「妹にしか恋できない」

小浜さんぽ

第1話 恋愛相談部は今日も忙しい


 放課後の職員室


「妹が欲しい!!」

 俺は真剣な顔で言った

「あのなぁ屋文、私はお前の願望を聞きたいわけではないぞ?」

 呆れた顔で先生は言った

「なら、なぜ俺は呼ばれたんだ?」

 俺、何かしたか?

 早く家に帰って「妹しかいない世界」を見たいのだが

 先生が口を開いた

「単刀直入に言うとだな部活に入って欲しいんだ」

「無理と言ったら?」

「私の元カレの話を1日中聞かせる」

 満面の笑みで先生は言った

 は? なんで? 色々ツッコミたい、先月彼氏できたんじゃないの? もう別れたの? なんで1日中?  

 そんな話すことあるの? てか満面の笑みの奥に闇を感じるのはなんで? なにがあったの?

 とりあえず断るとめんどくさそうだから承諾するしかないか

「わかりました、入りますよ」

 これで大丈夫だろ

「そっか…入るのか」

 少し悲しげな表情で先生は言った

 おい、なんで悲しげなの? そんなに元カレの話がしたかったの? ホントになにがあったの?

 一体どうしたら正解だったの? なんなのこの先生、とりあえず話を変えよう

「てか、部活って何部ですか?」

「肝心な事を言ってなかったな、お前が入るのはこれだ」

 バッと勧誘チラシを顔の前に突きだされた

「恋愛相談部?」

 なんだよそれ、恋愛経験ゼロの俺にどうしろと?

「先生」

「なんだ?」

「俺、恋愛経験ゼロなんですけど…」

「なんの問題が? どうせ学生の恋だ適当に流しとけ」

 いや最低だな、ホントに先生か?

「そんなだから彼氏に振られるんだろ」

 やべ…つい口から

「ん? 何か言ったか屋文?」

「なんでもないです」

「そうか」

 あぶねぇ、危うく殺されるかと思った

「じゃあ部室まで案内するから、ついてこい」

「へい」


「先生、他に部員っているんですか?」

「もちろんいるぞ、もう少しで着くぞ」


 

 ヒソヒソ

 廊下でなにやってんだあれ

「ふむふむ、あれが君の気になってる片山ちゃんか」

「はい、どうですか、僕いけそうですか?」

「んーとね、無理だね」

「えっ、なんでですか?」

「少し酷いこと言うけど大丈夫?」

「大丈夫ですよ、少しぐらいなら」

「簡単に言うとね、君のルックスじゃ釣り合わない、夢見るのも大概にしなよということだ」

 いやなにが少しだよ、おもいっきり酷いこと言ってんぞ

「えっ…そこまで言わなくても良くないですかぁぁ」

 男子生徒は泣きながら廊下を猛ダッシュで駆け抜けた

「あらま、どっか行っちゃった」

 どっか行っちゃったじゃねーよ

 可哀想すぎんだろ、彼少しぐらいならって言ったじゃん、絶対メンタルズタボロだよ

 あの見た目の可愛い毒舌な女の子は誰なんだ?

「おっ、理奈か」

 先生の知り合いか?

「ん? 佐奈姉じゃん」

 佐奈姉?

「おい、学校では菊地先生って呼べって言ってるだろ」

「ごめん、ごめん」

 ん? 佐奈姉って? もしかして? いやそんなわけないよな

「菊地先生、その背の小さいまるで妹みたいな女の子は一体…」

 そうだ、先生の妹がこんな可愛い訳がない、頼む違ってくれ

「あぁ、こいつか、こいつは私の妹の理奈だ、一応恋愛相談部の部長だ」

「そだよー」

 なんだと? 妹だと? 何かの間違いだ、認めるものか!

「そういう設定ですか?」

「失礼だぞ! 正真正銘の妹だ!」

「嘘だ! 先生みたいな女子力の欠片すら無さそうなひとの妹があんな女子力高そうで、可愛い訳がない!」

「おい屋文、そろそろ怒るぞ?」

 先生は俺の肩に手を置き小声で言った

 さすがに身の危険を感じたため

「すみません! 調子に乗りすぎましたっ!」

 辺りに響きわたる声で言った

「許してやろう」

「ありがとうございます!」

 危なかった、このままボコボコにされるのかと

「てか先生、一年が部長なんですね」

「どういうことだ?」

 先生は不思議そうな顔で言った

「え? 理奈さんは一年なんじゃ?」

「お前、名前は?」

 先生の妹が言った

「屋文 浩です」

「屋文 浩か、何年だ」

 なんでそんなこと聞くんだ?

