第1話 佐々木翔太
佐々木翔太は今日も一日、大嫌いな学校へ行く。何故、学校に行かなくてはならないのか、彼にはまだその意味が理解できない。彼が今の高校に入ったのも、なんとなく。最初のうちは、夢の高校生活だとか、甘酸っぱい青春だとかを想像していたものの、彼の期待は見事に裏切られた。
周りの人間環境に慣れるのに遅れ、勉強もついていけない。前の期末テストでは、彼はとうとう学校ドベを取ってしまった。
もう学校を辞めてしまおうかと考えながらも今日も彼は、教室に入り奥の自分の席に座る。そしてそのまま机に伏し、顔を腕の中にうずめて、現実世界を遮断した。
……教室に涼しい風が吹いてきた、と思い翔太はうっすらと目を開ける。するとそこには教室とは別の世界が広がっていた。
目の前には緑いっぱいの草原。頭が弱い翔太には理解不能であった。いつの間にか机と椅子も消え、彼はその場に立ち尽くすしかなかった。
口をポカンと開けながら、翔太は後ろも向いてみる。同じく草原も広がっていたが、奥にはなんだか街のようなものが見える。ここで立っていても仕方ない。その街に行ってみようと彼は思った。
行き着くとそこにはとても見慣れない街並みがあった。レンガの家、石畳の道、そして、古い西洋風の服を着た街人たち。翔太はまたもや立ち尽くしてしまった。もちろん、彼の格好は今、学校の制服(ブレザー)のまま。通行人に、白い目で見られる。
「あの、何してるんですか?」
横から突然、翔太は話しかけられた。その声がした方へ振り向くと、一人の女子が立っていた。青いストレート・セミロングの髪型、クリっとした目で翔太のことを真っ直ぐに見つめる。翔太はこんな美少女に話しかけられたことなんて無かったので、「えっ、えっと…」と、どもってしまった。そんな彼に、彼女はなり振り構わない。
「さっきから道の真ん中でぼーっとしてますけど……?」
「……こ、ここは、どこですか?」
「……え?」
翔太は精一杯頑張って、彼女の質問に返答したつもりだったのだが、なかなか会話のテンポは悪い。彼女は顔をしかめながら、
「ここの街の人じゃない? 案内しましょうか? どこか行きたい所とかありますか?」
無い。そんなもの彼には無かった。佐々木翔太はさっきまで学校にいた身。こんな摩訶不思議な世界に、来たくて来たわけじゃなかった。翔太は数秒、沈黙を続ける。
「……なんか疲れてるみたい。ちょっと、そこら辺の喫茶店で話します?」
翔太の困り顔を気にかけ、美少女はそんな提案をする。翔太は頷いた。少しでも、今の自分の置かれている状況を理解したかったためだ。
喫茶店で、翔太は彼女に事の顛末を話す。
「え! じゃああなた、異世界から来たの!?」
彼女は相当大きな声を出して驚く。
「な、何て言うところ……?」
「……地球……かな」
「へぇーっ。じゃああなた、『地球人』ね」
彼女の目に輝きが生まれる。さっきまで、外では翔太に不審がって接していたのが嘘かのよう。
「それにあなた、学校で寝てたってことは、学生なのね?」
彼女はテーブルに身を乗り出して翔太に質問する。
「戻る方法とか、行くあてが無いなら、ウチらの学校に来てみない?」
“学校”。その言葉は翔太の脳を大きく揺さぶった。異世界でも、やはり〝それ〟は存在しているのだと気付かされる。彼女にそれを言われた瞬間、翔太は嫌な顔をしてしまった。それを見て彼女は気を遣い始める。
「いや! あの……、勉強もあるんだけどね! その……、ウチらの学校はいわば……、『魔法学校』なの」
「魔法……学校……?」
「そう。この世界は、魔法が全て。知識が沢山あっても、魔法もできなきゃ意味が無い。ろくに生きていけない世界なの。どう……? 魔法。男の子なら、ちょっとワクワクするでしょ?」
彼女の言う通りで、翔太はそれを聞いて少しワクワクした感情を持ち始めた。活気づいた顔に変わった翔太を見て、彼女は勢いよく立ち上がる。
「えっと……佐々木翔太君! 案内するよ! ウチらの、魔法学校へ!!」
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