EP13 ナノマシンの有効活用の模索

 腹が減ってたまらない。そんな気持ちになったのは何故が?それはここが食堂だから。

結局倉庫で巨人用宇宙食を食べた事に寄ってさらに自分が空腹であることがより強く認識された。食わなきゃよかったと後悔しても遅いが、

良い匂いのするこの食堂の空気により強く俺の腹は刺激されている。


 「雨宮銀河!食事するか!?」


 監獄で給仕をしていた時のように景気のいい声が俺の耳に届いた。セイラーである。白い三角巾に、割烹着まで着て・・・。

そんなものまでここにあったのか。


 「おぉぉぉ。良い匂いだ!ってなんでお前がここに?」

 「うむぅ。私もこうやって料理をするつもりは無かったのだが、他の者に任せると大変なことになりそうだったので、

私が厨房に入らざるを得なかったという事だ。因みにこの割烹着は私物だぞ。」


 セイラーは、厨房でくるりと回って見せてくれた。監獄で見た時の姿のままだ。割と似合っている。

 ふむ。皆料理が下手なのだな?・・・。あれ?千里は料理が得意だったはずだが・・・。


 「押し付けられたのか?」

 「違うぞ?私はほら・・・。旨い飯を作ってくれってお前が言ったから・・・その・・・。」

 「銀河きゅん?」


 おぶったままのロペは顔の横にまで乗り出してきた。


 「プロポーズ的な?話?」

 「そういうつもりでは無いが・・・。腹が減っていただけだと思うがなぁ。」

 「私だってそういうつもりで聞いたわけじゃないぞ?」


 あの時はあの時で、今思うと大変だったなぁ。


 「まぁ・・・それはそれとして、飯をくれ。深刻なエネルギー不足だわ。」

 「色々材料がそろっていたから何にしようかと思ったが、私の故郷の料理にしたぞ。」

 「ほー。それは楽しみだねぇ。」


 何気に俺のエネルギー不足は深刻化しつつある。恐らくこのままでは、位相空間にしまったこのシャトルのエンジンを取り出すことが出来ない。

パーセンテージで言えば残り1%ぐらいだと思われる。まぁそれもこれも、勢いで致しちゃったせいなので何とも言えないが。


 「銀河きゅん激しかったからねぇ。栄養摂取しなきゃだねぇ。」

 「その話を詳しく!」どうだったの!?」


 本人を目の前にしてこのガールズトークっぷり。全く・・・。意外と赤裸々に語られると恥ずかしいものだな。

 その後飯をたらふく食わせてもらいながら、二人の生々しい話を聞かされる羽目になった。


 「どれだけ食べるんだ!百人分ぐらいは用意したんだぞ!?無くなってしまったじゃないか!!」


 なんと。そんなにあったのか。

 ・・・しかし五分といったところか・・・。やはりあれだな。巨人用食料。あれ食わないと他の人の食料が無くなってしまう。

若干味気ないが仕方ない。食料は有限だ。物質を吸収する事でもエネルギーは得られるが、満腹感は得られない。結局食う必要はある。

その内そんな事の心配をしなくていいような、そんな暮らしがしたいものだ。


 「すまん。旨かったもんだからつい食い意地が張ってしまった。」

 「そ・そうか。美味しかったならいぃ。」

 「今度は私の手料理を食べさせてあげるねぇ?」

 「作れんの?」

 

 ちょっと挑発気味に尋ねてみると、結構な自信があるようでぷんすこ怒っていた。


 「しーつれーなー。ずっと自炊していたのだぞぉ?ちゃんと料理の勉強もしたさ!

花嫁修業は従軍している間に一通り済ませたさ!」


 従軍している間ってどんな修業したんだよ・・・。


 「そうか。期待して待っているよ。」

 「うむっ。待っているが良い!」


 実のところ、あまり眷属を増やすつもりは無かったのだが、嫁=眷属。という構図もアリかと最近は思うようになった。

今のロペは眷属化してあるので、もはや普通の人間・・・超人種ですらない。スキャンすればハイパーヒューマノイドと出る筈だ。

まぁ、数人で寂しく生きるよりかは、人数を増やして楽しく生きてみてもいいのかもしれないな。

我を通して、わがままに生きて、楽しむ。それが俺の今臨むべきこと。結局のところ只限りない自由がほしいだけだ。

 という事は結局俺は、ロペを嫁として認めているという事か。そうかそうか。自分の行動を振り返ってみるのもなかなか面白いものだ、

眷属=嫁。彼女たちが望む限り俺と共に永遠を生き続ける。いや、その内愛想をつかされる可能性もないとは言えないな。そうなったらどうしようか?

今の俺なら裏切り。即斬。で終わらせてしまうかな。結局そんなもんだ。


 「因みに食糧自体はまだあるのか?」


 俺はカウンター越しに厨房の中を覗き込みながら訊ねた。大きな調理釜に、大きなオーブン。そして巨大な冷蔵庫。

どれも年季が入っていて相当古そうだ。


 「合成食料を作る装置がこの船には備わっていないからな。多く見積もっても半日分ぐらいかな?」

 

 まぁ、もう二・三時間で到着するし、それでも問題ないか。・・・フラグ?


