度)

    筋断裂(下半身)


 もっと詳細に・・・。


 ロペ・キャッシュマン 女 超人種 31歳 6月21日生まれ

 状態 火傷(重症)

    精神損傷(重度)

    脱水(重度)

    神経麻痺(下半身重度)

    筋断裂(下半身)


 ・・・?超・・・人?・・・?人!?


 俺は慌ててシートの過熱を止め、ロペにナノマシンを使い治療した。


 「あああああああああん!!!おしっこ出た!うんちでた!あーーーーーーん!!!!!」


 イカン。幼児退行している。


 「悪かった!俺が悪かった!普通の人間だと思ってなかったんだ!」

 「銀河きゅんがいじめたぁああああぁあぁあああん!!」


 きゅんってなんだ。じゃない。こういう時どうすればいいんだ。

 俺は後ろを振り返って助けを求めるが・・・。


 「「「「「「「「「「銀河きゅんサイテー。」」」」」」」」」」


 敵しかいなかった。

 じゃない。俺が全部悪い訳じゃないが・・・。やり過ぎはいかんと反省しなければな。

 俺はナノマシンで回りやシャトルを修復しつつ、ロペの前に回り込んで視線を合わせた。 


 「ほら。綺麗になったから。もう泣かないでくれ。綺麗な顔が台無しだろ?可愛い笑顔を見せてくれよ。」


 にわかにざわつく後ろをよそに、ロペの頬に触れ、顔を綺麗にした。


 「銀河きゅんもう怒ってない?痛いことしない?」

 「お前の行動次第だ。」

 「ああああああぁああぁあん!!!」


 しまったつい条件反射で!


 「「「「「「「「「「ロペちゃんかわいそー。」」」」」」」」」」


 うるせー!ついだよ!つい!本音で生きるって決めてんだ!


 「泣き止んだら言うこと聞いてやるから・・・。」

 「じゃぁ小作り・・・。」


 「「「「「「「「「「「ウソ泣きかよ!!」」」」」」」」」」」


 その後はげんこつで事を締め、ロペはぶーたれながらも操縦桿に手を伸ばした。


 「酷いんだょねぇ。銀河きゅんはもう・・・・。お尻が無くなったかと思ったよ・・・。」

 「悪かったと言ったろうが。いつまでもぐずってんな。」

 「妻に優しくない。」

 「記録上の事だろうが。」

 「それでもだよ!私は楽しみにしていたんだよぉ!」


 興奮したロペに操縦桿を持たせると危ないという事が判明した。今、謎に垂直に一回転したぞ?


 「コラ。ヤメロ。俺だけが乗ってるんじゃないんだぞ?」

 「ぶぅぶぅ。」

 「まったく・・・。シャトルは最寄りの町?集落?までどの位で着くんだ?」

 「今から大体、五時間ぐらいかな?銀河きゅんが色々やってくれるともっと早く着くと思うんだよねぇ。」

 「五時間って結構な距離だな。色々なぁ。」

 

 確かに、ナノマシンでシャトルを改造すればもっと早く着くのは分かるんだが・・・。

いかんせん今の俺はエネルギーが不足している。ヘルフレムでの最後の一件でかなりエネルギーを消費した。

しかもまだ補給・・・食事もろくにしていないから、エネルギーは減っていく一方だ。

完全に使い果たしてしまうと、この世界にきてすぐ見たいになってしまいかねない。


 「しかし五時間か。結構時間がかかるもんだが、燃料は持つのか?」

 「あ・・・。えっーっと・・・。ゲッ。」

 

 ロペは操縦桿の横にある端末のキーを叩き、モニターにエンジン回りの情報を表示させた。


 「ゲッてなんだ?・・・うわぁ。アラートって出てるじゃん。」

 「銀河きゅんのせいだ。」

 「なんかわからんが多分そうだろうな。」

 「あの爆発でリカバリーするのに予想外に燃料を使ってしまったみたいだねぇ。もう残量が8%をきったよぉ・・・・。」

 「・・・・五時間・・・動くのか?」

 「本気で言ってる?」

 「すまん。何とかするわ。」

 

 これは流石に俺が何とかしないとなぁ。ちょっとは責任感じてるところもあるし。とはいっても、果たして俺のエネルギーと

シャトル。どっちが保つか。・・・。あんまり自分の物じゃないものを弄りたくないんだが、そんな事も言ってられないか。


 「ロペ。このシャトルはロペの所有物なのか?」

 「一応ねぇ。軍の退職金のついでに貰って来たの。」

 「ついでかよ!」

 「まぁ、だからこんな骨董品しかもらえなかったんだけどねぇ。」

 「エンジンを弄ってもいいか?」

 「うん。コロニーにつく前に元に戻してもらえば大丈夫だよ。」

 