「二年です」

「お前に一つ言おう、私は三年だ」

「え?」

「三年だ」

「は?」

「三年だ!」

「はあ!?」

 いやいや待てよ、うちの制服着てたから高校生なのは分かったが三年だと? 制服姿じゃなかったら小六って言われても信じちゃうよ? こんな高三いるわけない、いたとしても二次元の世界だけの話だろ、嫌だ信じたくない漂う後輩臭がフェイクだというのか!?

「証拠は?」

 信じない、俺は信じないぞ!

「ほら、生徒手帳だ」

 なに? 生徒手帳だと? ちゃんと持ってきているだと? とりあえず見てみるか


 三年D組15番菊地 理奈

 

 なぁ神よ何故この子を先輩にしたのだ教えてくれ

「なんで泣きそうなんだ」

「すみません、色々合って」

 現実を受け止めよう、先輩なら敬語で話さないとな

 あと部活について聞かないと

「菊地先輩、恋愛相談部って主に何をするんですか?」

「もう一回!」

 先輩は何故か嬉しそうだ

 なんでそんな嬉しそうなんだ?

「恋愛相談部って主に…」

「違う!」

 どういうことだ?

「最初の部分を頼む」

 最初の部分? 菊地先輩の部分か?

「菊地先輩」

「おぉ! もっとだ!」

「菊地先輩! 菊地先輩!」

 なんだよこれ

「いいぞ! 屋文くん!」

 困った顔で先生が言った

「お前ら、私の前で何してるんだ、理奈、先輩と呼ばれるのが嬉しいのはわかるがあまり後輩を困らせるな」

「はい…」

 先輩は少し寂しそうに言った

 よかった、終わった

「とりあえず部室に入るぞ」

「はーい」

「へい」

 ガララッとドアを開け中に入った

 中はこんな感じなのか

 長い机に、椅子、本棚、ポット、まぁ普通だな

「理奈、そろそろ屋文に部で何をするか説明してやれ」

「はーい」

 そうだよ、それが知りたかった

「主に生徒の恋愛相談を聞いて適切なアドバイスや情報収集をするのがこの部の活動内容だ」

 さっき適切なアドバイスどころか相手のメンタルぶち壊してたじゃねーか

「菊地先輩は恋愛経験あるんですか?」

「ん? ゼロだ?」

「えっ? ないんですか?」

「うん」

「じゃあアドバイスはどうやって」

「基本的に適当に流してる」

 先生と同じこと言ってる、姉妹揃って最低だなおい

「なら次からは俺が相談受けます、菊地先輩よりはまともアドバイス出来ると思うので」

「わかった、君に任せるよ」

 俺が受けると言ったものの俺も恋愛経験ゼロだからなぁ、まぁなるようになるさ

「では、私は他に用事があるから、理奈を頼むぞ屋文」

「わかりました」

 ガララッとドアを開け先生は出ていった

 椅子に腰を掛け相談者を待つとするか

「ほらお茶だぞ」

 意外と優しいんだな

「ありがとうございます、先輩って優しいんですね」

「えっ、いやそんな優しいとか誉めてもなにもないぞ」

 なんで慌ててるんだ?

