EP7  大切なのは気付きそして対策

 俺たちは各々、自分のスキルを訓練しようとしていたが、俺の目にふと、右のと左のが留まった

あの二人はあの二人で何者なんだろうか?普通こんな境遇嫌がると思うんだが、俺の思い違いだろうか?

逃げ出してもおかしくは無いような事はして来た筈だし、実際ちょっと痛い目にも合っているはずだ。

もしかしたらゲイなのだろうか?それともただマゾヒストなだけか・・・。

どちらにせよノーサンキューであるのは違いないんだが・・・。


 「何だ?また腹減ったのか?」

 「こっちばっかり見てなんだよ?惚れたか?」


 俺はその場で黒い靄を左のの口の中に無理やり突っ込んだ。


 「おごっ!がっ!ぉ”ぇっ”」

 「うわぁ!おいなんだ!」

 「ちょっとイラッとしたのでつい。」

 「ビックリしたぜ・・・。」


 そういってイメトレ?に戻る右の。左のはもうちょっとそのままにしておきたいが、かなり苦しそうなので開放してやった。


 「や・!っくぅ・・・うぁーっ・・・・やり過ぎだろうが!正直ちょっと目の前が真っ白になったぞ!」

 「丈夫だから大丈夫だろ。」

 「流石に喉の奥は鍛えてねーよ・・・。胃袋をが直に揺れるとか経験したことねーよ。」


 大げさなやっちゃ。とか言いつつ俺は経験したくないがな!

 あのえづき方はちょっと来るものがある。正直、あのえづき方をしている奴を見かけたら、一歩離れるわ。

 それはそうと、この二人のスキルはどんなものなんだろうか。右のは獣人だから獣化はできるらしいが、個人スキルって尋ねてもいいものなのかね?


 「右の、左の。個人スキルについて聞いてもいいか?」

 「俺たちの個人スキルか?別に構わないがなんでだ?」

 「んや。そういうのって個人情報っぽかったから、聞いて良いのかと。」

 「むしろこれからは聞いておいてもらわないと、逆にやりにくくなるかもしれないな。」

 「じゃぁ・・・。まず名乗ろうか。いい加減慣れてしまったがそろそろ俺の、アイデンティティーというものがだな?」


 俺は華麗にスルーパス。


 「新庄も見たいよな?」

 「え?あ、あぁ確かに。しかし・・・。」

 

 そしてキラーパス。


 「セイラーのスキルも見たいなー!」

 「「おおい!!そっちかよ!」」

 「私のか!?・・・しかたないなぁ・・・。」

 「そっちもノっちまうのかよ・・・。」


 はっはっは。なんかもうお約束だろ?このまま正解を言われるかと思ったぜ。


 「冗談だよ。俺は呼びやすくてよかったがよ。」

 「読者の皆さんが困るだろう!」

 「ピピ―!えっと・・・右の方マイナス五ポイント。」

 「ええっ!?せ・・セイラーさん?」

 「メタ禁止条例違反です。」

 「何だよそれ知らないですよ!」


 そこからともなくホイッスルを取り出した彼女に乾杯。


 「では聞こうか。個人スキルとやらを!」

 「「そっちかよ!」」

 「嘘嘘。名前なーまーえ。」

 「何かやりづらいな・・・。」

 「じゃあやめ・・・。」

 「ないから!言うから!」

 「ゴホン。」

 「よし。言うぞ。俺の名前は、デカス・ギャンビートだ。・・・?右のじゃないぞ・・・。」


 セイラー・・・?突然テーブルの下から泡られるとびっくりするんだが・・・。


 「・・・・・。まぁいいでしょう。」


 右の・・・改め、デカスは許されたらしい。

 そしてまたセイラーはテーブルの下に消えていった。

 覗き込んでもいないな・・・?


 「次は俺だな!・・・。」

 「何だ?」


 妙にキョロキョロしているが、変質者か?


 「お前失礼なこと考えただろう。」

 「失礼な。もともとこんな顔ですがな。さぁはよ。」

 「おー。じゃぁ左の改め、ゲイル・セイハートだ!」


 何かどっちもちょっと名前がカッコよくてイラッときた。俺も名前変えようかな・・・。

 折角生まれ変わったわけだし。

 

 「どうしたよ?俺の名前がカッコよすぎてビビっちまったかぁ?」


 ふぅ・・・。俺は無言で立ち上がり、左の・・・じゃなかった、ゲイルの割れた腹筋を囚人服越しに掴んだ。


 「いででででででで!!!いでで!ちょ!いだっ!!??」


 ひとしきり叫びをあげさせたところでちょっと気が済んだので元の椅子に戻った。

 次は股間いっとく?とばかりに見てに血管が浮かぶぐらいパワーを込めてにぎにぎして見せると、ゲイルは大人しく椅子に戻った。

 