 元に戻さなきゃならんのか・・・。あぁそういえば船に関する情報の中に、なんかあったな。メーカー品の改造を禁じる項目が。


 「気絶したら後頼むな。もう勝手に監獄に入れるなよ?」

 「そんなことしないよぉ。今回は必要だったからしただけだよぉ?そのおかげで、友達に会えたでしょぉ?」

 「まぁ・・・それは確かにそうなんだが・・・。とにかく、エンジンルームに行ってくる。生命維持以外一時的に切ってくれ。」

 「わかったよぉ。いってらっしゃい。」


 いってらっしゃいか・・・。一人で暮らすようになってから久しく聞いていない言葉だな。ちょっと照れ臭い。


 「いってきますわぁ?」

 「・・・いってくる。」

 「うん!」


ーーーーーーーーーーー


シャトル内エンジンルーム


 簡素な作りになっているエンジンルームには、液体燃料を入れる為のタンクと、武骨なエンジン、そして生命維持装置がひしめき合っていた。

 丈夫なのが特徴と言えるような質実剛健なエンジンルームとも言える。入って右側は生命維持装置のコンソールが、通常稼働中のサインを出している。

左側のタンクはほぼ空の様だ。正面のこれまたデカいエンジンは今は止まっている。

 俺は、ヘルフレム監獄戦艦から取り外した超小型エンジン?の様なものを、位相空間から取り出しデカいエンジンを代わりにしまった。

あまりにサイズが違いすぎるせいか、配線が全く届かない。正直、このエンジンには他の物を近づけたくない。ヘルフレムに設置してあった時も、長い配線で、孤立するように他の装置と離して設置されていた。

恐らくは、他の電子機器に何か影響が出るのだろう。ワザと離してあったと考えるのが自然だ・・・。

しかしどうしたものか、さっさとしないと生命維持装置まで止まってしまう。

俺は急いでナノマシンを使い、長い配線を作り出しエンジンとタンクをつないだ。


 この残り8%だかの燃料でどれだけ動くか・・・。むしろタンク直刺しで動くのか・・・?コンバーターとかいらないのか・・・?

あれ?俺なんか失敗した臭い?


 俺の心配をよそに、エンジンは静かに稼働し、残り少ない燃料を吸い上げているようだ。


 よかった。きっとエンジンにジェネレーターとかコンバーターが内蔵されているんだな。

・・・。きっとそうだ。そう信じさせてください。



ーーーーーーーーーー


シャトル内広間


 「雨宮の。何時ぐらいにコロニーに辿り着くかね?ムチ打ちになりそうなんだが。」


 テツ・・・。なんでわざわざ3メートルも天井の無いここで座っているんだ・・・。

首が90度に曲がっているじゃないか。それ大丈夫なのか?


 「お前首折れてないか?」

 「大丈夫だ。体は柔らかいのが自慢なんだ。」

 「そ・・・そうか・」

 「それでどの位このままで居たらいいのだろうか?」

 「・・・五時間位・・・。」

 「・・・・・・ま・・マジで・・?」

 「マジらしい。」


 三角座りのまま真っ白に燃え尽きたテツを置いて俺は、冷蔵庫と思われる扉を開いた。

何だろうこれ・・・。筒の状の容器に、先端のふさがったストローの様なものがつながっている。密閉されているのか。

注意書きを読むと・・・。


青空食品製液体からあげまん

ストロー部分はおコメの味です


 と。書いてある。

 なにこれ?超気になる。容器ごと食えるのか?いや・・・しかしストロー部分のこと以外何も書いていない。

他の部分は食えないと思った方がいいか。唐揚げ・・・。液体のから揚げとは一体何か。試すしかあるまいて!!


 俺は恐らく冒険心を刺激されて変な顔になっていたりするかもしれない。しかしこの膨れ上がった気持ちはもう抑えきれない。

俺はストローを口に含み先端部分をかみちぎってみた。


 「米だ・・・。食感はゴムみたいだが確かに米だ。」


 そしてそのストローのかけらを口に含んだまま、俺は一気に液体唐揚げを吸い上げた。


 ・・・!?


 唐揚げ・・・?

 !?

 肉まん!?


 ・・・・?なんだ?


 イカン。ドロッとした常温の液体に、複数の色々な味が混じっていて、脳が混乱している。

唐揚げだけじゃない。中華まんの皮のような味もする。良く見ると『からあげまん』とかいてある。

俺はてっきり商品名かと思ったが『唐揚げ饅頭』のことだったらしい。

若干からしの風味が口の中に残って気持ち悪い。

 

 「不味くは無い。不味くはないが・・・。何故液体にした・・・。理屈が分からんではないが・・・。」


 水分を効率よくとるためなのだろう。だが・・・。フレーバージュースの如く液体に主食の味をつけるのはいかがなものか・・・。

 俺はチューチュー、液体からあげまんを食べながら、他の物を物色していく。


青空食品えきたいみそらーめん

ストローは食べられません


 これは冷蔵庫じゃなくて保温庫なんだな。すべて常温でおいてある。賞味期限も記載がない。

しかし味噌ラーメンか。・・・気になる・・・。きっとあまりおいしくは無いのだろう。だが気になる!


