EP1 あずかり知らぬこと
そこには何もなかった。まっくらな空間だ。上も下もわからない。そもそも目を開いているのか閉じているのかさえ分からない。
手足の動かせる感覚も全くない、何もない俺も・・・居ない?じゃあ今のこれは何だ?俺は・・・。おれ?・・・わからない。
わからない。わからない。わからない。わからない。
何もない。
「起きてほしいんだよねぇ?」
ん?
「そのまま拡散してもらうとすっごく困るんだよ」
拡散・・・?何かが私に触れた
「そう。そのままゆっくりこちらを感じて」
感じる。感じる。
「そうそう。そんな感じ」
感じる。感じる。感じる。
「もう大丈夫じゃないかねぇ?ゆっくり目を開けて自分を感じて」
感じる。感じる。感じる。感じる。目を開ける。目を・・・。
何かが体に触れた。腕。何かが体に触れた。足。
「見えるかい?雨宮銀河。君の名前だよ?わかるかい?聞こえるかい?」
意識が覚醒する感覚がする。夢?体に何かが触れた。尖った棒のような何かが触れた。
「あ。あー。」
「そうそう出来るところからゆっくりね。君がこの世界に馴染むための、第三超広域開拓世界に馴染むための、練習だよ」
意識だけが覚醒した。目は見えない。耳は聞こえる。まだ何かが私に触れている。先ほどと同じだ、金属の棒?のような何かが頭をコンコンと叩く。
「高次元存在は精神質量が大きすぎて肉体になかなか馴染まないんだねぇ」
頬に金属の棒のようなものが押し付けられる。瞼が動く。開いている?閉じている?いや、開いてはいない。
「でもこれ以上肉体を改竄する権限は僕にはないんだねぇ。頑張ってほしいなぁ」
指先に感覚が戻る。ある。在る。足に力が入る。在る。腕に力が入る。在る。存在する。確かに。
「君にはたくさん聞いてほしい事があるんだねぇ。もうすこしだよぉ」
のどが振るえる。動く。体に力が入る。首が動く瞼が開く。ひら・・・く?
「うわ・・・マジキモイ。」
「なんだかひどくないかねぇ?いっぱいお手伝いしたのにねぇ」
吐きそうだ。寝そべった状態でいるみたいだ。もう普通に動けるみたいだな。なんだったんだろうさっきまでの感じは。
何もない・・・。ヤバい背筋が寒くなってきた。生きていたのか・・?死んでいたのか・・・?
「そろそろ話をしたいんだけど、いいかねぇ?どこまで覚えているかねぇ?」
「覚えて?あぁさっき?さっきのことか?さっき?わからん。感覚が変だ話をしたか。したのか?誰と。そうか。」
思考が纏まってきた。すると目の焦点が合っているようで合っていなかったことが理解できた。瞼は開いたが見えてはいなかったな。
「目が見えるようになる感じっていいな。世界が開けるような晴れやかになるような。でもお前は純粋にキモイ」
「やっぱりひどくないかねぇ?」
目の前には非常に不可解な、いや、不愉快な物体がいる。なんだこいつ、妙なフォルムしやがって。丸っこい胴体?に妙ほっそ長いのはこれ足のつもりか?
足なのかこれ?何か良く見ると、超細かい歯車が動いてるんだが。超小さい自転車のチェーンみたいなのも動いてるし、ナニコレ?というかさっきからこいつが喋ってるのか?
「なぁ」
「なんだい?」
「馴れ馴れしいなこの野郎」
あっ。つい突っついてしまった。・・・うわぁ・・・。超ほっそい足?で器用に床?を掴んでしなるようにビヨンビヨンしやがった。キモイ。
「悪い。キモくて耐えられなかった」
「やっぱりひどくないかねぇ?」
暫くビヨンビヨンしなってようやく止まると、丸っこい胴体のような部分から謎の小型銃のようなものが出てきた。ちょっと、吐き出したようにしか見えないんだが。
これを一体どうしろと。
「これはナノマシンアンプルなんだねぇ。とってもだいじなものなんだよぉ?君にとって」
どういうことだ?ナノマシン?私にとって大事?
