EP8 襲撃は返り討ちを含めて襲撃
アーニーキッ!アーニーキッ!アーニーキッ!アーニーキッ!アーニーキッ!
アーニーキッ!アーニーキッ!アーニーキッ!アーニーキッ!アーニーキッ!
何だ一体・・・。この状況は?
おれは確か、とべっちゃんと話をしていただけのような気がするんだが?
何か女が増えた。そしてこの兄貴コールは何だ。
「雨宮の兄貴!俺にも女作ってくれ!」
「俺は幼女がほしい!」
「ばっか!女は乳だろ!?」
「何言ってやがんだ!尻に決まってんだろ!」
「っざけんな!ふともも以外有り得ねぇだろうが!」
「お前らわけわかんねこと言ってんな!くるぶしに決まってるだろうが!!」
「「「「「それは無い。」」」」」
「え?」
好きな女の部位論争が始まっているが。何のリターンもなくそんな事をするつもりもないし、裏切るかも知れないこいつ等にそこまでしてやる理由は無い。
それに・・・女はバランスだろうがっ!全ての部位のバランスがすべてだ!一部が大きいなんてもってのほかだ!
女の体にはそれぞれ黄金比がある!!個体それぞれにだ!顔面、骨格、身長、そこからパーツ!一つでも欠けていればだめだっ!
だが俺はそれを自分で作り出す術を手に入れた。完璧だ!ふふふ・・・。最高のボディを創ってやんよ!
「マスター。私は最高のボディですか?」
「ぶっ!」
千里が盛大に飲んでいたコップの水を吹きだした。
「まだまだだな。ファムネシア。だがそこは成長の余地を残してある。だが。素体は完璧に作った!後はお前の努力次第だ!」
「はいっマスター好みの存在目指して努力します!」
「アンタは世界を救うのが先でしょうが!」
千里はそういった後、自らの胸を見下ろしこちらを見上げた。
「私は?」
「無いな。」
無言で拳が飛んできた。あっぶね。かなり本気だった。髪が切れたぞ・・・。
「フンだ!どうせ私は胸が無いですよ!」
「何を言っているんだ?」
俺は心底意味が分からない。目をしっかり見て説明してやらんとだめだな。
「いいか?よく効け?胸は大きくなる。お前まだ十八だ。俺が確認したところ、ハイパーヒューマノイドの体には、第三次成長期というものが設定されている。」
「は!?二次成長の後にまだあるの!?」
「そうだ。一時成長で精神と骨格が、二次成長で筋肉と脳が三次成長で女性らしさと、内に宿る魂が成長するんだ。」
「これからフェロモンが出るのね?」
「そうだ。まだ早い。」
「じっくり育ててね?」
「任せろ。お前も俺の女だ。」
キュン来たなこれ。俺を見つめる目が潤んで女を意識させる。
だがまだ子供よのう。
ぬわっ!、また本気の拳が飛んできた。
「も?」
何だこのオーラパワーは・・・。荒ぶる鷹を起こしてしまったのか・・・?
奴の背には、不死鳥と見紛うオーラが、神々しいまでに立ち上っている。
「もって!なに!他に居るの!?」
「居る。当然だろう。あれからどれだけ時間が経っていると思っているんだ。」
「うそぉ。なんかやだぁ。」
「ならもう人間はやめにして、別の何かにするか?」
「飛躍しすぎだよ!そうじゃない!」
「確かに。ワザとだが。俺は自分の意志でこの世界に染まった。だからそれで行く。お前もそれで来い。」
「う・・・うん・・・。なんか凄い圧を感じるんだけど・・・?」
「この世界も、力が全てだからな。俺はそうやって生きていくことにした。やりたいようにやって好きなように生きる。それがマストだ!」
「じゃぁ私もやりたいように生きる。」
「俺を倒せるならな・・・。」
不穏な空気を察したのか、周りのはしゃぎ様が嘘のように静まり返った。
「マスターにかなうことはあり得ません。すぐに謝罪を。千里。」
「いや・・・そうじゃなくって・・・。生きたいように生きるのが最優先なんでしょ?」
「そうだ。」
「私の優先順位は?」
「二番目かな?」
「一番じゃないの?」
「当たり前だろ。」
何を言っているんだそんな当たり前の事を言って今更どうする?