 あと一つ。あと一つだけにしよう。他にもいろいろあるようだし、吟味して・・・・・・!?


 青空食品えきたいそーすかつどん

 容器ごと食べられます


 !?全部食えるとな!?

 新しい・・・。新しいな!青空食品!

いやしかし、かじって食っていくと、中の液体が悲惨な事になってしまうだろう。ここはちょっとづつストローを齧りながら・・・。


 「雨宮の?その全部食える奴は・・・。俺みたいな巨人用だぞ。」


 ずっと見られていた。


 恥ずかしい。一喜一憂している様を全部見られていた。なぜ直ぐそこにテツがいることを忘れていたのか。

 

 「テツも食うか?」

 「食う。これ一つで腹が膨れるようになっているんだ。なんでお前二つ目食おうとした・・?」

 

 マジか・・・。全然足りないんだが。


 「それはホントの話か?ギャグじゃないよな?お前の腹もいっぱいになるのか?」

 「どういうことだ?なるぞ。これ一個で一回の食事になるように作られているはずなんだが。」

 「そうなのか・・・。全然足りない・・・。むしろ一個食ったせいでもっと腹が減ってきたんだが・・・。」

 「食うと腹の中で膨らむから満腹感も得られるし、栄養もバランス良く配合されているから、普通は一つで充分なんだが・・・。」

 「俺の体は特別性だからなぁ。しかし人数分あるかどうかの話もあるしなぁ。何食食うかも気になるし、時間がかかるのはまぁ仕方ないとして。」

 「一食食えば五時間ぐらい何とかなるだろ。」

 「俺がなんともならん自信がある。もっと食うもの無いかな・・・?」

 「ロペの奴に聞いてみたらどうだ。」

 「それな。」


 俺は適当に一つロペ用に筒型の飯を持って、コックピットに戻った。


 「銀河きゅんおそいよぉ?もうプンプン丸なんだよ。」


 ロペは操縦桿からは手を放さずにこちらを見た。


 「前見ろ前・・。プンプン丸ってなんだよ・・・。飯・・・?らしきものを持ってきたんだがいるか?」

 「ありがとぉ。・・・ってなにこれ。こんなのどこにあったの?」

 「テツの押し込まれている部屋の中に。」


 ロペは場所を察して苦笑いをしている。


 「そこは資材用の倉庫だよぉ。そこにしか入れなかったからそこに居てもらっているだけでぇ・・・。この携帯食料は彼みたいな巨人用の宇宙食だよぉ?」

 「マジか・・・。もしかして普通の飯もあるのか?」

 「あるんだけどぉ。先に言っておくことがあってねぇ?」

 「なんだ?」

 「エンジンが変わって出力が上がったのは良いんだけどぉ・・・。エネルギーが一瞬でなくなっちゃったんだよぉ。」


 あぁ・・・やっぱりそうか・・・。嫌な予感はしていたんだが・・・?でも今動いているし、電気も空調も止まっていないぞ?


 「でも動いているぞ?どういう言う事だ?」

 

 ロペは片手だけ手のひらをひらひらさせて「わかんにゃい」とため息をついた。


 「でも動いているから大丈夫かなぁ?何で動いているのかわからないから怖いんだけどねぇ。」

 「ヘルフレムも確か俺が見た限りではエネルギーの供給源が無かったような気がするな・・・。そうだ。無かったな。

直にケーブル類がエンジンに刺さっていたはずだ。このシャトルでも同じことをしたが。」

 「ということは、コンバーターなんかの機能も併せ持つエンジン?という事なのかなぁ?突然爆発したりしない?」

 「わからん。何せ箱っぽい何かであるという事しかわからないからな。エンジンかどうかすら厳密には不明だ。スキャン出来ないし。」

 「銀河きゅんにわからないなら私にもどうしようもないねぇ。でも死ぬときは一緒だよぉ?」

 

