第6話 ラヴのつくホテルにて……

「ここにはありそうか?」


街に入るなり、トウマはリンカに聞く。

リンカはトウマの服に付着したほんの少しの魔法エネルギーからこの付近に魔法書があることを掴んだのだが……


「うーん、分からないわ……

魔法書にも触れてないんでしょ?

微細すぎて正確な情報が掴めないわ」


「そうか……」


「まぁ、今日はもうどこかに止まりましょう、もう日が落ちてしまいましたし……」


カトエルの提案を二人は素直に受け入れる。

既に街は闇に飲み込まれ、光が少しあるだけだ。

この中での行動は危険すぎる。


「よし、じゃああそこでいいんじゃないか?」


「あそこ?」


三人が見つめた店の看板には『ホテル』の文字が見える。


「そうね、そうしま――――――!?」


「ん?どうかしたか?」


「あ、あ、あれ……ホテルじゃない……」


「あ?どう見てもホテルだろ?」


「いや、あれは……ラヴのつくホテルよ?」


「それがどうかしたか?」


トウマは訳が分からず首を傾げる。


「だーかーら!あそこは普通のホテルじゃなくて、えっと……あ、」


「うるさい、とっとと入るぞ、疲れてるんだ、入りたくないならお前は野宿だ」


「うぅ……もぉ!入るわよ!」


「何起こってんだ?」


「な、何でもない!」


「は?」


「…………」


3人はラヴのつくホテルに踏み込む。


「いらっしゃいま……せ……」


(男二人と女の子1人?そういうプレイ?)


「一晩頼む」


「あ、は、はい!お部屋は……はい、空いてますね!」


カウンターのお姉さんは鍵をひとつ、トウマに手渡す。


「…………ちょっといいか?」


「はい、何でしょう?」


「いや、部屋を二人と一人に分けたいんだが……?」


「!?」


(1人!?どういうプレイ!?逆に興味が……)


「はい!かしこまりました、では隣の部屋の鍵をお渡ししますね、料金は2部屋分となりますのでご注意ください」


二つ目の鍵を受け取り、言われた部屋のある階に上がる。


「では、私はこちらで……」


と、カトエルがトウマから鍵を横取りして部屋に駆け込んでいった。


「ちょ!お前!普通は男同士だろ!?」


その時、背後から「え!?」っという声が聞こえた気がした。

聞いたことのある声だったような……


「おい!開けろよ!」


「私は誰かと寝るのは嫌いなので……」


ノックしてもカトエルは開ける気はないようだ。


「……仕方ない、お前と寝るか」


「え!?それってつまり……」


リンカの顔が赤くなる。


「早く入るぞ」


トウマが先に部屋に入り、リンカがあとに続く。


荷物は特にないがそれらを部屋の隅に置く。

そしてトウマはまた首を傾げる。


「なんでベッドがひとつしかないんだ?」


「そ、それは……ラヴ……だからよ」


「は?意味わからん」


トウマはベッドを見つめて呟く。


「まぁ、このデカさなら窮屈きゅうくつにはならんだろ……」


この世界にも風呂に入るという文化はあるようで風呂場が付いていた。


「リンカ、先入ってこいよ」


「え、それは……つまり……あんたが準備を……」


「あぁ、準備しとくから先に入れ」


「わ、わかったわ……」


部屋に用意されていたタオルに顔を押し付けるようにしてリンカは風呂場に入っていった。


「よし、明日の準備するか」




「……お先」


「お前、髪が垂れると雰囲気変わるな」


「そ、そう?」


「ああ、落ち着いてるな」


「そ、そっか……」


「…………で?」


「え?」


「いや、なんでま?タオル巻いてんだ?

風呂場で服来てこないと見えちまうぞ?」


「え、いや、それは……今から……」


「は?」


「し、しないの?」


「なにを?風呂なら今から入るが?」


「…………」


「は?変なやつだな……」


トウマは服とタオルを掴んで風呂場に入る。


「…………」


(いま、あの扉のむこうはトウマがは、裸!?)


リンカは1人で顔を抑えて悶えている。


(こんなこと……トウマも思ってたのかしら……、だって……いまから私たち……しちゃうのよね?)



