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鳥山は腕時計を見た。
「あと1本観たら今日は解散しよう」
「そうですね」
「オーダー取りましょうか?」
楠木が鳥山に尋ねる。
「いや、俺はいい。蓮口は?」
「僕が頼みますよ。楠木さんは、何かいります?」
「じゃあブルーハワイ」
「好きですね~」
蓮口はドア横に取りつけられた電話を取る。
コール音が鳴っている。2回ほど鳴って、プツッと途切れた。
「すいません、ブルーハワイとシャンパンを。あと……」
「見つけた」
「え?」
電話は切れてしまった。女性の声だった。蓮口は目を見開き、固まってしまう。
「どうかしたか?」
鳥山が蓮口の背に問いかける。
「いえ、なんかかからなくて、忙しいみたいですね」
蓮口はぎこちなく笑い、かける。
「後でかけてみます」と言いソファに座った。
「じゃ、始めるか」
「はい」
蓮口は左耳を擦って息を吐く。そんなことがあるわけがない。そう思い込むしかなかった。
タイトルはまたしても文字化けしている。これは作った物だと分かっている。だが、蓮口に疑問が
なんで自分のマンションのポストに、2つ目のSDカードが届いたのか。それは自分がこの動画を観ているから。
じゃあなんで、差出人は自分がこの動画を観ていると分かったのか。ハッキング? セキュリティは入念に施してある。今まで自分のパソコンに入られたことなんてなかったし、形跡もなかった。
楠木と鳥山にしかこのことは言ってない。
蓮口は2人を見やる。
既に越本の声が聞こえてくる状態になっている。脅しとも取れる前口上をつらつらと言っている。
2人が誰かに喋ったのではないか。ふと過ったが、メリットがない。
蓮口は右手を強く握りしめる。ビビッている自分を戒めるかのように親指を中に入れて、掌に爪を立てた。
刑事のはしくれの意地は保ちたい。蓮口は携帯の画面に映る動画に目を向けた。
「さて、続きを話しましょう。キッチンの窓に見えた人の頭。黒い頭頂部が窓に見えていました。
僕は動きを止めました。呼吸音すら聞こえてはいけない。口を閉じても、きっと外にいる人は僕らが山荘の中にいることを知っているのに。
三嶌は、焦ったように動き回っていた僕がいきなり止まったのを見て、様子を窺ってきました。三嶌は僕と同じ物を見て、息を詰まらせるような小さな声を上げていました」
動画はまた画質が悪くなっている。越本の声にも被って、継続的にサーという雑音も聞こえている。
越本は前回と同様書庫で撮影しているようだ。本棚の中にカメラを入れ、突き抜けた本の隙間の景色を映している。並んだ本棚が奥へと続き、幻想的な映像になっていた。
「窓の外の黒い影は動き始めました。左にゆっくり移動して、窓から外れていきました。その先はベランダがありました。鍵は閉められていましたが、もし相手が人間ではないとするなら……いえ、人間だったとしても、武器なんかもたれていたら、薄い窓なんて簡単に割られてしまう。
暑いのか寒いのか分からないくらい、焦りが僕の体を麻痺させていきました。
塩撒いて! と声を上げた三嶌は、キッチンにある
さっきの人はもうベランダの窓から姿が見えてもいい頃なのに、姿が見えない。
三嶌は早く新しいの持ってきてと僕を急かしたので、僕はその命令に従ってキッチン付近を探しました。
騒ぎを聞きつけた宮橋が地下のワイン蔵から戻ってきたので、塩の予備がないか聞きました。外に人がいることを言い、一緒に塩を探してもらいました。僕らはキッチン下の収納から袋に入った塩を見つけ、撒いていきました。
僕はこれに効果があるのかを三嶌に聞きました。盛り塩じゃなくでも、結界になるって聞いたことがあるからと言っていました。幽霊に対抗する術がない以上、何でもいいからやってみるしかありませんでした」
動画が始まってずっと画面の下から2つのゆがんだな線が画面の端を上っている。これも不具合だということは分かっているが、あまりにも多い。