 なんかちょっとかっこいい事言っているのは分かるんだが。


 「それは無理だろ。爆発したら多分俺とファムネシアと千里、後アミィちゃんぐらいしか生き残らんだろ。」

 「な・・・。その三人は何だ!何故私がその中に入っていないんだぁ!」


 ロペは操縦桿から手を離してこちらにしがみついてきた。だっこちゃんスタイルだ。がっしりと両手両足で俺の体にしがみついている。


 「女としてそのしがみつき方はどうなんだ。」

 「説明を求めるぅ!」

 「簡単な話だ。三人は俺の眷属だから。ナノマシンサーバーにデータが記録してある。ナノマシンが存在する限り命が失われる事は無い。

セーブそしてロードといった感じでな。」


 若干シャトルが振動しているような気がするが気のせいか・・・?うるうると涙を流しながら俺の胸に額を高速で擦りつけてくる。


 「それずるい!それずるい!私も私もぉ!!」

 「お前だって超人じゃん。あのお仕置きにも耐えれるぐらい強いじゃん。」

 「それ関係ないよね!あの拷問酷いよ!今また思い出してお手洗い行きたくなってきた!私も仲間に入れてくれないならこのまま粗相する!!両方!」

 

 力を込めて振りほどくのは簡単だが・・。一刻も早く事を収めないとまた大変なことになる。


 「わかった!わかったから!抱き着いたまま漏らすなよ!」

 「わーい!」


 俺の了承を得たとたん俺から離れ普通に抱き着いてきた。子供か。


 「そうだな・・・。こう言うのは雰囲気も大事か。やろうと思えばすぐにもできるが。」

 「うんうん!どうするの!?」

 「オートパイロット的なものは無いのかこのシャトル。」

 「あ・ある。忘れてた」


 てへへ。と笑いながらロペは操縦桿の横コンソールに何かを打ち込んですぐに離れた。

 

 「座標を打ち込めば勝手に行ってくれるからずっと操縦していなくでも大丈夫だった・・・。」

 「まぁ・・・そういう事もあるさ。」


 俺は操縦席に座って気が付いた。シートのクッションが無い。綺麗にした時に直すのを忘れていた。

悪い事をしたな。

 俺はロペを自分の膝の上に呼び、目の前に広がる宇宙を眺めた。


 「クッション無かったなら先に言えよ。」

 「女の子のお尻はデリケートなんだよ?お詫びしてもらわなきゃ。」

 「そうだな。しかし宇宙空間ってのはこう・・・。良いな。どこまでも続く。永遠を彷彿させる。」

 「銀河きゅんは詩人だねぇ。」

 

 ロペの体重、体温を感じながら俺はロペの肩を抱き、唇を重ねた。


ーーーーーーーーーー


シャトル内食堂


 「第一回秘密会議を始めます。」


 食堂の中には集まった女性たちがそれぞれの席に座っていた。男たちは秘密会議の開催に当たって

それぞれ食堂の外に追い出されていた。


 「今回議長を務めるのは私雨宮千里です。よろしくお願いします。」


 ぱちぱちとまばらに拍手が起こる。


 「今回の議題ですが・・・。」


 ダン!とどこから取り出したのかテレビで見る様なフリップが取り出され、そこには雨宮ファミリー内の嫁の序列についてと書かれている。


 「これです。まず何かこの議題について何か質問のある方は?」


 シュタっと挙手をし、立ち上がったのはゼルミィだった。


 「ゼルミィさんどうぞ。」


 副議長と書かれた三角の紙が書かれた席に居るのは、ファムネシアだった。そしてファムネシアはゼルミィを促す。


 「一人参加者が足りないのだけれど?いいのかしら?」


 すると議長は顔を少し赤くしながら咳払いをした。

 

 「んっ・ん!!かまいません。今はその・・・お・・大人の時間ですので・・・。」

 

 その一言を聞いた瞬間、大人の時間が訪れていない参加者の席からがたがたっ、と音が響く。


 「皆さん静粛にお願いします。今回の議題はその・・・お・大人の時間についても話し合わなければいけないと、議長はお考えです。」


 腰を上げかけた参加者たちは、席に座り直し耳を傾け始めた。


 「まずは、これです。」


 紙芝居のようにフリップの後ろから新しいフリップが現れ、そこには、嫁の序列について。と書かれていた。

この文字を見た時から会場の空気が重くなり、互いを牽制し合うように激しいオーラが現れる。

 

 「まず暫定の序列から発表しましょう。」

 「異議あり!」


 ここで声を上げたのは、監獄にて雨宮に就く事を決意したアンジーであった。


 「その序列は一体だれが付けた者なのでしょうか?雨宮さんからのお達しでなければ信用できません!」


 にわかにざわつく会場。ここで参加者のおさらいをしよう。


 議長 雨宮千里

 副議長 ファムネシア

 書記 アミィ・イルパラージュ

 広報 ゼルミィ・ゼフィルード

 

 以下同不順

 