「悩んでいるところ悪いのだけれど、なるべく早くソレを使ってほしいんだねぇ。時間が無いんだよぉ」
「時間?今何時だ?ってかここどこなんだ?他の二人は?」
うっ。今度は丸っこいボディの横から超ほっそい腕?が出てきて指さしているのか?ナノマシンとやらを。
「その辺はそのうち知ることになるからねぇ。とりあえず、何か知りたかったらソレ。使ってほしいんだねぇ。そうすればある程度のことは、わかるんと思うんだねぇ」
使うしかないのか。この得体のしれない注射器みたいなの。
「さっきも言ったけど時間が無いんだねぇ。急いでほしいんだねぇ。もしかしてビビってるのかねぇ?」
「ビビってねぇよ!おちょくってんのか!」
なんかカチンときた。とっさにナノマシンアンプル?を手に取ってみる。
「どこにどうすりゃいい?俺には医療技術なんてないぞ?」
「そんなもの要らないねぇ。首に当てて引き金を引くだけだよぉ」
えーい!やってやるっ。
プシュッ
おおぅ。なんか体の中にギュンギュン来る感じがするぞ?これ大丈夫なのかホントに。
「オイたまっころ。これホントに大丈夫なんだろうな?変な病気になったりしないだろうな!」
するとたまっころは、超ほっそい足で器用にモデル歩きで近づいてきゃがった。えいっ。
「あっ。またっ。ひどいじゃないかねぇ?」
「いきなり近づいてくるな!ビックリするじゃないか!・・・キモくて」
ビョンビョンしながら文句を言ってくるが気にしないことにする。
「うったぞ?これ。なんか体が熱いんだが。変な病気じゃないだろうな?」
「大丈夫だよ雨宮君。それは、ナノマシンが君の魂とその肉体を最適化しているだけさぁ。君は。
君たち高次元精神体はこの世界、第三超広域開拓世界に元々存在していなかったんだから、いろいろと手続きが必要なのさぁ。
でも色々あって、殆ど何も出来ていなかったからここで今その手続きをやったのさぁ」
いろいろってあの化け物のことか?あんなグロい奴初めて見たぞ。ってなんだ。こいつ急に発光しだしたぞ!あっまぶしっ。ちょっ。
「オイなんだ急に眩しいじゃないか!」
「もぅ・・・お話ししたかったけど、時間切れみたいだねぇ。奴らがここにもやってくるみたいだよぉ?」
奴らってまたあの化け物かよ!
「今から君を管理世界に転送するよぉ。」
「おぃ!ちょっと待て話は!」
「もう無理だよぉ。その体は宇宙空間でも生きていける特別製の肉体だから、あとは何とか頑張ってねぇ?役目を全う出来たらきっとお礼はするからねぇ」
う・宇宙空間だと!?いや無理だろ!人間だぞ!絶対無理だろ!
「この端末の中の情報も、全部君のナノマシンにインストールしたからぁ。後のことはよろしくねぇ」
ピシっ
ピシピシっ
なんだひび割れか?
目の前の空間に漫画で見たようなひび割れが走る。
「じゃぁねぇ」
ぐあぁ!また吸い込まれるぅぅぅ!あぁーーっ!
ーーーーーー
「おっきいねぇやっぱり。こんなのを人類とまともにやり合わせるわけにはいかないねぇ」
「;@ppp066frsjき754@@@」
「そんなこと言ってもむださぁ。希望の種は蒔き終えたからねぇ」
「hgggg70-・・l「@hjgfff0-8いkl//」
「心残りがあるとすれば、もっとお話ししたかったねぇ彼とぉ」
バクンッ
ゴリッ
ーーーーーーー
宇宙空間
星が見える。肉眼で。惑星が見える。すぐ近くに。おっきいなぁ。
じゃないっ!