 このお茶美味しいな

「先輩っていつも一人なんですか?」

 いつも一人なら寂しそうだが

「一人じゃないぞ」

 他にいるのか

「他に誰がいるんですか?」

「ちいちゃんがいるぞ!」

 あだ名可愛いなおい

「あの、ちいちゃんって?」

「明日は来ると思うからその時紹介するよ」

「わかりました」

 名前から漂う妹感、果たしてどんな人なんだろうか

 ガララッとドアが開いた

「すみません、恋愛相談に来ました」

 遂に来た、緊張するがいっちょ頑張りますか

「相談とはどんな相談で?」

「あのですね、近所の女の子に一目惚れで」

「なるほど、それで年齢は?」

 意外にまともだな

「年齢はわかりません」

「そうですか、高校生ですか?」

「違います」

 高校生じゃないのか、大人か? でも女の子って言ってるしな

「近所の女の子ってのは女子小学生の女の子で」

 ん?聞き間違えか

「いつも僕に笑顔で挨拶してくれて、もしかして運命かなと」

 なに言ってんだこいつ、

「一つ言って良いですか?」

「はい」

「諦めてください、まず運命なんかじゃありません、このままエスカレートしていくと犯罪者になりますよ?」

「そんなことあるわけ」

「今のあなたは犯罪者の一歩手前ですよ? 諦めてください、相談ありがとうございました」

「え?」

 彼は不思議そうな顔で言った

 ガララッとドアを開け俺は無理矢理彼を追い出し

「ありがとうございました」

 俺は笑顔でそう言うとおもいっきりドアを閉めた

 ガタンッ

「なんなんだよあいつ」

 ろくな相談じゃなかったな

「先輩いつもこんな相談受けてるんですか?」

「そうだな、前は79歳のおじいさんに一目惚れしたという女子が相談に来たり、ホームレスのおばあちゃんに一目惚れしたという男子が相談に来たりはしたよ」

 いやこの学校の生徒の恋愛対象謎すぎるだろ

「屋文くん、そろそろ18時だけどどうする?」

 もうそんな時間か

「じゃあ俺は帰ります、お疲れ様でした」

「お疲れ様ー、またね」

 

 夕方の校門

 はぁ、疲れた

 色々ありすぎ、部活に入ることになったり、先生の妹が可愛かったり、小学生に一目惚れしたやつがいたりほんと大変だったな

「浩くん! 一緒に帰ろ?」

「ん? あぁ三代か、部活はどうしたんだ」

「部活は今日早く終わったよー」

そうなのか、てかやっぱり可愛い俺の幼なじみは可愛い

というか何か嬉しそうだな

「なんだか今日は嬉しそうだな」

「そうかな? 久しぶりに浩くんと帰れるからかな?」

なにこの可愛い生物、久しぶりに浩くんと帰れるからかな? だと、可愛いすぎるじゃねーか、やはり見た目、性格なにやら全部俺の理想の妹像じゃねーかこのやろう!!

神よ何故三代を俺の妹にしなかったのだ

「浩くん? 浩くん! 浩くん!!」

「ん?どした?」

「返事ぐらいちゃんとしてよ」

「ごめん、ごめん」

くそっ、可愛い

「浩くん、菊地先生から聞いたんだけど部活に入ったってホント?」

「あぁ、入ったよ」

「そうなんだ、何部?」

「恋愛相談部だ」

「なにそれどんな活動するの?」

まぁ、そうなるよな

「人の恋愛相談を受けて、アドバイスや情報収集をする」

「へー、そうなんだ、恋愛経験ゼロの浩くんが恋愛相談を受けるのか、なんだか楽しそうだね」

「ちょっと馬鹿にしたろ?」

「してないよ? 多分」

多分ってなんだよ多分って

「まぁできるだけ頑張るつもりではいるよ」

「そっか、だったら私の恋愛相談も聞いて欲しいな…」

「えっ? 今なんて言った?」

「なんにも言ってない!!」

「おっ、おう」

「もう着いちゃった、また明日!!」

「おう、またな」

ここから一人な訳だが、三代いつもと何か違ったよな、何かあったのか? あの時なんて言ったのか気になる、まぁ気にしないでおくか

そう考えてるうちに家に着いた

「ただいま」

まぁ父さんは仕事で居ないから誰もいないんだがな

ガチャッ ドアを開けるとキッチンに料理をしている見知らぬ女の子がいる

「おかえりー」

え? 誰? なんで人の家で勝手に料理してんの?

そうじゃない、まずなんで家に勝手に入ってるのかが大事だ

「なんで人の家に勝手に入ってんだ!?」

見知らぬ女の子が口を開いた

「お父様に言われて」

は? 父さんが?

ガチャッ

「ただいま息子よ!!」

「ただいま息子よ!! じゃないよ誰なのこの子」

あーもう焦って頭が回らないよ

「わが息子よ聞くがよい!」

「父さん、そろそろふざけるの止めないとキレるよ?」

「ごめんなさい」

「説明して」

「はい、えーっとですね、私が再婚しまして、それで相手の子供である華乃ちゃんがお前の妹となるわけだ、その妹になる華乃ちゃんがその子なんだよ」

は? なにそれ? なんにも知らなかったんだけど

「ていうことは、俺に言わず父さんが勝手に再婚して妹と母さんができたと?」

「はい、そうです」

はぁ、そういうことか、悪いの全部父さんじゃないか

「ごめんね、華乃ちゃん、全部このバカ親父が悪いから、ごめんね俺なんかが兄で」

まぁこんな形でも妹が欲しいという夢が叶った訳だから嬉しいな

「いえ、そんな、私は浩さんだから良かったというか、妹としてではなく異性として見て欲しいというか、なんというかとりあえずお兄ちゃんって呼んで良いですか?」

「うっ、うん」

「ありがとうございます!」

「息子よ、華乃ちゃんお前にベタ惚れだから頑張れよ」


「え?」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

「妹にしか恋できない」 小浜さんぽ @yasikisino

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