俺はゆっくりと、そして確実にその対象を指さす。親指で。
グッ
「俺が最優先だ!」
「他の女じゃないのかよ!お前かーっ!」
今一瞬このはげーってどこからか聞こえた気がする。
気のせいか。なんかゲイルがまた余計な事を言ったんだろう。
まず優先すべきは自分だ。それから大事な人・モノ。それが出来なきゃ、他の幸せなんて今の俺には願えない。
・・・。もうちょっとしたら考えられるかもしれんが、今は無理だ。考えたくない。
ナノマシンで、並列思考が出きるっぽいが、そんなに忙しくしたくもない。かといって暇じゃつまらない。
好きなように生きたいんだ。今の俺は。そんな考えがあるから、自己中になれたんだ。
もう自分じゃない奴の利になるような生き方は、やめたんだ。
全部おれの。全部やる。それでいい。
「今はそれでいいだろ?まだ脱サラして、半年もたっていないんだから。」
「えっ?あんた脱サラしたの?って脱サラって何?」
そうか。千里の元世界の記憶は18歳の時点で止まっているのか。まだそんな言葉は無かったな・・・。
時間の流れっていうのは残酷な部分もあるな。時と場合によりけりだが。
「脱サラっていうのは、サラリーマンを辞めるってことだ。自分からな。」
「なんで辞めたの?」
「色々としんどくなったんだよ。またそのうち話す。というか、ナノマシンとして居た時にそういう情報は、調べたりしなかったのか?」
「しないというか、出来なかったというべきか。ねえ?ファムネシア。」
「はい。完全に融合したときに、一度試みましたが、精神防壁を突破できませんでした。」
「やろうとはしたのか。」
「ま・まぁね。」
「まぁそのうちな。そのうち。」
俺は話を打ち切って椅子の背もたれに体重を預けた。
気持ちがないわけではないんだが・・・。タイミングが遅かったんだよな。今じゃないんだ。
「なんだかちょっと納得いかないけど。そのうちよね。そのうち。」
「あぁ。それまでに気持ちが変わっていなければな。」
「あー。それ無い奴じゃない?」
「勘ぐり過ぎだ。言葉の通りだから。そっちの気の迷いの可能性も・・・。いやなんでもない。話す気になったら話す。」
「なんかさっきより遠くなってない?」
「それだけ時間がたったってことだ。」
そう言った後、俺は食堂の天井を仰ぐように見まわした。すると自然とため息が出た。
・・・。いやな奴になったもんだ。俺は。この状況は面白くない。他人に自分を理解することを求めたりはしない。
だが、考えるくらいはして欲しい。わがままでももう良いんだ。俺はそういう奴になった。
これはもう変わらない事実。そして変わるつもりもない。むしろ、俺は変える方を選ぶ。
前は自分を変えなければ生きていけなかった。競争に勝ち残れなかった。そんな下らない事をもうする必要がない。
無いんだ。世界が気に入らないなら、俺が世界を変えればいい。力はある。だが悲しいかな・・・俺には知恵がない知識がない。
ナノマシン・・・ファムネシアの半身から手に入れた知識は、あくまでこの世界に来て見えた部分だけの事。
まだまだこの世界は広くて大きい。そしてきっと、今の俺の好奇心は、銀河を越える大きさに膨れ上がっているに違いない。
アレもしたいこれもしたい。あれも知りたいこれも知りたい。大きすぎて見渡せない位には育ってしまった。
このほんの数週間の間に。だがこの状態には希望しかない。出来るのだから。以前とは違う。出来ない、ではないんだ。
だからやる。やるんだ。
「銀河君・・・?その・・・。」
「マスター。マスターの希望は私が全力でサポートとします。」
おや?なんだ急にしおらしくなって・・・ってファムネシアは元からこんな感じだったか・・・?
「感情を千里に借りてからは、少しは皆さんに近づいたかと思うのですが。」
俺はまじまじとファムネシアを見つめていた。この娘は俺が作り出した最初の作品。・・・というか、ナノマシンを使って科学的に作り出したとはいえ、
今思うとこれは神の領域に足を踏み込むというか、五体投地ぐらいしてないか?全力でというか、普通に人間作っちゃったんだが。
なんか余計なものを敵に回しそうな気がするなぁ。
「大丈夫よ。銀河君は私が守るし。」
「どこの誰のまねだソレは。
「私には昨日の事のように思い出せるし。というか、自我とか意識とかの問題だけど、私もこの世界で自分でいるの初めてなんだよね。」
まぁそれはそうか。引きずり込まれていきなり精神崩壊とか。ベリーハードを越えているな。敵に触れたら死ぬ昔のアクションゲームみたいな難易度だな。
「そうね。ほんと。何が起こったか認識する前にごばって。津波か雪崩に飲まれた感じ。」
うむ。今の俺なら津波何か一発で・・・って。
「ナチュラルに人の心を読んでるんじゃねーよ!」
「仕方ないじゃない!コネクトしっぱなしなんだから!まだ完全に切り離しが出来ていないの!」
「はい。マスター。」
徐々に感情表現が豊かになるファムネシア。今日中に普通の人間位になるんじゃないか?