 セイラー・ミミル

 ショウコ・カリバーン

 フレイミィ・タカマガハラ

 アメリア・キャッシュマン

 ホムラ・カガリビ

 イファリス・ベルツドラガッヘ

 センリ・ギオボルト

 エリューシア・クライオ・バハムル

 アンジー・ティタノマキア

 イント・ジャーマンスープレックスイオタ・レックス

 ダリル・マーズハンダー



 この人数に序列を付けようというのだ。議会は紛糾する。


 「そうです。そもそも初めて顔を合わせる方もいらっしゃいます。自己紹介からでは如何でしょうか?」

 「それね。」


 忘れていた。と言わんばかりにどこからともなくだした扇子で頭を叩く千里。


 「じゃあ私から。雨宮千里。19歳!!銀河君の従姉で幼馴染で彼女です!」

 

 年齢や関係を大きく強調したことで回りに敵が生まれるが気にしていないようだった。


 「では次は私が。ファムネシアです。えっと・・ゼロ歳です。生まれたばかりですので。マスターがこの世界に来たときはマスターの体の中に居ました。」


 ざわめきが広がり、次第に収束する。


 「なら次は私で。アミィ・イルパラージュ31歳元太陽系連合軍冥王星宙域方面艦隊第三艦隊所属軽巡洋艦『ネタロー』副艦長でした。旦那様とは・・・その。お・大人の関係です。」


ガタッ


 「静粛にお願いします。」


 「次は私ね。ゼルミィ・ゼフィルード。元ヘルフレム監獄の所長よ。今は彼の所有物ね。」


 静まり返る会場。


 「あれ?何もないの?あれ?」


 「では、私が?えー。セイラー・ミミルです。雨宮とは友達?です?」


 ざわつく会場。


 「嫁会議じゃないの?何故ここに?」

 「さ・さぁ?所長に連れて来られただけなんですが・・・。」

 「まぁ良いじゃない。」

 「では次の方。」


 「私はショウコ!ショウコ・カリバーンよ!雨宮とは・・・?なんだろう?本能で付いてきただけよ!」

 「それでいいのか?」


 セイラーが頭の上にはてなマークを並べて質問するも残念な胸をはって席についた。


 「ワタシね。フレイミィ・タカマガハラぁ。33歳でぇす。かれとはぁ。つい最近出会ってぇ。ビビってきちゃったのでぇ、プロポしちゃいました。そしたらぁいいよって言ってくれて?

チョーうれしかったっていうかぁ。その・・。」


 「次の方どうぞ。」


 「え、ちょ・・。」

 「アメリア・キャッシュマンです!30歳です!えーっと。雨宮さんとはぁ。妹?義理の妹・・・のようなそうでもないような?感じです!」


 「質問っ!」


 千里が挙手して質問する。


 「妹ってどういうこと?妹的な立場って言うこと?」

 「そうじゃなくって・・・。おねぇちゃんが、雨宮さんと籍を入れたって言うから・・・。」


ガタガタガタガタっ


 「その話もっと詳しく!!」「気になるぅ~。」「静粛にお願いします。」


 おろおろと困り果てたアメリアはファムネシアに促され着席した。


 「・・・ホムラ・カガリビ。です。27歳です。・・・旦那様とは、監獄で結ばれました・・・。」


ガタッ


 「それはどういうこと?私たちが知らない間に・・・?」

 「あ・・・いえ・・・そういう事ではなく・・・。」

 「なんだ・・・。」


 「次はわたくしが。イファリス・ベルツドラガッヘ 39歳・・・。」


 失笑するものがチラホラ・・・。


 「エルフ種です。」


 そして失笑していたものが逆に失笑をもらっていた。


 「雨宮様の神の如きお力に敬服し、お傍に置いて頂きたくここに参りました。」

 「まぁ実際神みたいなものですし。」


 うんうんと、イントが頷く。


 「次はあたしな!センリ・ギオボルト26歳強さに惚れた!以上!」


 また獣人・・・と言わんばかりにため息の漏れるアミィ。


 「まぁ、議事録は楽でいいのですが・・・。」

 「ん?」

 「何でもないです。」

 「次の方どうぞ。」

 

 ガタッ!と、勢いよく立ち上がったため椅子が倒れる。


バターン!


 「エリューシア・クライオ・バハムル30歳だよ!銀ちゃんかっこよくて、優しくて大好きです!」

 

 年齢と姿が合わないと、にわかにざわつく会場。

 それだけ言って椅子を恥ずかしそうに直して着席した。


 「では私が。アンジー・ティタノマキア27歳です。ティタノマキア社の跡継ぎとして育てられてきました。

雨宮さんを婿に迎え入れられればと思ったりもしましたが、難しそうですね。嫁入りして、いい奥さんになろうと思います。」

 「では次の方。」

 