 「銀河きゅん食べ過ぎだねぇ。三日は持つはずだったのに。」

 「うーむ。それを効かされるとそう思う事もあるが・・・。こればっかりはなぁ。」

 「省エネルギーモードとかないのか?若しくエネルギーの生産効率を上げるだとか。」


 省エネルギーモードに関しては出来なくもないが、今はなんだかやりたくない。効率アップの方が将来的に役に立ちそうだ。

 俺は久々に並列思考を開始し、食料から得るエネルギーを可能な限り自分で使うエネルギーに効率よく変換できるように、ナノマシンに命じてみた。

何だか良く分からないが、天文学的な数字の羅列が頭の中を高速回転している。意味を理解しようとすれば出来るのかもしれないが、そんな知識会っても今は意味がない。

実行できるならそれで良し、出来ないならそれもまた仕方なし、といった所か。しかし・・・。


 「いまさぁ。効率アップの方の模索中なんだが・・・。」

 「どしたの?」

 「ふむふむ。」

 「膨大な情報の処理が行われていて、物凄いエネルギーが減るんだが。」

 「「えぇ・・・。」」


 折角食ったばっかりなのに・・・。今やる事じゃなかったかもしれないなぁ・・・。


 「銀河きゅん大丈夫?お腹もつ?」

 「多分このままだとだめっぽいな。悪いけど倉庫からアレ持ってきてくれないか?」

 「わかったよぉ。ちょっとまっててねぇ。」


 そういってロペは例の飲み物?を取りに行ってくれた。


 このエネルギーの減りっぷり。ナノマシンを取り込んだ時の事を思い出すわぁ。


 「あ・・雨宮?前みたいに暴れないでくれよ?ここはただのシャトルなんだから。他の人もたくさん載っているんだから。

すぐ壊れるし、みんな死んじゃうぞ?」

 「失礼な。暴れたりなんかしません。」

 「嘘つくな!これが証拠だ!」


 そういってセイラーは、折り畳み式の携帯端末を取り出し、捜査して俺の方に画面を見せてくれた。

 そこに映っていたのは、涎を垂らしながら、髪を逆立てて飯を貪り食っている獣だった。


 「これがその時のお前だ!こんなになる前に飯食え!作るから!もう残り少ないけど。」

 「・・・まじか・・・。全然こんな風になっていたとは思っていなかったわ。そっちの飯は我慢する。

まだ食べていない奴がいるかもしれないしな。」

 「わかった。絶対暴れるなよ!絶対だからな!」


 押すな押すなじゃないんだから・・・。暴れないよ?


 「しかし減りが速い・・・。何をこんなに計算しているんだ・・・。」


 ・・・。情報の取捨選択だけでも膨大なデータの中からの作業になっているうえ、並列処理をする事に寄ってさらに消費エネルギーは倍率ドン。

普通の人間が全力疾走でフルマラソンを走るぐらいの勢いでエネルギーが減っている。そんな事普通は出来ないが無理やりやっているから、

全身の筋肉がズタズタになってそれを回復するためにさらにエネルギーを消費して、さらにスピードを維持するために肉体の隅々から全てのエネルギーを持ってきて、只は知ることに費やす。

そんな感じ。

 このまま放っておくと餓死するかもしれんな。俺。一応セーフティはそのままになっているから、省エネルギーモードになって命の心配は無いが・・・。

 ・・・。あ。終わった。


ぐぅうぅううううう。


 「計算は終了した。エネルギー変換効率が当社比90%アップしたそうだ。」

 「どこ社だ!しかもそんなに上がったのか!」


 鋭いツッコミは彼女の持ち味だな。だが腹ペコの俺にそのツッコミはややつらい。今さっき、ホンの十分ほど前に定食百人前を食ったばかりだというのに。

俺の胃袋は食料を求めている。困った体だ・・・。だがそれも今日この日までだ!今の俺は普通の人間よりもエネルギー吸収の効率の良い、ニュー雨宮銀河に生まれ変わったのだ。

言うなれば、雨宮銀河Mk-2といった所か!

 ・・・Mk-2はやめておこう。何だかやられそうだ。


 「ぱんぱかぱーん。ロペ!帰・還!」


 しゅたっしゅたっ!っと某特撮のようなポーズで帰ってきたロペの足元には幾つかの例のアレが転がっていた。


 「こら。口に入れるものなんだから床に置きなさんな。」

 「えへへ。そうでした。ただいま~。」

 「お帰り。」


 戻ってきたロペは先ほどと同じ隣の席に座るが心なしか椅子の距離が近い。


 「むぅ。まぁいいか。とりあえず食うぞそれ。」

 「適当に引っ掴んで持ってきただけだから、何か味かわからないけどいいかなぁ?」

 「気にすんな。腹に入ったら何でも一緒だ。」


 とか言いつつ、気にはなっているのだ。このメーカーは俺の心の冒険心にセンタリングを上げてくれる。

ダイレクトボレーを決めたくなること必至だ。ワクワクが止まらない。

 ひーのふーのみー・・・六つも持ってきてくれたのか。


青空食品製液体季節のてんぷらどん

容器ごと食べられます


 テンプーラ!液体天ぷら!もう何かスゲーわ。一体どうやってこの味を水に付けるのか?とりあえず食うか!

 ゴムの様な食感の容器、しかし味はやはり白飯。しかも旨い。ストロー部分をかみちぎってもぐもぐしながら中の液体をすする。

相変わらずドロッとしておるな。この粘性は何だろうか?そしてじっくり天ぷら・・・海老天味の液体を味わう。普通に旨い。確かに天丼・・・!?

しかし二口目にすすり上げた液体は何故か味が違う!?これは・・・ゼンマイの天婦羅!なん・・・だと・・・?一つの液体食料の中に二つ以上の味が!

ガジガジストローを齧りながらさらにすすり上げていくとまた味が変わった。アナーゴ!アナゴ!穴子の天婦羅だ!もう感動して涙が出そうだ。奇跡の技術。ここに極まれり。

もうほとんど液体は腹の中に納まってしまったが、そのままガジガジと容器・・・白飯を齧って食い、最後の液体が俺を待ち構えている。

それはさながらPKのよう。俺は最後のボールを蹴る!・・・。何というか、こう・・・。最後の最後で外した感じ。

しその天婦羅だなこれは・・・。旨いよ?確かに・・・。だがこの俺の心の盛り上がりはどこへ行けばいいのか。

液体天丼を平らげた俺はすぐさま次の液体に手を伸ばした。


青空食品製液体ざるそばセット

容器ごと食べられます


 セット!?これ単体でセット!?え~・・・?

