第2話 日常からかけ離れた世界

冬馬は気がつくとだだっ広い草原に寝ていた。風は心地いいし程よい温かさだ。

だが、直感的にここは日本ではないことを察する。


辺りを見渡してみたが男の姿はない。

だが、近くにはさっきまで持っていた学校の制定鞄と『異世界目録』が落ちていた。

本を開いさっきまで書かれていたはずの文字がすべて消えていた。


「ど、どういうことだ……?」


とその時、開いていた白紙のページにうっすらと文字が浮かび上がってくる。


「ん?オ・レ・ハ・オ・マ・エ・ヲ・ミ・テ・イル?

俺ってまさかあの男か?」


本を閉じて顔を上げると目の前にあの男がいた。


「お、お前!なんでこんなところに連れてきたんだよ!!」


「なんでって……」


男は呆れたようにため息をつく。


「あちらの人間はやっぱり自分勝手だ、あなたが来たいと望んだのでしょう?

それとも――――あっちの日常にかえりますか?」


男はまたも不敵な笑みを浮かべる。


「い、いや!あっちへは帰らない!

あんなクソつまらない世界なんかには!」


「はい!その言葉を待っていましたよ」


男はフードを外して顔を見せる。


「はじめまして、私はカトエルと申します

こっちの世界であなたの世界の方々の案内人をさせていただいております。」


丁寧な挨拶ではあるがその笑顔の裏には闇が潜んでいる。

相も変わらず暗闇そのものであるような瞳には目を合わせられない。


「あ、トウマさんでしたよね?」


「あ、そうですが――――」


「ひとつ、さっきの儀式での見落としを注意させていただきますね?」


「見落とし?」


「はい!さっきの儀式ですが……

手順8のところですね」


カトエルがそう言うと本がひとりでに開き、そこに文字が浮かび上がる。


『羊が負けるなら『1』を、

ネズミが負けるなら『2』を』


「あぁ、確か……最後の手順だな。

――――あれ?待てよ……」


「お気づきになられましたか?」


「俺の干支が羊だったから羊が残ったわけで……なんで羊とネズミが確定しているんだ?」


「はい!大正解です!

つまり、この本はあなたの儀式を成功させるための本……

いえ、儀式などはじめからありません」


「つまり、お前が転生させるに相応しいかどうかを判断するためのお遊び……か?」


「さすがですね!」


「クソっ!お前なんかにハメられたってことかよ!」


「はい!見事に!」


「はぁ、まぁいい……

ところでこれからどうすればいいんだ?」


「私が連れてきた以上は私が面倒を見なければなりませんからね。

生活が安定するまでは私と行動してもらいます!」


「え、お前と?」


「……なんか傷つきますね」


「悪い悪い、まぁ早く安定させればいいんだろ?」


「まぁ、理屈はあってますね。

ですが、この世界はそんなに甘くありません!」


「何か違うのか?」


「はい!こっちの世界の収入源はモンスター討伐です。魔法、剣、モンスターなどが普通に存在する世界です」


「へぇ〜、そりゃ退屈しなさそうだ」


「さすが日常を捨てた男ですね!」


「まぁな」


「んで、簡単に言うとあっちの世界でやるRPGゲームみたいなやつですね。

レベルも存在します」


「ほー、レベル……か」


「レベルやステータスは

『メニューでろ!』と、念じることで出てくるメニューから見ることができます」


「なかなか不器用な方法で出すんだな」


「その際には他の人からはメニューは見えないので個人情報は漏れません」


「まるでゲームの世界だな」


「そう思っていただいて結構です。

ですが、命はひとつしかありません。

それだけは忘れないでください」


「あぁ、その方が面白いしな」


「お!なかなかやる気ですね!