 「はい。イント・ジャーマンスープレックスイオタ・レックスです。27歳です。」


 名前の長さとセンスについて気になるというような声が聞こえてくる。


 「こほん。私はまだ正式に認めてもらったわけではありませんけど、ロペねぇさまの次に雨宮さんの事をよく知っていますから。

きっといいお嫁さんになりますっ!」


ざわざわ


 「静粛にお願いします。次が最後ですね。どうぞ。」


 女性としては大柄な女が立ち上がり自己紹介を始める。


 「俺はダリル・マーズハンダー29歳。元冒険者だ。獣人が意外と多くて、かぶってるとか言われるかもしれないけど、

雨宮の強さと優しさに惚れた。だから嫁になる。それだけだ。」


 「粗方紹介は終わったわね。じゃあ本題に移りましょう。今回の議題は・・・・。」


 議会が始まると同時に食堂のロックしていたはずの扉が開いた。

 雨宮である。


「お前ら食堂で何やってんだ?」


 「解散!」


 女たちは神速の如き速さで消えた。具体的にはシャトルの壁に千里が穴をあけてそこから全員で逃げ出したのだ。

入念なリハーサルとコンビネーションのなせる技・・・では無いが、女たちの動きは速かった。


ーーーーーーーーーー


コックピット内


 「うふふふふふ・・・・。何だか女になったって感じ・・・?」

 「場所を考えてするべきだったな。腰がいてぇ。」


 俺はナノマシンで辺りを綺麗にし、再びシートに腰を下ろした。するとまたロペが膝の上に座ってきた。


 「おい、また襲っちまうぞ?」

 「望むところさぁ。もう痛くないしぃ?」


 恥ずかしげもなくまぁ。


 「ふぅ。しかし腹が減ってなぁ。お前もそろそろそういう時間なんじゃないか?」

 「うん・・・結局持ってきてくれたあれも食べてないし。お腹すいちゃったねぇ。食堂に行こうか。」

 「ここはそのままでいいのか?」

 「問題ないよぉ。コロニーまではまだ時間があるし。燃料も0%だけど動いているみたいだし。何とかなるさぁ。」


 俺はロペを立たせ、立ち上がる。するとロペが背中に抱き着いてきた。


 「ずっと夢見ていたんだ。この世界に生まれ落ちて、転生してから・・・、ううん。この世界の管理者として世界を見ているときからずっと。

ず~~~っと。素敵な結婚をして可愛いお嫁さんになれるといいなって・・・。」


 「そうか。」


 「私だけじゃないんだ。そんな思いを持っていたのは。」


 ロペの声色が抑揚を抑えた者に変わった。


 「あぁ。」


 「もっとね。沢山いたんだよ?イントだけじゃなくてさ。イントの兄弟たち、私の家族。・・・・沢山いたんだょ?」


 ロペの手に力が掛かり、俺の服にしわを作る。


 「私はずっとそんな彼らを見ていたんだ。一緒に・・・夢を語り合ったこともたくさんあったんだぁ。

あの家族の子供に生まれたら幸せそう。海賊の子供になったらどうしよう。

人種じゃなかったらどういう生き方なのかな?ドワーフになってモノづくりがしたい。

エルフになって学者になりたい。メロウになって、男を虜にしたい。

サハギンになってお笑い芸人になりたい。異世界の勇者様と結婚したい・・・。なんてね?」


 悲しみと切なさが募るのか、ロペの声が徐々に熱を帯び、震える。


 「皆には悪いけどさ・・・・。ちょっとずるもしたけどさ・・・・・。私は夢が叶ったって言ってもいいのかな?」


 ロペの思いは俺にはわからないが、気持ちを察することぐらいはできるつもりだ。

気の遠くなるぐらいの時間をそうやって過ごしてきたのだろう。


 「あぁ。良いんじゃないか?確かに力技かもしれないが。

俺は別にそれでもいいと思っているぜ?」

 「ホントに?離婚しない?」

 「そんな面倒なことするかよ。そんな事するくらいなら、お前を徹底的に変えてやるよ。」

 「うん・・・。」


 転生してからは普通の人種だったからな。時間の経過もあって思いもつのるというもんか。


 「私のわがままも聞いてくれる?」

 「そうだな。ことと次第によっちゃな。」

 「復讐に手を貸してほしいって言ったら嫌かな?」


 穏やかじゃないな。まぁ31年も生きてりゃなんかしら有るか。

 俺はシートにもう一度腰を下ろし、ロペを膝の上で抱いた。


 「あんまりこういう時に顔は見てほしくないなぁ・・・。」

 「はっ・・。それは俺の勝手だ。見せろよ。」


 かすかに見尻に涙をためたまま、絞り出すようにロペは教えてくれた。


 「私たちが転生する前に居たあの基地。あれがどこだかこの世界に来てからわかった?」

 

 俺は一瞬考えて、データベースに情報が存在しないのを確認してから答えた。


 「いや。結局一度もその辺の話は聞かなかったな。とはいっても俺はまだここに来てひと月もたっていないからな。」


 「そうかぁ。あのね?ここに来るまでに私も初めて知ったんだけどね?