 セットって定食ってことか?一体どんな構成だったっけ?普通のざるそば定食って。

 まずそばだよな?で、めんつゆに、まぁ天婦羅は・・・違うか一応天ざるとは書いていないし・・・。

薬味のねぎと、ワサビ。セットならみそ汁とご飯も付いているのか?主食&主食。後はまぁ漬物か。

こんな所だろうか。しかし予想を裏切って俺を楽しませてくれるのが青空食品のいいところだ。

しかし微妙に外すところも見えてきてはいる。過剰な期待は足元をすくわれるかもしれない。


 「銀河きゅん?鬼気迫るものがあるんだけど・・・?美味しくなかったかい?」

 「いや旨い。・・・不味くは無い。いや・・・。旨いのか。」

 「「どっち?」」


 よし。心の準備は万全だ!いくぜっ!

 俺はストローにまず齧りつく。飯!?馬鹿な!そばじゃないだと!?そっちを容器に持ってきたか!

なら・・・液体のそばが確定するわけだが・・・。と・取り敢えず液体をすする。

あぁ~。これは凄い・・・。怒涛の合わせ技だ。薬味を全部めんつゆの中にぶち込んで、そばこれでもかと全部付け込んだらこんな味になるな。

だが確かに、ざるそばを食った感じになる。間違いではない。間違いではないが・・・。いや。一つずつ分けて作るよりも高度な技術だとは思う。

だって全部の味がするんだもの。

 ずるずると液体ざるそばをすすっていくと、不意に味が味噌汁に変わる。

 ここから味噌汁かぁ・・・。粘性があるのは、層にするためだと判る。だが・・・。いや。会えて何も言うまい。旨い事は旨いのだ。

俺はドロッとした味噌汁を容器を齧りながら飲み干そうとしたその時。急に違う味が口の中に広がる。

たくあん!たくあんかぁ・・・。定番ちゃぁ定番だなぁ。だが俺の個人的な思いは、白菜の浅漬けがよかった・・・。これはただの贅沢だな。

まずかぁないんだ。こんなに食事を楽しんだ事は無い。感動すら覚える食事なんか人生で初めてだ。だが微妙に俺のこの身を外して来る。

この焦らしテク。侮りがたし青空食品。


 「今度は何だ?何味なんだそれは?」

 「ざるそばセット味。」

 「「セットぉ!?」」


 ロペとセイラーはそれぞれ置いてある容器を手に取り、何味か見て確認している。


青空食品製液体刺身定食

容器ごと食べられます


青空食品製液体満漢全席

容器は食べられません。


青空食品製液体フルコース

容器は食べられません


青空食品製液体シェフのお任せセット

容器は食べられません


 「銀河きゅん?これって美味しいのかぃ?」

 「この容器食べられるのね・・・。」


 ん・・・。んん?あーーー。腹が膨れた!凄い。という事は・・・。エネルギー満タン!初めてエネルギーが満タンになった!

成程。満腹感を覚えることで満タンが分かるのな。くそぅ・・・。名残惜しいなぁ。

他のも食べてみたい・・・。とくにシェフのお任せセット。容器にちょっとカッコイイおじさんがプリントされていて、微妙に笑顔なのが何だかムカつく。

だが味が気になる・・・。お任せセットは味じゃないだろ!何味かわからん!


 「自分で購入したけど・・・。私は口にしたことないから・・・。正直ペットフード的な感覚で購入した。今は反省している。

字面が面白かったからこれにしただけだと思う。」

 「もう腹いっぱいでくえ・・・飲めないけど、また腹減った時に備えてこれ、幾つか持っておこうかな。なんだかんだで、使うときはエネルギーいっぱい使うし。」

 「良いと思うよぉ?まだケースでいっぱいあるし。」

 「ケース買いしたのか!賞味期限なんかはほとんど無いようなものだけど、それ食べるのはガイキンぐらいなものだろう?

まぁ、雨宮も食べるから・・・まぁ結果的には良いのか・・・?」

 「結果良ければすべてよし!だねぇ。」

 

 俺は位相空間の中に持ってきてもらった残りの四つを突っ込み、普通の水を飲んで一息ついた。


 「ふぅ・・・。味のない普通の水の大切さを青空食品に教えてもらった気分だぜ。」

 「実はまずかったのか?」

 「そんな事は無い!旨いのもあった。というか普通に旨い。だがこれは、あれだ。俺みたいにある程度頭の中で情報を並列処理できないと

色んな味が一気にきてまともにの食え・・・飲めたもんじゃないと思うのだが・・・?」

 「まぁ本来は、巨人専用みたいなものだしねぇ。でもそうかぁ。美味しいのかぁ。私も一つ持っておこうかなぁ。」

 「ロペ?他にどんな味のを買ったか覚えているか?」


 まさかケースで同じ味の物か・・・?普通はそうだが、栄養が偏りそうだ。いや。味だけ変えて栄養は同じ・・・とか出来るのかもしれない、

なんせ青空食品さんやで?きっとできる筈や・・・。


 「えーっとぉ・・・。あっ。あれだ。」

 「ふむ。」

 「新妻の愛妻弁当味。」

 「「どんな味やねん!!」」


 セイラーとハモった。また内容の分からない味・・・。弁当って一つだけ入っているものじゃ無いじゃない?