シュタッと勢いのままに右手をぴんと伸ばして俺に意見をしてきた。
「ファムネシア。どうぞ。」
「千里との間にわだかまりがあるように感じます。後、エーテルコネクションの接続は、切れると眷属でなくなってしまう可能性があります。」
「むぅ?つまり独立して動けるという事だろう?何か問題が?」
「自我が保てなくなる可能性があります。なぜならそれは、その人種、人間としての存在を確立し、固定しているのは、マスターのスキルだからです。
正確には、マスターのスキルの一つです。現段階で切り離してしまうと、スキルの影響下から離れ、元のナノマシンにも戻れないかもしれません。」
「・・・元のナノマシン自体ナノ過ぎて見えんが、具体的にどうなるか聞いて良いのか?」
何かドロッと崩れて肉塊になるとかないよな?グロいグロい。
「マスターの影響範囲から切り離されることで、根底に存在する基幹プログラムを使用する必要性が出てきます。
可能性の話ですが、もう一度バイオ・・・ナノマシンハザードが起こるかもしれません。」
「えらいこっちゃないか。それを止める術はあるのか?」
「ありますが、先ずは予防・・・起こらないようにすべきではないかと。」
「そのままにしておけと。・・・・・・・?何か見落としているかもな・・・・?」
何だろうこの感じ・・・・?
・・・・・・・・・・・・あっ。
ロックもしてないし、パスも設定して名パソコンは危険。そんな事は当たり前だな。
つまりロックしてパスワードをつければいいという事だ。なんだソレで良いのか。
「という事でロック、カギをかける。というかかけた。」
こういうのはイメージでいいらしい。かちりと、鍵をかけるイメージ。シャットアウトするイメージ。
これで覗かれていないだろう。
「・・・。むぅ・・・。」
「ファムネシア?どうした。」
「防壁を突破できません・・・。」
「いきなり攻撃を仕掛けてくるんじゃないよ!」
「ホントだ。聞こえなくなった。」
「どこから聞いていたんだ?」
「「椅子に座ってから全部。」」
「全部じゃねーか!」
「だから私の事はそこまで気にしなくてもいいのよ?私が変わるから。」
「無理に変わる必要は・・・。」
「変わるから!絶対変わるから!そんで傍に居るんだから!」
「はいマスター。私も成長します。」
ファムネシアのダークグレーとでもいうのだろうか、深いキラキラした瞳と、その俺を見上げるしぐさの可愛らしさに、つい
頭を撫でてしまった。可愛いは正義か・・・。
「ちょっと!もう私だって年下なんだから甘やかしなさいよぅ・・・」
自分で言っていて恥ずかしくなったのか、それっきりそっぽを向いてしまった。千里は昔からそういう所があったな。
お姉さん風というか優位に立ちたい・・・とはちょっと違うかもしれんが。そういう立ち位置でありたいと思っていた節があった。
「ふぅー。なんだかなぁ。」
すると廊下の方からずんずんと、足を踏み鳴らして肩を怒らせた猫耳刑務官、ショウコ・カリバーンが戻ってきた。その後ろには、なぜか血の後のついた服と、額にでっかいコブの出来た女がいた。
「やぁお帰り。」
「た・・ただいま・・・。」
来るなり急にもじもじしだした。ちらちらとこちらに目を向けてくるが、あえてスルー。というか、横の彼女、若干頭も剥げているし・・・なんか・・・。やり過ぎじゃね?