ほんとに宇宙空間にぶっ飛ばす奴があるかよ!何をどうすりゃいいんだよこの状態!
体は普通に動く・・・?真空中に居たら血液が沸騰するとかなんとかって話無かったっけ?
大丈夫みたいだけどこれ、とりあえず、だ。泳いでみるか。これがほんとの宇宙遊泳だ!
じゃないっ!
なんか前にも後ろにも勧めないし、動いてる気がしないからどうなるのこれ?まさかずっとこのまま?
ちょ。体動かなくなってきたんですけど!ヤバくない?絶対ヤバいよね?
なんかあのたまっころ曰く、けっこういい体っぽいんだけど、だからと言ってこのまま野ざらし・・・じゃないか。
宇宙ざらしのままでいいわけないよなぁ。でもどうしようもないしなぁ。
体に打ち込まれたナノマシンかぁ。てか、自分で撃ち込んだんだけど。名取も、おたみちゃんもいないし。
一人でこのまま永遠に宇宙を彷徨うのかなぁ?
俺も大人げなかったよなぁ、せっかく話をしてくれるところだったのに、話の腰を折ってばっかりで、結局ほとんど何も聞けなかったな。
あのたまっころもそうだけど、痴女もいんとえさんもどうなったんだろうか?
そういえば、ナノマシンに情報をインストールしたって言っていた気がするな。・・・だから何だっていう話でな?
その情報はどうやって見る?聞く?調べる?
何も聞けなかったのは痛いな。方法が分からないな。何か・・・ほうほうは・・・。
ーーーーー
記録領域へのアクセスを確認しました
・・・
システムロード完了
閲覧したい項目を選んでください
・なにをすればいいのかねぇ?
・伝えなきゃいけないことは何だったかねぇ?
・生きていきたいだろ?だったらなにをするべきかねぇ?
ーーーーー
ナニコレ
頭の中に機械音声が聞こえてきた。これってナノマシンか?それにしてもふざけた項目だぜ。たまっころを思い出す。
とりあえずこの三つをロードしてみるか。
ーーーーー
A--君はこの世界を救うためにこの世界の防衛機構や、防衛する意思のある者たちと接触し、管理者BEROPE35426からのメッセージを伝えなければならない。
伝えなければいけないことは三つ、この世界が他世界からの侵略を受けているという事、そしてこの世界の防衛機構が働いていない為滅亡が迫っているという事
そして、神はいないという事。
ーーーーー
ん・・・・?神はいない?どういう事だ?教えてナノマシン!
ーーーーー
エラー
データが存在しません
ーーーーー
っ使えねぇ!何が分かるのか?余計にわからんことが増えただけだった。しかし他のことなら何かわかるかもしれないな。
どれだけの情報がインストールされたのか調べられるかな・・?教えてナノマシン!
ーーーーー
・第三超広域開拓世界について
・人類について
・太陽系について
・水星について
・金星について
・地球について
・火星について
・木星について
・土星について
・天王星について
・冥王星について
・海王星について
・ギルドとは?
・冒険者とは?
・宇宙戦艦の成り立ち
・宇宙船の成り立ち
・現在の座標
・当ナノマシンシステムについて
・ーーーー
・ーーーー
・ーーーー
・ーーーー
・ーーーー
ーーーーーー
あばばばばば
ちょちょちょと!ちょっと待った待ったストップすとーっぷ!!
なんだこれは、情報量が多いなんてもんじゃない。頭の中が文字で埋め尽くされていくような形容しがたい感覚だなこれは・・・。
気になることがいっぱいあるんだが、なんだか眠たくなってきたぞ?・・・?
