第14話 計画

「ほんとに明玉も来るの?」

 天祥を連れてぱたぱたと道を走りながら、星彩は横を見遣る。

「なによ、悪いわけ?」

 薄い化粧をして、髪を横にまとめただけの明玉は不満げに言った。

「悪くないけど、また鬼嚢と喧嘩しないでね?」

「あれは、あんたがちゃんと説明しなかったからでしょ! おかげで死ぬところだったじゃないの!」

「ご、ごめん」

 朝も早い時間から、二人が向かっているのは鬼嚢たちの泊まる宿。昨夜わかったこと、閃いた作戦を伝えるためだ。

 宿に入って、まだ寝ていた鬼嚢を無理やり起こし、先日のように手下を集めて車座になってもらう。皆、やや眠たそうではあったが、話を始めると一様に目を見開いた。

「―――証拠を掴んだのか!? っかー、マジでやれるとは思わなかったぜ!」

 一部始終を聞いた後、鬼嚢が褒めてくれたが、喜んでばかりもいられない状況なので、ここからが本題だ。

「反乱は今にも始まっちゃいそうな雰囲気なの。急いで田甫を捕まえなきゃいけないんだけど、きっと連判状を審議すると思うから兵はすぐには動けないよ。だから、鬼嚢たちに協力してほしいの」

「? 何をさせようってンだ」

「宝を盗みに行くの」

 ぴっと人差し指を立てて言えば、鬼嚢も手下たちもぽかんと口を開けた。

「一体どういう・・・」

「つーまーりー」

 ずい、と横から明玉が出てきて、鬼嚢の鼻先に人差し指を突き付けた。

「あんたらが今夜、大臣の屋敷を襲う―――その情報を城に流せば、王さまは現行犯で捕まえるためってことで、兵を動かせる。そこで、あんたらが隠された財宝を暴く。兵が見つける。こりゃ前に盗まれた品だろー、どーゆこったーってことで、大臣をその場で連行できる。その後は連判状の審議でも何でもゆっくりやりゃあいいのよ。計画の中心人物は捕まえちゃってるんだもん」

「・・・なるほどな。作戦はわかった」

 鬼嚢は不快そうに明玉の指を払って頷いた。

「けどよ、それって城の兵士方にも仲間がいねえと駄目じゃねえか。情報流して本当に兵が動くかわかんねえし、動いたとしても逃げ道確保しといてもらわねーと、俺ら捕まるぜ?」

「あたしは別にそれでいいと思うけど」

「ざけんなっ」

「わたしにまかせてっ」

 明玉を睨みつける鬼嚢に向かって、星彩は胸を張った。

「宗麟に作戦を伝えて、鬼嚢のことも捕まえないでってお願いするっ。そしたら大丈夫だよっ」

「・・・いや、何が大丈夫なのかわかんねえンだが? つか、いきなり知らねえ野郎の名前出されてもなあ」

「宗麟は王さまだよ」

「へえ・・・は?」

 一拍遅れて、鬼嚢は疑問符を浮かべた。

「待て待て。どーゆーこった? まさか、王と知り合いとか言うンじゃねえだろうな?」

「鬼嚢にも言いそびれちゃってたけど、実はわたし、王妃なの。兵士に街の子供と間違えられて追い出されちゃってここにいるんだ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・えーっと」

 鬼嚢は説明を求めるように明玉を見た。しかし明玉もまた、困って首を傾げている。

「あたしもまだ半信半疑なんだけど、本人の言うことを信じるなら、この子、手違いで街に出て来ちゃった王妃らしいのよ。だから王にも簡単に連絡取れるし、あんたのこと捕まえないでってお願いしたら聞いてもらえるのかもね」