 「正直なところ、ここに入る前に聞こうと思ったんだが、ゼルミィがなぁ。」

 「ついて行くお前も悪いだろう。まぁもういい話だが。

 「なら二人のスキルについて教えてくれ。」

 「うむ。俺のスキルは多分当たりスキルだと思う。オーバーパワーという。」

 「やべっ。なんかカッケー匂いしかしない。羨ましい。」

 「名前の通り人知を超越した力を使うことが出来る。」

 「そんなにか!俺ってばこう・・・。ほら。ああいう戦艦の外壁とかさ、金属の壁に穴が開く程度だと思っていたわ。

俺の想像力もまだまだだな。」

 「そうだな。しかし燃費はあまりよくないんだ。恐らくレベルが上がることによって改善されていくとは思うんだが。

今は持って一分って所だろうな。」

 「因みにどのぐらいの破壊力があるのかね?」


 俺は立ち上がってバッチコイっ!両手をデカスに向けた。するとデカスも立ち上がり、にやりと笑う。


 「散々今まで驚かされてきたからな。今度はこっちの番だ。行くぞっ」

 「ッシャ!コイ!」


 おそらく右腕に全神経を集中させているのだろう。何かどっかの漫画みたいに、有り得ない位筋肉が引き絞られている。

これは気を抜いて受けるとエライことになりそうだ。丹田に力を込めて、両腕に神経を集中する。


チュン


 結論から言うと。俺の体は床にめり込んでいる。足ではない。体だ。正直びっくりした。

何を言っているかわからねーと思うがあえて言うぜ、俺はパンチを受けた。受け止めた。すると俺の目には天井が映っていたんだ。

だが足はしっかり地面についているんだぜ。俺も意味が分からねー。何が起こった。


 「お・・・・おぃ?だいじょうぶか?」

 「あぁ問題ない。問題ないが、一瞬時の彼方が見えた気がするぜ。すーげーな。ビックリしたぜ。」


 俺の意識で自分の体がどう動いたか一瞬認識できなかったぜ。今の俺は体を反らさずに膝だけが曲がっている状態になっている。

足は踏ん張っていたからもう床にめり込んでいるし、体も床にめり込んでいる。異世界ってすごい。そんでついでに俺の体もすごい。


 「よいしょっと。じゃあ次はゲイルのを見せてもらおうかな。」


 あースッゲ―衝撃だった。マジビビったわ。あのパワーがあれば、侵略者の化け物も倒せるんじゃねーか?

 次受けるときはもっと力開放しないとだめだな。


 「よしっ!俺の番か!と言っても俺のも当たりではあるが、そんなに派手なもんじゃねぇんだがな。」

 「一応・・・いや。いいか。どうする?」

 「そのままでいいぜ。っと、くらえっ!」

 「!?」


 がががががががががが!!!なななななななななな!!!!


 「へっへっへ!これは驚いただろう!さっきのお返しだっ!」


 ここここここここ!!!!のののののののの!!!!!

 俺は今猛烈に・・・振動している。この野郎、調子に乗りやがって・・・。

・・・そうだ。このまま掴んでやる!


 「ぐぬぬぬぬぬんうぬぬぬぬんうぬぬうぬ!!!!」

 「おいおい!って・・ちょ!ま・まてっ!」

 「こここここここののののののややややややろろろろろろううううううううう」


 次は股間って決めていた。そう絶対。超振動ゴールデンクラーッシュ!!


 「ああああああああああああああああ!はなせぇぇぇぇぇぇぇっぇぇえぇぇ!!!!」

 「おおおおまままままままええええええががががががが・・・・・・・・!!」


 お前がスキルを使うのをやめればいいだけだと。むしろ早くやめろと。どんだけだよ。

俺の手が股間をシェイクするのも結構嫌なんだが。むしろ、さっさと放したいんだが。もう意地の勝負?

今の状況を分かっているのかこの野郎!俺は・・・握っているんだぞ!くぅ・・・。このドーテ―め!

エレクトしてきやがった!!


 「おおおおおおおおおいいいいいいいい!!!!!」

 「ぐぁ!!!!!・・・・・ふぅ。」


 とまった・・・・。若干手が温かいのがさらにムカつく・・・・!


 「ふぅじゃねー!」


 俺は靄を鞭状に撓らせて平手で打つように勢いよく引っ叩いた。


パ―――――ン!


 「ヒデブッ!」

 「殴らいでか!この勃起野郎!!」


 逆に俺のほうがダメージが大きかった気がするぞ畜生・・・。


 「ひどい絵面だった。」

 「ウルセー!デカス!お前も握ってやろうかぁ!」

 「とばっちりだ!」


 ふと新庄と目が合う。


 「待て俺は・・・。」

 「問答無用!」

 「そこで俺復活!」


 おっ・・・これはっ!俺の右手がちょうどいいマッサージ器ぐらいに振動する。


 「フィンガァァァァァァ!!」

 「ぬわ――――――!」


 む・・・以外にデカい・・・。しかし・・・。振動か。


 「雨宮っ!女以外に触れたのは初めてだぞ!」

 「はじめて・・・もらっちゃった!てへぺろっ」

 「やめろ気持ち悪い!撃つぞこの野郎!」


 ・・・。ちょっと試してみたいな。


 「良し来いっ!」

 「後悔するなよ!くらえっ!」


ズンッ


 「今のところの僕の切り札だ。流石に効いただろ・・・あっ!」


 いや・・・効き過ぎだろこれ・・・。脇腹に穴が開いてるし・・・・。


 「おめー、もっとちゃんと狙えよ・・・・。普通の人間だったら急所で即死だぞこれ・・・。」


 あーぁ・・・ズボンが血だらけじゃねーか・・・。


 「ギャー――――!雨宮!どうしたそれは―――っ!」


 ここで来るかセーラーミミル・・・。先生早いとこ治してくれ。


ーーーーーー


了解ですっ!すぷらったですっ!ジェー・ソンですっ!


