第4話 新たな仲間(?)
「起きてください、トウマさん」
「あ?」
「もしかして朝は弱いほうですか?」
「そういうことにしておく、だから寝る」
「寝ないでくださいよ」
「なんだよ、異世界に来てまで朝は定時に起きないといけないのか?」
「はい、そこは現実的に行きましょうよ。
こっちの世界にも時間の概念はありますし、それに私も急がないといけませんから」
「急ぐ?何を?」
「まだ言ってませんでしたね」
トウマは重い体を起こして座る。
「トウマさんのような転生した人のことを私たちは『
まぁ、大体は『転生民』か『異民』と略しますが……」
「……が?」
「時には転生民を嫌う者もいます」
「それは悪い奴らだと思われてるのか?」
「いえ、この世界の住人にはそれぞれ職業があります」
「それはゲームでよくある『魔導師』とか『勇者』とかか?」
「抽象的にはそうですね、そしてそのトップであるのが私の職業である
『
「長ったらしい名前だな」
「同感です」
カトエルは静かに笑う。
「ですが、近年はその職に就ける僅かな枠のほとんどが転生民に取られてしまっています」
「それで逆恨み……か?」
「はい、ですが転生民がチートのような力を与えられているのは事実、そこに非があるのでしょうね」
「で?だから気をつけろと?」
「はい、いきなり襲いかかってくる者も少なくはありません。
いくら強くても数の暴力には厳しいこともあります」
「あぁ、わかった、気をつけておくよ」
トウマはため息をつきながら座っていたベッドから立ち上がる。
「飯は?」
この時間なら腹が減るはず……はずだ。
「この世界では定期的に食事をするという概念はありませんよ」
「は?どういう事だ?」
「つまりですね……」
カトエルは人差し指を立てていかにも解説者っぽい風貌で語る。
「この世界では食事はあくまで娯楽でしかありません。
なぜなら、この世界には満腹ゲージというのが存在して、モンスターを狩ることでそれは貯まります。
ゲージの大小は人によって差はありますが大抵は大型一頭で満腹になります。
ゲージは分け与えることができ、家族であれば父親や長男が狩りに出掛け、帰ってきたら家族で分けるという方法が一般的です」
「ゲージが無くなったらどうなるんだ?」
「いい質問ですねぇ。
無くなれば瀕死の状態になります。
トウマさんの世界で言うところの餓死の直前ですかね」
「つまり、その状態が続けば――――」
「はい、死にます」
笑顔で『死ぬ』というワードを口にするカトエルの性格に違和感を覚える。
「というわけで……」
「あぁ、行くか」
準備は既にストレージにまとまっている。
二人は宿をチェックアウトして街の出口に向かう。
街はまだ静かで少し薄暗い。
街の出口に向かって静かに歩く。
「街の位置は分かってるのか?」
「はい、あの出口から出てまっすぐ行ったところの洞窟を抜けた先ですね」
「全然近くじゃねぇ……」
「ま、短い洞窟ですから、しかも一本道です」
「そうか、ならさっさと抜けるか」
しばらく歩いたところにいかにも洞窟らしい洞窟があった。
「まるでダンジョンだな」
「ダンジョンと言えば暗闇に強いモンスターですね」
「余裕だ」
「そうですか、まぁ、そういうと思ってましたよ」
「じゃあ入るぞ」
一寸先は闇とはまさにこの事。
暗すぎて何も見えない。
「本当に一本道なんだよな?」
「はい、多少のカーブはありますが」
「……ならいい」
と、その時、足に何かが触れる。
「ん?モンスターか?」
「どうかされましたか?」
トウマは暗闇にじっと目を凝らす。
慣れてきた瞳にはうっすらと人影が映る。
「あ?女か?」
「はい、女性ですね」
顔は見えないがカトエルがにやけているのは分かる。
「おや?満腹ゲージが切れそうですね」
「それはつまり、マズいって事だよな」
「はい、その通りです」
「……」
トウマは気絶している女の子を抱えて歩き出す。
「お、お姫様抱っこというやつですか?」
「うっさい、黙ってろ、あとゲージを貯める手段を探せ」
「注文が多いですね……」
洞窟を抜け、近くの岩に少女をもたれさせる。
明るみに出てみると少女の姿がはっきりする。
赤色のロングヘアーにかなりの軽装だ。
身長ははっきりとは分からないがトウマよりはかなり小さいだろう。
「おい、大丈夫か?」
「ん……んん……」
「意識は戻ったみたいですね」
カトエルはいつの間にか数頭の小型モンスターを連れてきている。
トウマはそれを攻撃し、ゲージを回復する。
「彼女の顔の前に手をかざせばゲージを送ることができますよ」
カトエルの言う通り、手をかざすと胸のあたりから何かが流れ出るような感覚を感じ、それは少女に流れていく。
「ん……?」
少女はうっすらとまぶたを開く。
「目が覚めたみたいだな」
「良かったですね、トウマさんはヒーローですね」
「そんな子供じみた呼び方するなよ」
「ケホッケホッ」
少女は胸を抑えて咳をする。
「ほら、水、飲めよ」
「ケホッ、あ、ありがと……」
トウマの差し出した水筒を受け取り、少女はそれを飲む。
「はぁ〜、生き返ったわぁ」
少女は水筒をトウマに返して勢いよく立ち上がる。
「んじゃ、バイバーイ!」
「いや、待てよ」
逃げるように立ち去る少女をトウマは呼び止める。
「な、何よ……お礼をさせるの?」
「そんなもんいらねぇよ」
「嘘よ!私に近づいた男はみんなそうなんだから!」
「はぁ、俺をそんな男と一緒にするなよ、
何があったか聞きたいだけだ」
「き、聞いてどうするのよ!