「・・・マジで?」

「信じられない気持ちはよくわかるけど、ほんとなの」

 星彩が肯定すると、鬼嚢は頭を抱えてしばらく沈黙した。

「・・・ええと、あの、じゃあ、妃だってことは信じなくてもいいから、とにかく城に連絡を取る手段は持ってるんだって、思ってて?」

 悩ませてしまっているのが申し訳なくて、おずおずと提案してみた。

「ダメ?」

「いや・・・わかった。とにかく、大丈夫ってことだな?」

「うん!」

 せめて相手を不安にさせないように、力強く頷いた。

「宝の場所はわたしも一緒に行って教えるよっ。そのときに兵を誘導すればいいからっ」

「星彩も俺らと忍び込むってのか? ふうん、まあ、場所聞くだけよりはそっちの方が確実か」

「なんか心配よねえ。あたしも付いて行こうかしら」

 何気ない明玉の呟きに、鬼嚢はあからさまに顔をしかめる。

「やめろっ、ガキのお守りを増やされちゃたまんねえや」

「ちょ、誰がガキですって!? 星彩と一緒にしないでよ!」

「ガキっつわれて怒ンのは大抵ガキなんだよなあ」

「ガキじゃないのにガキって言われりゃ怒るでしょーが!」

「だから二人とも喧嘩しないでってばぁ!」

 今にも鬼嚢に掴みかかりそうな明玉を必死で押さえる。

「明玉は歌妓のお仕事があるでしょ! 鬼嚢も付いてるし、わたしはわたしでがんばるから、信じて待ってて! ね?」

「~~~しゃーないわねっ」

 渋々拳をおさめて、明玉は座りなおしてくれた。

「ちゃんと星彩の面倒みるのよ? トロいからって放り出しちゃ駄目だからね!」

「へいへい。うるせえ姐貴分だなあ」

 二人の仲はともかく、こちらでの作戦会議はひとまず終わったので、次の行動へと移らねばならない。

「今度は宗麟に作戦を伝えなくちゃ」

「どうやって? あんた城に入れてもらえないんじゃなかった?」

「たぶん、もう入れるようになってると思うの。前に友達に頼んで宗麟に手紙を送ったから、わたしが城下にいるってわかってるはずだし。ただ・・」

「ただ?」

「もう一回、出てこれるかが問題なんだよね」

 すでに五日ほど、帰っていない。その上屋敷に忍び込むために外に出るなどと言って、許してもらえるかどうかは怪しい。さすがに宗麟も説得されてくれないかもしれないし、きっと楊佳などは怒り狂うし韓当や徐朱は心配するだろう。

 また雨鳥が飛んできてくれればいいのだが、予期せぬ訪問が得意な彼は、望んだときは来ないものだ。一応、わずかな期待を込めて手紙は用意したのだが。

 今のところ、星彩が直接作戦を届けに行くしか方法はない。

「行って、なんとかして帰ってくるよ。ええと、せめて夜までには」

「おいおい頼むぜ?」

「がんばるっ。――――じゃあ、また夜に」

「おう」

 鬼嚢と別れた後は、明玉と天祥と一緒に道を戻っていく。明玉には大通りまでを案内してもらうつもりだ。もうずっと色街の中にいるので、道順をすっかり忘れてしまったのだ。

「うまくいくかなあ?」

「なにが? 作戦? それとも城に入ること? 出ること?」

「ぜ、全部かな」

 目下の問題はまず城に入ること。出れなかったときのことを考えるより、そもそも入れなければ作戦は成り立たない。

「―――ううん、弱気はダメだよね! 気合、気合!」

 拳を握りしめて前を向いたとき、その鼻先を何かが掠めた。

 吹き飛ばされ、ごろごろと地面を転がる大きな物体。続いて店から数人の男が出てきて、物体に殴る蹴るの暴行を加える。

「な、なに?」

 星彩は慄くが、隣の明玉はさして驚きもせず状況を教える。

「賭博で引き際を間違えたヤツの末路ね。よくあることだから気にしちゃ駄目よ」

「賭博、って」

 言われてようやく気付いたのだが、男たちが出てきた店は、以前鬼嚢に連れられて来たことがある賭博場だった。殴っているのはどことなく見覚えのある店員たちで、殴られている物体は人間だ。

