引きこもり魔王な僕と聖剣失くした駄女神、ところにより幼馴染。ロリ勇者をなだめる ~ 魔王城は六畳一間!? ~

あざね

オープニング

プロローグ 魔王城は六畳一間!?




 ――漆黒の闇が全身を包み込む。

 窓の外では稲光が降り注ぎ、激しい雨が小さく、爆ぜるような音をたてていた。

 僕はゆったりと所定の位置に座し、今日も今日とで目の前にある電子の海への冒険を試みる。そして、まるで魔法を駆使するかのように指を振るった。轟音の中にも小気味よく響く、タイピングの音。


 あぁ、もはやコレがなくては生きてはいけない。

 ふっと小さく息をついた。この一瞬が、自分にとっては至福の時間となっている。何故なら、この場を動くことの許されぬ僕にとっては、これが外界との唯一の繋がりであるからだ。


 ならば、これに執着するのも仕方のない話でもあるだろう――王とは、常に孤独であるのだから。だがしかし、ここにいる者達は僕のことを温かく迎えてくれた。

 そう。ここの人々は僕の言葉を待っている。


 だから、僕は今日もその務めに勤しむとしよう。

 そう。僕は、某匿名掲示板にこう書き込んだのであった。


 『魔王だけど、何か質問ある? その159』――と。


「ふむ、今宵は集まりが悪いな。ふん――愚鈍な配下の者共め」


 だがしかし、である。

 今日に限っては、思った通りとはいかなかった。

 普段ならこの時間帯にスレッドを立てれば、すぐさまに「またお前か」と書き込む配下がいるはずなのだ。これはどういったことか。僕は首を傾げるが、まぁいいだろう。


「いいだろう。王は寛大であらねばならぬ――此度こたびは許すとしよう」


 そう呟いて、僕は立ち上がった。

 そして、闇に紛れるかのように黒のジャージを脱ごうとした――


「む……?」


 ――その時であった。ことが起こったのは。

 いっそうに強い雷光が、六畳一間の空間を昼間の如く照らし出した。

 すると気付くのは、一瞬前までにはなかったはずの人影、その存在である。その者は丁度、押し入れの前に仁王立ちし、こちらをジッと見据えていた。


 雷がまたいっそうに強く、世界を白く染め上げ、轟音を打ち鳴らす。


 その刹那に僕は、侵入者の姿を視認した。

 そいつは――僕の背丈の半分ほどしかない、小さな少女。

 雷光の中でも、さらに眩く輝く金色――右耳の上でまとめられたサイドアップの髪。身にまとうのは軽装とも取れる、腹部を大きく露出した特殊な鎧。おそらくは機動性を重視したモノなのであろう。

 そして腰元には――


「――ついに、たどりついたぞっ!」


 かの少女は、たどたどしい口調でそう口上を述べた。

 次いで、腰元にあった――その身の丈ほどもあろうかという剣を一生懸命に抜き放つ。若干それでよろめいたが、なかったことにするかのように素早く、彼女は剣を構え直した。

 僕はその姿を、ただただ黙って見つめる。


 そうしていると、少女はこう続けた。

 そして、それはまさしく、僕のことを示す名称であった。


「いま、ここで――おまえをうちたおす!」


 そう。その名は――



「――いくぞ! !!」



 そう、僕は――魔王。

 決してここから動くことなく、ただこうして待ち受けるのみ。

 六畳一間の一室を根城とする、現代に生きる唯一の正真正銘の魔王であった。


 さぁ、それでは今こそ語ろう。

 僕がいかにして魔王となったのか、その真実を――


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