第5話 魔法書のある場所は……

「ここにあるかもしれないんだな?」


3人は街に入るなり話し始める。


「えぇ、情報では川が北にある街の中心部にあるらしいわ」


確かにこの街は北の方に川が流れている。


「なら、さっさと中心部に行こうぜ」


「行動が早いわね、もう少し観光とかしないの?」


「お前……誰かに先を越されちゃまずいんじゃなかったのか?」


「あ……忘れてた」


「ほんとにバカだな」


「し、仕方ないでしょ!始めてきた場所は探索したい性分なのよ!」


「はぁ、わかった、お前は観光してこい。

カトエル、ついて行ってやれ、また迷子になられたら困る」


「わかりました、トウマさんも気をつけてくださいね」


「お前こそそいつにセクハラして捕まんなよ?」


「ははは、しませんよぉ、するとしたらパワハラですかね」


「それならいい」


「えっ!?いいんだ……私、パワハラされてもほっとかれるの?」


「俺の知ったことじゃない……」


「ちょ、どこ行くのよ!」


「決まってるだろ、中心部だよ」


トウマは二人を置いて中心部に向かった。



「中心部ってことはこれか?」


他とは全く違う、存在感のものすごい図書館だ。


「こんな場所にあるのか?」


いくらでかい図書館でも伝説級の魔法書なんて置いてあるわけがない。


「ま、入ってみるか」


大きな扉を開けて中に入る。

中は薄暗くて埃っぽい。


「明かりはないのか?」


あたりを見てみるがスイッチらしいものは見えない。


「まぁ、こっちの方が面白いか……」


ただ、本の題名さえ見えないんじゃ意味が無い。


「そう言えば光の魔法とかはないのか?」


トウマはそこでアニメで見た魔法を唱えてみる。


「リトルホープ」


と、トウマの胸から中に浮かぶ光の球が飛び出してきた。


「お、意外といけるもんだな、リトルホープって『ちいさな希望』って意味だがな」


まぁ、光さえあれば問題ない。

トウマは端から本を探っていく。


「んー、『異世界の真ん中で』違う

『異世界だもの』……違う、

『異世界の異世エビ』……違うな」


タイトルに異世界が入り気味なのが気になるが魔法書らしいものは無い。


「…………ん?」


順番に見て言った中にひとつ、気になるものがあった。


「……『魔法書は回れ右』……か」


まさかとは思うが後ろを向いてみる。

いや、何も無い……いや、待てよ。

『回れ右』が気になる。

いまは左から向いたはずだ。

試しにトウマは回れ右をしてみる。


「……!?さっきとほんの並びが違う!」


さっきまでなかったはずの赤い本が置いてある。

トウマはもう一度、左から後ろを向く。


「……無いな」


これは確定だな。赤い本が魔法書、もしくはそのヒントだ。


トウマは回れ右をして赤い本を見る。


「……魔法書は左にある」


「!?だ、だれだ!」


確かに声がした気がした。

だが、当たりには人の気配はない。


「…………気のせいか?」


トウマは赤い本にもう一度目を向ける。


「『魔法書は右』……か、聞こえた声とは違うことを書いてあるな」


トウマは本棚を伝いながら右を探す。

1冊ずつ丁寧に見ていく。


「…………ないぞ」


端まですべてを確認したはずだが、それらしきものは無い。


「流石に魔法書の場所のヒントが書いてある本が何冊もあるってのに魔法書自体がないなんてことは……」


「だから左って言ったのに……」


今度ははっきり聞こえた。


「だれだ!」


「あらら?見つかっちゃった?」


「みつかっちゃったって……そもそも隠れる気ないだろ」


声の主はトウマの耳元で囁いていたのだから……


振り向きざまにトウマは声の主を睨みつける。


「あはは、その目、いいねぇ!

ボクは好きだよ?」


風貌は小柄で青い髪に魔女の帽子、制服のような格好をしている女の子だ。


「でもなぁ、ボク、左だって教えてあげたのに信じないからさ、だ・か・ら……」


少女は顎に手を当ててクスクスと笑う。

そして背後から大きな本を出して見せる。


「魔法書、頂いちゃった♡」


「そ、それは!」


「ふふ、そう、君の探していたものだよね?まさか『カエデ』以外にこれを探している奴がいるなんてね……」


「カエデ?だれだ……」


「知らないならそれでいい、どうせこれは僕のだからね」


少女は手の中にほうきを出現させてそれをまたぐ。


「じゃーね!」


少女はそのまますごいスピードで図書館を飛び出していってしまった。

その衝撃で建物がギシギシと音を立て、風で本が棚から落ちる。


「くっ!」


急いで追いかけようとトウマも建物を飛び出すがもう、姿は見えなかった。


「クソっ!」


トウマの中では先を越された敗北感と……


「面白くなってきたじゃねぇか!」


高揚感が渦を巻いていた……。




「えっ!?先を越された!?」


「あぁ、すまない」


リンカ達と合流したトウマは謝る。


「ちょ、謝らないでよ……

ここにあるなんて決まってたわけじゃないし、油断するのもわかるわ」


だが、リンカは重々しい表情をしていた。


「どうかしたのか?」


「その先を越したやつって、もしかして青い髪の……?」


「あぁ、そうだが?」


「ならまずいわ!」


リンカは急に慌て始めた。


「まずいって……何が……」


「そいつが私と競ってた奴よ!