こんなにも演出できるものなのか。技術的な話をするなら、越本にそんなことができるのか、湧き立つ疑問によってずっとある異界者介入の可能性に、思考が引っ張られていく気がして、不快であった。
「安西も戻ってきて、事情を説明しました。安西も協力してくれ、今まで見落としていた正面玄関の鍵に気づきました。僕はすぐに鍵をかけました。2階にも行き、塩を撒いて行きました。2階の各部屋にも入って撒いていきました。
中に入られたらまずいということもあり、1階には三嶌と宮橋が残りました。白川は僕と安西と一緒にいることとなりました。書庫に入ってから上に屋根裏部屋があることを思い出し、そこにも塩を撒くことになりました」
カメラは後ろに下がり、映像が動いていく。本棚に挟まれた通路を移動し、壁寄りの通路の天井でカメラの画面が止まる。オレンジ色の天井には一見変わった様子はないが、ズームになった時、天井に小さな線が入っているのが見えた。
「あそこにあったのか……」
「あれはちょっとわかんないですね」
楠木と蓮口は渋い表情で呟く。
線は天井に四角を描いている。越本は読書用の机の側にある椅子を引きずって、その四角く区切られた天井の真下に持ってくる。椅子の上に乗った越本は、天井に手を伸ばし、区切られた場所を上に押した。区切られた天井の部分だけが押し上げられ、奥に空間が広がった。
梯子が見える。屋根裏部屋の空間の中に斜めに入っている梯子は、一見宙に浮いているかのようだった。屋根裏部屋には梯子を奥にしまえるように固定具が設置されているため、梯子を屋根裏部屋に収納できる。
梯子に手を伸ばす越本。梯子を引き、書庫の床に下ろした。越本は梯子の前で止まり、上にカメラを向ける。屋根裏部屋は埃が舞っていることや部屋の中が小さいことくらいしか分からない。
「書庫には安西美織が入り、周囲に塩を撒いていきました。僕は書庫に入るのが初めてだったこともあり、何気なく本棚に並んでいる本を見ていました。どれも難しそうな学術書ばかりで、読む気にもなれませんでした。
ただ1つだけ、他の本と違うものがありました。本ではなく、ノートでした。僕はそれを手に取りました」
結局、越本は屋根裏部屋には入らず、振り返って机に向かった。そこに置いてある深緑色のノート。ノートの表紙に黒ペンで『記録』とだけ書いてある。
カメラは机に置かれたノートを映そうとしているが、たまにプツプツと映像が途切れるようになった。それはノートを映し始めてから起こっている。
このノートには何かあるんじゃないのか。そう身構えてしまうような演出だった。
「僕はなんとなくそれを開いてみました。日記のようでした。日記をつけてるなんて偉いなと思いながら、今時珍しいなとも思いました。日記ならブログとかやるのが主流なのに。
『ここがネットを使えないからじゃない?』と白川に言われて、そういえばそうだったと思い出しました。白川は少し落ち着いてきて、僕の見ている本に意識を向ける余裕も出てきていました。ここで日記の内容を読んでみます」
越本はノートを開いた。ページをいくつかめくって止める。咳払いをし、鼻をすすって読み始めた。
画面が途切れ途切れになっているため読みづらいが、綺麗な文字で書かれているようだ。
「2008年4月30日
今日からこの山荘が俺の家だ。ここは誰にも言ってない。家族にも、友人にも。
わけあって俺は1人でここに暮らすことになった。
元はと言えば俺が悪いんだが、にしてもしつこい。あそこまでしつこい女は初めてだ。あの女のせいで、俺の人生はめちゃくちゃだ。
2008年5月5日
息子に会いたい。こんなにも家族のことが好きだったのかと、改めて思った。俺はそのことを忘れて、懐かしい感覚を追い求めてしまった。結果、俺は妻と息子に迷惑をかけることになった。
あの女は俺を脅してきた。
妻と離婚してくれないなら不倫をばらす。
会社にまで来るし、2ショットの写真も近所にばらまかれた。
俺は自ら離婚を申し出た。あの女と決別するため、俺から家族の下を離れ、雲隠れをした。きっとあの女も俺がどこにいったのか分からない。妻と子供も別の場所に引っ越し済み。
