3-いざ山岳部へ
部活動紹介のあった次の日の放課後、僕は幼馴染と一緒にまず写真部のほうの入部届けを出しにきた。
顧問は化学の先生でこれまた気が弱そうな男の先生だった。
カメラは持っているか?写真を撮ってきたことはあるか?など一通りの質問に答えたあと、部室として使っている教室に連れてこられた。今日も活動するらしい。
そこには先輩方や同じく新入部員と思われる人達がいた。驚いたことに部長以外の部員はみんな女子だった。
これじゃあ部長は気まずいだろう。いやまて?部活だと結構精力的だったりするのか?と考えていると、部員のみなさんがこちらをじっと見てきたので僕のほうが気まずくなってしまった。
取りあえず自己紹介をし、ビミョーな雰囲気になってしまったので逃げ出すことにした。
「じゃ、じゃあ山岳部のほうにもいかなきゃなんで」
と顧問と幼馴染に言い、早々と抜け出してしまった。
次に山岳部の方へ向かった。
山岳部は直接部室に行かなくても生物室に行けばいいらしい。顧問が生物の先生だからなのか。
生物室に着くと【山岳部はこちら】と書いてある古びた木の板が下がっている。
恐る恐るドアを開けてみると、そこには何人かの部員と思われる人たちが駄弁っていた。なかなか気づいてくれない。
「あ、すいません。入部希望の…」
「え!?もしかして新入部員?」
「まじで!」
「おお!」
と、よほど珍しかったのか僕が言い終わる前にこっちに来てくれた。さっきの写真部での歓迎と大違いだ。
「え?え?名前は?」
「よかった!昨日誰もこなかったから心配してたんだよ。これで廃部の危機は乗り越えられる。1年生だよね?」
「なんで来ようと思ったの!?」
ああ、順番に聞いてほしい。
そして本日ニ度目の自己紹介をし、入ろうと思った経緯を話した。
「いやー嬉しいよ!去年は3人しか入ってこなくて!たぶん部活動紹介でみんなケガをした格好をしてたのがいけなかったんだろうな」
なんでそんな格好をしたんだ、とツッコミたくなるのは抑えて、そのガタイの良い先輩の話を聞いていた。どうやら一度に十何人入る年もあれば一人も入らなかった年もあったらしい。
「あ、俺の名前を言ってなかったね。吉田竜也、この部活の部長をやっています!」
本当に部長だったらしい。
これからトレーニングがあるらしく、体育着に着替えてこいと言われた。促されるまま部室に行こうとしたときだった。
「すいません、ここ山岳部で合ってますよね?」
自分が開けようとしたドアが勝手に開いて元気そうな茶髪ぎみの男子が入ってきた。その後の先輩たちの反応をみて、また新入部員が入ってきたんだと確信した。
そのまま総勢5人でトレーニングに行くことになった。
その時他にいた先輩は、いかにも山男な風格を漂わせる近藤先輩と穏やかそうな顔をした田島という2年生の先輩たちだった。
部室に入ると想像していたよりも沢山の物で溢れていた。
部屋の真ん中には机が置かれ、壁に設置してある棚にはダンボールやビニールシート、登山用品、山関係の本などが山積みになっていた。漫画や小説、各種ボールや水鉄砲まである。床には大きなリュックや登山靴が転がっていた。
「ここにある物説明してると、きりがないから使うときがきたら説明するね。
あ、そこのイス使っていいから」
指示されたイスに体育着を置き、着替えを始めた。机までもが登山用品で占領されているからである。
着替えが終わり体育館の前まで行くと各自準備運動するようにと指示が出た。
今日は「坂ダッシュ」なるものをするらしい。
学校の近くは段丘となっていて多くの坂がある。今回は学校から一番近い坂に走って行くという。
そこまで行く途中、新入部員、改め神崎くんが話しかけてきた。
「ねえ、山ってどこ登ると思う?富士山とか行くんかな。俺、元々テニス部だったから昨日はテニス部の方見に行ってたんだけどさ。行ったはいいけど、人多すぎだし、コート使えないし、めっちゃ怒鳴ってる先輩いて嫌んなってこっちきたんよ。君はなんで入ろうと思ったん?」
そう言って彼は、さっそく息が切れ始めた僕のペースに合わせてくる。
「僕は写真を撮りたくてここに入ったんだよ。だから景色がよければどこ行ったっていい」
そう答えた。
「へえ」
…おい、聞いといてなんだよそれ
そんなことを話しているうちに目的地に着いた。一見傾斜は緩やかそうな坂だが道がカーブしていてその先は見えない。
「よし、じゃあまずは軽く上まで走ってみようか!」
そう部長が言った。
「いくよ!よーいスタート!」
ちょ、早い早い心の準備がまだ…
そんな間もなく先輩たちはどんどん走っていく。
僕もそれに付いていった。
こんなに走るのなんか久しぶりだ。いや、授業以外でちゃんと運動するのは小学生の時のスイミング以来かな。先輩たちは元々何をやっていたんだろう。
そんなことを考えていると、カーブに差し掛かった。元気よく走り始めたもののそろそろ足が重くなってきた。
あ、あれ?なんか傾斜が…
カーブを過ぎたあたりから傾斜がきつくなってきた。辛くなってきた。
でも先輩たちは先へ先へと走っていく。
息が切れて歩きたくなってくる。
前を走っている神崎くんはさすが元テニス部だけあって体力はあるようだ。
でもまだまだ坂は続く。
そして神崎くんはやさしい、さっきから大丈夫か?大丈夫か?と言いながら僕の止まりそうなペースにあわせてくる。
あれ?こいつ、もしかして心配するふりをして休みたいんじゃないだろうか…。
坂はそれから2カーブあった。
ようやく平らなところに出るともうヘトヘトだった。先輩たちは、最初はそんなもんだ、とか言っている。
そしてまた同じ坂を下っていった。
結局この日は、そんな上まで行って戻ってくるような走りが6回続いた。その中にはバック走という後ろ向きに走る謎な走り方もあった。
学校にかえってもトレーニングは続いた。筋トレとして腹筋、背筋、腕立て伏せなどを行った。先輩たちは当たり前のようにやっていたが、運動不足な僕にはかなり辛いものだった。
こんなのが毎日続くのか…。
僕はやっぱり運動部は無理なんじゃないかと思ってしまった。
玄関に戻ると幼馴染が待っていてくれた。
「山岳部、どうだった?」
「キツかった。走ったんだけどやっぱ先輩たちにはついていけない。最初からこんなんじゃこれからどうなっちゃうんだろ。そうだ、写真部のほうはどうだった?」
「あー、あの後みんなで色んな所写真撮り行ったよ。先輩は結構優しかったし、部長さんも撮り方とか教えてくれたし」
「そうだったのか…」
僕にはまだ分からなかった。山岳部に入って良かったのか。写真部だけで活動してれば良かったのか。これから先どうなってしまうのか。
心配でそれ以上話すことはできなくなった。
そんな僕の心とは裏腹に、日が長くなった春の空はまだ明るく晴れ渡っていた。
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