ヤバいな。本気で寝てしまいそうだ。うっ・・・目が勝手に閉じる・・・。
ーーーーーー
ホストの生命維持に深刻な障害が発生しました
意識レベルを強制的にダウン
肉体の活動レベルを強制的にダウン
精神体の保護を最優先
スリープモードに移行します
ーーーーーー
「艦長。未確認の生命体を発見したとの報告がありました。如何なさいますか?」
「UMAだと?こんな宇宙空間にか?」
「はい。モニターに回します」
「人種・・・!?だと!馬鹿なっ!未だ人種で宇宙空間に適応したものは存在が発見されていないのだぞ!すぐ回収班を回せ!」
「ㇵッ直ちに!回収班に緊急通達。確認中のUMA・・・人種の確保を急げ。速やかに回収されたし。速やかに回収されたし。」
艦長と呼ばれた男は、力なく椅子に腰かけ背もたれに体を預けると深いため息をつく。
「はぁ・・・。こんなとんでもないものを発見してしまったら、昇進してしまうではないか・・・クソッ」
その独り言のような呟きに、先ほどの報告を上げてきた、前の席に座る士官と思わしき女性が振り返る。
「艦長は昇進がお嫌で?」
「ああ嫌だね。面倒ごとが増えるのなんてとんでもない。私は今の階級にも成りたくて成ったのでは無いのだよ」
「即答ですか。では私が変わりましょうか?」
「それだ!」
「え?」
「今回の件は、私は聞かなかったことにするから。君が処理したまえ」
「無理を仰らないでください艦長。冗談ですから。冗談なんですよ?艦長?何をなさっているのですか?」
「ちょっと待ってくれ、今司令部に君が大手柄を上げたと伝えようと思ってね」
「おまちください!冗談ですから!違うんです!私そんなに昇進したくないですから!」
「だよねぇ。はぁ・・・。今のわが軍で昇進なんてしたいと思う士官が何人いるか」
「それは・・・」
「いいのいいの。皆まで言わない。ただのパトロールのはずがなぜこんなことに・・・
恨むぞ…あの人種・・・。」
「一先ずあの人種の生存を喜んであげましょうよ」
「無茶いうなぃ。私はもうがっかりだよ。今日はバーボンで酒盛りだよ」
「艦長館内は禁酒禁煙です」
「ひどい!こんなにつらいのに!」
「というかお酒持ち込んでいたんですね?没収です」
「あっ藪蛇!」
「没収用倉庫にしまっておきますから。基地に戻ってからとりに行ってくださいね」
「あー・・・そんなぁー。」
カツカツとヒールを鳴らしながら艦橋を出ていく士官を見送るとまた、背もたれに体を預ける。
「やっぱり恨むよ・・・私の天然バーボンちゃん・・・」
ーーーーー
?????
カツカツと長い廊下に響く軽快な足音を立てながら、隔離医療エリアへとやってきた士官は
扉の横に備え付けられてインターホンのような装置に指を走らせる。
カカカカカッ
24桁にも及ぶ手動パスコードを打ちこむと、扉のエアロックが外れ自動で開いていく。
この手動パスコード何とかならないかしら・・・?折角カードリーダーまでついているのに
わざわざ手打ちとか無意味だわ・・・。
「失礼します。室長例の人種の様子はいかがでしょうか?」
すると大きなガラスのような隔壁に手をついて、その先にある拘束用ベッドを見つめる大柄な男が振り返る。
「やぁ。副館長ちゃん。彼は今もぐっすりお休みの様だよ。さすがの適応種も素っ裸で宇宙空間は厳しかったんじゃないかなぁ」
素っ裸…ですって?これはちょっと拝見・・・じゃなくて・・・
「なんですか。病室着を着ているじゃないですか」
室長は口にくわえたスプーンを口から落とし、唖然とした顔で私を見ている。
「お年頃かぁ。そういう副館長ちゃん嫌いじゃないよ?」
「違いますから!今のはそういう意味ではありません!」
まったくこの男はっ!ま・まぁ。私も妙齢の女として興味がないわけではないですが、ってそうではなくて。
もじもじと顔を赤くしながら、隔壁の向こうを眺めると、非常に均整の取れた男の顔が見える。
「素敵・・・。」
「あれ?やっぱり」
「聞かなかったことにしてください!」
ああ恥ずかしい。でもなぜか引き付けられる。
「そうだ副艦長ちゃん。彼の尋問は誰がするのか決まっているのかい?」
「ええ。ちょうど暇そうでしたので、キレ少尉に担当させようと。」
「えぇ・・。その人選は疑ってしまうね?彼大丈夫なの?アル中だって噂なんだけど
メディカルチェックを難癖付けて受けてくれないから、医療情報が基地にいるときのまま更新されてないんだよね。
正直ここには入れたくないんだけどなぁ。この船の医療機器は最新のものに更新したばっかりだからさぁ。暴れられたら困るんだよねー」
そんなにひどいことになっていたなんて知らなかったわ。どうしよう。今手が空いている人は他には…
「しつれいするよぉ?」
彼女は・・・ロペ大尉?