「こ、これ、死んじゃわないかな!?」

「さあ。まー、でも当然の報いよ」

「そんなのダメだよ!」

「あ、こら!」

 明玉の制止の手も振り切って、星彩は後ろから店員の着物を力一杯引っ張った。

「やめてやめて! これ以上はほんとに死んじゃうよ!」

「ンだあてめ―――」

 邪魔されて咄嗟にガンたれた店員だったが、星彩の顔を見てふと動きを止める。他の者も気付き、暴行は止まった。

「こりゃ、賭けの神さまじゃねえかっ」

「おお! また奇跡を起こしに来たんかい!?」

 うずくまる人間を放置し、店員たちが星彩を囲んでわいわい騒ぐ。

「触るだけで御利益にあずかれるんだってなあ!」

「髪の毛持ってたヤツが、それ以来連勝続きなんだってよ!」

「嬢ちゃんの名が刻まれた席で勝負すっと、必ず大金が手に入るんだよなあ!」

「あ、え、えと」

 抗議をしようと思ったのに、歓迎されて困ってしまう。

 そんな風に星彩がたじろいでいる後ろで、こっそり逃げようとした男を、しかし彼らは見逃さなかった。

「うぐぶぅっ!」

 背中を踏みつけられ、惨めったらしい断末魔を上げ地面に伏した。

「往生際の悪ぃやっちゃなー。観念しやがれ」

「ダメだよ! そんなことしたら痛いよ!」

 ぎりぎりと男の背中を踏みつける店員に取り縋り、星彩は懇願した。

「お願い! もうゆるしてあげて! こんなぼろぼろになって、可哀想だよ!」

「なんだい、嬢ちゃんの知り合いかい?」

「そういうわけじゃないけど、助けてあげてほしいの! だって見てられないもん!」

「っつっても、こりゃ俺らの決まりでなあ。金もねーくせに遊んだ野郎にゃあ、制裁を加えなきゃなんねえンだ」

「もう十分だと思う! ねえお願い、こんなことやめてよ!」

「う~ん、女神さまの言うことは聞いてやりてえが・・・」

「まあ、いいンじゃねえのか?」

 若い声の中に突然皺枯れた声がまざり、一同が後ろを見遣った。

 いつの間にそこにいたのか、店の仕切り役である几鍔老人がゆっくりと輪に近づいてきた。

「その小僧を赦してやれっつーンだろ? 他の奴ならいざ知らず、おめえさんの頼みなら聞いてやろうじゃねえか」

「ほんと!? ありがとう!」

「なあに、この前のときにおめえさんからは多額の寄付を頂戴したことだしなあ」

「・・・寄付?」

 まったく身に覚えが無い。すると几鍔は口の端を吊りあげて笑った。

「あの山になった銀銭、賊野郎が持ち切れねえとかっつって、半分も残していきやがった。しかも、嬢ちゃんの豪運にあやかろうって輩が増えて、前にも増して店は繁盛してるときたもんだ。ほンに、おめえさんは福の神さまだよ。小僧の一人や二人見逃すくれえ、お安い御用さ」