「あんた大丈夫か?どこに髪の毛落してきたんだっていうぐらい、ヤバいことになっているぞ?」
「「えっ”!!」」
すると確認したいのか自分の姿が映る者を必死に探しているが、もちろん監獄にそんな危険物になり得るものは無い。
ショウコはそんな彼女にそっと自分の手鏡を差し出した。
「ぎゃーーーーーーー!!!な・・・なんなのこれぇーーーーー!!!ひどーーーーーーい!!!」
「マジゴメン。全然気づかなかったわ。」
「ごめんで済むかぁ!!!!あなたはどれだけ私を傷付けたら気が済むのよぅ!!!ぼ・・帽子っ!バンダナでもいいからぁ・・・あわあわ。」
すげー気の毒な位うろたえているな。一体何したらあんなになるんだか・・・。どんな説得だったんだっていうな。
ショウコが連れてきたという事は、あの子が女囚たちのボスなんだろう。仕方ない、ここは俺がアプローチしてみるか。
俺は食堂の端っこで青い顔をして、自らの引きちぎられた髪に思いを馳せて、逃避している女に近づいた。
「こんな事を男の俺が言うのもなんだが。元気出せ?」
「元々はあなたのせいでしょうに!あわわ・・・。」
俺の方をグッと涙を堪えて見返した女は、頭から手を除けてしまった事を思い出し、すぐに髪を手で隠した。
「責任取りなさいよぅ・・・。」
「そうだな。良いだろう。どんなふうに責任を取ればいいかな?」
「ど・どんなってそれは・・・。・・・うっ。」
ほろりと涙がこぼれる。髪は女の命とはよく言ったものだ。
「俺にできる範囲でなら何でも聞こう。」
何でもと言いつつガバガバな返答をする俺。だって死ねとか言われても困るし。
「ぉ・よ・・・。」
「なんだって?」
嘘だ。俺には聞こえたがあえて聞き直した。違う返事を期待しての事だが、この女にも思う所があったのか、また同じことを言ってきた。
「責任を取って嫁にしなさいよって言ったのよ!」
「仕方ないなぁ。じゃぁそれで。」
「「「えっ!?」」」
若干離れて聞き耳を立てていた千里や、ショウコ、そして本人までもが予想していない答えだったのか、もう一回言ってと密着してきた。
近い近い近い。それ当ててんだろ。そしてまな板当てんな。
「ほ・・・本気で言っているの?」
「むしろ冗談で言っていい話ではないだろう?それに俺にそんな冗談を言って、何をしようとしたんだ?」
若干凄みを効かせる為に、スキルの靄で女の頬を撫でてやった。
得体のしれない何かに頬を触られたことで、嫌悪感を抱いたのか、腰を抜かしてしまったようだ。
しかし俺は畳みかけるように、ギリギリ鼻先が当たるくらいまで近づいて、じっくり目を見ながら話を続けた。
「冗談なんて!・・・いまさら言わないよな・・・?・・・んんっ?どうなの?その辺詳しく聞かせて欲しいんだが?」
「あの・・・。え?その・・?えっと・・・。っぅ・・。ぐすっ。」
これだからすぐ泣く奴は・・・・。ってワザとなんだけどな。
ここから俺の新シナリオ。謎の女ルートが始まる。じゃないな。
俺は女の膝裏と、背にそっと手をやり、自分で確保した椅子に座りに戻った。
「おっ!・・・おひっ!」
「あれは伝説の!」
「もうちょっとでみえ・・・。」
「くるぶしが可愛いな・・・。」
俺はそんなギャラリーの喧騒を聞き流し、マイスゥィートモードへとチェンジする 。
「ふっ。なんてな。冗談だよ。責任はとる。お前の好きなようにしてやるさ。手癖の悪い猫が悪い事をしたな。」
俺は先ほどナノマシンを吹きかけて修復した綺麗な髪を指ですきながら、優しく耳元でささやいた。
こいつはいい実験台になる。ナノマシンの効果の実証実験にな。今の俺にはこの女のほぼすべての情報がナノマシン経由で送られてくる。
そう、髪を治した時に、体の中までナノマシンを浸透させたのだ。俺の息がかかる鼻から、耳から、皮膚の穴から。
さて・・・。どうしてくれようか・・・。この監獄の中に居るという事は、死ぬまでここに居ろと宣告されたに等しい。助け等来ない。そして監獄も間引きを提案するほどには困っているしな。
脳を完全に・・・ってなんだ俺の服をぐいぐい引っ張るのはだれだ。
「マスター、お楽しみのところ申し訳ございませんが、お客様の様です。」
恥ずかしいのを我慢してまでやっていたのにこの野郎・・・・。
俺は自分の体から靄が溢れるのも気にせずに、精一杯憎しみを込めた視線を客に向けた。
すると、割と大勢の客が来ていたらしく、先頭の奴を皮切りに、将棋倒しになった。
一番前に居たやつは泡を吹いて倒れている上から、優に3メートルはあるような巨体に圧し掛かられてエライことになっているようだ。
だが殆どの奴が気を失ってしまった事で、結局こいつらが誰だかもわからないな・・・。
「あれは・・・ハラス一家!」
「ハラスメント一家ぁ?」
「難聴ですかっ!ハラスです!は・ら・す!」
「シャケ?」
「あの・・・ハラスじゃなくって・・・いやハラスなんですけど・・・。さかなじゃなくってぇ・・・。」
「分かってる分かってる。」
良く見ると中々いいとこのお嬢さんじゃない?この娘。そこはかとなくこの腕に伝わる感触といい、女性特有のこのフレグラン・・・・?て香水とか手に入るのかよ?
まぁ、今はどうでもいいんだけど。アイツら何もん?ハラスとか言っていたが覚えは無いな・・・。
おれは、俺の中での女性ランキングをグングン更新していった腕の中のこの娘を、とりあえず椅子に座らせて、折り重なるように倒れ込んでいる汗臭い男どもに近づいた。
「おーいこの中で返事が出来るやつはいるのか―?」
問いかけに答えるものがいない。全員失神中?