「あれま、アミィ」ちゃんも居たかい。まぁ丁度いいや」
「おやおや、ロペ大尉仕事ほったらかしでいいんですか?彼に会いに?」
「ほったらかしなんかにしないさー。ちゃんと整備も終わってるし。うちの子たちは優秀だから私がいなくても大丈夫さっ」
「そんなもんですか。」
「そんなもんさぁ」
ロペ大尉はにこにこと軽口を交わしながら隔壁に手を置き、驚いたような表情を見せた。いつものにこにこ顔とは打って変わって
口元が引き締まって見えるのは気のせいじゃないだろう。
「アミィ大尉、彼はここに来てからどのくらいたつのかねぇ?」
「ここに収容されてからかれこれ三日、いえ、つい先ほど四日目に入りました。」
「そんなにこのままかぁ。困ったねぇ。色々聞きたいことがあったんだけどねぇ。」
「お知合いですか?」
「そうさぁ。彼は私のとっても大切な人さぁ。」
「と!とても?」
「そう!とーーーっても大切な人さぁ!」
何が楽しいのか両手を広げてくるくる回る。くっ・・・何よあの胸。反則だわ。
でも私も負けてない・・・。
「へぇ。ロペ大尉の恋人か何かですか?このUMAの彼は・・・!?っっ」
糸目なロペ大尉の目が一瞬、鬼のような鬼気迫る表情に変わった瞬間、呼吸が苦しくなったような気がする。
心なしか気温も下がったような気が・・・って、さすがにそれはないか。そんなことがあったら、空調システムの故障が心配だわ
「申し訳ありませんロペ大尉。軽率な発言でした」
「わかっているならいいねぇ。以後気を付けてほしいんだねぇ。君には期待をしているよぉ?」
「ㇵッ!恐れ入ります!」
ロペ大尉こっわ!凄味というか、威圧感というか。さすがたたき上げの軍人は違うわね。
文官の私とは違うわね。とにかくビックリしたわ…。
「アミィ大尉?彼は一度基地に送った方がよくないかねぇ?」
「よろしいのですか?目の届かない所に行ってしまうと、大変じゃないですか?」
「そんなことになったら大変だけど・・・私もいっしょに行くし。問題はないと思うねぇ。」
・・・は?
「ちょっと待ってください。ロペ大尉今なんと?」
「私もいっしょに行くから問題ないねぇ?」
「ダメに決まっているでしょう!哨戒部隊の部隊長が抜けていいわけないでしょう!」
「大丈夫大丈夫!ちゃんと次の体調に引き継ぎはしてきたからもうお役御免なんだよねぇ。」
えっ!次の隊長ってどういうこと?
「え・え・?何を仰っているのかわかりませんが?わかりませんよね?室長?」
「えっ?こっちに振りますか?」
ちょっと・・?室長までいまさらみたいな顔で・・・。
「私は今日付で退役するんだよねぇ。知らなかった?で退職金代わりに彼をいただいていこうかと思ってるんだよぉ。」
意味が分からないわ。退役?退職?