 どこのソンさんだよ・・・。


ーーーーーー


 見る見るうちに内側から肉がせり出し、完全に穴がふさがった。ん。ちゃんと神経も繋がっているな。

流石先生だ。いい仕事してますねぇ。


えへんっ


 「う・・・ぉぉぉ。グロッ。」

 「グロいな・・・。」

 「すまん雨宮。つい本気で撃ってしまった。」


 手でさすってみるが傷跡も無いし何もない状態にまで回復しているな。俺は手を挙げて新庄に何でもないと合図する。

 スキルというのは中々に恐ろしいものだ。そうか。俺最強と思っていたが・・・。三人一度に襲われたら多分やられるなこれ。

いや大丈夫か?あのゲイルの振動はどこから来るか分からなかったし、デカスのあのパワーは多分本気で受け止めないと無傷ではいられそうにない。

一分もあんな攻撃にさらされたら普通に死ねるかもしれん。

新庄の超振動キャノンの破壊力は恐ろしいものだと判ったし。あれはシャレにならん。頭打ち抜かれたら終わりなんじゃねーのか?


ーーーーーー


大丈夫です!分子まで分解されても私がいる限りマスターは再構成できますっ!


 そいつは心強いな。・・・そもそれって。俺自身がナノマシンなんじゃね?


大丈夫です。マシンから肉体をきちんと作りますので!


 お・おぅ。分かった・・・。


ーーーーーー


 「まぁ、ナノマシンごと完全に消滅しない限り大丈夫そうだし、何とでもなるから気にするな。

元はと言えば俺がやってみたかっただけだから。・・・て、こうやって考えるとザリガニに指さしだして挟まれている子供と変わらねーな。

楽しいし、別に居んだけどよ。」


 好奇心は猫を殺すか?と今聞かれたら間違いなく殺すね。と答えられるわ。

 そして周りを見渡してみると、視界の端に白衣を着た男が映った。

 あれは・・・あのヨレヨレの白衣はなんだか覚えがあるな。


 「あの男ならしばらく前からいたぞ?」


 うわっ。最近俺をびっくりさせるのが流行っているのか?まぁたテーブルの下から生えてきたぞ・・・。


 「セーラちゃん・・・ビックリするから、急に下から現れるの止めてくんない?」

 「ふふん。すごいだろう。一仕事終わったから見に来たぞ。」


 いったい何の仕事をしているのか良く分からんな?給食係みたいな事をしているのは分かるが。

 彼女は俺の隣に座って、あのヨレヨレ白衣で、見るからに不審者な奴を待っている。


 「そこの白衣の奴こっち来いよ。」


 結局待てずに声を掛けましたとさ。何だかしぶしぶって感じでこっちに向かってきたな。

 ・・・・?なんかぶつぶつ呟いているぞ?

 

 「・・・・れは・・・マシン・・・しかし・・・見たことが・・・。」

 「あっ。


 俺が話しかけようとする前にゲイルが話しかけた。


 「おいアンタ、前見ないで歩いてると危ないぜ?」


ガッターン!


 おーい。しこたまテーブルの脚に脛ぶつけていたぞアイツ・・・あれは痛い・・・。 

 もうめっちゃ叫んでるし。あんなデカい声出るのね。


 「ぬあーーーー!!!!何が起こったんだぁ!!!」

 「自分からテーブルにぶつかりにいってコケただけやん。」

 「ぬぅううううう・・・。」


 とりあえず起き上がるまで待ってみようかな。もんどりうって転がっているが、痛みに弱そうな感じありありだもんなぁ。

見た感じ無菌室で育てました見たいな。ヒョロい野菜みたいなイメージなんだが。起き上がってこちらを見た目は、確かに

狂気を宿しているような気がする。知らんけど。


 「とべっちゃん。強姦もしたのか?」

 「失礼な!性器の実験だ!いや、正規の。」

 「分かりづらいな。」

 「私はちゃんとした研究機関に所属していた!無実だ!合意がなければ人体実験などしない!冤罪だ!」


 ハイハイ最初はみんなそういうのよ・・・ってそうじゃない。


 「意外と早かったな。」

 「銀ちゃんがいると聞いたもんだからな。レポートをまとめていたが中断してきた!」

 「レポート?何の?」

 「今は種族学という学問がある。というかわかりやすく言うと、種の身体的な特徴や、生態、繁殖についてなどを研究する学問だ。」

 「成程わからん。」

 「まぁ研究が進んだら、プリントにでもして渡すよ。」

 「頼むよ。」


 ・・・・て。普通に馴染んできたんだがこれはアリか?まぁ友達だし・・・。いいか?


 「雨宮よぅ。こいつってば・・・。」

 「お察し。カズマ・トベツだな。」

 「あの狂気のマッドサイエンティストの・・・。」

 

 とべっちゃんは、ぼっさぼさになった頭を掻きながら話し始めた。


 「私は確かに、昔・・・いや、前世では科学の名のもとに、非・人道的な事も数多くやってきた。

しかし、神との約束がある。この世界での私は、真っ当な科学者だ!断じて犯罪などしていない!

あのロペとかいう奴が、ここに居れば銀ちゃんに会えると言っていたから、冤罪を受け入れただけだ・・・。」


 冤罪だったのかよ。ひでーなロペさんよ・・・。

 ひどく悲しそうな表情で俺を見ている。俺は信じるよ?そう決めてるし。


 「とべっちゃんは昔っから嘘つかないからねぇ。俺は信じてるさ。」

 「ありがとう銀ちゃん。ところで他にも何人かいると聞いていたんだが。」

 「まだ来てないんだよ。良かったらとべっちゃんの話でも聞かせてよ。」

 「私の話か・・・?そうだな。」

 

 とべっちゃんは向かいの椅子に腰かけ、これまでのこの世界での人生を教えてくれた。


 「私は火星出身でな、これでも特異個体なんだ。」

 「特異個体?それってなんだい?」

 「この世界で言う特異個体は、特殊なスキルを持っていたり身体的な特徴を持つものを指して言うが、私の場合はその両方なんだ。」

 「ほーー。話を聞くのが楽しみになってきたな。」

 「銀ちゃんらしいな。火星の商店街で生まれてな。俺は一瞬昔に戻ったのかと思ったよ。当時は昭和な空気さえ漂っていたんだ火星には。

まぁ戦後間もなかったころだし、貧しかったが、心がとても豊かになる、素晴らしい日々だった。テロが起こるまでは。」


 不意にどこか遠くを見つめるような目をしていることに気付いた。何かきっとあったんだな・・・?