 「むはは。他にもいろいろあったから適当にポチポチしていろんなのを買った気がするよぉ。私が一番気になったのはねぇ?」

 「気になったのは?」

 「男の手料理シリーズ。マーボーどん。」

 「シリーズものかぁ。マーボーどんがラインナップされている理由が知りたいわ。」

 「私も知りたい。普通のじゃないか。」

 「そんな事私に言われてもねぇ?あ、あとイチゴペペロンチーノってのもあったから買ってあるよぉ?」


 セイラーが盛大に水を吹きだして咳き込む。


 「それ絶対ダメな奴だろう!食べ物を粗末にしちゃダメだろ!」

 「いや・・・。青空食品さんの技やで?きっとなんかあるはずや・・・。」

 「なんで急になまってきた・・・。」

 「気にすんな。」


 俺が西の出身だからに決まっている。


 「でもまぁ・・。良い食事だった。お前の飯がいい感じに記憶から飛んでしまうほどには。」

 「酷いなそれ!!」

 「銀河きゅ~ん。デリカシーないよぉ?」


 事実を口にすることは時に反感を買う。それも仕方なし。



ぴぴっぴぴっぴぴっぴぴっ



 なんだ?目覚まし時計みたいな音が食堂にあるスピーカーから響き渡る。


 「おぉっ?銀河きゅん。もうすぐコロニーにつくみたいだよぉ?」

 「お前結局飯食ってないけど良いのか?」


 すると、コト。と、きつねうどんがロペの前に出された。


 「取り敢えずどうぞ。」

 「おぉー。ズルズル。おいしー。ズルズル。」

 「うどんなんかあったのな。」

 「人類が宇宙に進出してから、食文化は拡散して、結構いろんなところで何でも食べられるようになった。

と、私は学校で習ったぞ。因みにうどんは冷凍のうどんなのだ。」


 日本食強いなー。取り敢えずで出てくるくらいには記憶に残っているのだから。


 「悪いな。俺だけゆっくり食って。」

 「はふはふ・・・。今度またゆっくり付き合ってもらうから良いよぉ。ぬぐっんぐっ。ふはぁ!

とても美味しかったです!」

 「お粗末様です。」

 「じゃぁコックピットへ行こうか。」

 「そうだな。降りる準備、しておけよ?」

 「私はここの片付けだけだ。荷物なんか何にもないし。」


 そういえばそんなもの纏める時間なかったな。ちょっと悪いことしたな・・・。




ーーーーーーーーーー


コックピット


 「おぉおおおおおお!!あれがコロニーか!!でっかいなぁ!!!」


 シャトルのモニターに映し出されていたのは見上げるほどの大きさのコロニーだった。

ロペ操縦桿の横のコンソールをたたき、通信を開いた。すると、モニターにはブルーの制服に身を包んだ金髪のロングヘア―にウェーブのかかった髪の良く似合う、

グラマラスな女が映し出された。

 けしからん。じつにけしからん・・・。


 「おかえりなさいませ、ロペ・キャッシュマン様。28番ドックにお戻りになられますか?」

 「うん。ガイド宜しくぅ。」

 「承知致しました。。ガイドビーコンを受信してください。」

 「あ!?ちょっとまって!!ガイド待って!!」


 ん?


 「なんだどうしたんだ?」

 

 ロペは耳元に顔を寄せ囁く。


 「エンジンッ!」

 「あ”!不味いのか!」


 俺は急いでエンジンルームに走り、元のエンジンに取り換えた。燃料は0だが、俺のエネルギーを変換することでギリギリ動く状態にしておいた。


 「あ。戻ってきた・・あははー。何でもないですぅ。受信機がオフラインだったみたいでぇ・・・。ガイドお願いしまーす。」


 受信機の仕組みは分からないが、中々苦しい言い訳だったのだろう。お互いに顔が引きつっている。


 「何か問題でもございましたか・・・?」

 「あ・あぁ・・。大丈夫大丈夫!ここに来るまでに点検を一度していてさ。その時に受信機を一度切っていしまっていたのを忘れていてな!ははっ!」

 「・・・。さようでございますか。そちらの方は初めての方ですね?入国審査を行いますので、ドックインされましたら、係りの者の指示に従って・・・。」

 

 するとロペが急にまた俺の膝の上に座ってきた。

 今なの?なんで?


 「それは大丈夫。彼は私のダンナ様だからっ!」


 それ関係あんのか!?入国審査パスすることになる話か?


 「先頃、ヘルフレム監獄が轟沈したとの一報がありましたので、登録住民の方以外は全員審査を受けていただくことになっています。

犯罪者の流出の可能性もありますので。」


 ・・・。まぁ、確かに。そりゃそうか。ここが一番ヘルフレム監獄から近いものな。警戒するに越した事は無いだろう。


 (ロペ・・・。聞こえるか?口に出さなくていい。そのまま・・・な?)

 (これが愛のテレパシー!?)


 俺は笑顔のままでロペの脳天を軽くチョップした。


 (にゅっ!)

 (俺の犯罪歴は監獄に入る前のままなのか?)

 (犯罪歴も何も全員冤罪だから。そもそも調べられても何も出てこないょ?)

 (出そうな奴ばっかりなんだが・・・。)

 (あ・・・。ガイキン・・・テツだっけ?あのこはヤバいかも・・・。ガチの海賊だったし。)


 「どうかなされましたか・・・?」

 「んにゃー?今日はえらく混んでいるんだねー?」

 

 確かに・・・。モニターから見える範囲ではかなりの数の宇宙船がひしめき合っている。

コロニーからのガイドが無ければ玉突き衝突を起こしてもおかしくない位だ。前後だけではない。様々な形の船が360度すれっすれの距離で動いているのだ。

見える範囲だけでもニ十隻は居るだろうか?