好きですよ?そういうの」


「おっさんに好かれても嬉しくねぇよ」


「おっさんって……、

まだ若いほうですけどね」


「何歳だ?」


「えっと……確か、20274歳ですね」


「え!?2万歳ってことか?」


「はい!」


「マジかよ……俺の世界あっちとは常識が違うってことか……」


「ですが、こっちに来た以上はトウマさんも長寿ですよ?」


「そうか、でも退屈させられたらやめちまうけどな」


「はい!いつやめてもらっても結構ですよ!あなたはプレイヤー、やるもやめるも全てはプレイヤーの意志の通りですから!」


「ははっ、なかなか面白い。

一度やめようとしたゲームでももう一回やる気になることだってあるからな。

存分に楽しませてもらうぜ」


「では、始まりの街に行きましょうか」


カトエルが指さした方には小さな街が見える。


「まずは装備を整えましょう!」


「装備か……」


街につくと一番品ぞろえがいいという装備屋に行く。


「ていうか、この世界の住人って人間なんだな」


「なんですか?その変な質問は、

世界は違えど見た目はあまり変わりませんよ?まぁ、身体能力は桁違いですけど……」


「でも俺も……」


「はい!私の権限で底上げしときましたよ?」


「……だよな」


トウマは目の前にある剣を手に取る。


「これなんかどうだ?」


「うーん、軽いですから攻撃はイマイチですね……ですが、スピードタイプの剣士なら使いこなせます」


「俺は何タイプなんだ?」


「トウマさんはバランスタイプです!

それもまた、飛び抜けた……ね?」


「ならこっちか……」


トウマは黒色の剣を手に取る。


「重さも丁度いいし攻撃も高い、これならどうだ?」


「いいですねぇ。

ところで、剣にこだわりますね?」


「当たり前だ、魔法もあると聞いたが弓とか槍とか、そんな戦いから離れたような武器じゃハラハラしねぇよ。

いつでも死と隣り合わせ、それでこそ退屈しのぎのお遊びができる」


「バトルをお遊びと……、あなたのような方は初めてですよ!これからが楽しみです!」


「あぁ、お前も退屈させてやらねぇからな」


「それはそれは―――――」


トウマはさっきの黒い剣を購入した。


「何ちゃっかりお前も買ってんだよ」


カトエルは気に入った剣を見つけたようで刃を眺めてニヤけている。


「いいじゃないですか?もともと私のお金ですし……、それに一緒に旅をするとなれば私にも必要でしょ?」


「まぁいい……」


「ところで、本当に鎧とかはいらなかったんですか?」


「あぁ、あんな重いもんつけてたんじゃまともに動けねぇよ」


「でも、攻撃くらったら結構やばいですよ?」


「全部よけりゃいいだけだろ?」


「フフフフ、そうですね」


「俺のステータスはどれくらいまで上げたんだ?」


「うーん、言ってもわからないでしょうからね、試しにあの人とデュエルしてみましょう!」


「あの人?」


カトエルが指したのは大勢の人に囲まれているガッチリとした男。

見ただけで強いと感じる。


「デュエルなら分かりますよね?」


「あぁ、だが……死なないんだよな?」


「はい!デュエル状態ならデュエル用のアバターを出現させますから本体は無傷です!

あれ?もしかして死ぬのが怖いですか?」


「煽りのつもりか?怖いわけないだろ?」


「そうですよね」


「他人を傷つけちまったら後味悪いからな、確認しただけだ」


トウマの顔には不敵な笑みが溢れている。


「なかなかいい笑顔しますねぇ」


「じゃあ、ひと遊びと行きますか」


トウマは人混みをかき分けて目標に近づく。


中心にたどり着くと目の前には男の後ろ姿があった。


「あんた、なかなかでかいんだな」


「あ?なんだ?見たことない顔だな」


「当たり前だ、今日ここに来たからな」


「そうか、俺はリュークだ」


「自己紹介か、まぁ一応な、俺はトウマだ」


「トウマか!で?俺に何のようだ?」


「俺とデュエルひと遊びしようぜ?」


「は?そんな軽装で挑むと?

ははっ、面白いやつだ!

いいだろう、受けてやろう!」


リュークは指を動かして何かをしている。

と、目の前にメニューが現れる。


『リュークからデュエル申請が来ました』


『受理』or『拒否』


トウマは『受理』をタップする。

その瞬間、体に何かが抜ける感覚が伝わる。


「それがデュエルアバターですよ!」


後ろにはカトエルとトウマの姿があった。


「ほぅ、姿は変わらないのか」


「なんだ?デュエルは初めてか?」


目の前にはリュークの巨体、その後ろにはリュークの本体があった。


「は?剣を握ったのも初めてだよ」


「な、なに!?はぁ、バトルの恐怖を叩き込んでやるよ」


「それはこっちのセリフだ」


周りは円形にデュエル用のフィールドに変わり、観衆たちはその外で見ている。

頭上にカウントダウンの数字が出現し、だんだんとゼロに近づいていく。


「では、始めようか」


カウントがゼロを告げた。


「あぁ、楽しもうぜ、遊びを」


「!?」


「退屈させたら―――――殺す。」

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