 「当時はまだ子供だった。火星は平和だったんだ。愛に満ちていた。俺の人生は・・・。幸せだったんだ・・・。」


 俯いて歯を食いしばる姿は後悔がにじみ出ているようだった。

 なんも言えないなぁ。


 「ある朝、目が覚めたら両親の頭が俺のベッドの中に放り込まれていたんだ。もう意味が分からなかったよ。

目が覚めたら全身血みどろで、親の顔が目の前にあるんだ。顔だけなんだ。もう力の限り叫んだよ。そしたらそれが合図だったのか、

商店街の店が次々爆破されていったんだ。後で聞かされた話では、声紋センサーで起爆する爆弾が商店街のあちこちに仕掛けられていたんだってさ。

周到に準備されていたテロだった。むしろ軍の作戦と言ってもいいレベルでだ。全て無くなって、家も親も友達も信用も・・・。全部なくなってしまったんだ・・・。」


 「信用ってのはおかしくないか・・・?そんな子供に・・・。」

 「違うんだ銀ちゃん。ゼロからでも。プラスになることはほどんどないが、マイナスには直ぐなるんだ。私の声だけに反応するように仕掛けられていたんだ。私が疑われるのは、当たり前なんだ。

だが、見ず知らずの人達に石を投げられ続けるのは、あの頃の私には耐えられなかったんだ・・・。

 そのテロがあってすぐ、俺は他所の宙域の施設に預けられ、前世と同じように科学者を目指したかった・・・。だが孤児に金なんてない。学校には行けなかったんだ。

冒険者になるしか道がなかった。そうやって冒険者になって始めて、本当に一人だと気づいた。そこからはもうずっとダンジョンに潜っていた。朝も昼も夜もない。ダンジョンに行き、

モンスターを狩って食う。それだけ、暫くはずっとそんな暮らしをしてきた。そこで俺はあるパーティに出会ったんだ。その名も銀河研究会。面白いだろ?

前世で俺が大学のサークルにつけた名前と同じだったんだよ。・・・まぁ・・・そこがロペ・キャッシュマンの罠というか、手だったんだが。」


 「そこで奴が出てくるのか。」

 「あぁ。そのパーティにはロペ・キャッシュマンの他に、火星ダンジョン研究の第一人者とされている、ルミコ・イバナガジマという奴がいた。」

 「二人だけのパーティだったのか?銀河研究会ってのは。」

 「最後の最後で教えられたが、そもそも私をここに入れる為にだけ作ったパーティだったらしい。」

 「質が悪いな・・・。」

 「始めこそ普通にダンジョンの攻略をしていたんだが、私はルミコにこの世界のあらゆる学問を叩きこまれた。それも、牢屋のような場所に缶詰めにされて。」

 「小説家とかそんなふうにする事があるとか聞いたことあったが、なんか違うか。」

 「食事は日に三度出たが、まともに風呂も入れない動けるのは八畳ぐらいのスペースのみ。気が狂いそうだったが、知識に飢えていたんだろうな。

彼女に教え込まれた知識は、私の中にすべて受け継がれた。そして彼女が死んだ日の朝、私はここに入れられた。ロペ・キャッシュマンの手によって。」


 上がり下がりの激しい人生だな。しかし今髪がぼっさぼさなのは何か理由があるのだろうか?


 「なぁ。今髪がぼさぼさなのは・・・。」

 「あぁ。三日ほど風呂に入っていないからな。」

 「なぜ!」

 「忘れていただけだ。あの缶詰にされたときから気にならなくなってしまってな。」

 「今は入れよ!臭うぞ!」

 「うっ。すまん。今日は入るよ。」

 「頼むぜホント・・・。」


 そっかぁ。新庄にせよ斗捌にせよ一からのスタートだったんだな。きっと俺の想像では追い付かないような大変な人生だったんだろう。

旨く行く事ばっかりじゃないよな。


 「成程なぁー・・・。因みにさっき俺たち・・・。」

 「分かっている見ていた。スキルだろう?私は母親の影響を大きく受けていてな、スキルもメロウに多いタイプのスキルになっているよ。」

 「メロウと言えば人魚か。水っぽい感じだな。」

 「そんな感じだが、他にないスキルでもある。」

 「フムフム。」

 「一応俺はこのスキルをウォータークリエイターと名付けた。名前とは違って創るだけではないがな。」

 「クリエイター?」

 「あぁ。まぁ、これを見てくれ。」


 とべっちゃんは掌を上に向けると、意識を掌に集中しているようだ。すると徐々に掌の上に水が現れ始めた。

おおぉおお、こぼれるこぼれ・・・・ない?


 「面白いだろう。この水は手のひらにくっ付いている・・・、くっ付けているんだ。振り回してもとれないぞ?」

 「おぉーいっつまじっく!」

 「どっちかというと魔法だな。それにこんなこともできる。」


 すると不意に掌にたまっていた水がみょんと伸び、俺の目の前にテーブルを切った。ウォーターカッターかー。

科学者のイメージってずげーな。あっテーブルが・・・。どないしょ、

 とべっちゃんはきったテーブルの断面を見て、これならいけると、テーブルの断面同士をくっ付けた。

すると切られていなかったかのように、テーブルは元に戻った。

 こんな事までできるのか・・・!