「まぁ退職金に関してはいっぱいもらえる予定だから楽しみだねぇ。」
確かにっ。ロペ大尉は、前回の共和国戦争の時から最前線で戦ってきた方だし。多くの勲章も受勲されているわ。
千は・・・軽いわね・・・。くっ・・・羨ましくなんかないんだからっ。
「参考までに、おやめになった後はどうなさるおつもりですか?」
「んー?永久就職?」
「は?」
「およめさん」
「なんで?」
「なんでって言われても」
「私は?」
「しらんねぇ。」
「誰と!」
にっこにこの笑顔で隔壁の向こうを指さしている姿が神々しいっ!
やっぱり婚約者か何かだったのねっ!
負けたわ・・・。胸だけじゃなく・・・。
くやしくなんてぇ・・・。
「なれたらいいなぁーって。」
「未承諾っ!」
「ほらさ、どうせ押しかけちゃうし。もう嫁ってことでいいかなって。」
「言い分けないでしょうが!私はどうなるの!」
「だからアミィちゃんのことまで責任持てないってねぇ?」
「その話題で私に振りますかっ!いや・・あの・・・?いいんじゃないですか?一夫多妻。ありだと思うなーなんて・・・。」
ロペ大尉が結婚してしまったら同期の未婚者が私だけになってしまうじゃない!許せな・・・?
「「それだ」」
「え?ありなんですか?」
「有りよ!」「ありだねぇ」
そうよ。いい男はいい女を囲うべきだわ。甲斐性も男の魅力よ!
決めた。私決めちゃった。古い言葉にあったわね。思い立ったが吉日だったかしら。
もう、決めたわ。
「アミィちゃん?なにをぶつぶつ言ってるのかねぇ?」
心配そうに顔を覗き込んできてくれてありがとう。でも決めたの。
心配いらないわ。お母さん私女になる!
「私女になる!」
「いきなりだねぇ!」
「大尉ちょっと怖いですよ?」
「うるさい!もう決めたの。誰にも邪魔させない。今の私最強。何でも言えるわ。」
そして私は寿退役用にした雨ていた伝家の宝刀を抜くの。フフッ。
二人とも驚いているわね。これが最強のカードよ!
「ドロー!辞職届!」
「トラップカードオープン!提督の呼び声発動!」
そ、そのカードは!いえ・・・負けないわ!
「このトラップカードはアミィちゃん対策のカードだねぇ。じゃなくて。そうじゃなくて。」
「そうですよ大尉、実際問題どうなさるおつもりですか?あの提督がその話を聞いたらここに
タンホイザーでもぶち込みかねませんよ?」
「関係ないわ!私は私!提督はパパだけど私じゃないわ!」
「困ったねぇ、もうなにがなんやら。」
あっ、ちょっと。なんだか二人とも呆れているわね?
「私は自分で決めた道を行くことに決めたの。今日。今決めたの。吉日なの!」
「き、?吉日?」
「それはいいの。決めたらすぐやれってことなのよ。だからやるわ。」
「ですから大尉ぃ。何を決められたのかはわかりませんけど、もう少し落ち着いてから・・・。」
「私が彼の身元引受人になります。」
「「えっ?!」」
「そして介抱する私。見つめあう二人。・・・そして。LOVE」
「ちょっと待つんだねぇ!」
私と彼の間に立ちはだかる障壁っ。それはロペ大尉!邪魔させないわっ。
「彼の身元引受人はすでに私が登録済みなんだねぇ。残念だけど。」
「な・・・」
完璧な作戦だと思ったのに・・・策士めっ!
「ふぅ。なんだか埒が明かないし、時間も迫っているから決定事項だけ言うけどいいかねぇ?」
「ど・・・どうぞぉ・・?」
「私ロペ大尉はこの船を離れたところで退役が確定し、民間人に戻ります。そして現時点ですでに、記録的には彼は私の夫として登録されているんだねぇ。
故に身元引受人は私しかありえないねぇ。わかった?そして私は妻として夫を引き取るので、今からシャトルに乗せて、直接私の家のあるコロニーショッキングピンクに
出発するねぇ。おk?」
・・・?えぇ?