しばらくして風呂場の扉が開く。


「はぁ、さっぱりしたなぁ」


トウマが頭を拭きながら出てくる。


「……なんで服着てないんだ?」


リンカはまだタオル姿だ。


「……あ、もしかしてお前……」


「!?な、何!?」


「……そういう性癖だったのか?」


トウマはわかりやすく引いている。


「ち、違うわよ!」


「じゃあ服着ろよ!」


「あんたこそなんで服きてるのよ!」


「はぁ?お前、そういう種族だったのか?」


「ち、違うわよ!だって、私たち……いまから……」


「?」


「し、シちゃうんでしょ?」


「なにを?」


「はぁ?な、何をって……そ、そんなこと、言わさないでよ!」


「いや、マジで何言ってんのか理解できないぞ?」


「え……じゃ、じゃあ……違うの?」


「何がだ?」


「今から何するつもりなの?」


「いや、寝るだけだ」


「…………」


リンカは恥ずかしさのあまりベッドにダイブして布団にくるまって暴れ始める。


「いやあぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


「ちょ、お前!頭大丈夫か!?」


「…………だ、大丈夫……じゃない」


「疲れてるのか?ゆっくり休めよ?」


リンカは今、ラヴのつくホテルでするはずのことをトウマとするのだとドキドキしていた自分をぶん殴りたい気持ちを抑えつけていた。



翌朝、


「な、何もしてない?」


「は?することなんかないだろ?」


リンカは夜の間に何もされていなかったことに安堵すると共に自分の魅力を否定されているような虚無感に襲われていた。


「なんで何もしないの!?」


「眠いんだから何もしねぇだろ!」


「ラヴのつくホテルってのはぁ……!」


「だからなんなんだよ、そのラヴって……」


「そ、それは……」


リンカは息を吸いこんで覚悟を決める。


その瞬間、扉が開いてカトエルが入ってきた。


「おはようございます、鍵、閉めなきゃダメじゃ―――――――」


「男女がエッ〇する場所なの!」


「あ…………」


「は?」


カトエルは突然の発言に戸惑い……

トウマはその発言に眉間にシワを寄せる。


「いや、そんなことするわけないだろ?」


「な、なんでよ!」


「だって……俺、お前に興味ないし……

俺、お前を人間として見てないし……」


「…………え?」


(人間として見られていないなんて……)


「それに俺、向こうの世界に彼女いるから、いくら世界が変わろうとあいつが聞いて悲しむことはしないつもりだ」


「…………そうよね」


意外に一途なトウマを知ったリンカはそれ以上は何も言わなかった。


風呂場でさっさと着替えて出てきた。


「さあ!この街から魔法書をみつけるわよ!」


無理やりな、取って付けたような張り切り感が痛々しい。


「ふふっ、昨晩はお楽しみ……とは、ならなかったようですね?」


「う、うるさいわね!

魔法、ぶっぱなすわよ?」


「おー、怖い怖い……

ま、リンカさんの魔法など、私には通用しませんがね」


カトエルは不敵に笑って部屋を出ていく。


「な、なんなのよ……」


「……リンカ?」


「ひゃ、ひゃい!?」


突然、トウマに呼ばれて驚いたように跳ねるリンカ……


「お前、俺としたかったのか?」


思ったより直球な質問に明らかにたじろぐリンカ。


「そ、そそそそそそんなわけ……ないじゃにゃいか!」


「……そうか、ならいい、お前が誰とでも寝るような変態なら今すぐ切り殺そうと思ったのだが……」


「そ、そんなわけ……ないですよ?」


「…………」


トウマは何も言わずにリンカの横を通って部屋を出ていった。


チェックアウトをしに、カウンターのお姉さんに話しかける。


「チェックアウトを頼む」


「は、はい!かしこまりました!」


トウマは2つの鍵を返す。


「あ、あの……?」


「ん?なんだ?」


「昨晩、お客様はあちらの女性と同じ部屋でしたよね?」


「ん?そうだが……どうかしたか?」


「いえ、い、いかがでしたか?」


「そうだな、ゆっくり出来た……」


「そ、そうですか……それは良かったです」


お姉さんは営業スマイルを浮かべる。


(ゆっくりデキた……ってゆっくりエッ〇したような感じには見えませんね……

男の子のセイリョクは恐ろしい……)


お姉さんが横目で見た先には興味ないと言われてへこんでいるリンカの姿があった……


(1晩であんなゲッソリするほど……

私も最近レスなのよね……羨ましいわ)