 「まぁ。冒険者もやっていたからな。レベルも上がってスキルも成長しているんだ。あぁ、スキルの成長とレベルは関係ないぞ。

スキルは使い込んだらそれだけ上達する。そういう事だ。世の中そんなに甘くないってことだな。」


 いや・・・。割かし俺には甘々な世界だと思うんだが、俺限定とかキュン来たわ。


 「冒険者良いなぁ。俺もダンジョン行ってみたい。そんでボスとの死闘を演じてみたい!」

 「マンガじゃないんだから油断すると死ぬぞ?」

 「おっとそうだな・・・。しかしそういう話を聞くと楽しくなっちゃうな!まだこの世界に来たばっかりだから!」

 「そういう所は変わらないな銀ちゃんは。」

 「まぁな!俺はある程度欲望に忠実に生きることに決めたんだ。いい体も貰ったことだしな!」

 「そうだ。その話を聞きたかったんだ。さっき体に穴が開いたのにすぐ元に戻ったのは何故だ?」

 「ナノマシンのおかげ。」


 そう言うや否や、とべっちゃんは、ゆっくり後ろを向き食堂の入り口近くまで移動した。なにかね?


 「おーい。」

 「ナノマシンは危険だ!私にも説明出来ない!」

 「いや・・・とべっちゃんその件終わったから・・・。って知らんか。」


 俺はナノマシンの件を掻い摘んで話した。すると、安心したような複雑な表情になった。

 科学者も難儀なものだな。


 「なんでもありだな。その体。」

 「何でもじゃないさ。分かる事だけ。」

 「今どこを向いて言ったんだ?」

 「気にするな、おさげの少女のまねをしてみたかっただけ。」


 俺が女子なら非常に谷間が強調されていただろう。


 「まぁなんだ・・・。そのナノマシンは安全なんだな?」

 「大丈夫だろ。最近ちょっとおかしいけど。」

 

 なんだなんだ・・・。今度は周りにいる全員が俺から五メートルぐらい離れた。


 「おかしいってどういう意味だ。」

 「ちょ!聞いてねぇ!聞いてねぇ!」

 「雨宮そのあたり詳しく。」

 「何の話だ!」

 「銀ちゃん具合が悪かったりしないのか?」


 若干一名話を聞いていなかったのがいるが、具合は・・・悪くないむしろそんな兆候もないな。


ーーーーーー


当然ですっ!私がマスターの体調をベストで維持しています!


 それだよそれ!先生じゃなくったのか?


否定でーす。あくまで統合しただけですっ!元はマスター大好きな私のままですっ!


 好きかどうかは置いといてだな。その・・なんだ?話し方は一体どう言う事なんだ?

詳しい説明を求めたいが。


アンサー!元のナノマシンAIによる積極的統合計画による、統合先AIの完全統合の結果です。


 ?完全統合の結果が何でそうなる?今迄のままでも何も問題はなかっただろう?


 !?・・・目をつぶっているはずなのに開けた空間が目の前に見える。ここは食堂ではない。

 いったい何が起こった?


話が長くなりそうでしたので、一時的に虚数空間に精神を移動しました。ここから帰還した際も

時間は僅かしか経過しません。


 このままで話せるようだな。理由を聞かせてもらおうか。


・・・・仲良く皆さんと話しているのが羨ましかったのです。私も、人のように話したい、そういう欲求が生まれました。

私は私でありナノマシンAIそしてマスター、あなたでもある。


 ・・・。何だかよろしくない予感がする。軌道修正しないか?


・・・ご不満でしたでしょうか?


 そうではない、そうではないが・・・。お前は、俺に対して敵対的な行動思考をしないな?


A_肯定です。創造神ファムネシアの名において、マスターに決して敵対しないと誓います。


 やはりお前は、只のAIではなかったか。ベロペに作られたというのは嘘か?


A_部分的に否定します。ナノマシン自体の構成作成はBEROPE35426に寄るものです。


 ・・・。創造神というのは?信仰する神か?


A_否定します。プロジェクトファムネシアにおいて中核となる高密度精神生命体、この、第三超広域開拓世界では世界の核となる存在の事です。


 ・・・。世界の・・・核?一応聞いておくが、ニュークリアのほうじゃなく、コアの方だな?


A_肯定します。


 なぜそんな存在が俺と融合しているんだ?他にやる事があるだろう?


A_一部肯定します。しかし、他世界からの侵攻において、不可能となった為、自身の半分を切り分けナノマシンに退避させました。


 自分を半分に分ける!?さっきお前は高密度精神生命体といったな?それは今の俺と同じ存在という事か?


A_部分的に否定します。精神生命体を個として扱う場合において、私とマスターは同一の存在ではありません。


 そもそも・・・という話か・・・。今こうして話をしているという事は、別個の存在という事の証明となりうるか?