「あ、ありがと。まさかそんな大事になってるとは思わなかったけど・・・」

 ともかく男が助かって、安堵した。

「・・・あんた、賭博場で神って呼ばれてるわけ?」

 店に戻る几鍔らの背を見送りながら、明玉は感心するような、一方では呆れたような表情だ。

「わたしもよくわかんないけど、気が付いたらそんな扱いになってて」

「どこをどう、うっかりしてたら、そんな事態になるのかねえ。・・・・まあいいけど。それより、そいつ生きてるの?」

 明玉の指す相手は、突っ伏したままぴくりとも動かない。

「た、たいへん! しっかり! しっかりして!」

 必死に揺さぶれば、「うう・・」と小さく呻く声が漏れた。

「良かった! 生きてる!」

「あれだけ殴られたのに、頑丈な体ねー」

 明玉にも手伝ってもらいながら男を起こし、壁を背に座らせた。顔も体も青や紫の痣ができてしまっているが、骨が折れていたりということはなさそうだった。

 やがて意識が戻って来ると、男は腫れあがった瞼をぱちぱちさせて、辺りを見回した。

「お、俺は・・・・た、助かった、のか?」

「うん! もう大丈夫だから安心して!」

「ああ、あんたらが助けてくれたのか? いやマジで感謝する」

 痛そうにしながらも、男は深々と頭を下げた。その頭を見て、明玉は鼻を鳴らす。

「下手なくせに賭博なんかに手ぇ出すから、こーゆー目に遭うのよ。反省しなさい」

「いや今日こそは勝てる気がして・・・つーかぜってー向かいの野郎がイカサマを」

「負け犬の遠吠え。みっともないわよ」

「いや、でもほんと今日は仕事の合間にちょっとした息抜きのつもりで入っただけだったはずなんだ。それがこんなに負けるなんて絶対おかしいと・・・」

「仕事さぼって賭博場に入ったって、最低な大人ね。あたしなら即刻クビにするわ」

「クビとか言うな! これでもすでにしくじって減俸喰らってんだ! 賭博でもして稼がにゃあ、今夜の飲み代も手に入らねえ!」

「どんだけどうしようもない人なの、あんた・・・」

 数歳は年上であろう相手に、明玉は本気で呆れて、額に軽く手を当てた。

 しかし年下のそんな様子にも気付かず、男はぶちぶちとまだ文句を垂れる。

「だってよぉ、あんなのが妃だなんて普通思わねえじゃんかよぉ。なのに徐朱さんは見つけるまで帰って来んなっつって、もう五日ばかし城にもいれてもらえねえし、こんな広い街中、俺が一人駆け摺り回ったって、見つけられるわけねえじゃんよぉ」

「? ねえ、なんのお話?」

 気になる単語を二、三聞いた気がして、星彩は男の袖を引っ張った。

「ああそうだ嬢ちゃんたち。俺は仕事で人を探してんだが、ちっと協力してくれねえか?」

「いいよっ。どんな人?」

「十幾つくらいの娘で、長い一本の三つ編みしてて、格好はまあ、普通の街娘みたいなのでよ。―――そうそう、ちょうど嬢ちゃんみたいな感じの。で、名前は星彩っていう・・・」

