大学生集団失踪事件の真実2              作成日時 2136年09月22日14:33

 動画の再生ボタンを押すと、さっきの大きなローテーブルを見下ろすように映した画面から始まった。


「僕らはこの周りで寝ていたんです。僕が起きたのは、午前3時を過ぎたところでした。みんなこのカーペットの上やソファに寝ていました」


カメラがローテーブルの下に敷かれた大きな編み込みのカーペット、少し離れた右奥の赤い革製のソファの順に向けられる。


「でも、2人だけいなかったんです。火野翔馬と白川琴葉。2人だけで部屋に戻ったと思いました。僕が寝る前に起きていたのは、その2人だけでしたから。僕はローテーブルに置かれた食器を片付けることにしました」


カメラは振り返り、リビングからキッチンに向かっていく。


「キッチンの窓から雪が見えました。雪はここに向かう前より強くなっていたと思います。外灯に照らされ、立派に育っていた木々は雪化粧をしていました。少し眠かったですが、僕は食べ終わった食器を洗っていました。すると、階段が軋む音が聞こえたんです」


 カメラは素早く階段のある場所を映した。手すりと数段の階段が見える。壁が死角となって全体像は見えない。

最初の動画を観終わった後、捜査資料を引っ張り出していた。職員の手元に置かれたデスクには複数の写真がある。


もちろん、山荘の階段の写真もある。くすんだ色合いをしたL字型の階段だったが、階段の右側には天井から下まで直径2センチから3センチの棒が柵としてあり、それぞれの棒の中程に所々球状に膨らんでいるような形の物がある。

その柵は一辺にしかなく、踊り場から曲がると、壁になっている。その壁もまた独特で、壁に直接彫ったように綺麗な薔薇園が描かれていた。


「下りてきたのは火野翔馬でした。眠そうな顔をした彼は、白川を見かけなかったか尋ねてきました。僕は見てないと答えました。トイレかなと呟いた彼は、暖炉の前に座り、暖を取り始めました。火野は白川を待っていたんだと思います。それからぽつぽつと、僕らは会話をしました」


越本の息が零れた。緊張感を纏ったような雰囲気が感じられる。3人の職員も越本の様子に違和感を覚えていた。


「トイレにしては遅いなと、火野は白川を気にしていたんです。腹を下したんじゃないかと、冗談交じりに言っていました。火野はしびれを切らしてトイレに向かいました。僕は皿洗いを終えて蛇口を閉めようとします。だけど、いくら蛇口を閉めても水は止まらなかったんです」


 カメラは古めかしい蛇口を映した。今も蛇口は止まっていないようで、蛇口からぽたぽたと雫が落ちている。


「これよりももっと出ていました。蛇口と同じくらいの大きさの筋が出ていたんです。故障だと思いました。全体的に年数が経っているからそういうこともあり得ると思ったので、放っておこうと思いました。すると、火野がトイレから戻ってきて、いなかったと言いました」


カメラがキッチンの右側にある通路の出入り口に振られる。出入り口は広い部屋と違って暗い通路になっている。通路にはトイレ、お風呂、ワイン蔵がある。

蛍光灯は設置されているが、捜査資料によると、当時もまったくつかなかったようだ。接触障害が起こっているという分析結果が出ている。


「僕は自分の部屋に戻ったんじゃないかと答えました。それに答えようとした火野でしたが、突然話を止めて、目を見開いて驚いていました。じっと見つめて、固まっていたんです。僕は思わず振り返りました」


 カメラは再び蛇口を映した。


「蛇口から出ていた水は、真っ赤に染まっていたんです」


画面はゆっくりシンクの中を覗いた。シンクの底には赤い円状の線がうっすらと残っている。


「僕らは一瞬で血だと思いました。なんで水道から血が出ているのか、僕らには分かりませんでした」


鑑識の調べでも、シンクの底から血液反応が出ていた。

カメラを持った越本はリビングに歩き出し、ローテーブルの前で止まる。


「僕らはリビングで寝ていた宮橋和徳を起こしました。僕らの切迫した声に不穏な様子を感じ取った他の3人も起きました。そして、蛇口から出ている血をみんなが見たんです。

宮橋によると、山の中に染み込んだ湧き水を溜める井戸から引いているとのことでした。

三嶌璃菜が白川琴葉がいないことに気づき、誰ともなく白川の居場所をみんなが尋ねていました。僕は改めて火野に部屋に戻ってないのか尋ねましたが、確認してから下りてきたことを告げました。

山口春陽は、この血が白川琴葉のものじゃないのかと、投げかけたんです。すぐに安西美織が不快感を示して否定しました。なんとなくですが、誰もが思ってたんです。もしかしたら……って」


 静かな室内にシンクを打つ雫の音がずっと鳴っている。

3人の刑事は演出だろうと鼻で笑った。


「僕らは手分けして、山荘の中をくまなく探すことにしました。

今日はこれで終わりにします。ご視聴ありがとうございました。次が、この事件の始まりとなります。××警察署のみなさんには、これを知る必要があります。あなた方が、正義だと言うのなら……」


画面がだんだんぼやけていくと、映像は途切れた。

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