第2話 全ての始まり

 翔太と美少女は喫茶店を出た。彼女の方は足が弾んでいる。


「あ、あの……、そういえば、あなたの名前は……?」


「え?……わたし? 私はミア。呼び捨てでいいからね」


 ミア。可愛らしい名前だと翔太は思った。

 翔太は何故かこの異世界に来てしまっが、それはそれで彼も悪い気はしていなかった。現実の、つまらない学校生活とは違った刺激溢れる日々が、ここで過ごせられるかもしれない。そう翔太は予感していた。


「よお、姉ちゃん、可愛いね」


「……何ですか? あなたたち」


 平和ボケしていた翔太の前で、ミアが3人のチンピラのような集団に絡まれ出す。翔太は気を取り戻した。


「ちょっと、俺らと遊ばね?」


「いやっ、今、時間ないんで」


「ちょっとぐらいいじゃんか、なあ?」


 翔太は彼らを見て腹が立った。ミアが嫌がっているのに、なぜ止めないのか、と。


 翔太はミアを助けようとした、が、彼は怯えで足がすくんだ。


 俺なんかが助けられるのだろうか? この、今まで出来損ないだった俺が? ミアという人とはまだ赤の他人に過ぎない。別に助けなくても、今ならまだ十分引き返せるレベルじゃないのか?


 そんな考えが翔太の頭を巡ったが、彼は踏みとどまる。その考え方が、今までの自分の人生を壊してきたのだ、と。


 翔太は一人のチンピラの腕を掴んだ。


「あ? 何だテメェ。手、離せよ」


「その前に、彼女に構うな。嫌がってるだろ」


「オマエ……うぜぇ奴だな?」


 男は突然、翔太に向かって拳を振り上げた。何か、ドス黒い物が纏った拳を。

翔太は無意識に反応して、すかさず男の腹を殴った。


 ドコッ。


 手応えの無い音であった。翔太は自分の無謀さを知り、出しゃばったことを後悔する。翔太は下を向き、怪我を負う覚悟をした、その時だった。


 キュ、イイイィィィィン!!


 突如鳴り響いた高音に、翔太は前を向かされる。チンピラの腹の前にある波紋が現れていた。青く、光り輝く波紋が。


「な、何だ、こ……れっ……!」


 ドフッ!! スドオォォォンッッ!!


 爆風と共に、男は上空数十メートルの高さまで舞い上がる。


 ドドオォォンッ!


 男はある遠くの建物まで吹っ飛ばされた。


「ひ、ヒィィィ!!」


「お、おい! 逃げるぞ!」


 他のチンピラ2人がそそくさと逃げていく。翔太は唖然としていた。今の攻撃は自分がやったことなのか、状況が整理できず混乱する。


 ふと、翔太がミアの方を見ると、彼女も男の行先をぼーっと見ていた。なんだか少し、彼女の顔から色が無くなっているようだと翔太は感じた。


「み、ミア……大丈夫?」


 ハッと、ミアは翔太の方へと顔を向ける。


「すごい! 翔太君すごい!! 何今の!? どうやってやったの!? 魔法!? 魔法だったら、すごい才能だよ!!」


 彼女は興奮していた。どうやってやったかなんて、翔太はこっちの方が聞きたいくらいだった。


「これは、ますますワクワクしてきたよ! 君は、魔法学校に入るべきだよ!!」


「そ、そうかなぁ……」


「そうだよ! そうだね……、ていうか、今日はもう放課後だし、明日から学校に顔出してみる? 先生達にも話してみるからさ! きっと皆歓迎するよ!」


 翔太はここまで言われて行かないとなると、決まりが悪くなると感じた。彼は、ミアの提案に「分かった」と返事をした。




 ー 同時刻 オーガン王国コスティエ街 第二魔法病院にて ー


 アレスの母の病室。そこでアレスは床に倒れていた。

 体がまともに動かせない。ゆっくりと目を開け、アレスは周りを見渡した。


「何が起きた……?」


 アレスは朦朧とした意識の中で立ち上がる。すると彼の視界に、ベッドから落ちて倒れている母の姿が入った。


「……だ、誰かぁ! 誰か来てくれえぇ!」


 アレスは廊下に助けを呼び、ナースコールも押した。ふと、病室の窓の方へ目をやると、そこには信じられない光景が待っていた。


「何だよ、これ。壁が、抜けてる……?」


 アレスはもう一度しっかりと、病室を一回見回した。チンピラのようないかつい大男が一人、お母さんのベッドの横の壁にもたれかかっている。その壁には波紋状に亀裂が入り、パラパラと粉が舞っていた。

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