 「凄いな・・・。これだけの宇宙船が並んでいると壮観だな。」

 「本日は何故か、各国の船艇がここフリースコロニーへ停泊を求めてきているのです。皆上へ下への大騒ぎです。殆どの方が手続きが必要な方ばかりのようですので、

渋滞してしまっているようですね。」


 コロニーへの侵入ガイドに乗ってから早三十分の時間が過ぎた。


 ・・・漸くこの船の番か。割と時間がかかったな。早くしないと船のエネルギーが底をついていしまう。


 「それでは審査を行いますので乗員の皆様方は、今しばらく楽な状態で動かずにお待ちください、」


 俺は待ち時間の間に、テツの体にナノマシンを寄生させ、テツの体を弄った。

 まぁ・・・元の体に戻ろうと思えば戻れるし・・・。良いか。


 艦内全てに担当の管理官の声が響き、一瞬、船全体を通り抜けるレーザーの様なものが通ったのを感じた。

 俺はナノマシンに命じ、問題のない情報を渡すようにした。テツに関しても同じだ。

ただテツの場合は、それに加え、肉体を変質させ、普通の人間よりちょっと大きいサイズにまで小さくした。


 (ガイキンに何をしたの?)

 (ガイキン?あぁ。テツの事か。一時的に眷属化して、普通の人間っぽく作り替えた。)

 (それなら大丈夫そうだね。)


 ロペは俺の膝の上に乗ったままで、胸元に顔をうずめハスハス匂いを嗅ぎ始めた。


 「こら。何やってんだ。くすぐったい。」

 「んーーー。眠くなって来たぁ。」


 なんだかんだで、結構な時間が経っている。しかも恐らく徹夜だ。丸一日は眠っていない。俺は眠気は無いが

ロペはまだ普通の人間の習慣が抜けきらないのだろう。非常に眠たそうにしている。


 「銀河きゅんねむぃ~~。」

 「もう着くんだからもうちょっと我慢しような。」


 モニターの前にはジト目でこちらを見る担当官の顔があった。

 

 「とても仲が宜しいようですね。」


 気のせいか若干声が震えているような気がする。というか、額に青筋が出ているぞ・・・。


 「むぅ~~嫉妬見苦しい。」

 「なんですってぇ!!!」


 ビックリした!

 何だ一体、めっちゃ嫉妬に反応しとるやんけ。


 (煽るなよ・・・。めっちゃびっくりしたやんけ・・・。)

 (そんなつもりなかった~~。)


 「ちょっとロペ!起きなさいよ!私より先に結婚したからって・・・ちょっと!聞いているの!?」


ZZZZZ


 しかしロペは眠っている・・・!


 ほんとに寝やがった・・・。スピスピと可愛い寝顔しやがって・・・。


 「まぁまぁ・・・。この後は何かすることがありますか?」


 担当官は憮然とした態度を取り繕うこともせず、膝の上のロペを睨みつけるように答えた。


 「・・・。とくには何もございませんわ。身元の不明な方もいらっしゃらないようですし、おかしな積み荷も無いようですから。」


 俺は内心ほっとしながら苦笑いを返す。身元不明な奴も結構いるんだがな・・・。


 「ならよかった。ここは初めて来るコロニー何で、緊張しちゃってダメですね。」


 しゅぅぅぅんと、小さな音が鳴り、モニター含むすべての電源が落ちた。


 「あれ?予想より時間がかかったからか?エネルギー切れか!」


 「銀河きゅん・・・焼きそばは頭にかぶるモノじゃないよぉ・・・。」


 どんな夢を見ているんだこいつは・・・。


 「ロペ。起きろ。」


 俺はロペの体に微弱な電撃を流し、覚醒を促した。


 「に”ゃ”!・・・・。なに!?なに!?真っ暗だよ!?」

 「起きたか。一応着いたぞ。完全にエネルギーが切れているから出るためにもう一度補給せにゃならんが。」

 「そうだったのかぁ。それにしてもひどいよぉ。熱攻めの次は電撃って・・・。妻にすることじゃない~~~。」

 「悪かった悪かったから。コンソールからでも出来るか・・・?」


 俺はコンソールを通じでナノマシンを浸透させ、僅かにエネルギーを供給し、外部との行き来が出来るように操作を行った。


 「漸く普通の所に辿り着いたかぁ・・・。」


 軍艦に護送船、果ては監獄戦艦、アンティークシャトル。この世界の普通の場所に来たのはここが初めてだな。

とは言えだ。普通の所に来たら来たで、俺にはそういえば先立つものが無い。飯の問題はアレで何とかなるとしても。

泊るところがなぁ。後いい加減普通の服が着たい。全裸か囚人服でしかいたことが無い気がする。そんなことないか。


 「このシャトルは処分するからぁ。新しい船がいるねぇ?」

 「え!?売るの?」

 「うん。退職金の足しにしようと思って、オークションにかけていたら落札されていたでござる。の巻き。」

 「因みにいくらで売れたんだ?」

 「んふふ~~~。十八億クレジット。アンティークって強いねぇ~~。」


 にゃんと。・・・物価が分からんから高いのか安いのかわからん。


 「高く売れたのか?」

 「結構なお値段だと思うょ?ハッキリ言ってポンコツだし。」

 「って、これはお前のじゃないだろう。」

 「いいじゃんいいじゃん。ゼルミィは銀河きゅんのもの。銀河きゅんのものは、私のもの。ね?」

 「ね?じゃない。可愛く言いてもだめだ!・・・じゃないな。まぁ良いか。金は要るしな。」



ーーーーーーーーーー


フリースコロニー28番ドック


 すげーなぁー。俺が考えていたコロニーとは規模が全然違う。そりゃそうか。このコロニー一つで、前世の日本の二倍以上は人が住んでいるのだと、先ほどロペから教えてもらった。