これであの女も俺を諦めて他の男に目を向けられるはずだ。あの女の生贄になる男には申し訳ないが、俺は十分あの女に付き合った。これからは反省も含めてここでひっそり暮らしていく」
「こんな日記あったんですか?」
楠木は鳥山に尋ねる。
「どうだったか……」
鳥山は顎を擦って考えてみる。
「ちなみに捜査資料にはそれらしい証拠品が発見されたという記載はないですね」
蓮口は資料を見ながら話す。
「証拠品保管庫ならあるかもしれない。今度行ってみましょうか」
「そうだな」
「この日記を書いた男は女性につきまとわれていて、隠れるためにこの山荘で暮らすことになったようでした。安西が塩を撒き終えて戻ってきたので、僕らは屋根裏部屋の扉を閉め、書庫を出ました。僕はこのノートを持って、安西たちと1階に戻りました。
宮橋と三嶌は少し安心したような顔をしていました。2人だけでここに残っているのは不安だったのか、それとも僕らの身に何もなかったことに安心したのか。その元凶たる黒い人はどこへ行ったのやら、まったく見なくなったようでした。
僕は宮橋に書庫で見つけたノートを見せました。宮橋は初めて見たと言い、ノートを受け取り開きました。
僕は宮橋の親父さんの話かもしれないと思いましたが、宮橋は親父の文字じゃないと否定しました。僕らはヒントを探すようにその日記を読み進めました。
一旦ここで終わりにします。ご視聴ありがとうございました。
もうそろそろですね。きっと××警察署のみなさんにも、僕らの気持ちが分かってもらえると思います。逃げられないと知った絶望を」
絶望という言葉だけ、越本の声が歪んで聞こえた。
それを機に動画は止まった。
ほどよく酔いの回った頭を回して、鳥山は立ち上がった。
「出よう」
「「はい」」
楠木と蓮口も立ち上がり、スーツを着ていく。部屋を出て、来た道を戻る。階段を下りて、1階のフロアに入った。その瞬間、なぜか周りの客やスタッフが鳥山たちに顔を向けた。
鳥山たちは思わず立ち止まった。会話も止まり、ジャズだけが音として聞こえてくる。
何がどうなっているのか分からなかったが、鳥山は威嚇するかのように睨みを利かせながら歩み出す。鳥山の後ろにいた2人は周りを見渡しながら鳥山についていく。
周りの客やスタッフはずっと鳥山たちを見つめ続けている。隣で飲んでいる人とも話さない。異様な視線があちこちから浴びせられていく。
「お会計を」
鳥山は伝票をレジカウンターに置いた。すると、最初にこの店に入ってきた時に挨拶してくれたバーテンダーが、ゆっくりとレジカウンターに歩み寄ってくる。バーテンダーに笑顔はなく、3人を見据えたままレジ業務を行う。
「1万3120円です」
鳥山はお金をトレーに置いた。バーテンダーはレシートを渡す。
「ありがとうございました」
「お前たちは逃がさない!」
突然大声を出す客の男。スーツを着た褐色の兄ちゃんという感じがある。
「お前たちは逃がさない!」
「お前たちは逃がさない!」
最初に大声を上げた男に合わせて繰り返す他の男たち。
「「お前たちは逃がさない!! お前たちは逃がさない!!」」
「「「お前たちは逃がさない!!!」」」
「「「「お前たちは逃がさない!!!!」」」」
周りにいる客やスタッフが、鳥山たちを見据えながらシンクロさせて復唱していく。
楠木と蓮口は困惑する。鳥山は不可解なこの現象に言い知れぬ力を感じた。
「行こう」
鳥山はお店を出る。襲われそうな恐怖を感じつつ、楠木と蓮口も店を出た。
鳥山たちが出て以降も、店内では復唱が続いていた。復唱する人たちの目はずっと鳥山たちの出て行ったドアに向いている。その目がどんどん赤く充血していく。黒目まで赤く包まれていく。濃縮された赤い目になったまま、ずっと復唱が繰り返されていく。穏やかさと気品を演出するジャズはまったく聞こえなくなっていた。
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