しゅっ
!!何かが飛んできた。若干頬をかすめたそれが折り鶴だったことが余計に俺を驚かせた。
・・・この中に・・・仕事人が・・・・っ!
居る訳ないか。
「なかなか面白いものを投げてくるな。折り鶴とは。」
「ふっ。昔からの憧れでね。その憧れは、俺に奇跡のスキルをもたらした!その名も!・・・ぴゅん!」
何やら抵抗するような気がしたので、つい殴ってしまった。イカンイカン。すぐ手を出すダメ絶対。
「マスター。伸びてしまいましたよ?」
どこから持ってきたのか、お箸で先ほど伸びた仕事人かぶれをつんつんしながら、ファムネシアが俺を見上げた。
「とりあえず括っておくか。おまえたちっ!やっちまいなっ!」
「「「「「「「「「「エイサー――!!」」」」」」」」」」
何それどこのお祭り・・・?
そして何事も無かったかのように、時間が過ぎ、俺たちは飯を食って立ち上がった。
「さてこの娘どうするか。ほんとに嫁になるのか?」
「ええ。強い男に惹かれるのは女の本能ですっ。」
見た目と違って結構肉食女子だな。正直どこのお嬢さんだよって言う位には華奢なんだがな・・・。
「じゃぁ二番目ってことになるのか・・・?」
「えっ?」「「チョーっと待ったぁ!」」
おっとーここでちょっと待ったコールかぁ!
じゃない。
千里とショウコが、俺の腰から下になかなかの勢いでタックルを決めてきた。
それ反則だから!アンダーへのタックルは反則っ!
「なんだおまえら、いきなりタックルしてきて・・。」
「何だはこっちのセリフなんだけど!銀河君二人目は私じゃなかったの!?」
「いやそれも今少し考えたんだが・・・三人目?」
「増えてる!誰が増えたの!?」
「あ・・・。マスターもしかしてあの方ですか?」
「うむ。彼女はいろんな意味で手放せないからな・・・。危なっかしいし。」
そんな事を話しておなご共がやいのやいのし始めた頃、さっきの50人ほどの集団が目を覚まし始めた。
若干・・・いや、かなりアンモニア臭いが。とりあえずちょっと離れて放置しよう。
「貴様ら!この俺を誰だと思っていやがる!」
「いきなりそんな事言われてもな・・・。なんだっけ?セクハラ?」
「ハラしか合ってないっ!」
「はら・・・はら・・・・!」
はら・・・といえば!ダービー!
「3000点の人か!?」
「意味わかんねぇよっ!!!」
なんだ・・・?このナノマシンのパワーを持っていても、こいつの事を思い出せない。
まぁどうでもいいんだけど。
「で?ハラスメント一家が何の用だ?」
「何だ覚えてんじゃッて!間違ってるっ!?」
「もう名前なんかどうでもいいから。ここに来た理由は?ちゃっと言ってちゃっと帰れ。」
「ぐぬぬぬぬ!なめやがってぇ!!!!」
むぅ?なんだかこいつのオーラのようなものが、大きく膨れ上がっていくような気がする。正直今ここの階に居る全員より弱いのだけれど。
いや・・・ここで油断してはいけないと学んだはずだ。どんな迷惑スキルを持っているか知れたものではないからな。
「へへへ・・・この俺にスキルを使わせるとはお前なかなかやるじゃねぇか。おれのてしたに・・・がッ!」
しまった・・・あまりに不快な言葉が聞こえた気がしたのでつい殴ってしまった・・・。
「てめ・・ごっ。がふっ!ち!やめっん”っ!」
もう何か無意識に反応して殴っちゃう。こいつ恐ろしいやつ・・・。まさかこれがこいつのスキルの効果か!
やられた・・・。油断しないようにしていたのにっ!油断していたっ!
「お前なかなかやるじゃないか・・・。」
「ぅ”うぇ”?ぬ”ぁ”んで?」
うわぁ。顔面がひどいことに。もうちょっと離れよう。
「俺をここまで操るなんて、そんな奴今までいなかったぜ!おめーつえーな!おらびっくりだ!」
「??」
「何をやっているのですか?」
ん?腰抜かしたんだから座ってりゃいいのに。
「立ち上がって大丈夫か?」
「おかげさまで。彼女たちからあなたの話は聞きました。でも私はやっぱり、確かに自分の利益もありますが、あなたに嫁入りしたい。そう思っています。
短慮を起こしたのではありません。計算と意思に基づいた判断ですから。」
今までしばらく彼女を見て止まっていた、顔面をブドウのように腫らした奴が急ににじり寄ってきた。
「ん”ん”ん”ん”ん”ん”ぁ”ん”じぃ”---!!」
「い・・・いやーーーー!!」
彼女は俺の後ろにとっさに隠れ、涙目になりながら、奴に人指し指を向けた。
そしてその指をスーッと横に狙いを定めるようにゆっくりと動かすと、ドサッという音とともに、奴の上半身が床を転がって俺の目の前に来た。
ちょっとしたホラー映像だなこれ。
そして俺の後ろに回り込んだ彼女の俺の腕をつかむ力は、普通の人ではありえないほど強力なものだった。興奮していたのだろう。だが恐らく、
俺以外の人にあの力で掴みかかると、たぶん握っている腕がミンチになるのではなかろうか?
