Day13 📖【賢木】ふたつの別れとアバンチュール

 皆さまこんにちは。『源氏物語』ツアーにようこそ。ご参加ありがとうございます。昨日の「物忌み」と「方違え」はお愉しみいただけましたか? えっとまさかこれを理由に会社や学校をお休みした方はいらっしゃいませんよね? いいなぁ、と思われた方はいらしたみたいですけれどね。

 毎日のお仕事、お勉強ご苦労様です。ほんの息抜きにでも当ツアーにお越しくださいね。え? 物忌みで来られない? ふふ。それでは吉日にいらしてくださいね。


 さて、今日の目的地は『源氏物語』第十帖【賢木】の超訳です。


 前回の第八帖花宴(Day10 類は恋を呼ぶ?)のあとですが、源氏の正室の葵の上が妊娠します。年上の恋人の六条御息所は嫉妬に狂い生霊となり、葵の上を呪うようになります。葵の上は難産の末、息子の夕霧を出産します。出産を機に源氏との夫婦仲もうまくいきかけたのですが、葵の上は亡くなってしまいました。その後源氏は14歳になった紫の君と結婚しました。

 ここからが十帖賢木になります。ではでは……、


 『源氏物語』に行こっ!


 ✈︎✈︎✈︎

【超訳】源氏物語 episode10 別れ、別れ、それから密会     賢木さかき


 源氏 23~25歳 紫の上 15歳~17歳

 藤壺中宮 28~30歳 六条御息所 30歳~32歳



 ―― 六条御息所との別れ ――

 六条御息所の娘が斎院(伊勢神宮に仕える未婚の内親王)のお務めのために伊勢に出発する日が近づいてくるんだけれど、六条御息所は情緒不安定なの。

 正室の葵の上が亡くなったので、これで今度は六条御息所が源氏の正室になるだろうなんて噂が世間では広まったの。けれどそんな噂とはうらはらに源氏と御息所の仲は冷めていったの。葵の上にいた生霊が御息所だったって源氏も知ってしまっちゃったしね。

 御息所も意識的に生霊になっているわけじゃないけど、見えるはずのない葵の上の姿が見えたり、そこで焚いているお香の匂いが自分の髪にも移っていたりするから、もしかして生霊になっちゃったんじゃないかって自分でも恐れてはいたのよね。

 そこに「オレ、見てしまいましたよ。あなたを」なんて源氏から言われちゃったからそりゃあ恐ろしいわよね。とてもじゃないけど平気な顔をして付き合えないし、ましてや正室になんてなれないわよね。またふたりで逢っても、源氏は自分に対して冷めていて、自分の方が源氏を深く愛しているから取り乱しちゃうだろう、それだけはツラすぎるわって御息所は自分を押さえていたのね。

 だからやっぱり源氏と別れて娘について伊勢に行ってしまおうと決めるの。

 その出発間際に源氏が訪ねてくるの。


 季節は秋。京の町から離れた野の宮(嵯峨野)。秋草は枯れてしまい、虫の声と松風がかすかに混ざり合う。そんな中になにやら楽器の演奏が聴こえてくるの。京のはずれの風流な秋の景色に心震わせながら昔を思い返すふたり。一度はあんなに愛し合ったのにって。久しぶりにふたりきりのひとときを過ごすけれど、再び付き合うこともなく恋人の関係をその日で終わらせるの。


 ~ 暁の 別れはいつも 露けきを こは世にしらぬ 秋の空かな ~

(明け方の別れはいつも寂しいけれど、今朝の別れは涙に濡れる秋の空ですね)


 別れ際に源氏が御息所に贈った歌。すぐには帰りたくなくて涙を流したんですって。冷たい秋の風が吹いて、鳴いている松虫の声も別れのBGMみたいに聞こえるの。


 ~ 大方おほかたの 秋の別れも 悲しきに 鳴くな添へそ 野辺の松虫 ~

(ただでさえ秋の別れは悲しいものなのに、松の虫よ、さらに悲しませないで)


 こちらは御息所の返歌。彼女は知的で和歌の名手だったけど、このときはあまりに動揺して上手な和歌を詠めなかったのですって。私たちを繋いでいた糸を自分の過ち(生霊になっちゃった)で切ってしまった。あんなに愛していたのにって明け方の月の光の中で最後に見た源氏を思い浮かべて悲しんだの。


 そうして御息所は娘と一緒に伊勢へと旅立っていったの。



 ―― 父・桐壺院の死 ――

 最愛の桐壺の更衣が産んだ光源氏を心から愛した桐壺院だったけれど、病気になってしまうの。現帝の朱雀すざく帝に東宮とうぐう(藤壺の宮の子)のことを頼むと何度も何度もおっしゃるの。それから源氏のこともお話になるの。