「・・・」

「・・・」

 三人は沈黙し、じっと互いを見つめ合った。

「・・・えっと、わたしのこと、かな?」

 おずおずと、自分を指す。途端に、男は弾かれたように機敏に土下座の体勢となった。

「ひひ妃殿下ぁっ! 今も昔も大変失礼をば致しましてほんとでも悪気はなかったというかちょっと視界が悪くてすぐには気付けなかったというかとにかく赦してください!」

「あ、あの、その前に、あなたは誰?」

「皓大です! 妃殿下を街へ放り出したゴミ虫野郎っす!」

「あ、あのときの兵士だね!」

 殴られて顔が変形しているせいもあり、星彩も相手に気付けなかった。

「ほんっとごめんなさい! ほんっとごめんなさい! 海より深く奈落の底まで反省しますんでどうかクビだけはご勘弁を! ついでに減俸もご勘弁を!」

「いや、あの、大丈夫だよ? 怒ってないよ? わたしがちゃんとした格好してなかったのが悪いんだからさ」

 地面に何度も額を打ちすえる皓大を止めて、星彩は笑いかけた。

「ずっと探してくれてたんでしょ? 大変だったよね。ありがとうっ」

「ひ、妃殿下ぁ」

 瞳を潤ませ、皓大もまた安堵したように笑顔になった。ただし、顔が風船のように腫れているため、かえって不気味だった。

「本当に王妃だったのね・・・」

 隣では明玉が改めて驚いている。

「さあ妃殿下! 城へ帰りましょう! 陛下がお待ちです!」

「うん、ちょうどそうしようと―――」

 言いかけて、星彩は気が付いた。

「そうだ! 皓大に届けてもらえばいいんだ!」

「は?」

 懐から中に連判状の挟まった手紙を取り出し、皓大に握らせる。

「これ、宗麟に届けて!」

「は!? え!?」

「城に帰ってもう一回出してもらえるか不安だから、帰らないでおくって宗麟に伝えといて! ぜんぶ解決したら、すぐに帰るからって!」

「いや、え!? あの、どういうことです?」

「お願いね皓大!」

「いやいやいや! 俺は妃殿下を城にお連れするのが役目っすから! 来ていただかないと困りますよ!」

「あらあら、お妃さまに逆らう気?」

 意地悪い笑みを浮かべ、明玉が二人の間に割り込んだ。

「あんた、星彩を追い出した張本人なんでしょ? 無礼を働いたその上に、言うことも聞かないわけ? こりゃ一発クビものね」

 クビ、という言葉に、皓大はあからさまに動揺し、急に威勢を削がれた。

「え、い、いや、でも、妃殿下をお連れするようにってのは、陛下からのご命令で・・・」

「王も妃も似たようなモンでしょ。兵士なんて、その都度の命令を聞けばいいじゃないの」

「そ、そーゆーわけにも・・・」

「じゃあ星彩、城に帰ったら、この阿呆が仕事中に賭博してたってチクってやりなさい。このろくでなしをクビにさせてやりましょ」

「ご命令、確かに承りました!」

 手紙を懐にしまい、皓大は一目散に駆けて行った。

「よろしくねー!」

 その背に呼びかけ、手を振る。

「ありがと、明玉っ。助かったよっ」

「ま、あたしにできるのはここまでだからね。後は、自分でなんとかしなさいよ」

「うん! まかせて!」

 足元の天祥と顔を見合わせ、星彩は気合十分に夜を待った。



 *



「陛下ー。まとまりましたよー」

 書簡を二本、両手に持って、伯符が政務室にやって来た。

「遅かったな」

「僕だってたくさん仕事を抱えてるんです。ここ三日ほど横領の証拠集めにかかりっきりで、他が滞る滞る。おかげで縻達さまに怒られてしまいました」

「ちょいちょいさぼるせいじゃないのか? お前、息抜きし始めると長いからな」

「否定はしませんが」

 伯符は机の上に書簡を置く。

 そのとき、主の手にあるのが書簡ではなく、質の悪い紙ぺらであることに気付いた。

「? 陛下、それは」

「追加の仕事だ」

 そのうちの一枚を寄越されて見れば、幾人かの人間の名前と、朱印が連なっている。

「・・・連判状。なるほど、田大臣の謀反ですか。おやおや、曼成どのに二州の大士方の名までありますねえ」

 伯符はさして驚いた様子もなく無感動に読み上げた。

「この短期間によく入手できましたねえ。実は僕よりお暇なんじゃないですか?」

「取って来たのは俺じゃない。星彩だ」

「は?」

 いつもぼけっとしている男ではあるが、このようにいきなり礫を喰らった鳩のような面を見せたのは初めてである。宗麟は楽しそうに、くつくつと笑った。

「行方不明の妃が、連絡を取り次いでいた歌妓から貰ってきたんだ。しかも田甫や曼成が盗まれたと騒いだ宝の在処まで突きとめたらしい」

「・・・はあ。まさかとは思いますが、陛下はそのために妃殿下を街へ?」

「そんなわけあるか。星彩が自分で考えて動いたんだよ。―――で、今夜、田甫を捕まえに行くことになった」

「はあ?」

 更に困惑したように、伯符がぽかんと口を開けた。

「急過ぎませんか? 大臣ともなれば、審議もせずいきなり捕らえるなどできませんが」

「筋書きはこうだ。俺は、今夜再び大臣の屋敷を賊が襲おうとしているという情報を、街を巡回していた家来から聞き、護衛のために兵を差し向ける。そこで、賊たちがすでに盗まれたはずの財宝を見つけたところに出くわす。詳細を問うため、田甫を連行する」

「・・・はあ。もしかしてと思うのですが、その賊を率いるのは妃殿下だったりするのでしょうか」

「率いるというか、宝の場所を知ってるのが星彩だけだから、教えるために付いていくみたいだな」

「はあ。王家が山賊一家の手を借りるわけですか。表沙汰には出来ない策ですが、そこまでして捕縛を急ぐ理由が?」

「すでに愠州で謀反の準備が完了し合図を待ってるんだと。歌妓の裏切りはすぐにでもバレそうだから、急いだ方がいいらしい」

「で、とりあえず盗賊騒ぎで兵を動かし、どさくさに紛れて目標を確保。乱暴ですねえ。それも妃殿下の案ですか?」

「使えるものを全て使った良い作戦じゃないか」

「はあ・・・で、なぜか陛下が剣の手入れを始められたことを、僕は気づかないでいるべきなのでしょうか」

「縻達には黙ってろよ」

「どうせ伝わると思いますけどねえ。くれぐれも、僕を巻き込まないでくださいよ?」

 これ以上の関わりは御免とばかりに、伯符はそそくさと逃げて行った。

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