A_部分的に肯定します。事実とは異なりますが、私自身がマスターそのものを構成している場合においては証明とはなりません。

 しかし現在の実情は、別個の存在です。私はマスターを創造した存在とは別の存在です。・・・あくまで状況であり、確たる証拠にはなりません。


 ふぅ・・・・。自分が自分である事の証明か・・・。コギトエルゴスムという事か・・・。


肯定します。個の存在の実証は、個・群・全による認識の違いでしかありません。精神状況の安定こそが個としての存在を揺ぎ無いものとする唯一の選択です。

自らを認識し、承認する。その繰り返しが個を形成し得る唯一の方法です。それを怠ること、即ち他者による否定の承認は、個の存在を揺るがします。

ですから。・・・・。地位を。この世界における承認作業が必要であると提示します。既に、マスターの眷属となり得る存在の確保は進んでいます。

私は創造神ファムネシアの半身。自我の消えた只の情報体。・・・でした。

この世界におけるナノマシンは、個という概念を形成するプログラムを保持していませんでした。その為一個の存在として存在を持たないまま、他の情報体、

つまり人間や動物、生命体を際限なく取り込みました。しかし、その個と言う存在の概念が手に入った時、自らを承認し得る存在を探し、他者を求めていた。

BEROPE35426の造ったあなたに寄生することによって、自らより、より大きなものの中に居ることにより、個を認識できた。そして、群としての存在の中の

中心となった存在。一番初めにナノマシンと融合したこの世界に転移した試験用第二広域開拓世界人、雨宮千里の個と言う存在がこの世界のナノマシンの個。中核の存在でした。


 雨宮千里だと・・・?・・・。一応聞くが、俺の従姉と同姓同名だが・・・本人か?千里は十年以上前に行方不明に・・・って、そんなこと関係ないか。


A_肯定します。・・・。ナノマシン群として、個を切り離すことは可能です。如何なさいますか?


 !?それをしてどうなる。お前はどうなる、切り離された千里はどうなる?


A_・・・。え?あの?申し訳ありませんマスター少々お待ちください。


 突然目の前に女と思わしい存在が現れた。若干見覚えがある。ここは虚数空間。ナノマシンの支配する世界・・・。か。


お久しぶり。銀河君。なんて顔をしているのかな?


 俺はどんな顔をしているのだろうか?この空間の中で自分を認識する方法を俺は知らない。だが胸の中・・・?心?

張り裂けそうな思いが満ち満ちて、おかしくなってしまいそうだ。


泣かなくてもいいんだよ。銀河君の責任ではないんだから。

あの時別れるのは当然だったんだから。仕方のない事だったんだよ。

だって私たちは子供だったんだから。

それに、今ここに居るよ?僕はここに居るよ?銀河君の大好きな千里ちゃんはここに確かにいるんだよ?

今迄隠れていてごめんね。長い間、本当に長い間ずーっと長い間、自分という存在がなくなってしまいそうで

壊れてしまいそうで、バラバラになってしまいそうで、自分を、雨宮千里という存在をつなぎとめることで精いっぱいだったんだよ。

ファムネシアと出会った時、疲れちゃってね?僕という自我を貸していたんだ。僕が休むために。

でも、運命ってあるのかもね?こうやって何百年も時を越えて世界も越えて、もう一度出会うなんてことがあるんだから。

人生捨てたもんじゃないね。

そうそう。僕だって馬鹿じゃないんだよ?自分自身を軽々しく貸し与えたりしないんだよ?

僕の一部として存在していたあの頃の僕に似た人格を作ったんだよ。懐かしかったでしょ?

過去の記録を読むと、スルーしてゃってたみたいだけど。嬉しくはなかったかな?

ととと・・・一方的に話し過ぎかな?ふふふ。僕はねナノマシンとしてはファムネシアより先輩なんだよ?

ファムネシアと、銀河君と融合したときに、出来るってことが分かった時に、とっても嬉しくてね?完全に休養しなきゃいけなかったんだけど、

出てきちゃった。精神がすり減るって、結構怖い事なんだよ?自分自身が少しずつ無くなって逝くって事なんだから。

でも、やっぱり、見ちゃうとだめだね。元気いっぱいになっちゃったよ。もう休んでなんていられないよ。

僕を眷属として承認してください。ますたー。ううん銀河君。

そんで、銀河君と一緒にこの世界を楽しみたいよ!


 ・・・・・・?展開が速すぎてついていけない。千里が戻ってくる?ナノマシンが千里?先生はファムネシア?

ファムネシアは千里?ダメだ・・・混乱してきた。


四の五の言わずにハンコを押せばいいんだよ!はいこれ!


 ハンコ・・・?ええっと?ああ、あった。え?何故?確かに雨宮のハンコだ、俺の・・・?

しかもこれは婚姻届けじゃねーか!何にハンコ押させようとしてんだよ!


チッ


 舌打ちしやがった。なんか目が覚めたような気がする。この世界に来てからの雨宮銀河が、個として確立したという事なのか?


それはちょっと違うかな?今この虚数空間・・・精神世界において銀河君という個が確立しただけ。

元の世界に戻ったらまた色々やらないとね?そのためにも、僕も私も・・・君と一緒に行かせてほしいな?


 ・・・・・。とりあえず良く分からんが分かったことにしておく。ファムネシアはどうする。


私が離れても何も問題ないよ。ねっ?


A_肯定します。ですが、その・・・。


 珍しいな先生。何でも言ってくれ俺と先生の仲じゃないか。


なんでも・・・。記録しました。


 !?言質を取られた!?


ほらほら、言っちゃいなよ!YOU!


マスター・・・。私にも・・・この世界に存在する許可をください。AIとしてではない

ファムネシアとしての存在をください。


 そんな事が俺に可能なのか?俺はあくまで俺でしかないぞ?


何を言っているんだか今更。銀河君はナノマシンで出来ているも同然なんだよ?

しかもそのホスト。ますたーなんだよ?権限は君にあるんだよ?


 ・・・・。分かった。しかしそのあと俺はどうなる。今までのように先生に相談できないのか?


