Day14 🔖だから言わんこっちゃない

 こんにちは。『源氏ツアー』にようこそいらしてくださいました。今日は【別冊】源氏物語のエッセイです。昨日の「Day13 ふたつの別れとアバンチュール」に寄せての作者のつぶやきというかタメイキです。六条御息所、藤壺の宮とのそれぞれの別れと朧月夜の君との密会のお話でしたが、今回のエッセイは六条御息所との別れにフォーカスしています。ご覧になってくださいね。


 さっ、『源氏物語』に出かけよっ!


✈︎✈︎✈︎

【別冊】源氏物語 topics10 だから言わんこっちゃない


 生霊になっちゃうほど源氏を愛して彼の周りの女性を呪ってしまった六条御息所は、源氏と別れて斎宮という役職につく娘と一緒に伊勢へと旅立とうとするの。

 もう源氏の君は昔のようには自分を愛してはくれないし、自分だってこれ以上誰かを呪い殺したくない。”源氏の愛人のひとり”なんて不名誉な噂もたてられたくない。そんな決心だったのかもしれないわね。


 そうなるとヤツは焦るのよ。

「え? マジ? 時々は会いに行ってたじゃん。付き合ってるじゃん、俺ら。いわゆるオトナなカンケ―でいいんじゃねぇの?」

 なんて言ったかもしれないわよね。


 自分が放っておいたくせに捨てられるとなると捨てないでと慌てる源氏。なんとか引き留められないかと御息所に会いに行くの。

 六条御息所はもう別れるって決心をしていたので、前のように恋人を出迎える形式ではなく、普通のお客様を迎えるようにしたの。直接顔を合わさないし、声もかけない。女房が代わりに挨拶をするだけのね。


 それでもなんだかんだと御息所の御簾みすの前までやってきて榊の枝を下から差し入れてこう言うの。(普通のお客様はこんなことしません)

「常緑の榊の木のように変わらない心でここまで来たのに、どうしてあなたはそんなに冷たいの?」


 自分が今までそっけなくしていたくせに、しれーっとこんなセリフが言えちゃうのが源氏の君ブランドよね。


~ 神垣かみがきは しるしの杉も なきものを いかにまがへて 折れる榊ぞ ~

(わたくしがここにいるなんて目印もないのにどうしてそんなもの(色が変わらないもの)を間違えて持ってきたのかしらね?)


 御息所の歌。変わらない心だなんてよくも言えたわね、榊の木なんて何持ってきちゃってるの? って言いたかったのかも。


~ 少女子おとめごが あたりと思へば 榊葉の をなつかしみ とめてこそ折れ ~

(斎宮となられるあなたのお嬢さんがいらっしゃるからね。だから懐かしくなって逢いに来たんだけど)


 源氏の君の歌。いつの間にか上半身だけ御簾の中に入り込んでいる源氏。こんな風にやりとりをしているとふたりとも愛し合っていた頃のことを思い出したらしいの。和歌のやりとりなんかをしていると源氏もやっぱりこの人のことが好きだったんだって思ったのですって。そしてふたりは朝まで一緒に過ごすの。


~ 暁の 別れはいつも 露けきを こは世にしらぬ 秋の空かな ~

(明け方の別れはいつも泣けるけれど、今朝は一番泣ける秋の空だよね)


 夜が明けてきて帰らないといけない時間だけれど、源氏は別れがたくてこんな歌を詠んで涙を流したんですって。


~ 大方おほかたの 秋の別れも 悲しきに 鳴くな添へそ 野辺の松虫 ~

(ただでさえ秋の別れは悲しいのに、松の虫ったらこれ以上悲しませないで)


 御息所の歌。夜が明けていく空、そこにまだ残っている月。その月の光を受けている源氏の姿を想って物思いに沈んだのですって。


 この日から後朝きぬぎぬの文(夜を一緒に過ごした人に贈る歌)などマメに手紙を送ったみたいね。それも自分の気持ちを大げさに書いたんですって。もう役所も動いていて、御息所の伊勢行きは取り消せないんだけどね。


 とうとう出発の日、


~ ふりすてて 今日は行くとも 鈴鹿川 八十瀬やそせの波に 袖は濡れじや ~

(俺を捨てて行っちゃうけど、鈴鹿川を渡るときに泣いちゃったりしませんか?)


 自分の家の近くを通る彼女にこんな歌を贈ったの。すると翌日、御息所からお返事が届くの。


~ 鈴鹿川 八十瀬の波に 濡れ濡れず 伊勢までたれか 思ひおこせん ~

(鈴鹿でわたくしが泣いたかどうかなんて、一体誰が思い出すんでしょうね)


 そう言い残して御息所は伊勢へと移られるの。


~ 行くかたを ながめもやらん この秋は 逢坂山を 霧な隔てそ ~

(あなたが行ってしまった方を眺めているよ。(逢いたい人に逢うという)逢坂山を霧で隠したりするなよな)


 そんな歌を詠って六条御息所を想っていたみたい。



 だからさぁ。

 だったらさぁ。

 そんなに手放したくなかったんだったら。


 もっと大事にしてあげればよかったんでしょ。

 大事だよ、愛しているよって言ってあげればよかったんでしょ。

 言葉でも、態度でも。


 どうしても付き合いたいって何度も通って必死で口説いたんでしょうよ。


 そうするべき人があなたには多すぎるからこんな目にも遭うのよ。

 好きよ、好き、好きって追われているうちは気分よくなっておいて、

 もう駄目ね、おしまいにしましょと言われると

「ちょ、待ってよ。俺も好きだから。ほんとだってば」

 ってねぇ……。子供か。キミは。



✈︎✈︎✈︎

 少しクセの強いトリップでしたか? 今回は作者のぼやきが全開でした。

 もともと六条御息所は亡くなった皇太子のお妃様でした。年上の超セレブ未亡人を源氏が口説いたのです。御息所も「イマドキのチャラ男なんて……」と思っていたのに落ちてしまったのです。和歌などの教養も高く、インテリアの趣味も一流のオトナのカノジョに十代男子の源氏は夢中になりながらも、次第に肩が凝る付き合いに疲れていくのです。そして冷めきった関係に終止符を打とうとしたのが第十帖賢木でした。


 男子高校生が年上の女の人に憧れる気持ちはわからなくもないですよね(六条御息所は7歳年上)。あわよくば付き合えたらいいな、って思うのかしら? そして望みが叶って付き合うことになったら背伸びもするでしょうね。カノジョに合わせようと大人ぶりたくもなりますね。でも、そんな背伸びも疲れて来ちゃうのかな。


 女性にしても、好きだ、好きだと言ってきてくれるイケメン高校生には戸惑いながらもキュンとくるのでしょうね。そしていつか本気で恋してしまう。すると相手は引いていってしまう。重たいオンナと思われようともこの想いは止められない。他の女子とも付き合ってるなんて許せない! ということになるんでしょうね。


 源氏と六条御息所の恋もいろいろな見方ができるかもしれません。

 

 明日の行先は『源氏物語』【花散里】の超訳です。源氏随一の癒しスポットへのご案内です。皆さまのお心をほぐす癒しの旅となりますよう、お連れしますね。


 明日も『源氏物語』に行きましょうね。


 今日も『源氏物語』Day14に来てくださりありがとうごさいます。


✨明日の予定

Day15 【花散里】ココロ安らぐ里

集合時間、集合場所:ホッとする時間、癒される場所

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