「なぁ。あいつは何者だったんだ?」
「アイツはストーカーです!!私がここに入る前からずっと私を追いかけてきた変態です!」
「そ・そうか・・・。」
「ついやっちゃいましたけど・・・その・・・ごめんなさい。」
「いや・・・むしろ手間が省けて良かったというか。最終的に減らさなきゃいけないし・・・。まぁ良いんじゃない?誰も困らないし!」
「そういっていただけると・・・。」
なぁみんな・・・っと後ろを振り返ると、彼女も後ろを振り向いた。
すると彼女の力を恐れたのか、皆がテーブルを盾にして隠れに入った。あんまりじゃね?
「おい皆ひどいぞ?これから仲間になるって言うのに。」
「・・・ぐすっ。」
「ほら!先生許しませんよ!皆ごめんなさいは!?」
「「「「「「「「「ごめんなさい・・・。」」」」」」」」」」
「うむっ。」
しかし皆はテーブルの裏からは出てこなかった。
「にしてもその力はすごいな。何をしたんだ?」
「私のスキルで・・・。ディメンションカッターと言います。」
やだ・・・。その名前カッコイイィ・・・・・。
「目で見える範囲なら何でも切れる力です。」
「何でも?」
「目に見えていれば・・・ですが。」
「素晴らしいな!その力!いい力じゃないか!いい名前だしかっこいい名前だし!!」
「は・・はぅ・・・。そんなに褒められても・・・。」
必殺技みたいで超カッケー!何それ・・・。羨ましい・・・。
「で?雨宮銀河こいつらをどうするんだ。また食堂を汚物まみれにして・・・・。」
「居たのかセーラーミミル!」
「何か呼ばれ方のニュアンスが違って聞こえるが!!」
「冥王星に代わってお仕置き・・・。いやなんでもない。確かにこの汚物はどうするか・・・。」
「何人か死体も転がっているし・・・ショウコ?仕方ないから死体だけ調べましょう。」
「そうね。あぁ臭い・・・鼻が曲がりそう・・・」生きてるやつはポイね。」
そういって刑務官二人はせっせと死体と生きている者たちをより分けていく。
結構死んでいる奴がいるんだが・・・俺は同の真っ二つになった奴を除いて何もしていないんだが・・・?
なぜ死んだ・・・?
「二人とも。死んだ奴は何故死んだかわかるか?俺さっき何もしていないんだが?」
「数人は心停止、数人は圧死・・・。体がちょっと切れている奴は、そいつに・・・、アンジー・ティタノマキアに
巻き込まれたのだろう。それに・・・。二人ほど首から上の無い奴がいるな・・・。」
ちょ・・・何それ怖い。
「こっちを見ないでください!私じゃありません!」
「無くなった頭はその辺にあるのか?」
「・・・いや。無い。断面は非常に汚い。むしろ断面というより引きちぎられたようだ。」
「それは俺がやった。」
一番下で気絶していた巨体の男が、他の気絶している奴らを押しのけて立ち上がった。
お・おおきぃ。凄く・・・大きいです。三メートル以上はありそうなんだが・・・。彼デカくない?
「お前でっかいな・・・。」
「あぁ。俺もここまでデカくなると思わなくてな!おかげで女探すのも一苦労だ!」
ガハハと大口を開けて笑うこの男は・・・。頭が上の方にあり過ぎて気付かなかったが、若干見覚えがあるような気がする。
「俺は一目見て分かったぜ?なぁ雨宮の。」
「お前高橋か・・・。テツ!」
「あまみやのぉー!」
俺は懐かしい再開に暑苦しく抱きあっ・・・てててててててて!!!!いい!痛い痛い痛い痛い!!!!
