第0話 ベジンリ・アルト・アレス

 オーガン第二魔法学校に通う18歳、ベジンリ・アルト・アレスは、今日も魔法の修行に勤しんでいた。ここ、マジカリアという世界では、人々の生活が魔法によって支えられ、人類の進歩も魔法によって遂げられていく。


 そんな中アレスは、魔法学校戦闘科の生徒として将来、国のために、そして自分の夢のために魔法の鍛練を積んでいたが、彼は今、成長の低迷期に入っている。


 それまで、校内の基礎能力の成績は1、2を争うほどであったのが、今やウィーク・ギース、ジャガー・ノーランドなどの他生徒に差をつけられていた。このままではいけないと、アレスも内心つくづく感じてはいるが、スランプ脱出の糸口はそう簡単には見えずにいた。


 アレスは、不治の病に侵され、意識不明の状態の母親を持っている。暇さえあれば、アレスは母のいる病院に通い、その容態が良くなるのを今か今かと待っていた。


 アレスは、母とある約束をしていた。それは、アレスがまだ物心がついたばかりの幼少期の頃、


「おれの名はアレス! 世界一かっこよくて、世界でいっっっちばん強い男になるんだ!!」


 草原にて、母の作った草冠を被りながら、アレスはそんなことを謳っていた。母は笑いながら、


「楽しみ。いつか強くなった姿、私に見せてちょうだいね」


 と優しく話す。


「うん! 絶対見せる! 約束する!!」


 ほのかに甘い香りのする母に抱きしめられた、その懐かしい記憶は今でも、アレスは鮮明に思い出せていた。


 心電図の機械音だけが響く、静かな病室。アレスは、顔は元気そうに色づいているのに、目を覚ます気配のない母の手を取りながら、ただただ祈っていた。


「母さん……俺、絶対強くなるから……。世界で一番の魔法使いになって、必ず母さんにその姿を見せるから、だから、お願いだ……目を………………」


 強く握りしめられたその母の手に、熱い一滴の雫が落ちた____。



 アレスの人生は、18歳、魔法学校の最後の年から急激に変わっていく。


 その始まりは、ある一人の人間との出会いから____

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