第3話 混乱と葛藤

「呼吸が乱れてる!早く急速回復魔法を!」


「はい!分かりました!」


 4人の医者達が、アレスの母の周りを囲む。彼女が元いた崩壊した部屋から、別の部屋に移って安静がはかられる。大男の方も、別の部屋で治療されていた。アレスは、部屋の外で母の安否の報せを待つことしか出来なかった。その時を待ちながら、アレスはさっきの出来事について考える。


 何故、人が飛んできたのか。まず、魔法で飛ばされたのは間違いなかった。建物を破壊するほどの威力の魔法。それを誰がやったのか。許せない。


 アレスは落ち着きを取り戻せなかった。頭の中で、今すぐに真相を確かめたいという欲が騒ぎ立てている。

 アレスはいつの間にか走っていた。病院を出て、ある方角に向かってがむしゃらに走った。あの大男が飛んできたであろう方角へ。なにか、真相を掴むために。


 ドンッ。


「痛っ……!」


「オイ! 気を付けろよ!」


 アレスは通りすがりの人とぶつかってしまう。彼は視野が狭くなっていた。そのぶつかった人も慌てて走り去っていった様子を見て、アレスは少し胸騒ぎがした。


 アレスの持つ電子魔法連絡帳、通称『ス魔法(すまほ)』に連絡が入る。病院からだった。アレスは足を止めス魔法を開く。留守電であった。


「アレスさん、無事、お母様は一命を取り留めました。アレスさんが突然いなくなったので少し困惑しましたが、混乱するのも無理ないですね…。当院で起こった一連の出来事を魔法警察の方に連絡しようと思います。アレスさんもしっかり休養を取って、また当院にいらっしゃってください」


 ブツッ。


 アレスは安堵した。彼はさっきまでどうしようもない気持ちを、誰にぶつけていいか分からなかった絶望感を、抱えて走っていた。母が死んでしまったら、自分が自分でいられなくなる。世界で一番の魔法使いになるという約束も果たせなくなる。母の命が、彼にとって第一に優先するものだった。


 彼は、そんな母の死がこんな間近に感じられる時が来るとは思っていなかった。

 時間が無い。アレスは焦燥感に掻き立てられる。



 翌日

 オーガン帝国 第二魔法学校にて


「うわぁ……ここが、魔法学校……!」


「そうだよ! おっきいでしょ! 入ってる人達もレベルが高いんだよ!」


 ミアはまだ、昨日の興奮が収まっていない。翔太をどうにかこの学校に入らせようとする意志で満ちていた。


「翔太くんのことも、ちゃんと先生達に伝えといたよ! 緊張するかもしんないけど、見てって!」


 ミアはそう言って、顔を伏せてからまた続ける。


「率直に言うと、翔太くんに学校に入学して欲しいんだけど、まあ……最後に決めるのは翔太くんだしね……。合わないなって思ったら、無理して入らなくていいし……」


 ミアは、今までの翔太の乗り気じゃないの様子を見ていて少し落ち込んでいた。


 翔太も、何も考えてないわけではなかった。ミアがお金を出して泊めさせてくれた街の宿屋で、一晩これからのことを考えていた。彼には、元の世界に戻る方法が分からない。これから、この世界で一生を暮らすことになるかもしれないのだ。それでもいいという覚悟が、自分にできるのだろうか。その不安が翔太の心の中で溜まっていく。


 うだうだ悩んでいても仕方がない。明確な答えは結局出せなかったが、今は目の前の刺激を味わうこと、翔太はそれしか出来ないような気がした。


「いや、大丈夫だよ、結構ワクワクしてるし」


 翔太は、これ以上ミアに気を遣わせないように、本心半分、無理半分のその言葉をかけて、学校への一歩を踏み出した。

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