クソデカ感情勘違い少女

昼休みの中庭で、牡丹が寝てる。

私の胸に頭をあずけ、その小さなお尻を膝に乗せながら、警戒心をどこかに捨ててきたような愛らしい顔で寝てる。


「そんなに警戒心ないと襲っちゃうよー……なんて、ね」


誰よりも優しい私の親友、なんて。

私にとっての牡丹への気持ちを表にだしてしまったら、いつもは心に響くような言葉も突然陳腐に感じてしまう。


私にとって牡丹は言葉では言い表せない存在だ。


ずっとずっと、牡丹と初めて話す前から私は惹かれていた。

ふとした瞬間に見せる陰のある表情も、時折見せる優しさも。

中学時代、牡丹は人嫌いだと思われていた。だが彼女と少しでも関われば、その高潔さや信念に心を奪われてしまうような、そんな何かが牡丹にはあった。


牡丹は私の憧れだ。決して手に入らない、高尚な存在。

だからこそ、この状況に歪んだ優越感を感じてしまう。


牡丹は私を背もたれにして寝ているだけで、私の手は自由だ。今すぐにでも彼女を汚すことが可能な立場を任されている。

そんな立場にいられることが何よりも嬉しい。


こんな親友でごめんね……なんて微塵も思ってないくせについ謝りたくなってしまう。


さらさらな黒髪を撫でながら、ふと思い出した。

そういえば牡丹の髪って、百合ちゃんが整えているんだっけ。

牡丹の妹の百合ちゃんはいつもこの綺麗な髪を整えているのだと思うとすっごく羨ましい。


これは嫉妬じゃなくて羨望だ。

私もできることなら、家族として彼女を支えたかったなんていうどうにもならない羨望。


「んっ、んん」

牡丹が身をよじる。

「くすぐったいよ、牡丹」


牡丹は寝返りをうつようにして、その顔を私の胸にうずめた。


「ちょっ!?牡丹!?」

牡丹の寝息が汗ばんだ肌にかかり、こそばゆさが全身を奔る。

ただでさえ蒸れる谷間に牡丹の顔が埋まっている。

私も人の子、この状況で恥じらいを持てない人間じゃない。


なんとか起こそうと身体を揺するが、起きるどころか鬱陶しそうに顔をしかめてその両手を私の背中にまわしてくる。


「っひん!牡丹!ほんとに!ほんとにダメだから……!」

いけない!これはいけない!何がとは言えないけどよろしくない!


こうなったら無理やり離すしか……!


ふと首筋に生暖かいざらざらした何かが当たる。

「にゃっ!?」

「しょっぱい……」


それが牡丹の舌の感触だと理解すると同時に、私はそのまま人工芝の上に倒れてしまう。

そうなってしまえば、自然と牡丹に私は押し倒されるような形となる。


だけど最悪だったのはそのあとのことだ。


___チャイムが鳴った。


昼休みの終了を知らせるチャイムが鳴り、牡丹の綺麗な目が開く。

そしてこの状況。


押し倒されている私に、押し倒している牡丹。


牡丹はしばらく理解できないといった表情でぼーっと私を見ると首をかしげた。


「なにしてんだ?」

「それはこっちの台詞だよ、牡丹」


平静を装うが、背中や首筋は冷や汗がだらだらと垂れている。


「牡丹って意外と寝相悪い?」

「あー、一緒に寝てると百合にも言われる」

「え?ちょっと待って百合ちゃんと一緒に寝てるの?」

「たまにな」

「それはなんというか、百合ちゃんにとっちゃ嬉しいかもね」

牡丹は理解できないといった風に首をかしげると、ゆっくりとした動きで私の上から退く。


百合ちゃん、姉のことが大好きな牡丹の妹。シスコンというのだろう、それもドのつく。


中学時代、牡丹の家に初めて行った日に牡丹を守るように隣に陣取っていた百合ちゃんを思い出す。

あの頃から百合ちゃんはきっと私のことが嫌いだ。きっと姉をとった私を憎く思っている。だからこの前も、私と牡丹を引き離して別々に登校させるようにしたんだろう。


でも、きっとそれは悪いことじゃない。

私だって、百合ちゃんの立場ならそうした。


だって、それほど。


「どうした?ぼーっとして」

「んーん、牡丹は魅力的だなって考えただけだよ」

「なんだそれ」


それほど牡丹は最高の存在親友なのだから。

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