所狭しと大型から小型まで様々な宇宙船が停泊していて、見送りの人や、出迎えの人が俺の立つ停泊スペースのはるか上の方にある、見送り用の部屋の中から手を振っているのが見える。

これは俺の視力が良いから見えるのであって、実際は某シンボルテレビ塔の展望台ぐらいの高さは優にある。600メートル以上の高さの天井があるという話で・・・。奥の壁が見えないほどの奥行きもある。

出港する際には左右の遮断壁が下り、完全に空間が遮断される。それからハッチが開いて出港するのだろう。俺が見ていた壁と反対側の壁は、実は遮断壁だったらしく、

完全に下りた壁が上がり切った頃には、おそらく留まっていた船とは別の船が来たのか、船から人が下りてきていた。

 

 「雨宮。先に降りていたのか。探したぞ。」


 新庄が走り寄ってきた。何かあったのか?


 「どした?なんかあったか?」

 「テツがいないんだ。他の人間にも手伝ってもらって手分けして探したんだが見当たらなくってな。

あいつは出自に問題があるから、あまりうろうろされると非常に困るんだ。」


 あぁ。そうか。海賊うんぬんの話だな。

 俺はシャトル内をスキャンし、居場所を探ってみた。

 ・・・。いるじゃないか。


 「いるぞ?ベッドで寝ているみたいだ。」

 「仮眠室のベッドか?・・・雨宮それは・・・。」


 あっ。説明していなかったな。


 「悪い。説明していなかったな。ここじゃなんだ。一回中に戻ろう。」


 俺たちはシャトルの中の一番広い食堂に集まっていた。


 「すまん。皆に説明し忘れていたが、テツの体のサイズを変更した。」


 ここに集まったファムネシア以外の全員が首をかしげている様だった。

 そりゃそうか。普通何の前触れもなくこんな事言われてもわからんわな。


 「テツは色々な意味であまりにも目立つからな、悪いとは思ったんだがナノマシンで眷属化して俺たちとほぼ変わらないサイズになってもらった。

あいつだけは冤罪じゃないからな。それと同時に、外からのスキャンに対して偽装データをお送り込んだ。そのデータではテツは超人種という事になっている。

スキルなんかは弄れないから、きっとそのままの筈だから、本人にも改めて説明しなけりゃならんが。」


 「銀ちゃん。テツが仮眠室で横になっているのはそのせいなのか?」

 「いや違う。ムチ打ちになったせいだろう。今はただ寝ているだけだが起きる頃には治っているはずだ。」

 「でもよぉ。もう全員で降りなきゃなんねーんだろ?俺ちょっと起こしてくるわ。」

 「たのむ。」


 切嗣はいつの間に仲良くなったのか、ござると連れ立ってテツを起こしに行った。


 「あいつら友達だったのか?」

 「それ酷くない?でも話を聞いた限りだと、別に普通の人っぽいんだけどなぁ。」

 「まぁ。前世は前世って事か。」


 何となく話が途切れて思い思いに思案する。すると食堂の扉が開いた。


 「いやー。首が痛いのなんのって・・・。もう治ったんだが、違和感が取れなくってなぁ。」


 つい数時間前の巨大で、首の九十度に折れ曲がったテツではなく、身長二メートル程の全裸の男がそこに居た。ござると切嗣がタオルや服を持って必死に隠そうとしている姿が実に面白い。


 「はっはっはっ!!!テツ!全裸で何してんだよ!」


 するとテツは今気づいたと言わんばかりに、ござるからタオルをひったくり、腰に巻き付けた。


 「な・・・なんで全裸になってんだ俺は!!誰が「脱がせたんだ!」

 「テツ、お前が仮眠室に来た時は既に全裸だったぞ?」


 とべっちゃんの一言にテツは顔を真っ赤にしてしゃがみこんだ。


 「そうか・・・それで皆俺を避けていたのか・・・・。」


 体のサイズが急に小さくなったことに疑問を覚えながらも、丁度良いと思ったのか、ベッドで横になるためにテツは倉庫から歩いて

仮眠室まで移動していた。しかしそこにたどり着くまでには、元女囚達や、各国の諜報員たちが居て、道を開けてくれていたらしい。

実際は、全裸のおっさんが堂々と歩いてきたから近づきたくなくて離れただけだという事だが・・・。


 「なんていう羞恥プレイ!!雨宮の!酷いじゃないか!、服も一緒に小さくしてくれても良かったじゃないか!」

 「いやぁ。そこまで気が回らなかったんだよ。他の娘達の、ダミー情報の事もあるからさ。お前と一緒で、女囚達は普通に前科持ちだからさ。」


 そうなんだ。検査が行われる直前に気付いて、慌てて情報を見られないように偽装データを送り込んだのだ。何でも女囚たちは右手の人差し指のツメに、犯罪者の証であるチップが張り付けられているらしく。