まぁ順番立てて話すと、あそこは海王星絶対防衛ラインにある私たち管理者の防衛拠点だったんだ。」

 「海王星!?」

 「うん。とはいっても海王星ダンジョンの奥深く、最深部に繋がる異空間にあったんだけどねぇ?」

 「なるほどなぁ。」


 海王星については少しばかりは聞き覚えがあるが・・・。その話はあとかな。


 「私たち管理者は、その拠点が攻撃を受ける前にこの世界の軍と連絡を取り合っていたんだ。」


 は?まじか?


 「でね?もうすぐ異世界から抑えきれない位の敵が来るから、すぐに応援を寄こしてほしいって、お願いしていたんだ。」


 あー。・・・読めてきたかもな・・・・。俺たちが来たときは大分劣勢に見えたし・・・。


 「でも来てくれなかったんだ。通信ではすぐに行くって言っていたから。待っていたんだけど。・・・っく。皆で必死に戦って・・・。

っひ。皆傷ついて、夢をかなえたくても叶えられなくて。数百万居たんだよ?家族が・・・。きっとあそこに行くんだって。

守らなくちゃいけないって。世界の人たちを守りたいって。・・・。皆が命を賭けて、文字通りその命を使って押し留めていたんだ。」


 あの時は・・・。そうか。そんな最後の時だったんだな。

 俺は指でロペの抑えの効かなくなった涙をぬぐってやる。


 「一応ね?他の世界にヘルプコールを発信していたんだよ。イチロー・スズキを呼び出した時みたいに。あ。

イチロー・スズキていうのは銀河きゅんと同じ世界からやってきた転移者でね?火星を救ってくれたんだよ?まだ生きているから、

そのうちまた教えてあげるね?」


 「ほう。興味深いな。」


 まだ生きてる。その言葉は大分気になったが今は置いておくか。


 「でね?銀河きゅんが来てくれたんだ。偶然だったんだけど。もうあの時点で敗北は確定していたから、その体しか作ってあげられなかったんだ。

ごめんねぇ?ホントはもっといっぱい話を聞いて、スキルなんかもあげられれば良かったんだけど。無理に魂との相性の悪いスキルをくっつけても

定着しないし、逆に魂に負担がかかるから迂闊なことは出来なかったんだぁ。」


 俺はロペの頭を優しくなでた。


 「いいよ。十分だ。ナノマシンも手に入ったことで、俺はもっと強くなったしな。頭の方はまぁ・・・ぼちぼち鍛えていくさ。」

 「うん・・・。」

 「それで?復讐したい相手ってのは?」

 「冥王星方面軍艦隊総司令ベイルーン・イルパラージュ中将。元天王星方面軍艦隊総司令グレン・カリバーン中将。元土星方面軍艦隊総司令バーバラ・J・イオタ。太陽系連合軍総司令ダイゴ・スズキ大将。

主にその四人かな。」

 

 ・・・んんっ?ファミリーネームが聞き覚えがあり過ぎておじさんちょっと困惑気味ですぞ?んん?


 「一応聞いておくがその人たちって。」

 「アミィちゃんのパパ。ショウコちゃんのパパ。イントたんのママ。イチロー・スズキの孫。だよ。」

 「そうか。一応本人たちに許可を得るか?」

 「そんなこと・・・。」

 「分かった。そのお願い俺が聞き届けよう。嫁の願いだ。地獄まで付き合ってやるさ。」

 「銀河きゅんは死なないよぉ。」

 

 嬉しいのか何なのか、ロペは俺を見つめたままボロボロ涙を流し始めた。


 こいつ意外と涙もろいな。・・・引き金を引いたのは俺かもしれんが・・・。


 「にしても、返事は聞いたんだよな?すぐ行くって。」


 ロペは俺の胸に額を載せてきた。

 クンカクンカするな。


 「うん。間違いなく。その返事をしたのはさっきの四人じゃないけどねぇ。でもその返事をした奴はもういないからそいつは良いのさぁ。」

 「もういない?コロコロしたのか?」

 「銀河きゅんがね?」

 「俺?」

 「そうだよ?ミラ・ティオシーカーって知らない?」

 

 ・・・?俺は監獄に居たやつの事しかわからないし、そもそもあったことが無い可能性の方が高いな。

なんせ結局監獄では俺はほとんど何もしていないからな。

 病気で死んだり他の奴に巻き込まれたりで死んだ奴は沢山いたが・・・。あれ?

俺って何をしたんだ?F28の奴を扇動しただけ?見せしめに何人かやったが、それだけじゃね?