「放せ!痛い!苦しいんじゃ!」
「おっと・・・いつまでも前世の感覚のままじゃいかんと思いつつも、なかなか抜けなくってなぁ!」
「にしてもお前でっけーな。前も相当デカかったが、今はそんなレベルじゃねーぞ?」
「お・おう・・・。四メートルはあるからな。」
「そらデカいわ。俺の二倍以上あるじゃねーか。巨人ってやつか?」
「んー・・・多分そうだと思うんだが・・・。何せ親の事は知らないからな・・・。物心ついたときには既に孤児院に居て、体がデカくなったら追い出されたからな。」
「何気に酷い人生歩んでいるな・・・。」
くいくい
ん?今度は千里か。
「銀河君この人は知り合いなの?」
「千里も知っているはずなんだが。高橋だよ高橋鉄重」
「テツ!?」
今の千里は身長百五十も無い位だからなぁ・・・。必然的に首全開で上を見上げることになっている。三倍とまではいかないが、それに近いぐらいの差がある。
大人と子供とかいう構図とはかけ離れている。観音様を見上げる子供みたいになっている。
構図的に千里が可愛い。若干萌え。
「おっきくなったねぇ・・・。」
「なぁ?デカいデカいとは思ったが目の前で見るとちょっとやりすぎ・・・。」
「待てよ二人とも!俺だって好きでこんなにデカくなったんじゃない!!たぶん親のせいなんだろうが・・・。居ない奴の事を何とか言ってもどうしようもない。」
「まぁそりゃそうだな。で。こいつらは仲間じゃなかったのか?」
「いや・・・俺はただの野次馬だったんだが・・・。食堂の入り口の段差に躓いてな・・・。」
あぁ・・・確かにほんの数ミリの段差があったような気がする。
「ソレですっコケたと。」
「おう・・・。たまたま掴み易い所に合ったものを掴んで立て直そうとしたんだが・・・。」
「それがこいつらの頭だったという事か。」
「まぁそのデカさを首だけで支えるのは無理だろうし、ちぎれてもしょうがな・・・。」
「無くないよね!?みんなおかしい!てか人死に過ぎじゃない!?」
「千里ぇ・・・何をいまさら。そのために、減らすために俺はここに居るんだぜ?」
とは言えだ。確かに千里の言う事の居も一理ある。この世界はこれから大きな戦が控えているんだ、戦力となりうる人間を減らしてもいいものか・・・?
ソレこそ、死刑囚なら最前線でデータ収集でもさせれば、犬死にはならないだろうし、役にも立てていい事だらけのようにも思えるがなぁ。
・・・。そんな事を考えていると、なんだか殺すのが惜しくなってきたぞ?俺にはナノマシンがある。最悪脳を改造して真人間にしてやることもできる筈。
そうだな・・・。あっ。今思い出した。あの海賊の矯正した奴らはどうなっているんだろうか?多分命令しないと動かないような気がするんだが・・・。
「あまみやの?どうした?」
こんなデカい奴に顔を覗き込まれたらびっくりするわ。顔面もデカい。千里の上半身よりでかいんじゃないか?
もう壁だなこれは・・・。
「いや・・・ちょっと気がかりなことを思い出しただけだ。特に急ぎの話ではない。それよりテツ。今からお祭りをしようと思っていたんだが・・・。
手伝ってくれんか?人手がほしくてな。」
「そいつは構わんが、ついでに俺の仲間も使ってもらってもいいか?あいつ等はF2に居るんだがよ、あそこの警備は厳しくてな?日に何度も移動出来ない様になっているんだわ。」
F2・・・最下層の一個上か・・・。戦力にはなりそうだが・・・。
「テツ。そいつらはどの位役に立つか教えてもらってもいいか?なんせ海賊はバカしか見ていないもんでな。」
「おー。そうだな・・・。うまい飯を作れる奴がいる。のと・・・。」
「採用。おっけー。じゃぁ詳細を詰めようかー。みんな集合―。」
「雨宮は食事のことになると凄いな・・・。」
「あぁ・・・初日はひどかったが・・・。」
「あんなことになるとは思ってなかったのは確かだなぁ。」
「あの雨宮は封印すべきだ!・・・怖いし・・・。」
「私もそれは賛成・・・ちびりそうだし・・・。」
「??何のお話ですか?」
「知らなくても良い事はあると思われます。」
テツの仲間なんだ、そこまで弱くはないだろう。そういえば、下の友達に声をかけに行った、ヤサ男はどうなったかな・・・?