そのチップがあることで、一発でばれてしまう。あの一瞬でガードから偽装まで、プラス、テツの体の改造もやっていたのだ。多少の落ち度は許してほしいものだ。


 「因みにこれから皆に降りてもらうわけだが。」

 「銀河君何か問題が?」

 「これから問題があるから、そのために事前に手を打とうと思ってな?」


 そういってここに集まった全員に向けて話を始めた。このシャトル、実はこんなに多くの人を乗せられるような機能は有していない。

多くても二百人が精々だ。俺もシャトルが脱出した時はこんなに人が乗っているとは思っていなかった。爆破前に見えた人数は五十人弱位の筈だった。

しかし、実際シャトルに乗り込んでみたら、七百人もの女囚たちが、アンジーの手引きによってシャトルに詰め込まれていた。

助けたら俺のために何か役に立つと思っての事だったらしい。今は悩みの種の一つではあるが・・・。有効活用出来るかも知れないし、それはそれでいいんだが。


 「女囚の皆、人指し指のチップそれを外そうと思う。だがタダで外すような真似はしない。俺に従い、付いてくると、裏切らずに、従属すると誓う者だけ外す。

因みに無理やり外そうとすると、痛いし何より、チップ自体に爆薬が仕掛けられているから、微弱な生態電気が流れなくなった時点でボンっだ。

手首から先は無くなると思った方がいいぐらいの爆発にはなるだろう。そして従う者にはそれなりの恩恵もあるが義務も果たしてもらう。」


 すると女囚の中から、一人手を上げるものが居たため質問を許可した。


 「仮にこのまま外に出た場合、私たちはどうなりますか?」

 「簡単な話だ。出さない。なぜなら俺たちが疑われるから。」


 その一言に横暴だの無責任だのと、やかましい声が聞こえてきた。


 「黙れ。」


 俺は若干睨みを効かせて女囚共を黙らせた。


 「従わないものはナノマシンで分解する。それだけだ。命もクソも無い。さぁ好きな方を選べ。」


 見るからに女囚たちの顔が青ざめていく。アンジーからそれなりに色々聞いているのか、ここから反論するものは出なかった。


 「どうせ貴様らは、人殺しだの、テロだの、そんな非人道的な事をするのに躊躇いの無いクソ共ばっかりだろう。そんな奴らが社会に戻る・・・

社会がそんな奴らを受け入れると思っているのか?」


 俺の言葉に一同が消沈しすすり泣くものまでで始めた。


 「そんなクズは、俺が死ぬまでこき使ってやる方が幸せに決まっているだろうよ。ある程度は自由もくれてやれるし、時期によっては、社会的な立場も用意してやれるようになるはずだ。」


 自分でも驚くほど傲慢な物言いだが、正直に言おう。ヘルフレムの女囚たちは、以前にも感じたことがあるが、謎に美人美女ぞろいだ。手放すなど惜しいのだ。

手元に置いておきたい。これが俺の本音。そう。コキ使ってやりたいという事もある。


 「選択肢はあるぞ?生か死か。二つも選べるなんて贅沢な話だ。本来なら、監獄で死んでいるはずだったのだからな。今ここで消滅するのも何も変わらんさ。」


 その一言に、ある者は泣き崩れ、ある者は口元を抑えうずくまった。そしてその中で一人、俺の前に進み出るものが居た。

彼女は俺の前で跪き偉そうに足を組んで座る俺の足元に口を寄せた。

 俺の後ろにはロペとゼルミィ、そして新庄がいる。新庄は俺に何か思う所があったのか、顎に手を当て何かを考えている様だった。


 「私はあなたに従います。助けられた命のすべてを使って、お仕えいたします。この恩義に報いるためにも、どうか御慈悲をお与えください。」


 彼女は俺のつま先にキスをし、俺に願い出た。


 正直思っていた以上の成果のように思う。半分くらいは俺の栄養になるものだと思い込んでいた。

彼女の行動を見た他のものの行動は速かった。我先にと俺の前に跪き、各々口上を立て俺に忠誠を誓った。

流石に本心でそんな事をいう奴も居ないだろうと思いつつ、俺は自分の足元にひれ伏す女たちに満足し、それぞれのツメからチップをある者に変換し、

それを俺に対しての従属の証とした。


 「生き延びられるというだけでここ迄変わるものか。」

 

 そう呟いた俺の声に反応したのは、初めに俺に忠誠を誓った女だった。

 俺は何気に彼女をスキャンした。


フェイン・ブリゲードル・アース 463歳独身。エルフ種とメロウ種のハイブリッドハーフ


 状態 空腹(軽度)

    感染症(軽度)

    エルフ血毒(中度)

    虚弱体質(重度)


種族スキル 抑制(常時発動)


固有スキル テンプテーション


後天スキル 雨宮銀河の加護

      絶対忠誠

      etc


 ・・・。加護?

 あーーー。そうか、ナノマシンが自己判断で保護対象にしていたのか・・・。それで加護か。

 まぁいいか。俺に忠誠を誓う限りの限定的なものではあるからな。

というか、なんか色々病気やんけ。エルフ血毒ってなんだ!?虚ジャッキーなのはまぁ・・・。個性の範囲?

こっそり治しておいてやろう・・・。


 「主よ。私の顔に何かございますでしょうか・・・。」


 近くでまじまじと見ていると、改めて思うがこの女、息を飲むほどの美人という言葉がよく合う。造形としてしかわからないが、

これほどの美形を今まで見たことが無いな。それだけでもいい収穫だったと言える。


 「いや。何もないさ。今これからの事を少し考えていたんだが、皆を養うには金が要るし、おんぶにだっこのままだと俺がめんどくさい。

何か良い案はあるか?」

 

 俺は直ぐ傍で膝をつきしな垂れかかってくるフェインとその周りに居る全員に向けて質問をした。

すると後ろの方から意見が上がってきた。


 「銀河きゅん、会社でも興してみるぅ?今の時代、いくらでも稼ぐ方法はあるからねぇ。」


 起業か・・・。俺に知識は無いが・・・。


 「安心しろ雨宮。僕が起業については把握している。それに、ここには何人か専門家もいるじゃないか。」


 専門家・・・?