笑うの?笑う―――――!?」
「うっせぇな、さっさと言えよ」
「な、あ、あんた何者!?
10メートルは離れてたはずなのに一瞬で……」
少女は首に突きつけられたトウマの剣に震える。
「わ、分かったわよ、言えばいいんでしょ?」
トウマは剣をしまってため息をつく。
「言うなら始めっから言えよな」
「……ま、迷ったのよ」
「迷った?あの洞窟でか?」
「そ、そうよ!わ、悪い?」
「いや、あの洞窟は一本道だぞ?
迷うはずなんてない」
迷ったのはこの少女がアホだからか、
もしくは本当に別の道があったのか……
「そ、そんなはずないわ!
私は登ったり落ちたり、追われたりして倒れたんだから!」
「おかしいですねぇ、確かにあそこは一本道のはず……」
「まぁ、こいつが馬鹿なんだろ?」
「ば、バカってなによ!」
「お前、気が強いんだな、嫌われるぞ?」
「知ったこっちゃないわ!
嫌いたけりゃ嫌えばいいわ、こっちは強ければ偉いんだから!」
「……こっち?」
「えぇ!私は転生民なのよ!」
「奇遇ですねぇ、トウマさんもですよ」
「トウマ?」
「あぁ、俺だ」
「ゲッ!あんたも転生民なの?」
「嫌そうな顔をするなよ……」
トウマはカトエルの耳元で囁く。
「転生民ってこんなヘタレばかりなのか?」
「そうですねぇ、育成に就いた職員によりますね」
「お前は?」
「私はしっかり面倒見ますよ?
彼女を見たところ、職員はいないようですし当たりが悪かったみたいですね」
「そうか……」
トウマは少女に向き直る。
「な、なによ……」
「お前はなぜここに来た?」
「な、なぜって……」
少女はトウマの真っ直ぐで、そして冷たい眼差しに負けたように口を開く。
「日常が……嫌いだから……」
少女が歯を食いしばっているのが見える。
手は強く握りしめている。
「日常から逃げてきたのよ、
もう、あんな場所は嫌!」
少女の瞳は真っ直ぐにトウマを見つめる。
そこには負の感情が込められている。
「殴られ、蹴られ、無視されて……
あんな最悪な、最低な、卑劣な世界には帰らない!」
これは彼女の本心だろう。
全身から憎しみがあふれだしている。
「ククク……いいな、その顔……」
「私は今、捜し物をしているの!
急がないとアイツに先を越されちゃう。
だからもう行くわ!」
振り返り、少女は走り出そうとする。
「待てよ」
「!?」
トウマはその腕を掴んで少女を引き止める。
「その顔……気に入ったぞ!
お前を見ていると少しは愉しませてくれそうだ!
理由は違えど日常嫌いは同じだ。
お前の目的、少しの間手伝ってやるよ」
「い、いいわよ!あったばかりの人に頼むなんて……」
「お前、口は悪いくせにいらないところで遠慮するんだな」
「そ、そんな……」
「俺は諦めが悪い、ダメと言われてもついて行くぞ?」
しばらく
「……分かったわよ、いいわ、手伝わせてあげる」
「それはありがたき……ってな」
「でもいいんですか?トウマさん」
カトエルが聞いてくる。
「別にいいだろ?俺は成長なんか求めちゃいない。
お前が俺の育成に失敗しようと知ったこっちゃない。
俺は俺を愉しませてくれそうな奴を探すだけだ。愉しめなきゃ、切り捨てるだけだ」
「ふふふ、やっぱりそれでこそトウマさんを選んだかいがあったというものですね」
カトエルも賛成しているようだ。
「で?お前の目的はなんだ?」
「……お前って呼ばれるの、いい気はしないのよね」
「だが、俺はお前の名前を知らん」
「じゃあ『リンカ』でいいわよ!」
「『いいわよ』って事は偽名か?」
「あんたがまだ信用出来ないうちは本名なんて言えないわ」
「まぁ、それでいい。
信じすぎられるのも毒だ」
「私は今、『魔法書』を探しているの」
「魔法書ならそこらに売ってるだろ?」
「違うのよ、その魔法書は転生民だけが使いこなせると言われている最強の魔法書なの!」
「そんな情報は知りませんね……」
「カトエルでも知らないんならデマかもな」
「そんなはずないわ!」
「何をもってそんなことを言いきれるんだ?」
「それは……」
「根拠なんかないんだろ?」
「……えぇ!そうよ!場所もわからないし、だから諦めろって?嫌よ!私にはあれがないと―――――」
「諦めろ?そんなこと言うわけないだろ」
「は?」
「『ある』という証拠がないというのは、
「ない」という証拠もないってことだ。
そんなことで諦めさせるかよ。それに……」
トウマは意地悪な笑みを浮かべる。
「お前が真実を知った時の顔を見てみたいからなぁ」
「……ほんとにあんたは性格に問題ありね」
「褒め言葉として受け取っておこう」
「嫌い……」
顔を背けたリンカの目線の先には次の街が映っていた。
次の街まではあと少しだ。
さぁ、俺を愉しませてくれる奴はいるかな?
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