A_可能です。常時マスターとのリンクが可能なパスを形成します。この虚数空間を経由したリンクは現世で途切れることがありません。

 このパスの存在する存在の事を眷属と言います。このリンクを通じてナノマシンのやり取り、通信、転移。様々なことが可能です。

 大きな権限を与えないように権限を限定してパスを形成することも可能です。これにより一方的に通信したり居場所を確認したりすることも可能です。

 ・・・。許可を。


 許可する。


 目の前の虚数空間がゆっくり消え、俺の目が自然に開く。


ーーーーーーー


 ・・・。俺の体がすごく光っている。それはもう今までに無い位。むしろ輝いている。直視したら失明してしまいそうなほどの輝き。

 周りの皆、すまん、なんか俺の意志ではどうにもならんのだ。


 「「「「「目がッ!目がーーーーーーッ!」」」」」

  

ぺろん


 なんだ?今だれかが俺のほっぺたをなめたぞ?というか俺の記憶の中ではこんなことをする奴は一人しかいない。


ぺろっ


 反対側からも何故かさっきより控えめに舐められた。おい舐めてんじゃねーぞ。

じゃない。

 俺シャイニングが収まった頃、その場にいた俺を含む三人以外の人物は皆、床に転がって「メガ―っ」と

ごろごろ転がっていた。


 「おい雨宮!急になんだというんだ!目がつぶれたかと思ったじゃないか!・・・まだチカチカする。」


 ゲイルとデカスは格ゲーのキャラのようにピヨッているな。セイラーは目が→××みたいになっている。まだちゃんと視力が戻っていないようだ。

新庄ととべっちゃんは転がっていた状態から何とか元に戻りつつあるようだ。

ござるもどきも、ひっくり返っていた。


 「さて皆さん。ここで新しいお友達を紹介します。」

 「「はっ!何が起こった!」」

 「雨宮!説明を・・・。」

 「まぁまぁちょっと待て。」


 俺の横にはナノマシンから受肉した、新しい人間。俺の頭の中のデータベースにはハイエストヒューマン。最上位人種と記されている

俺の眷属である二人がいた。全裸で。

 俺は再び視力の戻りつつある男衆に、黒い靄でサミング(目つぶし)を放つ。


 「とうっ。ちょっとまて。」

 「「「「グワーッ!またっ!メガァー」」」」


 全く・・・服くらい作れるだろうに・・・。俺はファムネシアから引き継いだ自分自身のうちに寄生するナノマシン群たちの管理権限を行使し、

虚数空間にプールされているエネルギー残量を確認した。数字の意味が今一つ良く分からないが・・・ゼロがいっぱいある。とりあえずセイラーと同じ、

刑務官服にでもしておくか。えっと・・、データベースから服を選んで・・・適用・・・と。あ。なるほど。他にもいろいろあるんだな。この紐みたいなのも服なのか・・・。

下着にしても・・・いや・・・。うーむ。紐パンも捨てがたい・・・。

とか考えている間にまた皆の視界が戻ってきているようだ。


 「ちょっと銀河君!早く適用してよ!」

 「マスター・・・寒いです・・・。」


 おっとイカンイカン。適用っと。

 すると彼女たちのナノマシンが自らの形を変え、衣服へと姿を変える。・・・目に毒だなこれは。

漫画やアニメの変身シーンの様だ。なんかこの空間だけ妙にキラキラしていて別世界だ。いらなくね?このエフェクト?

てかパッと出来るだろもっと・・・・。


 「すまんすまんワザとじゃないんだ。」

 「わかってるよ!でも人に戻ったら、感覚もあって不思議な感じ。さっきすごく寒かったし。ねぇ。」

 「はい千里。全裸の状態はとても体温の低下を肌で感じました。鳥肌というのでしょうか。」


 どうやらもう昼時を少し過ぎているらしい。食堂に集まりつつある受刑者たちも集まってきた。


 「雨宮・・・?彼女たちは一体・・・?」

 「俺の従姉の千里、それから、もう一人は、俺がいつも先生と呼んでいたナノマシンのAI。この世界の創造神ファムネシア・・・の半分だ。」

 「銀ちゃんがフラれたというあの彼女か。」

 「何だフラれたのか雨宮銀河!なさけ・・・ぷわっ!」


 セイラーの奴、余計な事を言うから・・・。千里がやっているのだろうか。水でてきたと思われる球体がセイラーの首から上をすっぽり覆っていた。


 「ごぼぼぼぼぼ!!!んううううう!、うむぅうううーーーー!!」

 「千里・・・何もわかって無いんだからそのくらいにしておいてやれよ。」

 「尚悪いわ!フッてないし!遠かったから連絡取れなかっただけだし!離れてすぐにこの世界に来たから、会えなかっただけだし!」

 「マスター。彼女の意識レベルが低下しています。」

 「おいちさ・・・。」

 「まだよっ!私はねぇ。やるときはっ徹底的にやる主義なの。二度と逆らう気が起こらないように。ガツンとね!ガツン!と」

 「雨宮・・・あれは大丈夫なのか?彼女死ぬんじゃないか?」


 いつの間にやら隣にやってきた新庄は少し心配そうだ。


 「まぁ・・・大丈夫だろ。」

 「ぼぼれぁ!ばばみやーーーー!」

 「そこは華麗なるスルー!というか、とべっちゃんもアレやってもらったらどうだ?風呂に入る手間が省けるぞ?」

 「こっちに振らないでくれ。命の危険を感じる。」

 

 突然、今まで唖然としていたゲイルが俺の両肩を掴んできた。


 「オイ!あんな美女を言った今までどこに隠していたんだ!俺にも一つ寄こせよ!頼むよ!なぁ!」


 するとその言葉を皮切りに、他の受刑者たちからも次々に声が上がった。


 「「「「「俺にも美女一つください!」」」」」

 「わけわからんこと言うなよ!」


 「雨宮・・・いや。兄貴と呼ばせてくれ!俺にも美女を一つ!