 「ふふふ。私の事ですね?新庄さん。私に任せてください。これでもプロですから。」


 そう言ってきたのは、アンジーだった。


 「これでも私は、ティタノマキア社の跡継ぎになることが決まっていたものですから。・・・まぁそのせいで、親に裏切られて監獄に入ることになった訳ですが。

起業から経営に至るまで、すべて私にお任せください。」


 「頼もしいな。っと。ロペ?このシャトルは何時引き渡すんだ?」

 「多分もうすぐ引き取りに来ると思うんだよぉ。場所を移さないかなぁと思っていたのさ?」


 そりゃ大変だ。


 「どこかこの人数が厄介になれるところってあるかね?」


 流石に八百人近い大所帯だ。ホテルに泊まるとなると手痛い出費になる。というかそんな金は無い。

 自慢ではないが俺は無一文だ。金になりそうなものは確かに持っているが・・・。これはあれだ。


それを手放すなんてとんでもない。


 とか言われるようなものしか持ち合わせていない。エンジンにせよ箱にせよ・・・あっ・


 「新庄。そういえばあの時貰った箱。あれ開けていなかったな。すっかり忘れていたが。」

 「あぁ。あの中にはナノマシンが入っているとか言っていなかったか?」

 「そうなんだが、中まではスキャンできないから何が入っているかは実際にはわからんのだわ。」


 そういって俺は位相空間の中から小箱のほうを取り出して、何気にふたを開いた。

すると、アンジー、フェインを除くすべてのものが壁際に向かって押しくらまんじゅうを始めた。

あぁ・・・。元女囚どもは知らないのか・・・。

 そして箱の中には、宝石の様なものがゴロゴロ入っていた。かなり大粒だ。というか、こんな大きな宝石、

博物館で展示されているレベルじゃないか?あまり詳しくは無いが、青っぽく輝く宝石は、手のひらサイズとはいえ、デカい。

色とりどりの宝石が同じレベルのサイズで無数に入っている。

そしてもう一つ。これはダイヤだろうか?所謂ブリリアントカットと呼ばれるカッティング方式のダイヤは俺の拳ほどもある大きさだ。

デカいなんてレベルじゃない。そんな宝石が無造作に箱の中に入れられていた。


 「・・・・。えぇ・・・?凄い・・・・。なにこれ・・・?」


 アンジーは箱の中を覗き込んで惚けていた。所謂セレブリティの彼女も見たことが無いサイズの宝石達だったらしい。


 「銀河きゅん!その青っぽい宝石!それ凄いものだよ!?どこで拾ったの!?」

 「え!?もらったんだけど。なんなのこれ?」

 

 ロペも宝石に目を輝かせている・・・女っぽい反応というかなんというか。


 「それはソウルクリスタルって言って。この世界の生き物の魂を固形化したものだよ!透かしてみたら、その元になった生き物の人生が見えるって言う曰く付きの宝石だよ。」


 俺は言われるがままに一つのソウルクリスタルを手に取り、目に近づけて覗き込んでみた。


 多くの観衆に囲まれて、ワイングラスを掲げるおっさんが見える。乾杯の音頭を取っているのだろうか?

パーティ会場のようだが・・・。よく目を凝らしてみると、その中の一人に、青く燃える炎のような揺らめきが見えた。

あれがこのクリスタルの元になった人間・・・?か?あ・・・。撃たれた。


 「と。言うような絵が見えた。」

 「成程。その人物、僕は知っているかもしれない。」


 新庄は議員だったらしいからな。ああいうパーティにも参加する機会があったのだろう。


 「そのパーティで死んだ議員は確か、共和国の議員だ。ゼンメツ一族の一人だったんじゃなかったかな?」

 「何その家族ごと殺されそうな名前。」

 「今の太陽系共和国の国家元首が、マキゾ―・E・ゼンメツという名前なんだが。その息子じゃなかったかな?確か。」

 「酷い名前ね。相変わらず。でも、その名前を聞いて思い出したわ。」


 ゼルミィがフェインと反対側の方に回り込み膝の上に乗ってきた。


 「確か、トモダーオーレ・ゼンメツだったかしら?息子の名前。ワタシが刑務官探しの旅に出ているときに、邪教と関係のある人間として

噂を聴いたことがあったわ。」

 「拙者も覚えがあります。クロスチャーチルの仇敵ともいえる教団で、旧教会組織と反目し合う組織、ゼルメル教。でしたかな?クロスチャーチルも大概危険な奴らでしたが、

それに輪をかけて危険だと聞き及んだことがありますな。何でも冥王星圏に神殿があるとかないとか。ここは噂でしか知りませんが。」


パンパン


 「話はいったんそこまでにしましょう?迎えのバスが来ていますから。一旦ウチ迄行きましょう。」

 「あぁゼルミィのうちなら大丈夫か。」

 「そ。うちは誰も居ないしね。使用人だけよ。」


 お嬢か!

 ロペとゼルミィは二人で頷き合い、意志を確認した。


 「まぁ。今日位は何とかなるわよ。それに・・・あっ!駄目だ!」


 ん?何を言っているのだ?


 「ごめん!うち駄目だ!忘れてた!私は死んだことになっているんだった!!」

 「「あ・・・・。」」


 ロペも俺もすっかり忘れていた。そういう事にしないとイケないんだった。


 「じゃぁ家しかないねぇ。まぁ良いかぁ。アメリア―?」


 はーい!と、元気な声で動き出した皆の中から声が聞こえてくる。


 「先にウチに行って皆泊れるように手配しておいて―。」


 わかったー!と姿が見えないままで返事が来た。


 「運転手にはウチに行くように伝えないとね。」

 「ごめんロペ。言い出しっぺなのに。」

 「しかたないさぁ。」


 そして俺たちは百人乗りの大型二階建てバス八台でロペの生家、キャッシュマン邸へ向かうのだった。



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