一番下のほうまで行ったからな。
ーーーーーーーーーー
F8にて
いや・・・。まさかとは思ったがあいつ等がここに、こんな上の階層に放り込まれるなんて思っていなかった。
アイツら絶対困ってるなぁ。確かにワーカーの技術は一級品だが、本人ははっきり言って一般人だ。生身で渡り合える奴らなんていないはずだ・・・。
どんな目に合っているか、想像するのは難しくない。正直仲間だと入っても、長年付き合ってきたわけでもないしな。
ちょっと声をかけてダメだったらすぐに帰ろう。
エレベーターが到着し扉が開くとそこに見たことのない奴が立っていた。
「よっ、お出かけかい?」
「はっ。ちょっと女のとこによ。」
ナム・・・。そこにはきっと雨宮の手が伸びていることだろう。今のアイツは得体が知れない。
あの拙者拙者と言っていた奴も、何とか説得できた。まだアイツが俺に気付くのは後になるだろう。
その前に俺は俺のやる事をさっさと終わらせなければ・・・。
手伝ってもらうのが一番いいのだろうが、あいつはアイツで色々ありそうだ。
・・・。ソレにちょっと・・・というかあいつかなり怖い。昔からあんな奴だっただろうか?もっとこう、普通?
特徴のない奴だったような気がするんだが。まぁ、俺が一緒だったのは高校までだから、変わっていてもおかしくは無いし、
アレが地だった可能性も否定はできない。どちらにせよ、見極める必要がある。
俺にはこの世界に家族がいる。親父もおふくろも。弟や妹だっている。仕事でなきゃこんな所に入る事なんて、まっぴらごめんだ。
もう死にたくなんてない。あんな苦しい思いをするのは二度とごめんだ。次死ぬときはサクッと死にたい。今でもまだ夢に見る。
自業自得とはいえ、あれは・・・えぐかった。だがあいつはそういうのは・・・そう言えば昔からアイツはそういうの平気だったな。
痛みにも強かったしグロ耐性も高かった。騒ぎこそすれ、嫌悪しているようには見えなかったな。
今考えるとそれはそれで異常だな。
「さて・・と。相変わらずここは血の臭いがひどい。吐き気がする・・・。」
カツカツと見覚えのある長い廊下を歩き、暫く進むと目的の部屋に到着する。
コンコン
ノックをするが返事は無い。かまわず中に入っていく。
「いそがし・・・い?」
目の前に広がっていたのは、分かりやすい血の海。仲間はまだ生きているようだ。
「おいっ!しっかりしろ。いったい誰がこんな!」
「た・・・たすけ・・・。」
ひどい状態だ・・・。生きられるギリギリまで血液が抜かれている。恐らく立ち上がることもできないだろう。
こんなことが出来るのは、人種の亜種である、吸血鬼。他にもいることは居るが、俺が知っているのはダンジョンに居るモンスターだけだ。
「すぐに助けてやるからな!くそっ。あちこち歯型が付いていやがる。」
「い・・・・そ・・・。」
「喋らなくていい!とりあえずお前たちだけでも!」
俺は急いで干からびて死ぬ寸前で、体重も軽すぎる。二人一緒に担いでも余裕で運べそうだ。
ここからエレベーターまでは急げば十分もかからない。敵対者に出会わなければ・・・。
出来る事ならスキルを使いたくない。しかし仲間の命には代えられないな・・・。
俺のスキルは目立ちすぎるが、やるしかないなっ。
・・・。俺は両手に力を込めてイメージを固める。俺の目の前の空間は・・・・F28に繋がって・・・いや。
F28の食堂に繋がっている!
「ぬううぅうぅうううう!!!」
俺の両手から青白い光とともに。バリバリと、電撃でも走っているかのような激しい音が鼓膜を刺激する。
そして目の前の何もない空間を引き裂いた俺は、二人を背負ってそのまま中に飛び込んだ。
空間と空間の狭間、本来物体の存在しない、し得ない空間をゆっくりと進んでいく。
じれったい!走りたいが・・・!今の俺ではこの空間で走ることは何故かできない・・・。
遠目に見える光の方へ、ゆっくりと、ゆっくりと、泳ぐように進み、足が捕られそうになる中何とかたどり着く。
「ぶはぁ!!・・・っはぁ!はぁっ!はあっ!」
ぐあぁぁ・・・苦しい・・・。
周りを見回すが・・・おかしい。ここはどこだ?何だここは!?
見渡す限り白い空間。上も下もわからない。こんな葉所に来たのは初めてだ。
何もない。だが・・・。狭間の空間とは違う。ここは一体・・・。
(狭間から落ちてしまったのですね)
「誰だっ!」
(ここは世界の核。あなたの求めていた場所ではありません。すぐに立ち去ってください。)
「立ち去ってくださいって言われても!」
(ではそこに入りなさい。ここに居てはいけません。)
姿の見えない存在との会話が途切れると、目の前に確かに見えるF28の光景。
「済まなかった。すぐに出ていく。」
(雨宮様によろしくお伝えください)
!?
俺は一体何と話をしていたんだ・・・?
注意深く周りを確かめると、確かにF28だ。
・・・急がないと。
俺は二人に負担をかけないように、ゆっくりと食堂へ向かって歩き出した。
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