「えぇえぇ?決めたのに。私決めたのに・・・。」
「おっともうこんな時間だねぇ。少尉すぐにシャトルに彼を移してくれるねぇ?」
誰がこんな超展開についていけるのよ。固まってるじゃ・・・って普通ね。
「了解ですロペ大尉。最後のお勤めお疲れ様です。すぐに移送します。」
「ちょっと時間が押しちゃってるから急いでねぇ。」
そう告げるとロペ大尉は部屋を出て行ってしまった。
私は既に負けていたの…?
あら?また誰か来たわ。
「置いていくよぉ?嫁になるんじゃないのぉ?」
・・・・・・ㇵッ!一瞬思考が停止してしまったわ!
「行きます!行きますから待って!」
「えっ!ほんとに行くんですかアミィ大尉!」
「手続きはこっちで勝手にやるから!艦長によろしく言っておいて!」
「え!ちょ!そこは自分で言ってくださいよ!」
「はいこれ。任せたわ。」
ここから私の新しい人生が始まるのよ!もう振り返らない!行くわっ私!
「いい顔してないでって…行ってしまった。これどうやって渡せば・・・。」
ーーーーー
プシューン
「ゴーギャン・パワーハーツ中尉入ります。
「んん?医療室長じゃないか。なにかあったかね?艦内通信は生きているはずだが?」
「いえあの・・・直接お渡ししたいものがありまして・・・。私のじゃないですよ?」
「辞表!?一体こんな紹介任務中に誰が・・・って副艦長ちゃんかよ!あの娘どこ行ったよ!?」
「艦長。本日退役なさったロペ・キャッシュマン元大尉を乗せたシャトルが発艦しました。」
「お、おぉでは総員敬礼っ!」
一糸乱れぬ敬礼でシャトルを見送った後艦橋には穏やかな空気が流れ始めていた。
「聞いた?キャッシュマン大尉、寿退社なんですって!」
「やっぱり!?すっごく綺麗になったもんね!そうじゃないかと思ってたんだぁ。いいなぁ。」
艦長は椅子に深々と座りため息が出るのも気にせずに話の確認をする。
「で、彼女はどこに?」
「いえ・・・あの・・・。」
「なんだ、ハッキリしないか。」
「今のシャトルに乗って行ってしましまして・・・。」
「なんだとー!!・・・?」
緊急報告の姪の入ったメールが艦長の端末に届いた。
「本日付で退役になっただとぉ?・・・?記録が・・・?」
「どうなされました?」
「日付か間違ってるじゃねーかよー全く・・・。昨日付で退職になっていやがる。
リアルタイムで記録を書き換えている奴がいるな・・・ってそんなことできるのはキャッシュマンしかいねじゃねーか!
あいつもグルかよ!・・・いや。これは使えるか・・・?うまくいけば昇進の取り消しもいけるぞ・・・?」
先ほどまでの怒り心頭といった表情とは打って変わって、今度は満面の笑顔で感謝の意を表した合唱をする艦長。
「ありがてぇ。この失敗で俺は晴れて降格左遷だぁ!アステロイドベルトへ行くぞぉ!」
「えぇ・・・?なんでそんなところに・・・」
自らの降格を喜ぶ艦長に、艦橋の面々は頭に疑問符を浮かべて首をかしげるのであった。
ーーーーーー
「動くな。操縦桿から手を放せ。足もこちらに見せろ」
「待ってくれ、私には妻も子供も!」
「喋っていいと入ってねぇ」
シャトルのパイロットだった男は血と脳漿の海に沈んだ。
「いいねぇ。上玉が二人に病人か?まぁいい。シャトルが無傷で手に入るたぁついてるぜ。」
運ばれている当人たちは知らず知らずのうちにハイジャックならぬシャトルジャックされて
ジャック犯の宇宙船へと連れられて行くのであった
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