お姉さんがそんなことを考えているなど知る由もなく、3人はラヴのつくホテルをあとにする。


「よし!じゃあ探索開始するか!」


トウマは元気回復してやる気全開だ。


「私もできる限り頑張りますね、探索スキルで何とかなりますかね?」


カトエルもやる気ありだ。


「はぁ……ゲッソリ……」


リンカは……まだ落ち込んでいる。


「お前いつまでそんなんでいるんだよ、しかも口でゲッソリなんて普通は言わねぇよ!」


「し、仕方ないじゃない……私の魅力を否定されたんだもの……」


「……それは違うな」


「何が違うの?」


「俺は否定はしていない、俺に彼女がいなければお前に手を出したかもしれないな」


「それってどういう……」


「お前は可愛いしスタイルもいい、男ウケはいいだろうな……だが、俺にとって彼女は……鈴羽はそれだけの存在じゃないってだけだ……」


「じゃあ私には魅力があるの?」


「ああ、あるとも」


「そうよね!なんせさっきから男がみんな私を見ているものね!」


「ああ、そうだな……でも、それは魅力じゃないと思うぞ?」


トウマはリンカの下半身を指さして言う。


「へ?」


「お前……スカート履いてないからな」


リンカが自分の下半身を見下ろすとそこにはイチゴ柄の白生地の下着が見えていた。


「あ、あ、い、い、イヤァァァァァァァ!」


リンカはその場で発狂しながら座り込む。


「と、トウマ!?なんで教えてくれないのよ!」


「だって……」


トウマはニヤリと笑う。


「そんな反応見るのって愉しいだろ?」


その顔はリンカの何かをキレさせるには充分すぎた……


「てめぇぇぇ!ぶっ殺す!」


リンカはトウマ目掛けて腕を構える。


爆死デスプロージョン爆死デスプロージョン爆死デスプロージョン爆死デスプロージョン爆死デスプロージョン爆死デスプロージョン爆死デスプロージョン爆死デスプロージョン爆死デスプロージョン爆死デスプロージョン爆死デスプロージョン爆死デスプロージョン爆死デスプロージョン爆死デスプロージョン爆死デスプロージョン爆死デスプロージョン爆死デスプロージョン爆死デスプロージョン爆死デスプロージョン爆死デスプロージョン爆死デスプロージョン爆死デスプロージョン爆死デスプロージョン爆死デスプロージョン爆死デスプロージョン爆死デスプロージョン!」


リンカは殺意のうごめく瞳でトウマを睨みつけて爆死魔法を唱え続ける。


「お?殺意で威力アップしてますねぇ」


評論家のように解説するカトエル……

そこにも1発飛んでくる……


「お前も共犯だよなぁ!死に爆ぜろ!」


この日、ニュースで、


『少女が町中で爆死魔法連発、狙われた男、ラブのつくホテルから出てきたことを目撃されている、羨ま……怪しい……』


と放送されてしまった……


たった数分で3人は街で知らない人はいないというほど有名になってしまった。


壊れた街並みはカトエルの再生魔法で直ったが、リンカは街中を謝り歩いて魔法書所ではなくなってしまった。


しかし、奇跡的にけが人はゼロだった。

もちろん、トウマも含めて……


謝り歩いて帰ってきたリンカと広場で落ち合う。

もうすっかりオレンジの空になっていた。


「なんで肝心のあんたが怪我しないの?」


「お前の魔法が雑魚だからだよ」


「な、なにぃ〜!」


リンカはフンっと言って顔を背ける。


「いつかはギタギタにしてやるから!」


「ほう、楽しみだな、余計にお前と旅を続けなくちゃならないがな……」


「…………あ、あそこに宿屋あるじゃん……」


広場の近く、よく見ると宿屋が建っていた。


「あるなら昨日もこっちにすれば良かったな」


三人は宿屋にチェックインして部屋に入る。


「じゃあ今度こそカトエルと……」


トウマがカトエルと部屋に入ろうとした時、リンカがトウマの服をつかむ。


「なんだよ……」


「い、言ったでしょ?ギタギタにしてやるって……、だから手始めにあんたの心を曲げてやるわ!彼女さんから私に目を向け変えさせてやるから!」


「……面白いじゃないか」


「だから今日も同じ部屋で……寝て?」


「…………」


カトエルはニヤニヤしながら二人を見ていた。


「仕方ないな、ま、無駄だろうけどな」


「わ、分からないじゃない!」


「ふっ、どうかな?」


騒がしい二人が部屋に入っていくのを見届けてカトエルも部屋に入る。


「ふぅ、私の秘密がバレたらめんどくさいですからね、リンカさんがああ言ってくれて助かりましたよ」


カトエルは何やら1人でコソコソとやっていた……。


その日の夜……


「ちょ!なんでもう寝てるのよぉぉ!」


リンカに攻めるターンを与えずにトウマは眠ってしまった。

あとに残ったのは不貞腐れたリンカだけだった……


「こ、こいつ…………」



そしてまた、夜が明ける。

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現実に飽きたので現実逃避の一環として異世界に転生します プル・メープル @PURUMEPURU

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