それにアイツは……『転生民』よ!

アイツは魔法を増幅させる力を持っているから、アイツが手にしたとなれば……」


リンカが生唾を飲み込む音が聞こえた。


「街ひとつ、破壊するのは簡単よ」


「な、なんだと!?魔法書にそんな力が……」


「それに魔法書は世界に7冊あると言われているの、1冊が見つかったからその情報の

信憑性しんぴょうせいは増したわ」


「7冊集まるとどうなる?」


「……わからないわ」


リンカの顔は青ざめている。


「だが、1冊でその膨大な力を持つなら、すべてが集まれば……」


トウマの頭に浮かぶたった一つの可能性おそれ


「…………世界を破壊する力……か」


「!?」


リンカも驚きを隠せないようだ。


「この世界が壊されてしまうのは私も許せませんねぇ」


カトエルも笑って入るが目の奥の闇がうごめいている。


「なら、俺たちの目的、いや、義務というべきか?そいつは決まりだな」


リンカとカトエルは同時に頷く。


「魔法書を集める」


7つの魔法書、それが誰かの手に集まらないように……

トウマはそのすべてを手に入れる。

その為にも、青い髪の少女は必ず倒さなくてはならないだろう。


「よし、すぐに次の街に向かうぞ」


「わかったわ!」


「では、すぐに出発しましょう」



街の出口を出たあたりで洞窟が現れた。


「…………リンカ、迷うなよ?」


「な、なによその目は!そんな何回も迷ったりしません!」


「ならいいんだが……」


3人は縦に並んで洞窟に踏み入れる。

トウマ、リンカ、カトエルの順だ。


「リンカ、そんなに引っ付くな、

あと、俺を盾にするな」


「し、仕方ないじゃない!

暗いの苦手なのよ……」


「これだから女は……」


ため息がこぼれる。


「……ちょっと!カトエル?くっつかないでよ!」


「え?私はくっついてなんていませんよ?

お二人のイチャイチャの邪魔になるかと思い、離れていましたから……」


確かにカトエルは少し後ろで歩いている。

なら、リンカに触れたのは?


「ボクだよ!」


と、背後から青い髪の少女が姿を現す。

カトエルからも見えなかったということは不可視化していたのだろう……


「!?なぜお前がいる?」


「そんな怖い目、しないでよぉ、遊びに来ただけだよ」


少女は不気味に笑う。


「遊び?そんなものしてる暇はない、さっさと消えろ」


「ムゥ……連れないなぁ、ま、無理矢理にでも参加させるけどね」


そう言って少女は呪文を唱える。


自然ナチュラル迷宮ラビリンス


すると、地面が生き物のように動き始めた。


「じ、地震!?」


「いや、魔法だ」


「ふふ、じゃあねー」


少女は箒を使って奥の方へ飛び去ってしまった。


「ま、まて!クソっ!」


追いかけようにも揺れのせいで立つことすらできない。


しばらくして揺れが止まると……


「……地形が変化しただと?」


一本道だったはずの通路に脇道ができていた。


「……これじゃあ出るのは難しそうですね」


カトエルは珍しくため息をついた。


「カトエル、地図はあるか?」


「ありますが……これは空から見て見えるものなので洞窟の中は見えませんよ?」


「あぁ、分かっている」


トウマは何かを確認して笑う。


「あの青髪、なかなかやってくれたが少々詰めが甘いようだな」


「な、なにか分かったの?」


リンカが覗き込んだ地図には現在の地形が描かれている。

リアルタイムで変化する地形を確認できる魔法物のひとつだ。

言わばGPSとか衛星を使った地図のようなものだ。


「ん?これで何がわかるの?」


「いいから俺に掴まれ」


「へ?」


わけも分からないままリンカはトウマの腕につかまる。


「カトエルは付いてこられるな?」


「はい、地獄まででもついて行きますよ」


「ふっ、出口まででいい……行くぞ!」


「え、ちょ!ま、まってぇ……」


リンカの叫びも虚しくトウマは走り出す。

現実世界では考えられないようなスピードを出し、曲がりくねった洞窟内を駆け抜ける。


そして―――――――、


「!?ま、眩しい!」


光の下にたどり着く。

リンカは眩しさのあまり、手で太陽を隠す。


「……な、なんで出口がわかったの?」


「感だ……」


「えっ!?感で出られるわけないじゃない!」


「出れたんだ、事実上な」


「そんなこと……」


「まぁ、少しは音に頼ったがな……」


「音?」


「それぞれの通路から響く音の差を聞き分ける、特に風の音とかな……」


「じゃ、じゃあ地図はなんのために?」


「あれは地形の変化で出口の位置が変化していないかを確認したんだ、こっからでないと街に行くのが遠くなる、だからもし出口まで移動していたら壁を破壊するつもりだった」


「破壊って……こんな岩盤が壊せるわけ……」


トウマは近くにあった岩に剣を叩きつける。


すると岩は真っ二つどころか粉々に砕けてしまった。


「……あるんだよ」


「あ、あんた何者?」


「ただの死に損ないだよ」


そういったトウマは剣をしまって歩き出した。


唖然としていたリンカも走ってあとをついていく。

カトエルが不敵に笑ったのが気になるがそんなことはどうでもいい。


あの青髪、次に会ったらぶっ倒す。

なかなか楽しませてくれそうだからな……


3人は沈みゆく夕焼けを背に次の街に向かって歩いていた。

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