「どんなことも源氏に相談しなさい。彼は国を治める能力はあるけれど、彼を想って臣下に下ろして将来は大臣にしようと思ったのだ。このことを忘れないように」

 そんな風に朱雀帝に言い残したの。源氏も東宮のお供で最後のお別れに行ったわ。そして藤壺の宮さまに看取られてお亡くなりになってしまうの。


 これによって朱雀帝の母があの弘徽殿女御(帝のお母さんだからこれからは弘徽殿大后こきでんのおおきさき)でその父が右大臣なので政治的勢力は右大臣が握っていくの。源氏は右大臣側からは嫌われているし、葵の上も左大臣の娘だったから権力の中心からは外されちゃうのね。

 そんな中で右大臣の娘の朧月夜が入内じゅだい(朱雀帝にお嫁入り)して尚侍ないしのかみ(女御、更衣に次ぐ階級)になるんだけど、まだ源氏ともつきあっていたのよ。それをなんと朱雀帝も知ってたんだけど、

「ボクより前から弟とは付き合ってたんだし……」

 なぁんて黙認しちゃうのよ。おとなしい性格なのよね、朱雀帝サマ。



 ―― 最愛の人との別離 ――

 桐壺院が亡くなったってことは藤壺の宮さまもこれで独身(?)に戻られたことになるわよね。もちろん源氏は宮さまを口説きに行くんだけど、宮さまは受け入れてくれないのよね。

 過去の過ちのことや東宮の出生の秘密を何がなんでも守らなければいけないと思っている宮さまは出家して(尼になって)しまうの。

 出家するということは男女のお付き合いができなくなることなので、これで決定的に宮さまから別れをつきつけられちゃったのね、源氏の君は。生きているけれど、ある意味お別れ。源氏はこれで二度と宮さまとは結ばれないとひどく落ち込むの。



 ―― バレちゃったアバンチュール ――

 右大臣の権勢がすごくて、左大臣側の人間や藤壺の宮さまなどに仕えている人たちの昇進がなくなったりして、左大臣の息子の頭中将も冷遇されてたの。左大臣も政界から引退しちゃうの。

 そんな状況だったのに、源氏と朧月夜は密会アバンチュールしていて、とうとう右大臣にバレちゃったの。当然右大臣は弘徽殿大后にもチクったの。もちろん弘徽殿大后は怒髪天を衝く怒り様で

「帝の寵姫ちょうきに手を出すなんて帝への謀反じゃ~~~!!!」

 と騒ぎまくったわ。



 ~ 暁の 別れはいつも 露けきを こは世にしらぬ 秋の空かな ~

 源氏大将が六条御息所に贈った歌。


 ~ 大方おほかたの 秋の別れも 悲しきに 鳴くな添へそ 野辺の松虫 ~

 六条御息所が源氏大将に贈った歌。



 第十帖 賢木


 ✈︎✈︎✈︎

 お疲れ様でした。今回のツアーはここまでです。

 いかがでしたか?

 六条御息所との別れに藤壺中宮との決別、それから朧月夜との密会バレる。

 年上で才色兼備のカノジョと、永遠の憧れの恋人、似た者同士の刺激的なカノジョ。大勢と付き合っていりゃあそりゃ別れもあるでしょうね。バレもするでしょうよ。


 六条御息所との別れのシーンはとても綺麗です。どうして心を尽くして付き合ってあげなかったのかしら。そうしたら葵の上の悲劇は防げたかもしれないのに。より愛してしまった方が苦しい想いをしますね。


 それから、お父さんの桐壺院がお亡くなりになったからって、ホイホイとは再婚はできないでしょうよ。藤壺の宮さまと源氏の君。それでも口説きに行く源氏の君。ある意味、恋に関して最強ですね。


 そして右大臣時代なのにその政敵の娘と密会を続けていたんです。しかもダンナは現帝。そしてダンナはふたりの関係を知っていたっていうね。けれども、ダンナは公認でもダンナのママ(弘徽殿大后)とダンナじいじ(右大臣)は許さなかったのです。まあ、当然ですけれどね。


 現代の恋愛感覚では理解の領域を超えています。これでお家には可愛い新妻紫の上もいるのです。

 ホントに……。もう……。


 皆さま、どう思われましたか?


 明日のご案内はこの賢木に寄せての作者のエッセイになります。


 明日も『源氏物語』でお会いしましょうね。


『源氏物語』Day13にお立ち寄りくださりありがとうごさいます。




 ✨明日の予定

 Day14 だから言わんこっちゃない。

 集合時間、集合場所:ふぅ、やれやれ(^_^;)とため息をつきながらお越しください。


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