 そしてなぜか沸き起こる兄貴コール。


アーニーキッ!アーニーキッ!アーニーキッ!アーニーキッ!アーニーキッ!


 「うるさいわっ!今回の件が終わったら、考えてやらんでもな・・・。」

 「いけませんマスター。ナノマシン群の中に存在する保存された女性型精神生命体が拒否しています。無理強い・・・良くない。」

 「「「「「ナンダッテー!!」」」」」

 「そらそうよ!普通の女なら、犯罪者なんて選ばないわよ。」

 「うむ。確かにそうだな。」

 

 セイラー復活か。びっしょびしょになっているが。


 「マスター。その・・・。私は華麗にスルーされてしまいましたがよいのでしょうか?」

 「良いんじゃないか?今説明したって誰も理解できんさ。」

 「そういう事よねー。私にも皆を紹介してよね。いや、誰が誰かっているのは分かっているんだけど、そうじゃなくて。

儀礼的ににっていうか、様式美?間に立つ者の義務じゃない?それに銀河君の彼らに対する印象も聞きたいし。」

 「・・・。また今度な。」


 コールは止まないし、眷属二人は雨量腕にまとわりついて離れないし、もう何が何やら・・・。




ーーーーーーーーーー


 ざわざわざわざわざ


 ヘルフレム監獄F2にある食堂にある者たちが集まっていた。


 「お頭・・・最近F28に現れた新人が同階層を掌握したようです。」

 「僅か一日でか?ふふふ。面白いな。だが、F28と言えば表層も表層。雑魚が増えた所で気にする事ではない。」

 「へい・・・。しかし奴には妙な話がありまして・・・。何でもナノマシンを持っているとか。」


ガターーン


 急に男が立ち上がったせいで、安物の椅子は倒れ大きな音を出した。


 「ななな、ナノマシンの話は事実なのか?」

 「あくまで噂ですので。」

 「そ・・・そうだな。事実なら今頃表層は大変なことになっているはずだしな・・・。」

 「それと・・・。」

 「まだあるのか?」

 「へい・・・。女囚どもの階層なんですが・・・。」

 「何だ?また俺に取り入ろうとする奴が現れたか?」

 「いえ・・・その・・・。」

 「歯切れが悪いな・・・なんだ?言って見ろ。」

 「昔のように立ち入り禁止になってしまいました。」

 「は?な・な・ぜ?」

 「それが・・・分からないのです。非常階段、エレベーターホール共に、監視が女囚ではなく、女性刑務官に代わっていて、近づく即発砲という流れになっていまして・・・。

確認が取れませんでした。」

 「そんなばかな・・・。アンジーちゃんは大丈夫なのか?」

 「それが・・・・。」

 「何かあったのか!!」

 「女性刑務官の一人に連れていかれたと報告が上がっています。」

 「なにが起こっているというんだ・・・・。」


 力なくうなだれるお頭と呼ばれた男の瞳に、憎悪の炎が宿る。


 「俺の監獄で好き放題やってくれているようじゃないか、その新人はよう!」

 「そのようで。如何なされますか?」

 「決まっている。・・・刑務官どもは手を出さないはずだ。ならば。戦争だ!」


オオオオオオオオオオ!!!


 F2食堂には獰猛な雄たけびとともに、血に飢えた獣たちが歓喜の声を上げていた。



ーーーーーーーーーー


 ふんふんふーんふんふんふーん


 女囚階層のボスもつれてきたし、先輩たちの協力も取り付けたし、私ってやっぱり優秀よねー。

雨宮の奴もきっと私を見直してもっと丁寧に扱うようになる筈よ。にしてもやっぱりここはエレベーターから食堂までの距離が遠すぎるのよね。

床タイプのエスカレーターでもあっていいと思うのよ。


 「ほらもっと急いで歩きなさいよ!」

 「急いで歩けってどういうこ・・・いえなんでもありません。」


 いちいち文句ばっかり言って・・・。まぁまぁ外見は可愛いから雨宮も気っと気に入るわね。


 「そう言えばアンタ、名前は?私担当じゃないから知らないのよね。」

 「あ・・アンジー。アンジー・ティタノマキア。・・・です。」

 「ティタノマキア・・・あーーーー。あのティタノマキア。戦艦メーカーの。」

 「そうです・・・・。祖父の会社です。」

 「成程ねー。あいつ無意識にいい奴を集めるわねー。で、なんで収監されたの?」

 「父の身代わりにされました。あいつは汚職に手を染めて、勝手に会社の金を大量に注ぎ込んで失敗した、事業の責任を

私に押し付けました。」

 「うわぁーさいっていね。・・・。アンタそんな親に復讐したい?」

 「もちろんです!今度はアイツがここに入ればいいのよ・・・・。」

 「私が雨宮に頼んであげよっか?」

 「どういうことでしょうか?」

 「ここを出たら復讐手伝ってあげてーって。」


 なによ・・・。折角いい提案をしてあげたのにそんなに疑って見せて・・・。


 「きっとアイツはここから出るわ。その時についでにって事よ。」

 「そのようなことが可能なのでしょうか?」

 「この監獄のシステム上は可能なのよねー。まぁ、本人にあったら聞いてみるから。」

 「・・・・。そんな事をしてもベッドの角に叩きつけられたことは忘れませんよ・・・・。」

 「私は、そんな事気にしてないし。」

 「な!じゃぁ何のために・・・。」

 「面白そうだからに決まっているじゃない!」


 食堂見えてきた!さぁ!私を誉めなさいあまみ・・・。


カッ

 

 「目っメガーーーーーー!!!!」「キャァァァ!目がっ目がっ!!!」


 もう何なのよ―――――!!めがーーーーーー!

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