 「悪い。その名前は知らないわ。もしかすると会ったこともないかもしれない・・・。」

 「えっ?おかしいな?あいつはF2に居たはずだけど・・・。」

 「あぁ。そりゃ無理だわ。F2は結局行ってないし、その辺の奴らは血霊病で操られたのか狂ったのか、酸素の無くなった刑務棟で全員死んだらしいし。

脱出できなかったF28の奴以外は多分全員死んだんじゃないか?とは思うが・・・。」

 「逃がした可能性もあるの?」

 

 確かに各国のスパイたちと一緒に逃げた可能性は捨てきれないが・・・。仕方ない、まだ飯を食っていないが、過去のヘルフレムのデータを漁って見るか。


 「多分無いと思うんだが・・・。一応データを探してみるわ。ちょっとまってな。」


 F2・・・F2・・・あ。こいつか、このメガネの茶髪。んんっ?いの一番に噛まれておりますな?

で・・・これを追いかけてみると・・・?

刑務棟に向かって・・・?あっコケた・・・。こいつ本当に元軍人か?運動能力低過ぎじゃないか?


 結局刑務棟に雪崩れ込んだ時に刑務官に滅ぼされたうちの一人になっていた。

その刑務官もその後の生命維持装置停止によってもがき苦しみながら死んでいった。


 「間違いなく死んでいるな。でもやっぱり俺は一度も会っていないわ。」

 「ありゃ。そうなんだ?」

 「まぁ言うなればまきぞい死ってとこか。」

 「そっか。じゃあいいやっ。」


 またロペはぐりぐりと・・・。額から禿げ上がるんじゃないか?


 「失礼なこと考えてる?」

 「んにゃ。」


 「で。だ。結局具体的にはどうしたいんだ?復讐と一口に言っても色々あるだろう?」

 「もちろん・・・死んでもらうよ?本当は私と同じ目に合わせてやりたい気持ちはあるけど、そんなことになったら銀河きゅんはきっと怒るし・・・。

そこまでは私ももう今は望んでないょ・・・。第一、イントたんを手にかけるなんて私には出来ないからねぇ・・・。」

 「そこで俺の出番?」

 「ちょっと!出番早いよ!」


 あれ?代わりに俺に殺せってことではないと?


 「命のやり取りの復讐はもういいんだ。でもね?十発や百発は殴ってやりたい。だから銀河きゅんにその後の事をお願いしたいのさぁ。

蘇生・・・回復をね?ナノマシンなら簡単に出来るでしょ?」

 「まぁ・・・それぐらいなら全然問題は無いが。」


 正直なところ、原因が色々分かったところで俺自身も少しいら立ってきている。

あの場所がどうなっていたかは軍が来ていても変わらなかったかもしれないが、もう少しロペの家族ともいえるやつらが生きていられたかと思うと、

何故か心がざわつく。ロペに感情移入しているのだろうか?嫁だから?女だから?抱いたから?

分からない。

 だがこれだけは確信した。


 「俺も殴っちゃうか!スキルとか貰えなかったのそいつらのせいらしいしな!」

 「そうなんだけど・・・。なんかもうちょっと私のためにとかなんとかぁ・・・。ないのぅ?」

 「それな。」


 そういう気のきいたセリフが出てこないところが俺らしいなぁ。


 「何たそがれてるのさぁ!もぅー。」


きゅるる~


 「お腹すいちゃったんだよ!?食堂にいこぅ!」

 「ふむ。食糧庫を空にしてやろう。」

 「そんなに食べるのぉ?」

 「もうバリバリだぜ。空腹で腹が裂けそうだ。」

 「もう危険な病気だよねそれ。」


 俺たちは連れ立って食堂に足を延ばした。もう大分時間が経っているはずだ。

コロニーに着くまで後二時間といったところだろうか。


 ん?

 

 「ロペ娘。ロックが掛かっているぞ?」

 「おかしいねぇ?コックピットからしかロックはかけられないはずなんだけど・・・。」


 中から見知った女たちの気配がする。因みにこの食堂にたどり着くまでに廊下では俺たちと共に行動することにした、

フェルマータ、エックス、シン、そしてオパーイじゃなくてフルドゥが食堂の食料を使って女囚たちに炊き出しを行っていた。

何気にいい奴だな。というか結局スパイなのにあんなに目立っていていいのか?


 「仕方ない。」


 俺は扉に手を当て、ナノマシンでロックを解除し、扉を開けた。そこには見知った顔が・・・俺についてきた女たちが勢ぞろいしていた。


 「お前ら食堂で何やってんだ?」


 「解散!」


 一瞬で消えた女たち、ナノマシンが動いた形跡があり、それは俺にしかわからないものではあったが、間違いなく千里がやったんだろうな。

 俺はやれやれと食堂の中へ足を運んだ。


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